「キャロル。これからもクッキーを作ってね」
とのお嬢様の言葉で、わたしたちはお菓子作り担当となってしまった。
「畏まりました」
それでいいんかい? とナタリア婦人を見たら、仕方がなしとばかりに頷いた。
それならやるしかないと覚悟を決めると、お嬢様の踊りを見学するよう指示を出された。
お嬢様の一日は大体そんなもの。広場に買いに来ていたのは無理を言って、時間をずらしてもらっていたそうよ。
「お嬢様の一日ってつまんないものよね」
わたしたちは五時くらいで仕事(?)が終わり、明日の朝まで自由時間となるそうだ。
楽でいいな、とか言わないように。わたしたちには自主勉強があるのよ。
お嬢様は物心付いたときから勉強しているので、わたしたちより学習要項は先を行っている。今日はわたしたちのために行ったようなものらしいわ。
なるべくお嬢様と同じレベルになり、お嬢様の向上心を焚き付ける存在となる必要があるのよ。
なかなか面倒で難しい立場だけど、それに応じたお給料がもらえる。応えられないのならクビになるだけ。次がいるかは知らないけど。
わたしたちの部屋で自主勉強はできないので、明るい食堂で行うことにした。
「キャロ。クッキーはある?」
「あるわよ」
ちゃんと夜に食べるようにチョロまか──失敗作をポケットに仕舞っておきました。
「他にもお菓子は作れそう?」
わたしが厨房を見回していたことに気付いていたのでしょう。ティナがそんなことを言ってきた。
「うん。バターや干し葡萄があったからケーキが作れると思うよ」
すべてを見たわけじゃないけど、お菓子の材料となるものはそこそこ揃っていた。バウンドケーキなら作れると思うわ。うっすらとしか覚えてないけど。
「それは楽しみ」
「わたしたち、お嬢様の友達と来たの忘れないでよ」
「ボクよりキャロのほうが心配だよ。止める前に突っ走るんだから」
そこは申し訳ございません。考えるより口が出ちゃうタイプなもので。
自主勉強をしていると、見知らぬ側仕え(服で判断してます)の方がやってきた。
「ねぇ、お嬢様にお菓子を作ったのってあなたたちよね?」
「はい。そうです」
別に隠すことでもないし、隠すこともできないので正直に答えた。
「これ、ここでも作れるものなの?」
「材料さえあれば誰でも作れますよ。ここの窯を知らないので絶対に作れるとは言えませんが」
ここはお城で働く者の食堂であり、働く者に食べさせるものを作る厨房だ。上の厨房と同じかなんてわかんないしね。それに、砂糖があるかもわからないしさ。
「それなら料理副長に作り方を教えてくれないかしら」
「わたしがですか?」
プロの料理人に小娘のわたしが教えるなんておこがましいんじゃないの? 下手に恨まれるのは嫌よ。
「ええ。料理副長にはわたしたちから言い含めてあるから大丈夫よ」
わたしたち、ってのが何か怖いわね。わたしも逆らわないようしておこうっと。
「わかりました。わたしでよければ教えさせていただきます」
側仕えの方に付いて行き、四十くらいのおじちゃん──料理副長さんと対面した。
「こいつか?」
「ええ、そうよ。余り怖がらせないでよ。お嬢様も気に入っている子たちなんだから」
「するか。料理長にも言われてんだからな」
料理長? って、上のおじちゃんのことかな?
「お前ら、名前は?」
「キャロルです」
「ティナです」
二人合わせて~、お嬢様フレンズ~! とかありませんよ。
「悪いが、そのクッキーとやらを教えてくれ。側仕えどもが作ってくれとうるさいんでな」
今日の午後のことなのに、側仕えの方々に伝わるとかどんな情報ネットワークしてんだろう? まさかお城のこと筒抜けとか?
「砂糖は使えるんですか? なければ蜂蜜でも構いませんが」
蜂蜜クッキーとか食べたことないけど、まあ、量は適当でいいでしょう。
「砂糖は今度から量を増やすと言っていたからある分を使って構わないそうだ」
「砂糖って、そんなに簡単に手に入るものなんですか?」
「まあ、そう気軽に手に入るものじゃないが、伯爵家ともなれば取り寄せることはそう難しくない。頼めば明日には入ってくるだろうさ」
砂糖が手に入る時代とか都合のいい時代(設定かな?)みたいね。
まあ、そう難しくないのなら遠慮なく作れるわね。練習させてもらいましょう。
こねるのはティナに任せ、わたしは窯の様子を見る体でバゲットにチーズと砂糖を乗せて窯に入れた。密かに鞄に入れて夜食としましょうっと。
目でティナに伝えると、わかったとばかりに頷いた。
「ここの窯も火力がいいですね」
焼けたバゲットを食べると、いい感じに焼けてくれていた。
「贅沢な食い方をするな。美味いけどよ」
「バターを塗ってニンニクを切ったものを焼くのも美味しいですよ。食べたら人前には出られませんけど」
伯爵一家の前に立つ側仕えの方々は食べられないでしょうね。まあ、わたしたちもだけどさ。
「そういや、広場で屋台をやってたの、お嬢ちゃんたちだったな」
「はい。お母ちゃんが料理好きなので、作ったものを売ってました」
「今度、それも作ってくれ。最近、同じものばかり出すなとうるさいんでな」
「仕事が終わってからでいいのなら構いませんよ」
たくさんの調味料と触れる機会などそうはないんだから、この機会を大事に使わせてもらいますわ~。
