聖女召喚に巻き込まれて異世界に召喚されたけど、ギルドの受付嬢の仕事をみつけたので頑張りたいと思います!!

 私は現在、メーメルに怒られている。当然だ……ただここで何もせず、私は泣きながらみている。怒られても仕方がない。

 「泣きたい気持ちは分かるのじゃ。しかし何もできないでは済まされぬ」

 「そうだけど……どうすればいいの? 私の力じゃ、倒せない。できるのであれば私だって……」

 「うむ……そうじゃなぁ。ルイ、気持ちの整理がついたらで良い。あとからくるのじゃ……良いな!?」

 それを聞き私は頷いた。

 それをみたメーメルは、私に背を向けグレイ達の方に向かい駆け出す。

 そんなメーメルをみて私は、凄いと思った。魔族とはいえ、同じ女なのに全然違う。それに私なんかよりも遥かに強い。私もみんなと戦えるぐらいの力があれば、と思った。

 分かってる。ただ、私にはそこまでの勇気がないだけだ。

 それが……私にはできない。グレイ達は、それができている。

 頭で考えているだけでは何も解決できない。そう思っても行動に移すことが……一歩、踏み出すことができないのだ。

 私はグレイ達の方をみながら、ひたすら自問自答していた。



 ――場所は、グレイフェズ達が居る方へと移る――


 相変わらず紫の怪物は、デビルミストを体内に吸収し姿を変え続けていた。

 そんな中グレイフェズとムドルとベルべスクは、その光景を悔しい気持ちでみている。

 そこに猛ダッシュでメーメルが、グレイフェズ達の方に向かってきた。

 「何、ボケっとみておるのじゃあぁぁあああ――」

 それを聞き三人は一瞬、ビクッとして後ろに仰け反る。

 「メーメル……べ、別にボケっとしていた訳じゃない!!」

 「グレイ、本当かのう? ……まぁ良い。それよりも、回復が先じゃな」

 そう言いメーメルは魔族語で魔法を唱え、グレイフェズとベルべスクの回復を順にした。その後メーメルは、バッグの中から魔力回復ドリンクを取り出しベルべスクに渡す。

 「メーメル様、申し訳ありません。有難く頂きます」

 ベルべスクはそう言うと、メーメルに頭を下げる。そして、魔力回復ドリンクを飲んだ。

 「すまない、メーメル……助かった。それはそうとルイの状態は、どうなんだ?」

 「うむ……相当、落ち込んでおったのじゃ。自分にできることが何か、みえておらぬ。それを、自分で気づき……みつけるしかないのじゃ」

 「そうか……俺が傍に居てやれれば……。いや、そうだな。メーメルの言うように、自分で気づかないと意味がない」

 そう言うとメーメルは頷いた。

 「そうですね。私も同感です。それに……これ以上、ルイさんを危険な目に遭わせたくありません」

 ムドルはそう言い、キッと紫の怪物を睨む。

 「ああ、そうだな。俺も同じ気持ちだ」

 そう言うとグレイフェズも、紫の怪物を睨みつけた。

 「悪いがオレは、雑魚の方を片づける」

 「ベルべスク、それでいい。ただ、そっちが済んだら……こっちも頼む」

 グレイフェズにそう言われベルべスクは、口角を上げ頷く。

 「妾もベルべスクと一緒に、雑魚の怪物と魔獣を倒すのじゃ」

 「メーメル様、無理だけはなされませぬように……」

 「大丈夫じゃ。それよりも、ムドルもグレイも無理はするでない……良いな!!」

 それを聞きグレイフェズとムドルは頷き立ち上がった。その後、二人は紫の怪物の方を向く。

 そしてグレイフェズ達は、各自の持ち場に向かったのだった。
