ここは私のために用意してくれた部屋らしい。だけど……クローゼットには、清美の服が……どういう事だろう?
そう言えば清美、どこにいるのかな? 聞けばよかったかなぁ。でもそんな雰囲気でもなかったし……。
だけど、そもそもなんでここに清美の服があるの?
そうこう不思議に思いながら私は、クローゼットから離れソファーに腰かける。
「あとで聞いてみよぉ~っと」
そう言いながらソファーの背もたれに寄りかかった。
そう言えば、グレイだけ執務室に残されたみたいだけど……なんでだろう。カイルディさんは、グレイになんの用が……。
そう思考を巡らせる。
「……まぁ、考えても仕方ないかぁ。私たちに知られたらまずいような、大事な話なのかもしれないし」
私はそう言い瞼を閉じた。
それより明日は、私たちのための式典があるって言ってたなぁ……。代表で私とグレイが、って言ってた。
流石に魔族のムドルさんやメーメルとベルベスクが、式に出るのはまずいしね。
そう思い色々考えていたら急に眠くなり寝てしまう。
――場所は、バールドア城のカイルディの書斎へ移る――
現在ここには、カイルディとクレファスとレグノスが居て話をしていた。
あれからカイルディは、国王カイゼルと大臣のクベイルに泪たちから聞いた話を伝える。その後、色々な指示と許可をもらった。
そして指示を出すため、自分の書斎にクレファスとレグノスを呼んだのだ。
クレファスとレグノスは、カイルディと向かい合い言い合いをしている。
「待ってください。俺とレグノスで、グレイの居た村に向かえと? 城の警備は、どうするのですか!」
「クレファスの言う通りです。隊の指揮をする者が居なくなってしまう」
「そのことなら、なんとか補っておきます。これは、重要な任務。そのため信用でき、何があるか分かりませんので強者でなくては務まりません」
そう言われ二人は、思い悩む。
(確かに、この任務は重要かつ難しいだろう。それを、この俺にやれと言っておられる。それならば……)
そう思いクレファスは口を開いた。
「分かりました。この任務、喜んで受けたいと思います」
それを聞きカイルディは喜び微笑む。
「クレファス、お願いしますよ。それで、レグノスはまだ悩んでいるのですか?」
「はい。先に指示を受けた聖女さまを追う件は、どうするのかと考えていました」
「それも兼任でお願いするつもりでいました。そもそも、どこに向かわれたかも分かりませんので」
そう言いながらカイルディは、窓の方を向き遠くをみつめた。
「確かに、その方が効率はいいですね。旅先で偶然、出逢えるかもしれませんし」
「レグノス、そういう事です」
「それならばこの任務……クレファスと共に、喜んでお受けいたします」
そう言われカイルディは軽く頷く。
「では、二人共お願いしますね」
二人はそう言われ頷いた。その後、一礼をし宿舎の方へと向かう。
それを確認するとカイルディは、ソファーの背もたれに寄りかかる。
そしてその後、色々と思考を巡らせていたのだった。
翌日になり私は、二階の広間にいた。
そう今日は、私たちのために行われる式典だ。
私は慣れないドレスを着ているせいか落ち着かない。
少し離れた場所にグレイがいる。なんか私の方をチラチラみているみたいだけど、時々変顔をしていて笑いそうになった。
ドキドキする。これから行われる式典は、厄災から救った私たちのために……。嬉しいけど、なんか落ち着かない。
そう思いながら周囲を見回す。
やっぱり清美の姿がみえない。カイルディさんや従者さんに聞いたけど、何も分からなかった。どうしてだろう?
