事が決まれば迅速に動くのがバイバナル商会。次の日には出発出来た。

「わたしも行って大丈夫なの?」

 わたしたちは別の馬車に乗ってお城に向かい、不安そうなマリカルが何度目かの不安を口にした。

「大丈夫よ。獣人を知らないなら差別もないから。まあ、珍しがられるとは思うけどね」

 こちらも何度目かの説得をする。

「ルルはマリカルの側にいてあげて。お嬢様の猫が慣れている姿を見たら文句を言う人もいないでしょうからね」

 お城の人たちにそう悪い人はいなかったけど、ルルがくっついていれば獣人だからってことは言わないでしょうよ。同じ猫科(?)だし。

「りょーかい」

 話のわかる猫でなによりだわ。

 バイバナル商会が準備を進めてくれているお陰ですんなりお城に入れ、伯爵夫妻との面会を果たした。

「ラルフ、世話になる」

「歓迎致します、マレイスカ様、リアヤナ様」

 奥様、リアミアって言ったんだ。知らんかったわ~。

 しかし、何でわたしたちまで同行しないといけないのかしら? お城のことなんだから伯爵夫妻が取り仕切ればいいのに。

 何てこと言えるわけもなし。声を掛けられるまで側仕えの方と控えていることにする。

「お疲れでしょう。まずは汗を流してください。城にも風呂を造りました。あと、蒸し風呂も。上がったら冷たい麦酒を用意しておきます」

 へー。造ったんだ。お嬢様が話したときは乗り気じゃないって言ってたけど。何か変化があったのかしら?

「それはありがたい。蒸し風呂が気に入ってな、動いたあとに入らないと気持ち悪くて仕方がないんだよ」

 おじさんはサウナ好きって聞いたから造ったんだけど、この世界のおじさんも大嵌まり。おじさんさんにサウナ魂でも宿っているのかしらね?

「せっかくだ。ラルフ殿もどうた? 爵位の服を脱いで裸の付き合いもいいものだ。それをサーシャ嬢の友人から教えてもらったよ」

 全員の目がわあしに向けられる。うん。止めてください。

「キャロルだったな。娘から手紙を預かっている。返事を書いてやってくれ。候補教育で少し落ち込んでいたからな」

「畏まりました。お嬢様の心が晴れるような手紙をお書きします」

 お嬢様からの手紙か。それは楽しみだわ。

「リアミア様は如何なさいますか?」

「わたしは遠慮するわ。茹でっちゃうから」

「それなら足湯を用意しております。足元を温めながらお茶でも如何でしょうか? いろいろお話を聞かせてください」

 奥様も積極的ね。お城にいたときは物静かな方だったのに。貴族モードだと積極的になるのかしら?

「あら、いいわね。民宿でも浸かっていたわ」

 足湯まで用意するとか、本当にどうしたのかしら? あの頃はなかったから急遽造ったってことだ。もしかして、お嬢様が何か言ったのかしら?

 さすがにわたしを連れてってことはなかったけど、側仕え頭や執事長に呼ばれてしまった。

「あなたはあの頃からさらに影響力を増してますね」

 執事長さんに呆れられてしまった。

 あまり話したことはなかったけど、お嬢様のことで話すことは何回かあった。真面目な方って印象だったわ。

「畏れ入ります」

「まあ、今回はそれて助かりました。侯爵様と関係を結ぶのは難しかったので」

「お嬢様が動いたのですか? マレイスカ様はお嬢様のことを知っている口振りでしたが」

 お妃候補は何人もいるのに、マレイスカ様はお嬢様の名前を口にしていた。選別に関わっているから名前を知ってたんじゃないの?

 もちろん、メインでは関わってはいないでしょうが、選別員の一人、って感じじゃないかや?

「ええ。どうやら七人の中に選ばれたそうです」

「七人ですか。それは名誉なことなのですか?」

「はい。クラウンベルに選ばれるのはとても名誉なことです。さらにお妃にでもなればコンミンド伯爵家はさらに名が上がるでしょう」

 クラウンベル? この王国にはそんな風習があるんだ。でも、クラウンって王冠って意味じゃなかったっけ? それとも別な意味か?

「コンミンド伯爵家はクラウンベルに堪えられるだけの力を持っているのですか?」

 お妃を出した家ともなれば凄いことになる。足の引っ張り合いとか起こるんじゃない? そのときコンミンド伯爵家は対抗出来るものなの?

「さすがお嬢様に気に入られるだけはありますね。コンミンド伯爵家としてもロクラック侯爵家の後ろ盾が欲しいということです」

 それはまた大変なことで。

「……もしかして、わたしにどうにかしろとおっしゃっているのですか?」

 いや、無理でしょう! わたしにそんな力はないわよ!

「さすがにそんな無茶は言いません。ただ、協力をお願いします。バイバナル商会も頷いていただきました」

 そう言われちゃったら断れないわ。ハァー。

「お嬢様が望むことならご協力させていただきます」

 わたしの知るお嬢様はお妃なんて立場は望まないでしょうけど、嫌だと拒否することも出来ない。貴族は家を優先する生き物だからね。ただ、お嬢様が別のことを望むなら喜んでお手伝いさせてもらうわ。

「ただ、無茶なことは出来ないと心に止めておいてください。マレイスカ様はそんな思惑は見抜いている様子ですから」

 ただのマラッカ好きのおじいちゃんってわけじゃない。たまに目が笑ってないときがあるからね。

「わかっています。あなたはマレイスカ様のご機嫌取りをお願いします」

 そのご機嫌取りが難しいんだけどね……。