鞄作りに励んでいると、ティナが見知らぬおじちゃんを連れて来た。どちら様?
「革職人のラルグさん」
「いらっしゃいませ。わたしに何か用ですか?」
ティナの簡素な言葉も慣れたもの。ラルグさんはわたしに用があってティナが連れて来たんでしょう。
「お嬢ちゃんがキャロルさんかい?」
「キャロルで構いませんよ。見てのとおり小娘ですから」
さん呼びにも慣れたけど、それは商売柄から丁寧にしているだけでしょう。職人さんからさん呼びされるとただただ困るだけよね。
「いや、マルケルさんからあんたを失礼に扱うなとキツく言われているんでな」
わたし、どんなビップを受けてんのよ? そこまでの人間じゃないのにさ。
「まあ、何と呼んでくれても構いませんよ。どんなご用ですか?」
「その鞄の作り方を学んでこいって言われてね」
「鞄、ですか? 見たところ職人になってうん十年。どこか有名な工房の親方さんですよね、ラルグさんって」
「まあ、そうなんだがな。天下のバイバナル商会に言われたら小さな工房は従うしかないんだよ」
「……大人の世界は世知辛いんですね……」
わたしには馴染めない世界だわ。自由に生きられるよう冒険者で大成しようっと。
「そんな世知辛い世界で生きるのが一人前の大人ってことさ」
渋く笑うラルグさん。そんな世界で揉まれるとこんな笑いも出来るのね……。
「わたしに教えられる技術があるかはわかりませんが、学ぶことがあったら遠慮なく学んでください。わたしもバイバナル商会とは仲良くやって行きたいので」
「その歳でそれがわかるならお嬢ちゃんは大成するよ。うちの弟子にも学ばせたいくらいだ」
職人の世界も大変そうね。
「この背負い鞄、お嬢ちゃんが作ったみたいだな」
「はい。たくさん物が容れられて長時間担いでいても疲れないものを作りました。何か問題でもありましたか?」
「縫い方はまだまだ甘いが、よく出来ている。背負い鞄を極めたかのようだ」
極めるのにそう難しくないと思うんですけど? まあ、リュックサックは作るのにお金が掛かるからずだ袋を背負うのが一般的だけどね。
「細かな部品が集まっていたんだな」
その道うん十年なだけにパーツを見ただけで理解している。凄いものよね。わたしは思い出し思い出し作っているのに。
「道具があればもっと早く作れるんですけどね」
「それなら持って来た」
ティナがラルグさんが持って来た道具を作業小屋に運び込んでくれた。
「やっぱりいろんな道具があるんですね」
ハサミも何種類もあって糸は何十種類とあった。工房の道具、すべて持って来たの?
置き場所がないのでわたしの道具は一旦片付けてラルグさんの道具を並べた。
「金床まで持って来たんですね」
「結構使うものだからな。念のため持って来た」
「しばらく滞在するんですか?」
工房、大丈夫? 商売出来ているの?
「ああ。その金もいただいた」
マルケルさん、どんだけ本気なんだか? リュックサックなんてそんなに儲けにならないでしょうに。
「材料、もっと買っておくんでしたね」
「それも大丈夫だ。バイバナル商会で用意してくれるそうだから」
それから三日後、馬車で材料が運ばれて来た。ここで商売でもしようかってほどのね……。
本職に教えようなんて最初からおこがましく、三日で教えたことを理解したラルグさんは自分で作り出してしまった。なので、わたしは好きにしていいと許可をもらった材料で靴を作りを開始した。
靴の知識なんてまるでないけど、ルルの結界でわたしとティナの足の形を取り、木を削って型を作った。
型に合わせて革を切っていき、パーツにして編んでいった。
靴というかブーツの試作品が出来た。
ここから試作に試作を重ね、なかなかお洒落なブーツが出来た。
けど、これで完成というわけじゃない。素足でブーツなんて履いたら水虫になっちゃう。靴下があってこそ足元は完成されるのよ。
ってまあ、靴下は前々から作っていたから履くだけなんだけとね。
「うん。我ながらいい出来だわ」
何だか履くのがもったいないわね。傷つかないようルルに結界コーティングしてもらいましょうか。
「……お嬢ちゃんは仕事を増やす天才だな……」
はい? 何のこと?
ラルグさんが変なことを口にしてたから三日後、靴職人のガブレアさんって人がやって来た。どーゆーこと?