まさか、清美の身に何かあったのかな。そうだったら……どうしよう。もっとちゃんと聞けばよかったかなぁ。
そうこう考えながら式が始まるのを待った。
――視点は、グレイフェズへ移る――
グレイフェズは、いつもとは違う式典用の貴族らしい青と白の正装をしていた。
慣れないらしく、ソワソワし落ち着きがない。時折、泪の方をみている。
(……可愛い……いや、天使……その表現も違う。女神と言った方がいいか。それにしてもピンク系の方が似合うと思っていたが、水色のドレスもアリだな)
そうこう思いながら百面相をしていた。――……って、グレイフェズは何を考えているんだか……――
(そういえば……カイルディ様が、聖女であるキヨミ様は城を抜け出した……って言ってたな。それも、よりにもよってサクリスとか。……何もなきゃいいがな。
みつけ次第、連絡しろか。ただ……このことは、ルイに話すなって言われた。知られないように気をつけないと、大丈夫だとは思うが)
そう考え泪に視線を向ける。
するとグレイフェズは泪と目が合う。そしてお互い顔を赤らめた。
――場所は、広間の壁際へと変わる――
泪とグレイフェズの後ろの壁際には、人間に化けたムドルとメーメルとベルべスクがいた。
三人ともに正装をしている。
ムドルが紫、ベルべスクは灰色の貴族っぽい正装だ。そしてメーメルは、オレンジ色のドレスを着ている。
「……そろそろ、始まりますね」
「そうだな。だが、みているだけって言っても……こういう場所は苦手だ」
「そうじゃな。妾も、こういう場は苦手なのじゃ」
そうこう話しながら三人は、ただ何もせずその場で待機していた。
――そして……式典が始まる。
泪とグレイフェズは、国王カイゼルの前に立った。その後カイゼルは、二人に感謝の言葉を伝える。
そして、それぞれ別の勲章をもらう。それをプレートに乗せた。するとプレートに吸い込まれる。互いのプレートの名前の後ろに勲章のマークが印された。
因みに泪が金色の勲章のバッジで、グレイフェズは銀色だ。功績の度合いで、色が違うらしい。勿論、金色の勲章の方が高い功績を上げた証明となる。
それとこの時グレイフェズは、ムドル達の分もみえないように銀色の勲章をもらっていた。
その後、泪とグレイフェズは二階から皆の前に姿をみせる。そしてグレイフェズが代表で皆に述べた。
泪はカイルディ様の指示で、みえるかどうかの位置で広場を見渡している。
なぜそうしたのか。これから泪たちが、アクロマスグでやろうとしている事の妨げになるかもしれないからだ。
そう泪の顔を知られないためである。どこで誰がみているか分からない。この状況下で、これが得策と思ったからだ。
その後、泪とグレイフェズは大広間のパーティー会場へ移る。ムドル達もあとを追った。
そして泪たちは、時間いっぱいまでパーティー会場にいる。その時の泪の衣装は、ピンクの可愛いドレスだ。
そう途中で着替えたのである。
その後、泪たちはパーティーを楽しんだのであった。
式典が終わりその翌日――私は、グレイとムドルさんとメーメルとベルべスクと共にセシアズム草原にいた。勿論、トラットとキルリアも一緒だ。
あれから翌日になり私たちは、タルキニアの町に向かうため支度をする。その後、バールドア城を出た。
そして現在、私は空を見上げ考えながら歩き進む。
結局、清美と会えなかった。どうしたのかな? ただ私に会わせたくなかっただけなの? そうだとしたら……。余計に心配だよ。
そう思っていたら涙が出てきた。
「ルイ、どうしたんだ?」
「ルイさん、何かありましたか?」
「あ、グレイ、ムドルさん。ううん、なんでもないよ。ちょっと、目にゴミが入ったみたい」
そう言い手で涙を拭う。すると両脇からハンカチが……グレイとムドルさんだ。
「大丈夫か?」
そう言われ私はグレイからハンカチを受け取る。
「ゴミですか。痛そうですね」
ムドルさんはハンカチで私の眼もとの涙を拭った。
