マリーレさんによる一日だけの料理教室(?)だったけど、いろんな話が聞けて、学べたことがたくさんあった。
そのことを忘れないうちに紙に書き出し、料理を絵にした。
「これもキャロルさんの魔法なんですか?」
横で見ているルーグさんが尋ねてきた。
「はい。転写の応用ですね。見たものを記憶。それを絵にする。試行錯誤して出来るようになりました。まあ、今のところわたししか使えませんけどね。と言うか、絵を描ける人を用意すればこんな魔法いらないんですけどね。バイバナル商会で確保してください。絵にしたら文字が読めない人にもわかるでしょうからね」
文字を書ける人が少ないんだから絵を描ける人はさらに少ないでしょうが、写真がない時代では重宝すると思うわ。
「長い時間を掛けて修行するのもいいですが、それじゃ人が育つのに時間が掛かります。専門職なら特にそうです。教育出来ることはさっさと教育して、現場で修行させたほうがいいと思いますよ。ってまあ、バイバナル商会のやり方にどうこいうつもりはありませんから、わたしの言葉は軽く流してください」
どうするかの決定権はバイバナル商会にある。提案はするけど、強制はしないわ。いろいろ教育方針はあるだろうからね。
「ティナ。マレーナさんが作った料理はどうだった? コンミンドのお城で食べたものと違いはあった?」
味のことはティナやルルに聞いたほうが信頼はある。わたしの舌、そこまで優秀じゃないのよね。あ、味音痴ってわけじゃないからね。ちゃんと美味しいもの不味いものはわかりますから。
「美味しかった。全体的にマレーナさんのほうが味が濃かった感じ。塩分が多いんだと思う」
「全体的に濃いのか。確かに肉の味付けは濃かったわね。伯爵一家はよく動くのかな? カルブラ伯爵家って、武門のお家ですか?」
「いえ、大臣を多く輩出しているお家ですね。今の伯爵様は、何の役職には付いてません」
「よく動く方なんですか?」
「読書が好きな方ですね」
「それで、あの塩分量か。病気にならないといいですね」
「塩分量が多いとどうなるのです?」
「わたしも詳しくはないんですが、脳に血が溜まったり心臓を悪くしたりするみたいですね。喉が渇いたり手足が痺れ始めたら病気になっているかもしれませんね」
自分の病気が何なのか知るためにいろいろ調べたものよ。ちなみに前世のわたしら心臓の難病だったわ。
「治し方はあるので?」
「んーどうでしょう? 詳しいことは薬師か魔法医に訊くほうがいいと思いますが、塩分を控えめにして運動をよくする。緑の野菜をよく食べるといいんじゃないですかね?」
そんな感じのことをすればよかったはずだ。
「そう言えば、ここって蒸し風呂があったりするんですか?」
「蒸し風呂、ですか?」
ありゃ、ない感じなの?
「わたしはわかりませんが、クルス様ならもしかすると知っているかも。訊いて来ますね」
と、席を立って部屋を出て行った。
「蒸し風呂なら王都で流行ってるみたいよ」
ルーグさんがいなくなったのでルルが口を開いた。
「そうなの? お城にはなかったけど」
「伯爵が好きじゃなかったからね。どちらかと言えばお風呂が好きだったみたいよ」
あー確かに湯浴み場は石作りで立派だったわね。
しばらくしてルーグさんが戻って来た。クルスさんも連れて。
「ルーグから聞きましたが、伯爵は病気なのですか?」
「いや、会ったことがないのでわかりませんよ。ただ、あの塩分量を毎日摂っていたら危険かもって話です。伯爵様、太ってたりします?」
「歳は四十。体格はわたしの倍は余裕であると思います」
クルスさんは細身だけど、身長があるから六十はありそうだ。その倍ともなれば百キロは確実に超えて(肥えてか?)いるわね。
「じゃあ、病気になっていても不思議じゃないですね」
逆にそれで病気になってなかったら驚きだわ。特異体質かよ! って突っ込みたいわ。
「少し出て来ます。ルーグは店に。キャロルさんは店を出ないでください」
わたしにどうこう出来るわけもないけど、まだ書くことはあるので頷いておいた。
部屋が暗くなり、蝋燭に火を点けていたらクルスさんが帰って来た。
「伯爵様の状態を聞いて来ました」
と、紙を渡された。
そこには汗をかきやすく息が切れやすい。手足が痺れたりすると、まあ、典型的な塩分過多な症状が書かれてあった。
「薬師や魔法医に診てもらったほうがいいですね。まだ政務に就いているのなら取り返しの付かないって状況にはなってないと思いますので」
ダメなら倒れているでしょうからね。
「それをどう伯爵様に伝えるか……」
「薬師か魔法医に言ってもらえばよいのでは? 何だか顔色がよくないですね、とか言ってもらって塩分過多の症状を伝えればいいんじゃないですか?」
別に難しい問題ではないでしょう。何か問題があるの?