 グレイ達は戦っている。その光景を私は、ただみているだけしか……つらい。


 そう思い泣きながら私は、グレイ達が戦っている姿をみていた。

 「……どうしたらいいの?」

 私は悩む、更に涙が出てくる。


 別に悲劇のヒロインを演じたい訳じゃない。できることなら私も戦いたいと思っている。だけどそれができない……体も動かない。


 考えれば考えるほど私は、更に分からなくなってしまった。



 ――場所はグレイフェズ達、四人が居る方に移る――


 あれからグレイフェズとムドルは、紫の怪物に挑む。しかし、何度も攻撃していくが無理だった。

 そうこうしているうちに紫の怪物は、全てのデビルミストを吸収し姿が完全体になってしまう。

 「クソッ、結局……無理だったのか」

 そう言いグレイフェズは、完全体となり約三十メートルもある紫の怪物を見上げる。

 「……悔しい。ですが、まだ諦める選択肢はありません」

 そう言い放ちムドルは、紫の怪物を睨みつけた。

 「ああ、当然だ。さて、やるか。恐らく無攻撃ってことは、もうないだろうからな」

 「そうですね。今度こそ……覚悟を決めませんと」

 ムドルはそう言い泪の方をみる。そして、悲しい表情になった。

 「つらい……なんて言ってられねえしな」

 そう言いグレイフェズは、チラッと泪の方をみる。だが、すぐにムドルの方を向いた。その表情は、かなりつらそうだ。

 そこにメーメルとベルべスクが、グレイフェズとムドルの方に向かってきた。

 「やっぱり、駄目か……」

 「ベルべスク、ええ……。ですが、まだ諦めませんよ」

 「そうじゃな。このままにはしておけぬのじゃ」

 そうメーメルが言うと三人は頷く。

 「それはそうと、そっちは大丈夫なのか?」

 「うむ、なぜか突然消えたのじゃ」

 「消えた? どういう事だ」

 グレイフェズは不思議に思い首を傾げる。

 「丁度あの怪物が今の姿になったあたりから、他の厄災は全て消えた」

 そう言いながらベルべスクは、紫の怪物をみた。

 「なるほどですね。そうなると、他の異界の怪物や魔獣は……」

 「ムドル、恐らくそうだろうな。完全体になるのを、邪魔されないための存在」

 「じゃあデビルミストは、元々紫の怪物の姿を強化するための……ってことか?」

 そう問うとグレイフェズとムドルは頷く。

 「そういう事だ。まぁ、それだけじゃないだろうがな」

 「ええ、そうですね」

 グレイフェズとムドルは険しい表情でお互い見合う。その後、すぐ視線を逸らした。

 「多分、これが最後になる。とにかくやれるだけのことをしねえとな」

 そうグレイフェズが言うと三人は頷く。

 そしてその後四人は、紫の怪物に挑む。それを泪は、泣きながら眺めていたのだった。
 ここはバールドア城の広場。約三メートルだった紫の怪物は、巨大化し約三十メートルにもなった。

 そんな紫の怪物を見上げながら、グレイフェズは大剣を構える。

 (でかい……。だが……なんとかしないとな)

 そう思い額からポタリと汗が流れ落ちた。

 (この怪物を……どう倒すか、ですね。方法さえ分かればいいのですが……)

 ムドルは紫の怪物を見据え思考を巡らせる。

 (無理かもしれぬ。しかし、やるしかないのじゃ)

 そう考えながらメーメルは紫の怪物をみた。

 (こんなことなら、逃げりゃ良かったのか……。いや、その選択肢はねぇよな。仕方ねぇ、腹を括るかぁ)

