身分的に貴族の食事の席には同席は出来ないけど、それ以外は側に控えることが多かった。
……わたし、何なんだ? どんな立場でここなにいるの……?
いやまあ、立場を決められても困るんだけどね。わたしは冒険者になりたいんだし。
「マラッカも楽しいが、ジェドもいいものだな」
今、わたしの前でマレイスカ様と伯爵様がジェドに興じている。いや、この位置は側仕えの方がいるところ。わたしのような平民が立つ位置ではないわ。
「そうですな。まさかこんなに流行るとは思いませんでした」
やっぱり流行っているんだ。チェスを広めた人は典型的な転生者ムーブを起こしているみたいね。
まあ、こちらとしては転生者であることを隠し、そのムーブに便乗出来て大助かりだけど。
今のところこの世界にはわたし以外に二人の転生者がいる。チェスを広めた人は海の向こうに。ライターを広めた人は同じ大陸っぽい。話から海を伝って来たことからかなり遠いみたいだわ。
二人の会話に混ざることはなく、二人にお茶を注いだり、暖炉に薪を入れたりしているわ。
他の側仕えの方が嫌な予感しかしない。貴族のゴタゴタに巻き込まれたくないわ……。
お二方の会話は世間話で、ジェドを本気でやっている。いや、他にも考えていて言葉が発せられないって感じかしかしら?
「キャロル。サーシャの手紙は読んだか?」
突然、伯爵様が口を開いた。
「すべてではありませんが、三分の一は読んだかと思います」
単行本にした四冊くらいある。お嬢様、相当鬱屈しているんでしょうね。文面からもひしひしと伝わってきたわ。
「元気にしているか?」
「健康面はよろしいかと思います」
お妃選別のことは書かれてないけど、暮らしのことは書かれていた。まあ、それだけでも大変なことがよくわかったわ。
「そうか。クラウンベルに入ると面会するのも難しいからな」
「手紙は届かないのでしょうか?」
検閲は受けているようだけど、選別内容やお城のことさえ書かなければ問題ないみたいだ。まあ、その辺のことはよくわからないけど。
「親の力なしに勝ち取らねばならないものだからな」
「厳しいのですね」
まだ十三、四の少女には拷問みたいなものじゃないの?
「妃にはそれだけのことが求められるのだ」
「王子様には何が求められるのでしょうか?」
「王子に?」
「はい。妃に過分以上の期待を求められるなら王子様にはさらなる期待がかけられているのでしょうね。それとも妃となる方が王子様に足りないものを補わなければならないのですか?」
「フフ。アハハ! キャロルはおもしろい。確かに次の王たる者、妃に劣るようでは立つ瀬がないの」
「失礼さしました。言葉がすぎました」
「いや、お前はサーシャのお気に入りだったからな。率直なことを聞きたかったのだ」
わたし、たまに空気を読めなくなるからやらかしたと思ったわ。
「キャロルから見てサーシャ嬢はどう見えるのだ?」
「異才です」
「異才? 見た感じ、そうは見えなかったが」
「お嬢様は自分を普通に見せることも出来ます。わたしたちの前でも本当の思いは隠していました」
知能指数はかなり高いと思う。
でも、お嬢様の場合、ただ頭がいいってだけじゃなく、人の心にも敏感なところがあり、精神感応、テレパシー的能力があるんじゃないかってときが度々あったんだよね。
「もしかして、ですけど、お嬢様には固有魔法的なものがあるのではないですか?」
「そう見えるか?」
「間違っていたら申し訳ありません」
「いや、責めてはおらん。固有魔法を持つからこそクラウンベルに選ばれたのだ」
「能力の囲い込みですか?」
「ふふ。お前もお前で異才だな」
「わたしの場合は変人だと思います」
天才でも秀才でもない。ただ変わった娘なだけだと思うわ。
「アハハ! 変人か! 確かにお前は変わった娘だな」
正しく理解されて嬉しいわ。期待されても困るからね。
「確かにあのサーシャが望んだのお前だけだったな」
「お嬢様の度量には助けられました。あの方は王妃より外交官が向いていると思います。外国との交渉ならお嬢様は確実に利益を勝ち取ってくるでしょう」
狭い世界より広い世界で活躍したほうがお嬢様の才能は発揮されると思うし、お嬢様も幸せなんじゃないかと思うわ。
「王妃としての才能はないか?」
「ありすぎてお城を掌握すると思います」
あの方は思い切りがいい。必要となればお城を乗っ取るんじゃないかしら?
「……冗談に聞こえんな……」
「お嬢様はまだ自分の力に気づいてないのだと思います。でも、人と関わって行くうちに気付き、自分の力を理解し、使い方を覚えて行くでしょう。それを何に使うまではわかりませんが」
わたしとのおしゃべりでどんどん変わって行った。今はまだ内に向いているけど、外に向いたとき、その成長速度は目を見張るものがあるでしょうよ。
「お前は親より娘のことを理解しておるな」
「すべてを理解しているわけではありません。お嬢様の心はお嬢様にしかわかりませんから」
見せているようで重要なことは見せてなかった。一種、防衛本能が働いていたんでしょうよ。
……わたし、何なんだ? どんな立場でここなにいるの……?