「あー、えっと……グレイにムドルさんありがとう。多分大丈夫だと思う」
「それなら、心配なさそうだな」
そう言いながらグレイは、ムッとした表情でムドルさんをみる。
「それは、良かったです」
ムドルさんは、なぜか勝ち誇った顔をしていた。
二人共、どうしたんだろう? っと私は思う。
チラッとメーメルとベルべスクをみる。
なぜか二人共に、ジト目で私の方をみていた。
その間、トラットとキルリアは何か言い合いをしてる。
「この辺で、いいでしょうか?」
「ムドル、そうだな。かなり、城から離れた」
そうグレイが言うとムドルさんは頷いた。
「そうじゃな。それで、誰が転移の魔法を使うのじゃ?」
そうメーメルが言うとグレイとムドルさんは、同時にベルべスクを指差す。
「……おい!? なんで、オレなんだ!」
「別に、構いませんが。但し……ベルべスクだけ、ここに置いて行ってもいいのですよ」
「……。あー、分かったよ。やりゃあ、いいんだろう!」
そう言い不貞腐れながらもベルべスクは、両手を目の前に翳し魔族語で詠唱する。
すると魔法陣が展開していった。そこから黒い光が放たれベルべスクを覆い包んだ。
その黒い光が消えると魔族の姿へと変わる。
「場所は、タータム草原でいいんだよな?」
「ああ、そうだ。流石に魔族の姿のお前が、町のど真ん中に現れたら驚くだろうからな」
そうグレイが言うとベルべスクは、笑みを浮かべ頷いた。
「じゃあ、行くぞ!!」
そうベルべスクが言うと私たちはそばに近寄る。
それを確認するとベルべスクは、魔族語で唱え始めた。
《大地の精 現の地と別の地 異空の狭間 その扉を開き 我と彼の者 我、思う場所へ転移されたし!!》
そう言いながらタータム草原を思い浮かべる。
すると私たちの真下に、大きな魔法陣が展開されていく。
そして私たちは、その後タータム草原に転移したのだった。
ここは聖女発祥の地とされている大陸であり、緑の大地と言われている【カリスワイブ】。
この大陸には、人間とドラゴナードの二種族が共存していた。
ドラゴナードとは生れながらにして竜と共存し、その守護を受けている種族である。そのため竜の加護がなければ、能力を使えず生きていけない種族だ。
このドラゴナードの国であるドランノヴァは、この大陸の中央から北東側にある。そして竜の里ドランファルは、北東側の端に位置する龍神と竜が住む山の麓にあった。
その山には竜がいて、頂上に龍神の住まう大きな建物が建っている。
現在、龍神はその建物の中で眠っていた。
一方この大陸の南東側には、ラファストル国の王都ファスリアがある。
この国の人口は領土ごとにみると、それほど多くない。だが大陸自体、資源豊なためか他国と交流を絶っていてもそれほど困らないのだ。
ラファストルは、この大陸の北西側と南東側に国が二分している。
昔はこの国は他の大陸の侵略に遭い、南東側にある二つの領土しかなかった。
それを勇者と聖女がドラゴナードと龍神の力を借り、侵略国を倒し北西側の領土を取り返したのである。
そしてこの大陸自体、過去のこともあり閉鎖的なのだ。
因みに王都ファスリアの山を挟んだ西側には、シャルダ城とその城下町がある。
王都の城下町の先には、緑に囲まれたファスリア城が聳え立つ。
その城の門を潜ると、みたこともないような綺麗な花々が咲いていた。そして、草木が生い茂っている。
この城の二階にあるテラスには、景色を眺めている清美がいた。
(あれから六日かぁ。フウルリスクが言うには、元居た場所からかなり遠いらしいし。泪は、今頃どうしてるだろう。
大丈夫かな。厄災っていうのに、やられていないよね。心配だけど……今は、どうすることもできない)
そう思いながら遠くに視線を向ける。
「キヨミ、ここに居たのですか。部屋に居ないって、サクリスが心配していましたよ」
その声を聞き清美は振り返る。
「あ、フウルリスク。サクリスが……そうなのね」
