昼食を終えたら民宿から少し下りた細木が生えているところに向かった。

 ここは学校のグラウンドくらいの広さがあり、ちょっと斜めになっているけど、パターをするくらいなら充分な広さと言っていいでしょう。

「まずはこの一帯の草を抜いてください」

 冬だからそんなに生えてないけど、枯れた雑草が生い茂っている。細木を伐る前に片付けちゃいましょう。

 職人さんたちには休憩小屋を作ってもらった。

 わたしも草を抜くのに参加し、夕方になったら夕食の用意を始めた。

「人足さんたちは寝床をお願いします」

 真冬に野宿は辛いでしょうけど、薪は腐るほどあり、幕も運んで来た。葡萄酒もあるので我慢してもらいましょう。

「久しぶりに当たった仕事だな!」

「美味いものが食えて酒も飲める。ずっと続けて欲しいものだ」

 普段、どんな仕事をしているか興味はあるけど、そんな余裕はない。明日の用意もあるので諦めることに。明日も人足さんが来るんだからのんびりしている暇はないのよ。

 あれやこれやとやってたら朝になっており、また二十人がプラスされた。

 四十人もいると仕事が早い。今日一日で細木はすべて伐られ、根っこもすべで取り払われた。

 三日目に最後の人足さんが連れて来られてなだらかに整地された。

「ほう。これは見事に均されたな」

 次の日はコース作りだと整地されていた場所を眺めていたらマレイスカ様がやって来た。ロックダル様、ティナ、レンラさんも一緒にね。

「控えてください!」

 誰だって目を向ける人足さんたちに叫んだ。

 人足頭さんがすぐに気が付き、人足さんたちに叫んで控えさせた。来るなら一報が欲しかったわ。

「構わぬ。続けてくれ」

 人足頭さんに視線を送り、山の上のほうに向けた。

 打ち合わせはしてないけど、わたしの言いたいことを理解してくれ、人足さんたちを移動させてくれた。空気が読める人でよかった。

「それで、ここをどうするのだ?」

 完成後に見せたかったんだけどな~。せっかちな人だ。

「マラッカ場です。穴に入れる場所。打ちっ放しの場所を作ります。本当はここに草を生やして短く刈って草の絨毯にしたかったんですけど、冬なので均そうと思います」

「いつできるのだ?」

「明日中には形にして、明後日の午前中に具合を見て、午後からマレイスカ様にやってもらおうかと思っています」

「そんなに早く出来るものなのか?」

「人数は確保してあるので大丈夫だと思います。そこまでいいものは作れませんけど」

「急なことなのに計画を組むのが早いな」

「うーん。もう勘に近いですね。とりあえず、人海戦術で行います。失敗なら失敗で次に活かせる材料にすればいいだけですから」

 これからもマラッカ場は作られるはず。ノウハウはいくらあったって困らないわ。

「わたしのため、だけではあるまい?」

「そうですね。マレイスカ様のため、と言うよりはバイバナル商会のためてますね。これからマラッカをやる人は増えるはずです。その過程の知識や問題を蓄えておいてもらいたいんです」

「ほぉう。バイバナル商会のためにわたしを使うか」

「その見返りとしてマレイスカ様には歴史に名を刻んでもらいます」

「歴史に名を刻む? わたしが?」

 首を傾げるマレイスカ様。

「はい。おそらくマレイスカ様は初めてマラッカをやった者として歴史に名が刻まれます。マラッカの父、とかね」

 ゴルフの歴史なんてまったく知らないけど、元の世界では人気だった。この世界でも受け入れられるのならマラッカは誰が始めたんだってなる。そのとに、無名より貴族が始めたってほうがインパクトがあるでしょうよ。

「……わたしが歴史に名を刻むか……」

「少なくともこの国でマラッカを始めた方はマレイスカ様です。バイバナル商会としても自分たちが始めたと言うよりマレイスカ様が始めたほうが都合がいいでしょう」

 バイバナル商会としては名より利を取るでしょう。マレイスカ様が後ろ盾となってくれるほうが得でしょうからね。

「いつか大きなマラッカ場を作ったとき、マレイスカ様の名を使ってもいいですか? そこでマラッカ好きが勝負をするのも楽しそうですし」

 マラッカの父、父の名を冠したマラッカ場、そして、マレイスカ様の名を冠した大会とか、バイバナル商会としては金儲け出来るでしょうよ。

「……そこまで大事になるのか……?」

「絶対、とは言えませんが、マレイスカ様も一人では寂しいですよね? 誰かと遊んだり競ったりしたくなりませんか?」

「ま、まあ、確かにそうだな」

「マレイスカ様が一緒にやるとしたらそれなりの地位の方。そんな地位のある方がやっているものを下の者が気にしないわけがありません。ジェドも同じです。楽しいものは上から下へと流れて行くものです」

 戦争が起これば別だろうけど、娯楽が少ない時代なら広がる確率は高い。わたしは広がると読んでいるわ。

「なるほどな。キャロルはそれで何を得るのだ?」

「わたしはバイバナル商会の後ろ盾が欲しいだけです。冒険には資金が必要ですからね」

 名誉もお金もわたしにはいらない。欲しいのは楽しい人生だけよ。