 そう覚悟を決めるとベルべスクは、杖を構え直し紫の怪物を睨んだ。

 すると紫の怪物が動き出した。


 ――グオオォォォオオオオーー……!!――


 そう雄叫びを周囲に轟かせる。

 「クッ、動き出したな」

 「グレイ、そうですね」

 「うむ、そうじゃな」

 そう言いメーメルは、紫の怪物から離れ距離をおいた。

 「オレも距離をとるか」

 ベルべスクも、紫の怪物から離れる。

 それを確認したかのようにグレイフェズは、大剣を構え直した。と同時に、紫の怪物へと猛突進する。

 そのあとを追うようにムドルは、紫の怪物の方へ向かい駆け出した。



 ――場所は変わり、広場が見渡せる城の二階――


 この状況をカイルディとクレファスとレグノスは、難しい表情で見守っている。

 「これは、大変なことになりました。見る限り……状況は、最悪のようです」

 「カイルディ様、このままでは……何れ城の方にも」

 そうクレファスが言うとカイルディは、コクリと頷いた。

 「そうなるでしょう。ですが……ルイ様以外、グレイ達は諦めていないようです」

 「ええ、そのようです。それよりも、ルイ様の様子が気になるのですが」

 「レグノス、俺も気になった。泣いているようにみえる。あのままでは……」

 そう思いながらクレファスは、目を凝らし泪をみる。

 「そうですね。ですが、ルイ様に手を貸す訳には……。いえ、もしかしたら……。この状況をどうにかできるのは、ルイ様なのかもしれません」

 「カイルディ様、それはどういう事なのですか?」

 レグノスは不思議に思いそう問いかけた。

 「根拠はありません。ですが、ルイ様は異世界の者。なぜか巻き込まれて、キヨミ様とこの世界に召喚された」

 そう言いながらカイルディは、泪の方に視線を向ける。

 「それとこれと、どう関係があるのですか?」

 「クレファス、関係があるかは分かりません。召喚をしたのは私ですが。もし神がルイ様を、この世界に招いたとしたら?」

 そうカイルディに問われ二人は思考を巡らせた。

 「……そうだとしたらルイ様には、この場を解決するための能力があるかもしれない」

 そうレグノスが言うとカイルディは軽く頷く。

 「ですが……今のルイ様の状態では、それに気づけるか」

 クレファスはそう言いカイルディに視線を向ける。

 「そうですね。ですが……この状況を、神が黙ってみているとも思えません」

 「……という事は、あとは神頼みという訳ですか」

 そう言いレグノスは、目を凝らし空を見上げた。

 その後もカイルディとクレファスとレグノスは、話しながら広場の監視をする。



 そして広場の状況は、更に酷い状態になっていくのだった。
 紫の怪物は動き出した。城をも遥かに越える巨体が、ゆっくりと周囲を踏み均し歩く。そして時折、大きな雄叫びを辺りに響かせる。

 そんな中グレイフェズ達は、各々やれることをしていた。

 グレイフェズは、紫の怪物に向かいながら大剣を構え直す。

 《ホーリーヘルファイヤー・ディストラクション!!》

 そう叫ぶと構えていた大剣の柄に魔法陣が浮かんでくる。すると光が放たれ大剣を包み込んだ。

 それと同時に、思いっきり大剣を右横に振り構え直し反動をつける。そのまま飛び跳ねると、紫の怪物の左脚に目掛け勢いよく大剣を左へ振り斬った。

 すると紫の怪物の斬りつけられた左脚が発光し爆発する。だが……傷一つ、ついていない。

 (クソッ……駄目か……)

