厩舎の掃除を三日くらい続けたら、売ってもらえる馬を紹介してもらえた。

「荷馬車を引く馬と人を乗せる馬は育て方は違う。荷馬車用の馬は育てていて人を乗せるほうには回せない。なんで、まだ調教前の一歳馬を任せる。十日ほど世話をして、馬に認められるように」

 馬には性格があるので、まずは三頭を三人で世話をすることにし、わたしは栗毛の牡馬が懐いてくれたのでこの子に乗ると決めて世話をすることにした。

「あなたの名前はスプリングよ」

 春に産まれたみたいだからスプリングって名前にしてみました。

 それから二日ほど世話したらルグスクさんが馬具を持って来てくれた。

「まずは馬具に慣らせろ」

「手間が掛かるんですね」

 馬って一日二日で乗れるものだと思ってた。まさかこんなに手間暇が掛かるなんて夢にも思わなかったよ。

「これでも早いほうだ。三人とも馬に好かれているからな」

 へーそうなんだ。いい冒険者は動物に好かれるってヤツかな?

 馬具を着けて慣れさせ、手綱を引いて牧場内を歩いた。

「スプリング、馬具は痛くない?」

 ブルブルと鳴くと、鼻先を押し付けてきた。人間の言葉、わかるの?

 付与魔法で人語理解とか出来るかな? ってやってみたらあら出来た。スプリングがわたしの言うことを聞いてくれた。マジか!?

 さすがにしゃべられるようにするにはかなりの魔力が必要なようだ。一気に魔力が持って行かれたわ。

 ティナとマリカルも順調なようで、ルグスクさんから騎乗する許可が下り、まずはルグスクさんに引かれながら乗ることになった。

 牧場を一周したら一人で乗ってみる。決して走らせず、スプリングに任せた騎乗だ。

 一時間ほど騎乗したら一旦馬具をすべて外す。まだ体が人を乗せることに慣れてないので馬具を外して楽にしてやる。

 まだ気温が高くないから馬は汗をかいてないけど、藁の束で体を拭いてあげた。

「キャロ。どう?」

 ティナが厩舎に戻って来た。

「順調だよ。スプリングも機嫌がいいし。そっちは?」

「こっちも順調。アルフェは賢い子よ」

 アルフェとはティナの馬の名前ね。

「ふー。ただいま」

 ティナもアルフェの馬具を外していると、マリカルとラーラルが厩舎に戻って来た。

「お疲れ~。凄い汗だね。走ってきたの?」

 馬に乗れるマリカルは二日前くらいから騎乗して牧場内を走っているわ。
 
「うん。ラーラルは走るのが好きみたい」

「馬にも性格ってあるんだね」

 スプリングはどちらかと言えば大人しいタイプ。暴れたりしない感じだ。

 訓練を重ねること五日。マージック牧場にローダルさんがやって来た。

「ローダルさん。どうしたんです?」

「様子見だよ。プランガル王国に向かう目処が出来たからな」

「それは何よりです。わたしたちはもう少し馬に慣れないとダメですね」

 一月くらいじっくり訓練すれば旅は出来るだろうって言われたわ。

「まあ、まだ時間は掛かるからな、もうしばらく訓練していろ」

「わかりました。わたしたちもあと五日したらロンドカ村に向かいます。山の家の片付けやレンラさんと話をしなくちゃいけませんからね」

 スプリングも馬具に慣れてきたので山の家で訓練するわ。長距離を歩く訓練もしないといけないからね。

「そうか。おれはルグスクと話してくるよ」

「モグルの骨をバイバナル商会で買うことも相談してください。いい仕上がりになったので豚骨より美味しいものが作れると思いますよ」

「……最後まで仕事を増やす天才だな、お嬢ちゃんは……」

「美味しいものが作れるんだからがんばってください。わたしも旅の間使えるように工夫してますので」

 旅の間も美味しいもの食べたいしね。苦労は問わないわ。

「それは旅が楽しみだ。んじゃ、話し合ってくるよ」

「がんばってください」

 商売のことはローダルさんにお任せ。わたしたちは馬の訓練に集中した。

 五日で乗馬にも慣れ、スプリングたちも筋肉も付き始めたので、マージック牧場を去る日がやって来た。

 ミルコさんとアルシンさんに別れを惜しまれたけど、骨を煮込む技術はマスターした。マージック牧場でも美味しい料理が生まれることを期待してお別れした。

「楽しかったね」

「うん。毎日お肉が食べられた」

「チーズが美味しかった」

 二人とも料理しか記憶になかったの? まあ、確かに美味しい料理が出てよかったけどさ。

「チーズと骨スープもたくさん買えたから旅の食事は万全よ」

「楽しみだ」

 わたしのリュックサックに乗るルルが一番楽しみにしていた。

 馬の足ならロンドカ村はすぐそこ。スプリングたちは疲れてもいないからバイバナル商会まで向かった。

 プランガル王国に向かう馬車なのか、屋根付きのが八台停まっていた。あれで行くことになるのね。

 ローダルさんとマルケルさんは会合に出掛けているというので、娯楽宿屋に向かった。

 お母ちゃんやお父ちゃんに旅に出ることを伝え、マージック牧場で覚えた料理をお母ちゃんに伝えた。

「あんたまで旅に出るとはね。子供が一人立ちするのは早いもんだよ」

 この時代じゃ、土地持ちでもなければ家を後を継ぐってことはない。一人立ちするのがほとんどだ。

 うちも畑は売り、娯楽宿屋に集中している。バイバナル商会の参加に入っているようなものなので、後継ぎとか考える必要もない。考えるのは両親の老後くらいね。

「大丈夫よ。ちゃんと帰って来るから。孫を見せられるかはわかんないけど」

「それは諦めているよ。ただ、元気な顔だけは見せておくれ」

 今生の別れではないけど、お母ちゃんとお父ちゃんに抱き締めてもらった。