「ええ、それと。今日は、執務室で話し合いが行われるらしい。その話し合いに、ボクとキヨミとサクリスも同席するようにとのことです」
「そうなんだね。やっぱり、素性を明かさない方が良かったんじゃないのかなぁ」
それを聞いたフウルリスクは、首を横に振った。
「いいえ……あの時、言わなければ。恐らくボク以外は、処刑の対象になっていたでしょう」
「そうだね。でもまさか、フウルリスクがここの国の出身だったと思わなかった」
「申し訳ない。ボクは、王の命令で動いてた。幼少の頃からね」
そうフウルリスクは、王の命令で幼少の頃から他国を転々と渡り歩く。
この国で一番、魔力があり頭が良かったからだ。
国王は、この大陸が閉鎖的であることをどうにかできないかと思っていた。
そのため信用できる国を探させていたのである。いや、それだけではない。この国を狙う者たちが、また現れるかもしれないので偵察もかねていたのだ。
「でも、フウルリスクは凄いね。私なんかよりも……小さい時から、一人で知らない町を転々と……」
「いえ、そうでもありません。結構、楽しめましたので」
そう言いフウルリスクは、ニコリと笑い清美をみつめる。
清美はみつめられ顔を赤らめた。
「そ、そっかぁ。私もフウルリスクのように、楽しめたらいいんだろうけど。無理かな……」
そう言うと清美は、泪のことや色々なことが頭をよぎる。すると、涙が出てきた。
それに気づきフウルリスクは、自分のハンカチを取り出す。そして、そのハンカチで清美の涙を拭う。
「キヨミ……申し訳ありません。ですがあの状況では、ああするしか思いつかず」
「いいえ、フウルリスクの判断は間違っていなかったと思う。ただ……私の気持ちの整理が、まだできていないだけ」
それを聞いたフウルリスクは、清美をそっと抱きしめる。
「無理はしないで。何かあったら、ボクに言ってください」
「はい、わ、分かりました」
そう言うも清美は、フウルリスクに抱きしめられ顔が茹蛸のような状態だ。
(……ど、どうしよう……顔が熱い。胸が苦しいよ。フウルリスクのこと好きだけど、この展開どうしよう)
ドキドキしながら清美は、自分を抱きしめるフウルリスクの顔をチラッとみた。
フウルリスクはそれに気づいたのか、頬にキスをし清美から離れる。
「そろそろ行きましょうか」
そう言われ清美は、顔を赤くしたまま頷く。
その後、二人は執務室へと向かう。
そして執務室で清美とフウルリスクとサクリスは、この国の王や大臣らから色々と聞き話をしたのだった。
ここはスルトバイスのチクトス国がある大陸よりも南東側。そこには綿毛の聖域【ミルフェルム】と言われる大陸がある。
この大陸は、綿毛が辺り一面に生息し草原が多い。それだけではなく、山や森に囲まれ動物たちがのびのびと暮らしていた。
そして、多種な獣人やエルフなどが住む大陸だ。
この大陸の中央に位置するセセルの森には、エルフの国【フォルレンシス】のキュウナ村がある。
現在、ララファルはここにいた。
「監視してこいかぁ……」
そう言いながらララファルは、家の壁に設置されている木の長椅子に腰かけている。そして遠くの景色を眺めていた。
(とりあえず明日、もう一度あの国に行ってみるけど。あの白銀の髪の男が居るとは限らない。でも、村長には逆らえないしなぁ。
……間違いなく、あの白銀の髪の男が使おうとしてたのって勇者の能力だと思う。それを確認し、もしそうならここに連れてこいか。それまでは監視……)
そう思いながら立ち上がる。
「考えてたって、仕方ないかぁ。実際、この目で確認しないとね。だけど結構、いい男だったなぁ」
そう言いながらラファルは、自分の家の中に入っていった。
――場所は、マルベスウム国のルべルスト城に移る――
シュウゼルは城の自分の書斎で、椅子に座り机上に寄りかかりながら考えごとをしていた。
(簡単にだが、なんとか城の修復は済んだ。だが、何が起こった? ティハイドの話では、失敗したと言っていたが。その訳が……分からない、だと……ふざけるな!!)