いやまあ、立場を決められても困るんだけどね。わたしは冒険者になりたいんだし。
「マラッカも楽しいが、ジェドもいいものだな」
今、わたしの前でマレイスカ様と伯爵様がジェドに興じている。いや、この位置は側仕えの方がいるところ。わたしのような平民が立つ位置ではないわ。
「そうですな。まさかこんなに流行るとは思いませんでした」
やっぱり流行っているんだ。チェスを広めた人は典型的な転生者ムーブを起こしているみたいね。
まあ、こちらとしては転生者であることを隠し、そのムーブに便乗出来て大助かりだけど。
今のところこの世界にはわたし以外に二人の転生者がいる。チェスを広めた人は海の向こうに。ライターを広めた人は同じ大陸っぽい。話から海を伝って来たことからかなり遠いみたいだわ。
二人の会話に混ざることはなく、二人にお茶を注いだり、暖炉に薪を入れたりしているわ。
他の側仕えの方が嫌な予感しかしない。貴族のゴタゴタに巻き込まれたくないわ……。
お二方の会話は世間話で、ジェドを本気でやっている。いや、他にも考えていて言葉が発せられないって感じかしかしら?
「キャロル。サーシャの手紙は読んだか?」
突然、伯爵様が口を開いた。
「すべてではありませんが、三分の一は読んだかと思います」
単行本にした四冊くらいある。お嬢様、相当鬱屈しているんでしょうね。文面からもひしひしと伝わってきたわ。
「元気にしているか?」
「健康面はよろしいかと思います」
お妃選別のことは書かれてないけど、暮らしのことは書かれていた。まあ、それだけでも大変なことがよくわかったわ。
「そうか。クラウンベルに入ると面会するのも難しいからな」
「手紙は届かないのでしょうか?」
検閲は受けているようだけど、選別内容やお城のことさえ書かなければ問題ないみたいだ。まあ、その辺のことはよくわからないけど。
「親の力なしに勝ち取らねばならないものだからな」
「厳しいのですね」
まだ十三、四の少女には拷問みたいなものじゃないの?
「妃にはそれだけのことが求められるのだ」
「王子様には何が求められるのでしょうか?」
「王子に?」
「はい。妃に過分以上の期待を求められるなら王子様にはさらなる期待がかけられているのでしょうね。それとも妃となる方が王子様に足りないものを補わなければならないのですか?」
「フフ。アハハ! キャロルはおもしろい。確かに次の王たる者、妃に劣るようでは立つ瀬がないの」
「失礼さしました。言葉がすぎました」
「いや、お前はサーシャのお気に入りだったからな。率直なことを聞きたかったのだ」
わたし、たまに空気を読めなくなるからやらかしたと思ったわ。
「キャロルから見てサーシャ嬢はどう見えるのだ?」
「異才です」
「異才? 見た感じ、そうは見えなかったが」
「お嬢様は自分を普通に見せることも出来ます。わたしたちの前でも本当の思いは隠していました」
知能指数はかなり高いと思う。
でも、お嬢様の場合、ただ頭がいいってだけじゃなく、人の心にも敏感なところがあり、精神感応、テレパシー的能力があるんじゃないかってときが度々あったんだよね。
「もしかして、ですけど、お嬢様には固有魔法的なものがあるのではないですか?」
「そう見えるか?」
「間違っていたら申し訳ありません」
「いや、責めてはおらん。固有魔法を持つからこそクラウンベルに選ばれたのだ」
「能力の囲い込みですか?」
「ふふ。お前もお前で異才だな」
「わたしの場合は変人だと思います」
天才でも秀才でもない。ただ変わった娘なだけだと思うわ。
「アハハ! 変人か! 確かにお前は変わった娘だな」
正しく理解されて嬉しいわ。期待されても困るからね。
「確かにあのサーシャが望んだのお前だけだったな」
「お嬢様の度量には助けられました。あの方は王妃より外交官が向いていると思います。外国との交渉ならお嬢様は確実に利益を勝ち取ってくるでしょう」
狭い世界より広い世界で活躍したほうがお嬢様の才能は発揮されると思うし、お嬢様も幸せなんじゃないかと思うわ。
「王妃としての才能はないか?」
「ありすぎてお城を掌握すると思います」
あの方は思い切りがいい。必要となればお城を乗っ取るんじゃないかしら?
「……冗談に聞こえんな……」
「お嬢様はまだ自分の力に気づいてないのだと思います。でも、人と関わって行くうちに気付き、自分の力を理解し、使い方を覚えて行くでしょう。それを何に使うまではわかりませんが」
わたしとのおしゃべりでどんどん変わって行った。今はまだ内に向いているけど、外に向いたとき、その成長速度は目を見張るものがあるでしょうよ。
「お前は親より娘のことを理解しておるな」
「すべてを理解しているわけではありません。お嬢様の心はお嬢様にしかわかりませんから」
見せているようで重要なことは見せてなかった。一種、防衛本能が働いていたんでしょうよ。