「ガブレア、お前もか?」
「どこかに行ったとは聞いてたが、ここに来ていたのか」
何やらわかり合うお二人さん。わたしはさっぱり何ですけど。
「バイバナル商会の金で工房を建てるそうだ」
「確かに工房は必要だな。このお嬢ちゃんは次から次へと仕事を増やしてくれるからな」
「そうみたいだな。お前んとこの工房、忙しくなっていたぞ」
「そんなにか?」
「夜遅くまで灯りが点いているくらいにはな」
「さすが天下のバイバナル商会だ。やることが迅速だ」
あの~。二人だけでわかってないでわたしに説明して欲しいんですけど。
「話に出てた長靴はこれか。まだまだ甘いところはあるが、貴族に喜ばれそうな意匠だ。これをお嬢ちゃんが作ったのか……」
「恐らく、お嬢ちゃんはもっと作るぞ。鍛冶屋も呼んだからな」
「この小屋を見ただけでわかるよ」
二人にはわかっているようなので、わたしは麦麹の様子を見に作業小屋を出た。
「革職人のラルグさん」
「いらっしゃいませ。わたしに何か用ですか?」
ティナの簡素な言葉も慣れたもの。ラルグさんはわたしに用があってティナが連れて来たんでしょう。
「お嬢ちゃんがキャロルさんかい?」
「キャロルで構いませんよ。見てのとおり小娘ですから」
さん呼びにも慣れたけど、それは商売柄から丁寧にしているだけでしょう。職人さんからさん呼びされるとただただ困るだけよね。
「いや、マルケルさんからあんたを失礼に扱うなとキツく言われているんでな」
わたし、どんなビップを受けてんのよ? そこまでの人間じゃないのにさ。
「まあ、何と呼んでくれても構いませんよ。どんなご用ですか?」
「その鞄の作り方を学んでこいって言われてね」
「鞄、ですか? 見たところ職人になってうん十年。どこか有名な工房の親方さんですよね、ラルグさんって」
「まあ、そうなんだがな。天下のバイバナル商会に言われたら小さな工房は従うしかないんだよ」
「……大人の世界は世知辛いんですね……」
わたしには馴染めない世界だわ。自由に生きられるよう冒険者で大成しようっと。
「そんな世知辛い世界で生きるのが一人前の大人ってことさ」
渋く笑うラルグさん。そんな世界で揉まれるとこんな笑いも出来るのね……。
「わたしに教えられる技術があるかはわかりませんが、学ぶことがあったら遠慮なく学んでください。わたしもバイバナル商会とは仲良くやって行きたいので」
「その歳でそれがわかるならお嬢ちゃんは大成するよ。うちの弟子にも学ばせたいくらいだ」
職人の世界も大変そうね。
「この背負い鞄、お嬢ちゃんが作ったみたいだな」
「はい。たくさん物が容れられて長時間担いでいても疲れないものを作りました。何か問題でもありましたか?」
「縫い方はまだまだ甘いが、よく出来ている。背負い鞄を極めたかのようだ」
極めるのにそう難しくないと思うんですけど? まあ、リュックサックは作るのにお金が掛かるからずだ袋を背負うのが一般的だけどね。
「細かな部品が集まっていたんだな」
その道うん十年なだけにパーツを見ただけで理解している。凄いものよね。わたしは思い出し思い出し作っているのに。
「道具があればもっと早く作れるんですけどね」
「それなら持って来た」
ティナがラルグさんが持って来た道具を作業小屋に運び込んでくれた。
「やっぱりいろんな道具があるんですね」
ハサミも何種類もあって糸は何十種類とあった。工房の道具、すべて持って来たの?
置き場所がないのでわたしの道具は一旦片付けてラルグさんの道具を並べた。
「金床まで持って来たんですね」
「結構使うものだからな。念のため持って来た」
「しばらく滞在するんですか?」
工房、大丈夫? 商売出来ているの?
「ああ。その金もいただいた」
マルケルさん、どんだけ本気なんだか? リュックサックなんてそんなに儲けにならないでしょうに。
「材料、もっと買っておくんでしたね」
「それも大丈夫だ。バイバナル商会で用意してくれるそうだから」
それから三日後、馬車で材料が運ばれて来た。ここで商売でもしようかってほどのね……。
本職に教えようなんて最初からおこがましく、三日で教えたことを理解したラルグさんは自分で作り出してしまった。なので、わたしは好きにしていいと許可をもらった材料で靴を作りを開始した。
靴の知識なんてまるでないけど、ルルの結界でわたしとティナの足の形を取り、木を削って型を作った。
型に合わせて革を切っていき、パーツにして編んでいった。
靴というかブーツの試作品が出来た。
ここから試作に試作を重ね、なかなかお洒落なブーツが出来た。
けど、これで完成というわけじゃない。素足でブーツなんて履いたら水虫になっちゃう。靴下があってこそ足元は完成されるのよ。
ってまあ、靴下は前々から作っていたから履くだけなんだけとね。
「うん。我ながらいい出来だわ」
何だか履くのがもったいないわね。傷つかないようルルに結界コーティングしてもらいましょうか。
「……お嬢ちゃんは仕事を増やす天才だな……」
はい? 何のこと?
ラルグさんが変なことを口にしてたから三日後、靴職人のガブレアさんって人がやって来た。どーゆーこと?
「ガブレア、お前もか?」
「どこかに行ったとは聞いてたが、ここに来ていたのか」
何やらわかり合うお二人さん。わたしはさっぱり何ですけど。
「バイバナル商会の金で工房を建てるそうだ」
「確かに工房は必要だな。このお嬢ちゃんは次から次へと仕事を増やしてくれるからな」
「そうみたいだな。お前んとこの工房、忙しくなっていたぞ」
「そんなにか?」
「夜遅くまで灯りが点いているくらいにはな」
「さすが天下のバイバナル商会だ。やることが迅速だ」
あの~。二人だけでわかってないでわたしに説明して欲しいんですけど。
「話に出てた長靴はこれか。まだまだ甘いところはあるが、貴族に喜ばれそうな意匠だ。これをお嬢ちゃんが作ったのか……」
「恐らく、お嬢ちゃんはもっと作るぞ。鍛冶屋も呼んだからな」
「この小屋を見ただけでわかるよ」
二人にはわかっているようなので、わたしは麦麹の様子を見に作業小屋を出た。