 そう悔しがりながら一旦、紫の怪物との距離をおいた。


 片やムドルは紫の怪物の体を使いジャンプしていき右肩の上までくる。

 それに気づいた紫の怪物は、ムドルを横目でみた。

 「ナゼ……コウゲキ……スル……」

 ムドルが聞こえる程度の声を発して、紫の怪物はそう問いかける。

 「会話が可能なようですね。ですが……どういう意味でしょうか? 言っていることが、分からない。私たちはただこの国……いえ、この場所を守ろうとしているだけ」

 「ナラバ……ナゼ……ワレヲ……ツクッタ? ソシテ……ソトニ……トキハナッタ……ノダ……」

 「お前を創ったのは、私じゃない!!」

 そうムドルは言い放ち紫の怪物を睨む。

 「イナ……ソレハ……ドウイウ……コトダ」

 そう言い紫の怪物は不思議に思った。そして自分を攻撃しているグレイフェズの方に視線を向ける。

 「モウヒトリ……ユウシャ……ノ……ニオイ……スル。ドウナッテ……イル?」

 「それは私と下に居るグレイフェズが、勇者と聖女の血筋だからでしょう」

 「ソウイウ……コトカ。ダガ……ナゼ……ジャマヲ……スル?」

 そう問われムドルは、紫の怪物を凝視した。

 「決まっています。この国……いえ、この世界を守りたい。それだけですよ」

 「イミガ……リカイ……デキナイ。ワレハ……ユウシャ二……ツクラレタ……コノ……セカイヲ……メッスル……ソンザイ」

 「……そのようですね。ですが、既にその勇者はこの世に居ない。それも事実です」

 それを聞き紫の怪物は困惑する。

 「ユウシャガ……イナイ。ダガ……オマエタチハ……ソンザイ……シテイル。ソシテ……ワレハ……トキ……ハナタレ……タ……」

 「お前を解き放ったのは、私たちじゃありません」

 「……リカイ……デキナイ。モシ……ソウダト……シテモ……ワレハ……シメイヲ……ハタス」

 そう言い紫の怪物は、ムドルを自分の肩から落とそうと左手で払い除けようとした。

 それに気づきムドルは、咄嗟に避け紫の怪物の肩から飛び降りる。

 地面に着地するとムドルは、紫の怪物を見上げ考え込んだ。

 (これは……厄介ですね。それにこのことを、グレイに教えた方がいいかもしれません)

 そう思いムドルは、グレイフェズの方へと駆け出した。
 グレイフェズは紫の怪物との間合いをとった。

 (やっぱり無理か……だが、そんなこと言ってられねえ。とにかくこれ以上、先に行かせないようにしないとな。それにしても、他に方法がないのか)

 そうこう考えているとムドルがグレイフェズのそばまでくる。

 「ムドル、どうした。何かあったのか?」

 「あったというか……今、あの怪物と話をしてきました」

 「話をって!? 会話ができるのか……それで、なんて言ってたんだ?」

 そう聞かれムドルは紫の怪物が言っていたことを話した。

 「……そうか。俺たちは、勇者を恨むしかなさそうだ。だが、そこまで勇者は追い込まれていたってことだよな」

 「そうなりますね。そういう文献は、村に残っていなかったのですか?」

 「いや、残ってなかった。憶測だが、恐らく知られたくなかったんじゃないのか」

 そう言いながらグレイフェズは、紫の怪物を見据える。

 「確かに、私でも……そうするかもしれません」

 「そういう事だ。ってことは、俺たちの手で……どうにかしないとな」

 「できるかは、分かりませんが……やりますか」

 そう言うとムドルとグレイフェズは、お互い見合い頷いた。

 その後グレイフェズとムドルは、紫の怪物へと攻撃を仕掛けていく。


 一方メーメルは、どう攻撃するか悩んでいる。

 (妾の力で、どこまで戦えるのじゃ。うむ、そうじゃない……どう戦うかじゃな)

 そう思い紫の怪物をみつめると、弓を持つように構えた。

 《闇の弓(サチンスチ) 魔でできし物(カゲゲミリコン) 我の手へ(ナネンエセ)現れ出でよ!!(ハタナネヒゲソ)

 そう魔族語で唱えると手元に魔法陣が展開される。それと同時に、多彩な宝石が至る所に散りばめられた漆黒の弓が手元に現れた。それを構え直し、更に魔族語で詠唱する。

 《闇なる(サチワツ)漆黒の矢(リッモンサ) 魔でできし物(カゲゲミリコン) 我が手へ(ナネンエセ)現れ出でよ!!(ハタナネヒゲソ)

 そう言い放つと手元に魔法陣が展開され漆黒の矢が現れた。

 それを確認すると……。

 《闇なる魔法(サチワツカオフ) 漆黒の風(リッモンマべ) 我、(ナネ)命ず(テヒブ) 弓に纏い(スチキカロヒ) 敵を射抜け!!(エミヌヒヲメ)