顔を引きつらせ両手で机を、バンッと叩く。
(建物だけではない……配下の者たちは、大怪我をした。いや、それだけじゃ……中には死んだ者もいる。それに、どう陛下に報告すれば……)
そう思考を巡らせる。
(ベルべスクが、ここに居ない。アイツが入れば、何か提案してくれたかもしれぬが。恐らく、今頃ムドルに捕まっているだろう。
そうなると……このことが露見するのも、時間の問題だな。仕方ない、腹を括るか……。そもそも、ティハイドの口車に乗ったのが悪いのだからな)
シュウゼルは悔しそうな表情を浮かべていた。
――場所は変わり、アクロマスグのティハイドの屋敷――
屋敷の居間でティハイドは、カロムとソファーに腰かけ向かい合わせで話している。
カロムは左腕の義手を慣れないためか触っていた。
「……カロム、大変そうだな」
「いえ、屋敷の修理は他の者がやっていますので。左腕が義手になったからと言って、影響はありません。それよりも、なぜ失敗したのでしょう?」
「さあな。そもそも、なぜ聖女が城を抜け出した? それにこの肝心な時に、フウルリスクと連絡が取れん。いったい、あの城で何が起こったというんだ!?」
ティハイドは怒りを露わにし、ドンッと目の前のテーブルを右拳で叩く。
「本当ですね。厄災は、間違いなく……バールドア城に放たれたはず。ただ密偵に探らせ分かったことは、何者かが現れ厄災を駆除した。それも聖女以外の何者か……」
「その何者かが、分からぬのだったな」
「はい、ですが……恐らく王や城の上の方は知っていると思われます」
そう言われティハイドは、フゥ―ッと息を吐いた。
「まぁ、言わないのが当たり前か。警戒しているだろうからな。さて、どうする。恐らく、シュウゼルとはもう手を組めない。他の方法を探さねば……」
「そうですね。次は、どのようにいたしましょう?」
そうカロムが問うとティハイドは、ニヤリと笑みを浮かべる。
そしてその後、二人はそのことについて話し合っていたのだった。
ここはタルキニアの町の宿屋。
現在、私はメーメルと荷物をまとめていた。そう、今日この町を発つからだ。
昨日、私たちはここに着くなりギルドの方に向かいマスターと色々なことを話す。
あ~あ……ギルドに残って、受付やりたかったなぁ。でも、まぁいいかぁ。他の町で受付の勉強してこれるし。
そんなことよりも、マスター大変だったみたいだなぁ。色々なあと処理で……。コルザさんのこととか、この町で起きたことなんかも……一人でやってた。
私も手伝いたかったけど、アクロマスグに行ってやらなきゃいけないことあるから……。とりあえず、マスターの手伝いができるぐらいに成長してこないとね。
そう思いながら私は、バッグの中や異空間の収納ケースに荷物を入れる。
「あれ? メーメル、ちょっと待ってて急いで市場に行ってくる。もしグレイ達が来たら、ムリゴを買いに行ったって言っておいて」
「うむ、分かったのじゃ。慌てず、ゆっくりのう。まだ時間はあるのじゃ」
そう言われ私は頷いた。
その後、私は部屋を出て市場に向かう。
▼△★▽▲☆▼△
私は市場でムリゴを買ったあと宿屋の中庭を通る。
「あ、ルイさん。市場に行って来たのですか?」
「ムドルさん。はい、旅の途中で食べようと思って」
「そういう事ですか。それにしても、本当にムリゴが好きですね」
そう言いムドルさんは、優しく微笑む。
「うん、元々果物が好き。それにこのムリゴ美味しいし。それだけじゃないの、グレイが最初に買ってくれたのがこのムリゴだった」
「なるほど……その時のことを思いながら、食べていると……妬けますね」
「焼ける? ムリゴを焼くんですか??」
そう私が聞くとムドルさんは一瞬、キョトンとした。
「……アハハハ、そうですね。ムリゴは、焼いて食べても美味しいですよ。焼きムリゴ、食べてみますか?」