「バイバナル商会に伯爵様との伝手はありません」
「じゃあ、ルーデッヒ商会に言ってもらえばいいんじゃないですか? 伯爵様との伝手はなくともルーデッヒ商会との伝手はあるのでしょう? なら、ルーデッヒ商会に貸しでも作ればいいんじゃないんですか?」
クルスさんらしくない。そのくらい考え付かないのかしら?
「そ、そうでしたね。わたしとしたことが慌てすぎました。キャロルさんの言うとおりです。バイバナル商会がルーデッヒ商会を差し置いて伯爵様と繋がる必要はありませんね」
ナンバー1にはナンバー1の立ち位置があり、ナンバー3にはナンバー3の立ち位置がある。実力もないのにナンバー1になっても仕方がないわ。なるのならなれるだけの実力を身に付けてからにしたらいいのよ。
「精々高く売ってきてください」
「ええ。高く売ってくるとしましょうか」
ニヤリと笑うクルスさん。怖いわ~。商人を敵にしないよう気を付けようっと。
そのことを忘れないうちに紙に書き出し、料理を絵にした。
「これもキャロルさんの魔法なんですか?」
横で見ているルーグさんが尋ねてきた。
「はい。転写の応用ですね。見たものを記憶。それを絵にする。試行錯誤して出来るようになりました。まあ、今のところわたししか使えませんけどね。と言うか、絵を描ける人を用意すればこんな魔法いらないんですけどね。バイバナル商会で確保してください。絵にしたら文字が読めない人にもわかるでしょうからね」
文字を書ける人が少ないんだから絵を描ける人はさらに少ないでしょうが、写真がない時代では重宝すると思うわ。
「長い時間を掛けて修行するのもいいですが、それじゃ人が育つのに時間が掛かります。専門職なら特にそうです。教育出来ることはさっさと教育して、現場で修行させたほうがいいと思いますよ。ってまあ、バイバナル商会のやり方にどうこいうつもりはありませんから、わたしの言葉は軽く流してください」
どうするかの決定権はバイバナル商会にある。提案はするけど、強制はしないわ。いろいろ教育方針はあるだろうからね。
「ティナ。マレーナさんが作った料理はどうだった? コンミンドのお城で食べたものと違いはあった?」
味のことはティナやルルに聞いたほうが信頼はある。わたしの舌、そこまで優秀じゃないのよね。あ、味音痴ってわけじゃないからね。ちゃんと美味しいもの不味いものはわかりますから。
「美味しかった。全体的にマレーナさんのほうが味が濃かった感じ。塩分が多いんだと思う」
「全体的に濃いのか。確かに肉の味付けは濃かったわね。伯爵一家はよく動くのかな? カルブラ伯爵家って、武門のお家ですか?」
「いえ、大臣を多く輩出しているお家ですね。今の伯爵様は、何の役職には付いてません」
「よく動く方なんですか?」
「読書が好きな方ですね」
「それで、あの塩分量か。病気にならないといいですね」
「塩分量が多いとどうなるのです?」
「わたしも詳しくはないんですが、脳に血が溜まったり心臓を悪くしたりするみたいですね。喉が渇いたり手足が痺れ始めたら病気になっているかもしれませんね」
自分の病気が何なのか知るためにいろいろ調べたものよ。ちなみに前世のわたしら心臓の難病だったわ。
「治し方はあるので?」
「んーどうでしょう? 詳しいことは薬師か魔法医に訊くほうがいいと思いますが、塩分を控えめにして運動をよくする。緑の野菜をよく食べるといいんじゃないですかね?」
そんな感じのことをすればよかったはずだ。
「そう言えば、ここって蒸し風呂があったりするんですか?」
「蒸し風呂、ですか?」
ありゃ、ない感じなの?