 再び、そう魔族語で唱える。すると、漆黒の風が現れ矢を覆った。

 それと同時に……。

 《ダークハリケーン(ガームアニメーノ)アタック!!(ハラッム)

 そう魔族語で魔法を唱えると、漆黒の風をまとった矢を放つ。その漆黒の矢は、無数に増えながら紫の怪物の胸へと向かう。

 紫の怪物の胸のあたりに、漆黒の矢が当たっていく。と同時に漆黒の風が無数に現れる。

 それらは紫の怪物を覆い、一つに纏まっていき大きな渦を巻いた。

 だが紫の怪物は大きく体を振るい、その風の大渦を軽々と払い除ける。

 「……やはり無理なのじゃ。さて、次は何で攻撃するかのう」

 そう言うと紫の怪物を見上げ考え込んだ。
 城の方へと紫の怪物は、ユックリと進行している。

 紫の怪物との間合いを取りながらベルべスクは、杖を構え思考を巡らせていた。

 (分かってる。オレがコイツに勝てねぇってことぐらいわな。だが、なんか方法はないのか? このままじゃ、やられ損になっちまう)

 そう思いながら紫の怪物を見上げる。

 (デカいな。普通の召喚魔法じゃ無理だ。かと言って……最大級の召喚魔法を使うのは色々とリスクが伴う。それだけじゃない……それさえも、効くかどうか分からねぇしな)

 そう考えたあと、ハァーっと息を漏らした。

 「考えたって、どうにもならねぇか。召喚魔導師が、召喚しねぇのも変だが。久々に、違うタイプの魔法を使ってみるか」

 そう気持ちを入れ替えると、杖を構え直し紫の怪物へと向ける。

 《光の精霊(シマニンレヒネヒ) 聖なる大槍(レヒワツホホサニ) 天から降りて(エノマタホニエ) 我、(ナネ)命ず(テヒブ) 目の前の(テンカヘン)敵を射抜け!!(エミヌヒヲメ)

 魔族語でそう詠唱し……。

 《ビッグ(ジッヅ)ホーリーランス(オーニータノユ)ショット!!(ヒョッロ)

