ここは聖女発祥の地とされている大陸であり、緑の大地と言われている【カリスワイブ】。

 この大陸には、人間とドラゴナードの二種族が共存していた。

 ドラゴナードとは生れながらにして竜と共存し、その守護を受けている種族である。そのため竜の加護がなければ、能力を使えず生きていけない種族だ。

 このドラゴナードの国であるドランノヴァは、この大陸の中央から北東側にある。そして竜の里ドランファルは、北東側の端に位置する龍神と竜が住む山の麓にあった。

 その山には竜がいて、頂上に龍神の住まう大きな建物が建っている。

 現在、龍神はその建物の中で眠っていた。



 一方この大陸の南東側には、ラファストル国の王都ファスリアがある。

 この国の人口は領土ごとにみると、それほど多くない。だが大陸自体、資源豊なためか他国と交流を絶っていてもそれほど困らないのだ。

 ラファストルは、この大陸の北西側と南東側に国が二分している。

 昔はこの国は他の大陸の侵略に遭い、南東側にある二つの領土しかなかった。

 それを勇者と聖女がドラゴナードと龍神の力を借り、侵略国を倒し北西側の領土を取り返したのである。

 そしてこの大陸自体、過去のこともあり閉鎖的なのだ。

 因みに王都ファスリアの山を挟んだ西側には、シャルダ城とその城下町がある。

 王都の城下町の先には、緑に囲まれたファスリア城が聳え立つ。

 その城の門を潜ると、みたこともないような綺麗な花々が咲いていた。そして、草木が生い茂っている。


 この城の二階にあるテラスには、景色を眺めている清美がいた。

 (あれから六日かぁ。フウルリスクが言うには、元居た場所からかなり遠いらしいし。泪は、今頃どうしてるだろう。
 大丈夫かな。厄災っていうのに、やられていないよね。心配だけど……今は、どうすることもできない)

 そう思いながら遠くに視線を向ける。

 「キヨミ、ここに居たのですか。部屋に居ないって、サクリスが心配していましたよ」

 その声を聞き清美は振り返る。

 「あ、フウルリスク。サクリスが……そうなのね」

 「ええ、それと。今日は、執務室で話し合いが行われるらしい。その話し合いに、ボクとキヨミとサクリスも同席するようにとのことです」

 「そうなんだね。やっぱり、素性を明かさない方が良かったんじゃないのかなぁ」

 それを聞いたフウルリスクは、首を横に振った。

 「いいえ……あの時、言わなければ。恐らくボク以外は、処刑の対象になっていたでしょう」

 「そうだね。でもまさか、フウルリスクがここの国の出身だったと思わなかった」

 「申し訳ない。ボクは、王の命令で動いてた。幼少の頃からね」

 そうフウルリスクは、王の命令で幼少の頃から他国を転々と渡り歩く。

 この国で一番、魔力があり頭が良かったからだ。

 国王は、この大陸が閉鎖的であることをどうにかできないかと思っていた。

 そのため信用できる国を探させていたのである。いや、それだけではない。この国を狙う者たちが、また現れるかもしれないので偵察もかねていたのだ。

 「でも、フウルリスクは凄いね。私なんかよりも……小さい時から、一人で知らない町を転々と……」

 「いえ、そうでもありません。結構、楽しめましたので」

 そう言いフウルリスクは、ニコリと笑い清美をみつめる。

 清美はみつめられ顔を赤らめた。

 「そ、そっかぁ。私もフウルリスクのように、楽しめたらいいんだろうけど。無理かな……」

 そう言うと清美は、泪のことや色々なことが頭をよぎる。すると、涙が出てきた。

 それに気づきフウルリスクは、自分のハンカチを取り出す。そして、そのハンカチで清美の涙を拭う。

 「キヨミ……申し訳ありません。ですがあの状況では、ああするしか思いつかず」

 「いいえ、フウルリスクの判断は間違っていなかったと思う。ただ……私の気持ちの整理が、まだできていないだけ」

 それを聞いたフウルリスクは、清美をそっと抱きしめる。

 「無理はしないで。何かあったら、ボクに言ってください」

 「はい、わ、分かりました」

 そう言うも清美は、フウルリスクに抱きしめられ顔が茹蛸のような状態だ。

 (……ど、どうしよう……顔が熱い。胸が苦しいよ。フウルリスクのこと好きだけど、この展開どうしよう)

 ドキドキしながら清美は、自分を抱きしめるフウルリスクの顔をチラッとみた。

 フウルリスクはそれに気づいたのか、頬にキスをし清美から離れる。

 「そろそろ行きましょうか」

 そう言われ清美は、顔を赤くしたまま頷く。

 その後、二人は執務室へと向かう。

 そして執務室で清美とフウルリスクとサクリスは、この国の王や大臣らから色々と聞き話をしたのだった。