「はい、食べてみたいです! でも、ここでですか?」
「そうですね……あそこに木の長椅子がありますが、どうしますか?」
そう聞かれ私は悩んだ。だけど、まだ時間あるし食べてみたかったので頷いた。
「そうだね。お願いしようかな」
そう私が言うとムドルさんは、ニコリと笑い木の長椅子の方に向かう。そのあとを私は追った。
木の長椅子に腰かけると、ムドルさんも私の隣に座る。
私は一瞬、ドキッとした。だけどグレイの顔が頭に浮かび、ムドルさんから少し離れる。
「……まあいいでしょう。ムリゴを一個いただけますか?」
そう言われ私は、袋からムリゴを一個とってムドルさんに渡した。
ムドルさんはムリゴを左手で持つ。そして右手をムリゴに翳すと魔族語で詠唱する。
するとムドルさんの右手が光って、小さな魔法陣が現れた。その魔法陣から小さな炎が現れムリゴを覆い包む。
その後、丁度いいぐらいの色にムリゴが焼ける。
そのムリゴをムドルさんは、私にくれた。
それを受けとると私は、そのいい匂いにウットリする。
「う~ん、良い匂い。いただきま~す!」
そう言い私は、焼きムリゴを食べた。
「うわぁ~、凄く美味しい。こんな食べ方もあるんですね」
「ええ、本当に美味しそうに食べますね」
そう言いムドルさんは、微笑みながら私をみつめる。
みつめられ私は、ドキドキしてきた。
どうしたんだろう……この空気、なんかまずい気がする。だけど……動けない。
そう思い私は、この場をやり過ごそうと焼きムリゴを急いで食べる。
「アツ、ハハハハハ……だけど……美味しい」
「慌てないで、火傷しますよ……まだ熱いですので。あ、口元に……」
そう言われ私は、自分の口をハンカチで拭こうとした。とその時、ムドルさんが私の口元の焼きムリゴの食べかすをなめる。
「……」
私は何も言えなくなった。そして言うまでもなく、顔が茹蛸のような状態だ。
鼓動が鳴りやまない、だけどどうして? なんで……口元の食べかすをなめたの? でも……。私は……。
そうこう思考を巡らせる。
するとムドルさんが私を抱きしめた。
更に私は混乱する。
ムドルさんは私の耳元で囁いた。信じられない言葉を……。
「――好きです。初めて逢ったあの日からずっと、こうしたかった」
そう言われ私は、どうしていいか分からなくなる。
えっ!? まって……。でも、私は……。だけど、グレイは私のことどう思ってる? 分からない……。
考えても余計に混乱するだけだ。それにこの状況、凄くまずいと思った。
「……む、ムドルさん。気持ちは、凄く嬉しい。だけど、どうしたらいいのか分からないの。だから今は……」
「グレイが好きなのですね」
「そ、それは……。う、うん……好きなんだと思う。でも、グレイは……弟子としか思ってない」
「そうですか……そうですね」
そう言いムドルさんは、私から少し距離を置く。
「気持ちの整理ができてからで構いません。私は、いつまでも待ちますので……」
ムドルさんは、ニコリと笑う。
「ごめんなさい……」
なぜか涙が出てきた。
その涙をムドルさんがハンカチで拭いてくれる。
「謝らないでください。私は、大丈夫ですので」
そう言いムドルさんは、立ち上がり私に背を向けた。
「そろそろ、旅立つ準備をしませんと」
「そうですね……。私も、準備しないと」
私もそう言うと立ち上がった。
「このことは、誰にも言わないでください。流石に、恥ずかしいですので……」
そう言い放ってムドルさんはこの場を離れる。
そして私は、混乱したまま部屋に戻った。
ここはタータム草原。と言っても、まだ町から出たばかりだ。
今ここには、私以外グレイとムドルさんとメーメルとベルべスクがいる。
勿論、トラットとキルリアも一緒だ。
あれから私は、しばらく混乱していた。だけど、考えていても何も解決しないと思い悩むのをやめる。
それにこれから一緒に旅をするのにまずいと思った。