とのお嬢様の言葉で、わたしたちはお菓子作り担当となってしまった。
「畏まりました」
それでいいんかい? とナタリア婦人を見たら、仕方がなしとばかりに頷いた。
それならやるしかないと覚悟を決めると、お嬢様の踊りを見学するよう指示を出された。
お嬢様の一日は大体そんなもの。広場に買いに来ていたのは無理を言って、時間をずらしてもらっていたそうよ。
「お嬢様の一日ってつまんないものよね」
わたしたちは五時くらいで仕事(?)が終わり、明日の朝まで自由時間となるそうだ。
楽でいいな、とか言わないように。わたしたちには自主勉強があるのよ。
お嬢様は物心付いたときから勉強しているので、わたしたちより学習要項は先を行っている。今日はわたしたちのために行ったようなものらしいわ。
なるべくお嬢様と同じレベルになり、お嬢様の向上心を焚き付ける存在となる必要があるのよ。
なかなか面倒で難しい立場だけど、それに応じたお給料がもらえる。応えられないのならクビになるだけ。次がいるかは知らないけど。
わたしたちの部屋で自主勉強はできないので、明るい食堂で行うことにした。
「キャロ。クッキーはある?」
「あるわよ」
ちゃんと夜に食べるようにチョロまか──失敗作をポケットに仕舞っておきました。
「他にもお菓子は作れそう?」
わたしが厨房を見回していたことに気付いていたのでしょう。ティナがそんなことを言ってきた。
「うん。バターや干し葡萄があったからケーキが作れると思うよ」
すべてを見たわけじゃないけど、お菓子の材料となるものはそこそこ揃っていた。バウンドケーキなら作れると思うわ。うっすらとしか覚えてないけど。
「それは楽しみ」
「わたしたち、お嬢様の友達と来たの忘れないでよ」
「ボクよりキャロのほうが心配だよ。止める前に突っ走るんだから」
そこは申し訳ございません。考えるより口が出ちゃうタイプなもので。
自主勉強をしていると、見知らぬ側仕え(服で判断してます)の方がやってきた。
「ねぇ、お嬢様にお菓子を作ったのってあなたたちよね?」
「はい。そうです」
別に隠すことでもないし、隠すこともできないので正直に答えた。
「これ、ここでも作れるものなの?」
「材料さえあれば誰でも作れますよ。ここの窯を知らないので絶対に作れるとは言えませんが」
ここはお城で働く者の食堂であり、働く者に食べさせるものを作る厨房だ。上の厨房と同じかなんてわかんないしね。それに、砂糖があるかもわからないしさ。
「それなら料理副長に作り方を教えてくれないかしら」
「わたしがですか?」
プロの料理人に小娘のわたしが教えるなんておこがましいんじゃないの? 下手に恨まれるのは嫌よ。
「ええ。料理副長にはわたしたちから言い含めてあるから大丈夫よ」
わたしたち、ってのが何か怖いわね。わたしも逆らわないようしておこうっと。
「わかりました。わたしでよければ教えさせていただきます」
側仕えの方に付いて行き、四十くらいのおじちゃん──料理副長さんと対面した。
「こいつか?」
「ええ、そうよ。余り怖がらせないでよ。お嬢様も気に入っている子たちなんだから」
「するか。料理長にも言われてんだからな」
料理長? って、上のおじちゃんのことかな?
「お前ら、名前は?」
「キャロルです」
「ティナです」
二人合わせて~、お嬢様フレンズ~! とかありませんよ。
「悪いが、そのクッキーとやらを教えてくれ。側仕えどもが作ってくれとうるさいんでな」
今日の午後のことなのに、側仕えの方々に伝わるとかどんな情報ネットワークしてんだろう? まさかお城のこと筒抜けとか?
「砂糖は使えるんですか? なければ蜂蜜でも構いませんが」
蜂蜜クッキーとか食べたことないけど、まあ、量は適当でいいでしょう。
「砂糖は今度から量を増やすと言っていたからある分を使って構わないそうだ」
「砂糖って、そんなに簡単に手に入るものなんですか?」
「まあ、そう気軽に手に入るものじゃないが、伯爵家ともなれば取り寄せることはそう難しくない。頼めば明日には入ってくるだろうさ」
砂糖が手に入る時代とか都合のいい時代(設定かな?)みたいね。
まあ、そう難しくないのなら遠慮なく作れるわね。練習させてもらいましょう。
こねるのはティナに任せ、わたしは窯の様子を見る体でバゲットにチーズと砂糖を乗せて窯に入れた。密かに鞄に入れて夜食としましょうっと。
目でティナに伝えると、わかったとばかりに頷いた。
「ここの窯も火力がいいですね」
焼けたバゲットを食べると、いい感じに焼けてくれていた。
「贅沢な食い方をするな。美味いけどよ」
「バターを塗ってニンニクを切ったものを焼くのも美味しいですよ。食べたら人前には出られませんけど」
伯爵一家の前に立つ側仕えの方々は食べられないでしょうね。まあ、わたしたちもだけどさ。
「そういや、広場で屋台をやってたの、お嬢ちゃんたちだったな」
「はい。お母ちゃんが料理好きなので、作ったものを売ってました」
「今度、それも作ってくれ。最近、同じものばかり出すなとうるさいんでな」
「仕事が終わってからでいいのなら構いませんよ」
たくさんの調味料と触れる機会などそうはないんだから、この機会を大事に使わせてもらいますわ~。