 そう言い放った。それと同時に、杖を紫の怪物の頭上に向ける。

 すると、杖の先の魔石が発光し魔法陣が展開された。そしてその魔法陣から光が放たれ、紫の怪物の頭上に向かっていく。

 その光は紫の怪物の遥か真上までくると、魔法陣が展開されていった。

 そしてその魔法陣は、眩く光を放つ。それと同時に金色に輝く大きな光の槍が、勢いよく紫の怪物の頭へと放たれる。

 その金色の光の槍は紫の怪物を射抜く……かと思いきや、頭に触れた途端に消滅してしまった。

 「クソッ、やっぱ……無理か。仕方ねぇ、他の方法を試すしかねぇな」

 そう言い悔しがりながら紫の怪物を睨んだ。


 ――そしてグレイフェズ達は、各々精一杯やれることをしていく……。

 グレイフェズは相変わらず技を使いながら大剣で紫の怪物の至る所を攻撃。

 片やムドルは、同化している魔獣の能力をフルに使い紫の怪物を攻撃する。

 一方メーメルは魔導弓矢で、色んな技を駆使しながら紫の怪物を攻撃していく。

 そしてベルべスクは魔法を最大限に使い、紫の怪物を攻撃していった。

 だが、その攻撃は通用せず……。

 「ジャ……マ……ダ」

 紫の怪物はそう言いグレイフェズ達に目掛け右手を軽く振る。

 すると風が起きグレイフェズ達を吹き飛ばした。

 「グハッ……」

 グレイフェズは近くの大きな石に、思いっきり体を打ちつける。

 「クソッ……体が……」

 そう言いグレイフェズは、虚ろな目になりながらも起き上がろうとした。だが無理だ。流石に起き上がれない。つらそうな表情で紫の怪物の足元をみていた。

 「グハッ……ウッ……」

 ムドルは大木がある所まで飛ばされる。その木に当たり、枝が足に刺さってしまう。そのため木に寄りかかれるものの動けなくなってしまった。

 「このままでは……ウッ……ツウ……」

 動こうとするも激痛が走り動けない。悔しい表情で紫の怪物を見据える。

 「ハァハァハァ……起きないと……駄目なのじゃ」

 メーメルは飛ばされ地面に体を思いっきり打ちつけた。そのため痛くて起き上がれない状態だ。それでも起きようと必死である。

 「クッ……ここで、終わるのか? マジか……ツイて……ねぇ……ハァハァハァ……」

 そう言いベルべスクは、地面に横たわりながら紫の怪物を虚ろな目でみていた。



 ――場所は、泪が居る方に移る――


 私はグレイ達が、紫の怪物に吹き飛ばされるのを目のあたりにする。

 「グレイ……みんな……」

 頭が真っ白になり、いつの間にかグレイ達の方へと駆け出していた。

 途中で我に返り私は、剣を構え紫の怪物へと向かう……。


 どうしよう……私のせいだ。こんな所で泣いている場合じゃなかったのに……何をやってたんだろう。


 そう考えながら私は、紫の怪物の方へと向かっていた。
 涙を拭い泪は、剣を構え目の前の紫の怪物の方に向かい走る。

 紫の怪物の背中に緑の点が現れた。

 なぜか泪の脳裏に言葉が浮かんだ。それを咄嗟に言葉にする。

 《見極めレベル8!!》

 「特定の対象物は、目の前の巨大な紫色の怪物!!」

 そう叫ぶと剣を握ってる手が発光し魔法陣が展開された。その魔法陣から光が放たれ剣を覆い包む。

 それと同時に剣先からビームのようなものが、紫の怪物の背中に記された緑の点へと向かう。

 だが、情報は入ってこない。

 しかし泪の体は、紫の怪物に引き寄せられるように向かっていく。

 (情報が入ってこないのになんで……だけど、これも能力なら……やれるの? もしかして、プレートに書き込まれてるかもしれない。でも、みてる余裕はないし……このままいくしかないよね)

 そう思い泪は、自分の能力を信じ紫の怪物の方へと向かう。


 グレイフェズは虚ろな目でその様子をみる。

 「ルイ……む、りだ……ひき……かえせ……」

 そう言うものの泪には聞こえない。

 「ハァハァ……ルイ、さん。む……ちゃです……」

 それをみたムドルは立ち上がろうとした。

 「ツウ……クッ……」

 激痛が走る。痛さのあまり立てなかった。

 「やめ……ハァハァ……るの、じゃ……」

 そう言いメーメルは、這いながら泪の方に行こうとする。だが、思うように体が動かない。

 「やっと……か。だが……今更……無理、だ……」

 ベルべスクはそう言い虚ろな目で泪をみていた。


 ――そんなグレイフェズ達の声など泪に聞こえる訳もなく……。


 紫の怪物のそばまでくると泪は、緑の点へと吸い寄せられる。

 (何これ? 浮いてる。だけど……能力が発動してるのは確かだよね)