考えないようにしよう。それにムドルさんの気も変わるかもしれないし。そう思ったからだ。
そして現在、私は何もなかったようにグレイ達と話していた。
ムドルさんも、さっきのことを忘れたかのように会話してる。時折、私の方をチラチラみながら。
私はグレイの方に視線を向ける。なんか私とムドルさんを交互にみているようにみえた。
まさか、気づいてないよね。
そんな考えを余所にグレイが話し始めた。
「そういえば、これからどうする? 転移の魔法でアクロマスグに言った方が速い」
「そうですね。確かに、ここからアクロマスグまでは……かなり遠い。歩いていくとなると、約二ヶ月はかかります」
「そうじゃな。でもグレイ、他の町にもよる予定だったはずじゃ」
そうメーメルが言うとグレイは頷く。
「ああ、色々と調べたいことがあるしな」
「それなら、のんびり旅を楽しみましょう」
「そうだな……ムドルの言う通り、旅を楽しむか」
そう言いグレイとムドルさんは、お互い見合い頷き笑う。
なんか二人共、前よりも仲が良くなったように思える。
その後、私たちは次の町を目指し歩いたのだった。
▼△★▽▲☆▼△
――そして半年後……ここは、タルキニアの町の冒険者ギルド。
「――さん、今日の依頼はこれにするのですね」
そう言い私は、依頼書と冒険者さんのプレートに承認の印をつける。
「ルイちゃんは、今日も元気だな」
「ありがとうございます」
そう言いながら私は、ニコリと笑った。
そして、今日も受付の仕事が始まる……。
「冒険者の皆さん、お疲れ様です!」
――まだ語り尽くせないことだらけ……。
あれから何があり、どうなったのか。それは後々、語ろうと思います。
――そして泪たちの物語は一旦ここまでとなり、再び会える日まで……。――――♡♥完♥♡
ここはタータム草原から遥か先にあるアムグの森。
現在、泪とグレイフェズは森の中を歩いていた。
そう、食べられそうな食材を探しているのだ。
そんな中、フワリフワリと雪が降り始める。
「うわぁ〜……グレイ、この世界にも雪が降るんだね」
「ルイの世界でも、雪って言うのか?」
「うん、こっちでもそう言うんだね」
そう話をしながら泪とグレイフェズは、雪が降る中を歩いていた。
「ブルッ……寒い。なんか急に冷えてきたね」
「そうだな。少し休むか」
グレイフェズは、キョロキョロし休めそうな所を探し始める。
「あそこに洞窟がある。雪がやむまで、そこで休むか」
そう言われ泪は、コクリと頷いた。
それを確認するとグレイフェズは、泪の手を引き洞窟へと向かう。
その時の二人の顔は、言うまでもなく赤くなっていた。
▼△★▽▲☆▼△
洞窟内。グレイフェズは、魔法のランタンに明かりを灯すと地面におく。
その後、薪の代わりになりそうなものを周囲から集めてきた。それに火をつけ、寒さを凌ぐことにする。
二人は洞窟の岩壁に寄りかかり地面に座った。お互い隣り合わせで……。
「ルイ、寒くないか?」
「うん、さっきよりは寒くないけど……」
「そうか……」
そう言いながらグレイフェズは、泪を自分の方に抱き寄せる。
「あーえっと……グレイ?」
「今は黙ってろ」
グレイフェズはそう言い泪をみつめた。
「う、うん……」
そう頷き泪は、顔をさらに赤く染める。
(カァ!! どうしよう……この状況……。胸の鼓動が鳴り止まない。でも、グレイが好き。それなら……)
そう思いながらグレイフェズに視線を向けた。
二人の目と目が合う。
グレイフェズが泪の唇にキスをしようとする。とその時、キルリアがグレイフェズに飛びかかった。
「うわぁぁぁ〜……やめろぉ〜!!」
そう叫びグレイフェズはキルリアを投げ飛ばす。
「……」
それをみた泪は、何も言えなくなり目が点になる。
「ルイさん、大丈夫ですか?」
それを聞き泪は、声のする方を向いた。
