本格的な冬になった。

 だからってわたしの生活に変化はない。と言うか、職人的な生活が続いている。

 ……わたしの冒険者生活はいつやって来るのかしらね……?

 なんて思いつつ、デミグラスハンバーグを作っている。

 まあ、デミグラスソースを食べたことないのでワインソースから派生したものだけどね。それでもティナやルルには好評で、最近はこればかりだ。作るのも結構大変なのよね。

「ここに来てから美味いものは食えるし、なんか健康になるし、最高だな」

「ああ。それに酒も美味い」

「もうずっとここに住みたいよ」

 職人さんたちも増えて、世話をしているおばちゃんだけでは手が回らないのでわたしが手伝う羽目になっているわ。

「さすがに食堂を作ってもらわないとわたしの時間がなくなるわ」

 困ったらレンラさんに相談と、食堂を作って欲しいと言ったら即オッケー。三日後に馴染みの大工職人さんが団体でやって来た。

「言っておいてなんですが、大丈夫なんですか?」

 バイバナル商会、ここにお金投入すぎない? 経営大丈夫?

「大丈夫ですよ。損はしておりませんから。それどころか王都ではワインソースが大人気。バイバナル商会参加の食堂が二軒も建ちました。貴族の料理人も学びに来るくらいですよ」

 そんなことになっていたの!? この世界、そんなに食文化が遅れていたの?

「……わたし、そんな大層な料理作ってました? あるもので作っているだけなんですけど……」

「大層なものと言うより発想が突飛なんですかね? 言われてみれば確かにと言ったものばかりですが、言われなければ気付きもしませんでした。キャロルさんの視点は他の方とは掛け離れているのですよ」

「……そ、そうなんですか……?」

 マジか!? やっぱり前世の記憶や知識に引っ張られているんだ。わたし的には前世のわたしってよりキャロルの自我に引っ張られているような気がするんだけどな~。

「職人さんたちも冬に働くのは大変ですね」

「そうでもありませんよ。冬は仕事が減りますからね。こうしてすぐ集まるくらいにはよろこばれていますよ」

 確かに嫌そうにやっている人はいないわね。

「それに、ここに来ると美味しいものが食べられると有名ですからね。なかなか人気の現場ですよ」

 職人さんたちの食事をやってもらおうとして、それを作る職人さんたちの食事も用意しなくちゃならない本末転倒な状況になっているけど、いいものを作ってもらうには気持ちよく働いてもらわないといけない。

「また雪か」

「今年は雪が多いですね」

 山ってこともあるけど、確かに雪が降る日は多いわよね。

「職人さんたちに火を用意しますか」

 焚き火は起こしているけど、動くためには厚着は出来ない。もうちょっと火を増やすとしましょうかね。

 薪小屋から丸太を十字に切ったものを運んで来た。

 十字の切れ目に二分くらい燃えるマッチを入れて着火した。

 所謂スウェーデントーチってヤツね。去年も作って暖かい冬を過ごしたわ。

「珍しいものですね」

 付いて来たレンラさんが不思議そうにスウェーデントーチを見ていた。

「そうですか? 寒い地方で使われているみたいですよ。お城の本に書いてありました」

 これは事実。雪国の物語に出てきたものよ。

「この切れ目から空気を吸って火を燃やすので高火力を生むんです。鍋とか掛けて煮たりしましたね」

 さらに二つ持って来て火を点けた。

「新作のマッチですか?」

「トーチ用のマッチです。大体百数える間は燃えていますね」

「それ、まだありますか?」

「んーと。残り十本ですかね。魔力を結構持って行かれるのであまり作れないんですよね」

 毎日マッチは作っているし、スウェーデントーチなんてそう毎日使うものではない。十本もあれば充分と作ってないのよね。

「半分、いただけますか?」

「どうぞ。百数えるくらいは消えないので注意してくださいね。水を掛けたらさすがに消えますけど」

「これも着火でいいんですね」

「はい。でも、五歩くらい離れると着火しないので気を付けてくださいね」

 自動発火装置になったら困るから二メートル離れたら点かないようにしたわ。

「魔石ってまた手に入らないですかね? あれ結構使えるんですよね。マッチ作りにも使えますし」

 前に魔石をもらったけど、二つしかもらえなかったからすぐなくなっちゃったのよね。

「それで長時間燃えるマッチも作れるのですね?」

「ええ。作れます。他にも松明の四倍は長く灯されるものを作れると思うんですよね。まだ構想段階なので出来るかどうかはわかりませんけどね」

 まあ、ロウソクがあるので別に作らなくてもいいんだけど、魔法の火は煤が出ないからいいのよね。だから灯りとりにはいいのよ。

「わかりました。すぐに仕入れましょう」

 そう言うと、早足で民宿に戻って行った。

「おじちゃんたち。温まりながら怪我のないようにお願いしますね」

「おう。ありがとな」

「こいつはいいな。おれたちも作ってみるか」

「よし。おれが切って来る」

 職人さんたちもスウェーデントーチを気に入ったようで、仕事の合間に作り出した。ついでにうちの分もお願いして昼食の準備を始めるとした。