 そう思いながら自分が宙に浮いてる現実を忘れようとした。そう怖いためである。

 紫の怪物の背中の辺りまでくると泪は、鞘から抜いた剣を構え直した。と同時に剣を右に振り、スパッと紫の怪物の背中を斬りつけた。


 ――グオオオォォォォオオオオオーー……――


 いきなり泪に背中を斬りつけられ紫の怪物はそう鳴き叫ぶ。だが傷は、すぐに消えてしまった。

 「ダレ……ダ」

 そう言いながら紫の怪物は、泪を探す。

 泪は地面に着地し紫の怪物を見据える。

 「わ、私は……ルイ・メイノ。この先には、絶対に行かせない!!」

 そう言うと泪は、剣を構え紫の怪物に剣先を向けた。

 その声を聞き紫の怪物は、泪を見下ろす。

 「オマエハ……クジョ……タイショウ……ガイ……ジャマ……スル、ナ」

 「それは、どういう事?」

 「ユウシャ……ト……カンケイ……スル……モノ……ニ、コノ……セカイ……イガイ……ノ……モノ……ハ……クジョ……スル……ナ……ト……キオク……サレ……テイル」

 それを聞き泪は不思議に思った。

 「……って、まさか厄災は勇者が創ったの?」

 「ソウ……ダ。ワレ……ハ、ユウシャ……ニ……ツクラレシ……ソンザイ……」

 「どういう事か、分からない。なんで……勇者が厄災なんか創ったの?」

 そう言うと泪は、紫の怪物を見上げ睨んだ。

 「シラン……ワレハ……ソコマデ……キオク……サレテ……ナイ」

 「そうなんだね。じゃあ、このまま破壊を続けるの?」

 「ソウ……イウ……コト、ダ。ダカラ……ジャマ……スル、ナ」

 紫の怪物はそう言うと泪に背を向け城の方へと歩き出した。

 「待って、行かせない!!」

 泪はそう言い剣を構え直すと紫の怪物を見据える。

 それを聞くも紫の怪物は、無視し歩き進む。

 泪はそれをみて話しても無理と判断する。

 (なんとか、止めないと……)

 そして攻撃しないと駄目だと思い、泪は紫の怪物を睨みみた。
 紫の怪物は、ユックリと城の方へ進む。

 その後ろ姿を見据えながら泪は剣を構え直す。

 (うん、緑の点……有効対象照準点が現れた。あとは、さっきのスキルを繰り返し使ってみよう。もしかしたら、いけるかもしれないし)

 そう思い再び《見極めレベル8》を使い、紫の怪物の背中を攻撃する。

 その攻撃を三、四回したところで紫の怪物が静止した。そして、徐に泪の方へと体を向ける。

 「ジャマ……ヲ……スル、ナ」

 そう言うと紫の怪物は、宙に浮いてる状態の泪の体に軽く触り地面に叩き落した。

 軽く触った程度でも威力は、かなりのものだ。

 「キャアァァアアアーー……」

 泪は何もできないまま地面に叩きつけられる。血が頭から顔へと伝う。

 「……ま、まだ……」

 そう言うも……泪は気を失ってしまった。

 それを確認せずに紫の怪物は、再び城の方を向き歩き始める。


 その光景をみたグレイフェズは「ルイィィイイイイーー!!」と、ありったけの声を張り上げ叫んだ。

 そして這いながら泪の方へ向かおうとする。だが、体が思うように動かない。つらい表情で泪をみつめた。

 ムドルもまたそれをみて、泪の所に行こうとする。

 「ルイさん……ツウ……傍に、向かわなければ……」

 そう思うも、やはり痛くて体が思うように動かなかった。悔しさのあまり唇を噛み血が滲み出る。

 そしてメーメルとベルべスクも同じく動こうとするが、どう足掻いても体は思うようにならず……。

 四人は泪のそばに行けずに、つらそうな表情になっていた。



 ――場所は、バールドア城の広場が見渡せる二階に移る――


 その光景をカイルディとクレファスとレグノスは、険しい表情でみていた。

 いや、三人だけではない。この城の者は、それらをみていて絶望の表情を浮かべている。

 「これは……まずいですね。ルイ様が動き、なんとかなるかと思ったのですけれど……」

 「カイルディ様、そうですね。そうなると……このままでは、城にも被害が」

 レグノスがそう言うとクレファスは、二人に背を向け歩き出した。

 「このままみているなんてできない。ルイ様を助けに行く……」

 「クレファス、待ちなさい。今は、城の守りを……」

 「……そうかもしれない。すみません、私もクレファスとルイ様たちの救出に向かいたいと思います」

 そう言いレグノスは、カイルディに一例をするとクレファスを追う。

 「仕方ありませんね。しかし……本当に、ルイ様はこのまま……」

 カイルディはそう言い泪の方に視線を向ける。

 (神は、我々を見捨てるというのでしょうか。……ルイ様は、なぜこの世界に……。考えれば考えるほど、分からなくなってしまう)