「あ、ムドルさん」
「雪が降ってきましたので、心配になり……来て正解でしたね」
そう言いムドルは、グレイフェズを鋭い眼光で睨んだ。
「くる必要、なかったと思うんだが!」
グレイフェズは不貞腐れムドルをみる。
「さて、どうでしょうか……」
その後、グレイフェズとムドルが言い合いになり喧嘩になったのは言うまでもなく……。
二人の喧嘩は、ムドルのあとを追ってきたメーメルがとめる。
そうこうしてると雪が止んだ。
そして泪たちは、滞在しているマキルガ村の宿屋に戻って行ったのだった。
「おはようございます。今日は、どんな依頼をご希望でしょうか? それとも、またいつものですか?」
そう私が問うと目の前の冒険者さんは頷く。
それを聞きつけた他の冒険者さん達も集まってきた。
「じゃあ、お話しますね」
私は目を閉じ語り始める……。
――時は、約四ヶ月前に遡り……――
ここはアクロマスグの町の冒険者ギルド。
あれから私は、グレイ達と色々な町や村に滞在しながら旅を続ける。
そして約二ヶ月ぐらいかけて、このアクロマスグの町に辿り着いた。
現在……私は、この町の冒険者ギルドで見習いとして働いている。
「お疲れ様です。サフェリアさん、いつも仕事が早いですね」
私がそう言うとサフェリアさんは、オレンジ色の長い前髪をかき上げ微笑んだ。
「そうかしら。そんなつもりで、仕事をしている訳じゃないんだけど。それよりもルイ、まだここに来て間もないのにギルドの受付業務がスムーズよね」
「そうかなぁ。でも、まだまだです。覚えることが、いっぱいあるし」
「そうみたいね。そういえば、冒険者も兼ねてるのよね?」
そう聞かれ私は頷く。
「はい、色々と勉強したいので。それに、元いた町のギルドの受付をするための修行なんです」
「そっかぁ。それで見習いなわけなのね」
「元いた町のギルドには、受付がマスターしか居なかったので」
そう私が言うとサフェリアさんは、ニコリと笑みを浮かべる。
「一人かぁ……確かに大変そうね。だけど、それならそのギルドで受付の勉強すればよかったんじゃないの?」
「そうなんだろうけど。マスターが他の町のギルドで修行してからだって……」
「なるほど……いきなり、無理だと判断した訳かぁ。そうなると、色々と学ばなきゃ駄目だね。頑張って、応援してるよ」
サファリアさんはそう言い私の肩を、ポンッと軽く叩いた。
「ありがとうございます。あーそういえば、今日は依頼どうしますか?」
「そうねぇ。どんなのがあるかしら?」
そう問われ私は、サファリアさんに合いそうな依頼書を奥の方の棚から数枚みつけてくる。そして、それらをサファリアさんにみせた。
するとサファリアさんは、依頼書を順に捲りみる。
「どれも良さそうね。だけど、これにしようかな。依頼料も高そうだし」
「サーベルウルフの討伐と、牙十本を持ってくる依頼ですね。それでは、プレートの提出をお願いします」
それを聞きサファリアさんは、手に持っていたプレートと依頼書をカウンターの上に置いた。
私はカウンターの上に置かれたプレートの操作をする。そして書き込んでいき、承認の印をつけた。
それらの作業が終わると、サファリアさんにプレートを返す。
「はい、これで依頼の方は受理されました」
「ありがとうね。でも、本当に見習いなのかと思うほどに手際がいい。元々こういう事が向いてるのかも」
そう言われ私は照れる。
「そ、そうなのかなぁ。でも嬉しい、ありがとうございます!」
私は頭を下げた。と同時に、ゴンッとカウンターに額をぶつけた。
「いたーい。アハハ……やっちゃった。テヘ……」
そう言いながら額を摩る。
するとそれをみたサファリアさんは大笑いし、他の冒険者さんたちが爆笑していた。
その後サファリアさんは、ギルドをあとにし依頼場所へと向かう。
それを確認すると私は、次の冒険者さんの相手をしたのだった。