「わたしはわかりませんが、クルス様ならもしかすると知っているかも。訊いて来ますね」
と、席を立って部屋を出て行った。
「蒸し風呂なら王都で流行ってるみたいよ」
ルーグさんがいなくなったのでルルが口を開いた。
「そうなの? お城にはなかったけど」
「伯爵が好きじゃなかったからね。どちらかと言えばお風呂が好きだったみたいよ」
あー確かに湯浴み場は石作りで立派だったわね。
しばらくしてルーグさんが戻って来た。クルスさんも連れて。
「ルーグから聞きましたが、伯爵は病気なのですか?」
「いや、会ったことがないのでわかりませんよ。ただ、あの塩分量を毎日摂っていたら危険かもって話です。伯爵様、太ってたりします?」
「歳は四十。体格はわたしの倍は余裕であると思います」
クルスさんは細身だけど、身長があるから六十はありそうだ。その倍ともなれば百キロは確実に超えて(肥えてか?)いるわね。
「じゃあ、病気になっていても不思議じゃないですね」
逆にそれで病気になってなかったら驚きだわ。特異体質かよ! って突っ込みたいわ。
「少し出て来ます。ルーグは店に。キャロルさんは店を出ないでください」
わたしにどうこう出来るわけもないけど、まだ書くことはあるので頷いておいた。
部屋が暗くなり、蝋燭に火を点けていたらクルスさんが帰って来た。
「伯爵様の状態を聞いて来ました」
と、紙を渡された。
そこには汗をかきやすく息が切れやすい。手足が痺れたりすると、まあ、典型的な塩分過多な症状が書かれてあった。
「薬師や魔法医に診てもらったほうがいいですね。まだ政務に就いているのなら取り返しの付かないって状況にはなってないと思いますので」
ダメなら倒れているでしょうからね。
「それをどう伯爵様に伝えるか……」
「薬師か魔法医に言ってもらえばよいのでは? 何だか顔色がよくないですね、とか言ってもらって塩分過多の症状を伝えればいいんじゃないですか?」
別に難しい問題ではないでしょう。何か問題があるの?
「バイバナル商会に伯爵様との伝手はありません」
「じゃあ、ルーデッヒ商会に言ってもらえばいいんじゃないですか? 伯爵様との伝手はなくともルーデッヒ商会との伝手はあるのでしょう? なら、ルーデッヒ商会に貸しでも作ればいいんじゃないんですか?」
クルスさんらしくない。そのくらい考え付かないのかしら?
「そ、そうでしたね。わたしとしたことが慌てすぎました。キャロルさんの言うとおりです。バイバナル商会がルーデッヒ商会を差し置いて伯爵様と繋がる必要はありませんね」
ナンバー1にはナンバー1の立ち位置があり、ナンバー3にはナンバー3の立ち位置がある。実力もないのにナンバー1になっても仕方がないわ。なるのならなれるだけの実力を身に付けてからにしたらいいのよ。
「精々高く売ってきてください」
「ええ。高く売ってくるとしましょうか」
ニヤリと笑うクルスさん。怖いわ~。商人を敵にしないよう気を付けようっと。