 そう考えながらカイルディは、辺りを見渡した。



 ――だがこの時、泪のプレートは虹色に発光していた。そして……なぜか、TPがMAXの100になっている。しかしそれを知る者は、誰一人としていない……――
 泪たちが紫の怪物に、いとも容易くやられてしまう。

 現在……城の者たちは次は自分たちだと絶望し震える者、覚悟を決める者と色々な思いを抱いている。そして、城に向かってくる紫の怪物をみていた。

 グレイフェズ、ムドル、メーメル、ベルべスクの四人は意識があるものの動ける状態じゃない。

 勿論、泪は意識を失い何もできる訳もなく……。

 紫の怪物は、ノッソノッソと城へ歩みを進める。ただ破壊、駆除するという使命のためだけに……。


 ――城の者や正気でいる民衆たち、そしてグレイフェズ達は……もう駄目なのかと絶望していた。


 そんな中、モクモクと空に雲が立ち込めてくる。それと同時に、大きな魔法陣が展開されていく。

 その光景をみたその場に居た者たち……グレイフェズ達も含めた者たちは、何が起きるのかと更なる不安に襲われた。

 そう思う中その展開された魔法陣は、周囲を埋め尽くすほどの眩い光を放つ。その光は柱となり、泪へと降り立った。

 その光は泪の全身を覆い包む。すると泪のプレートが、虹色に発光したまま宙に浮く。それと同時に、泪の右腰にある紋章が光る。

 そしてプレートに書き込まれていく……。


 【……――《TP、MAXによる臨時覚醒解放》★見極めレベルMAX……現状を見極め裁きを下す者――……】


 プレートに書き込まれた文字が、なぜか宙に映し出された。

 それをみたグレイフェズ達や城の者、民衆らは泪に何が起きたのかと思う。

 (……いったい、ルイに何が……。臨時覚醒ってことは、一時的にか……)

 そう思いながら虚ろな目で泪に視線を向ける。

 (TPがMAX……そのために、運よく能力が解放された。いえ、それだけじゃないように思えます。これは、神の力……なのかもしれません)

 そう考えムドルは、泪をみたあと空に視線を向けた。

 (これは……どうなっておるのじゃ? 臨時覚醒、いったい泪は……)

 メーメルは困惑する。聖女でもなく勇者でもないであろう泪が、なんの使命でこの世界に召喚されたのかと……。

 (……裁きを下す者、か。今のこの現状にもってこいのスキルだ。だが、このスキル……もしこっちに非があれば……。裁かれるのは、オレ達ってことになるんじゃねぇのか?)

 そう思った瞬間ベルべスクは、ゾッとし青ざめる。


 泪たちの方に向かおうとしていたクレファスとレグノスは、城の出入口の外側の扉の所まで来ていた。だが泪に起きたその光景をみて立ちどまる。

 「何が起きている?」

 「クレファス、そんなの私にも分かりません。だが、これは……」

 「ああ、まだ希望が……」

 それを聞きレグノスは、コクリと頷いた。そして二人は、この場の戦況を伺うことにする。



 ――場面は移り、二階にある広場がみえる場所――


 カイルディもその光景をみていた。

 (やはり、神は我々を見捨てなかった。ですが裁きを下す者……とは、どういう事なのでしょうか?
 考え方次第では、この世界が間違った方に進んでいれば裁かれるかもしれない。……まさかルイ様の使命とは、それら見極め裁きを下す存在。
 下手をすれば、この世界をも真っ新にもできる。それが今、発動している能力だとすれば……審議にかけられているかもしれませんね)

 そう考えがまとまると、不安な表情で広場を見据える。



 ――場所は変わり、広場の中央――


 そんな皆の思いとは余所に、更に泪の体が変化していく……。と言っても、髪の色が金色に染まった程度だ。

 そして泪の全身から、眩い光のオーラが発せられる。と同時に、スクッと起き上がり宙へと浮かび上がった。