学習能力が終われば遅めの昼食だ。

 元の世界の影響か、食事は一日三食であり、十時と三時におやつがあるそうだ。

 時間どうしてんの? と思ったら、玄関に大きな時計が鎮座していた。

 ……時計を作る技術はあるんだ……。

 どんな技術進化してるんだ、この世界は? コンミンド伯爵領が遅れているの?

 お城で出された食事は質素なものだった。

「お嬢様がハンバーガーやピザパンを買いに来るのもわかるね」

「家にいたほうが美味しいもの食べれた」

 不満気なティナ。まあ、グルメなところあるからね、今さら質素な食事は我慢ならないでしょうよ。

「部屋に帰ったらハンバーガーを出してあげるから我慢だよ」

 念のため、鞄にはハンバーガーやピザパン、芋餅などたくさん入れてきた。部屋でなら遠慮なく食べられるでしょうよ。

「夜が待ち遠しいよ」

 しょんぼりしながらも質素な食事をすべて食べた。食べないと力が出ないからね。

 食事は時間が決まっているのでさっさと食べ、歯を磨くために水場に向かった。

 漫画かアニメの世界なら歯ブラシも発明されて欲しかったけど、そんな設定はどうでもよかったのか、木を割いて柔らかくしたもので磨くしかなかった。

 でも、子供の歯茎には凶悪なので、猪の毛で歯ブラシを作ったわ。

 なかなか作るのに手間はかかったけど、歯茎にも優しく、わたしの付与魔法(イメージ)で汚れ落とし、歯を強化を施したわ。お陰で歯磨き粉がなくてもすっきり。歯医者いらずよ。

 さっと磨いたらポーチに入れて待ち合わせの場所に向かった。

 マリー様はまだ来てないようなので、クシを出してお互いの髪をとかし、衣服を直した。

 お互いにチェックをしてマリー様が来るまで行儀よくして待った。

 しばらくしてマリー様と側仕えと思われる女性がやって来た。

 このお城には侍女、側仕え、下女がいて、お城の裏方の仕事をしているそうだ。

 わたしたちはお嬢様のお友達と言う役目で雇われた身だ。まあ、情操教育担当の側仕えみたいな感じね。

「これからお嬢様へ挨拶となります。粗相のないように」

「「畏まりました」」

 指示を受けたら「畏まりました」が基本。出来ません、わかりませんは禁句。わからない場合は一旦ウケイレテ上の者に尋ねろ、だってさ。

「では、行きますよ」

 マリー様と側仕えの女性の後に続いてお嬢様の部屋に向かった。

 お嬢様の部屋は上層部の一番上。伯爵家の方々だけが住む階にある。

 この階は基本、侍女と一部の側仕えしか入れないようで、それ以外の者がいたらすぐに衛兵に知らせるようにするんだってさ。

 所々に衛兵さんが立っており、わたしたちのことはちゃんと伝えてあるそうよ。

 お嬢様の部屋の前まで来ると、マリー様が振り向いて短く「がんばりなさい」と告げた。

 今さら? とは思ったけど、わかりましたと無言で頷いておいた。

「お嬢様。二人を連れて参りました」

 マリー様が呼び掛けると、中から扉が開いてナタリア婦人が現れた。

 中に入るよう勧められ、わたしとティナだけが部屋に通された。

「お嬢様。今日からお嬢様と一緒に学ぶキャロルとティナです」

 お嬢様の前に立ち、ナタリア婦人がわたしたちを紹介した。

「今さらだけど、わたしは、サーシャ・コンミンドよ。よろしくね」

「キャロルです。よろしくお願い致します」

「ティナです。よろしくお願い致します」

 スカートの裾をつかんで軽くお辞儀をする。

「では、こちらでお茶でも飲みながらお話を致しましょうか」

 窓際にある四人用の丸テーブルに着き、ナタリア婦人自らお茶を淹れてくれた。
 
「二人はよくわたしの相手を引き受けてくれたわね。どうして?」

 お茶が出る前にお嬢様のほうから切り込んできた。

「勉強がしたかったからです」

「勉強?」

「はい。わたしは農民の子なので知識ある人から学ぶことは出来ません。商人に弟子入りすることも考えましたけど、わたしたちは冒険者になって旅がしたいので商人にはなれません。どうしようか考えているときにローダルさんと出会い、お嬢様のことを紹介されました。世間や領外のこと、この国のことを学ぶにはお嬢様の元に来るのが一番だと思ったのです」

「わたしを利用しようと考えたわけだ」

「はい。なのでお嬢様もわたしたちを利用してください。わたしたちに教えられることがあるなら惜しみなく出させていただきます」

 お嬢様は賢い。下手なウソは反って不興を買う。この方には正直にぶつかったほうがいいと思うのよね。

「ふふ。あなた、おもしろいわね」

 興味深そうに、でも、楽しそうな顔でわたしを見ていた。

「お嬢様もおもしろいと思いますよ。農民の子相手に壁を作らず、見下すこともしない。それは、自分の立場をわかっているからではないですか?」

 先天的か後天的かはわからないけど、お嬢様は自分の位置や立場を理解している。自分のいる場所が絶対ではない、とね。

「キャロは、たまにズバッと言うところがある。不快になったら正直に言ったほうがいいです」

 黙っていたティナが口を開いた。

「ティナも結構、ズバッと言うわよ」

「言わないとキャロは突っ走るからね」

 た、確かにそうかもね。前世のわたしの性格じゃないからキャロルとしての性質だわ。

「ふふ。無口な子かと思ったら、あなたもあなたでおもしろいわね」

 何て、お嬢様とは仲良くやっていけそうな感じで話は弾んで行った。