うん。暇になることはなかった。

 てか、わたしがお二人の側仕えになってしまったわ。

「すみません。旦那様も奥様もキャロルさんをお気に召したようで」

 お二人の側仕えの方々に謝られたが、側仕えの方々も貴族。男爵家の出とか。文句など癒えようがない。

「大丈夫ですよ。お二人のお話を聞くのは勉強になりますから」

 笑顔でそう答えるしかないじゃない。

 まあ、そんなこと言っちゃったからよけいわたしの仕事量が増えちゃったんだけど、さすがにお二人の相手をするのは難しくなってきた。

「ティナはマレイスカ様の相手を。マリカルは奥様の相手をして」

「えー! やだよ!」

 真っ先に反発するマリカル。まあ、あまり貴族にいいイメージを持ってないから無理はないか。

「奥様は無理難題を言う貴族じゃないから大丈夫よ」

「そ、そうみたいだけど、何をしろって言うのよ?」

「旅の話やプランガル王国のことを教えてあげて。あと、貴族社会のことを聞き出して。わたしたちの身分では貴族の情報なんてなかなか手に入れられないからね。それに、聖女のウワサがないかそれとなく聞くといいわよ」

 マリカル、すっかりここの暮らしを堪能し過ぎて本来の目的を忘れているっぽい。

「あ、聖女ね! そうだったわ!」

 本当に忘れていたみたいだわ。

「国に報告しなくちゃならないんだから高位貴族から聞いたって書けばプランガル王国としても貴重な情報を得たと思うし、マリカルの成績にもなるわ。さらにここにいられる理由ともなるわ。ここは高位貴族も来る地。情報が集まるってね」

 理由があればプランガル王国としても文句は言えないでしょうよ。

「わたしとしてはこのまま忘れ去られてくれるのを望むんだけどな~」

「そんなの無理でしょう。プランガル王国には星詠みって凄い人がいるんだから。万が一、マリカルが聖女と接触した場合、星詠みさんが見つけないとも限らないわ。そのときは見つけられちゃうかもしれないんだから最初から情報を渡していたほうがいいわよ」

 マリカルが聖女と接触しなければ忘れ去られるかもだけど、それは望み薄だとわたしは思う。絶対、探索者の動向は把握しているはずだわ。

「そ、そうかな~?」

「そうよ」

「うーん。わかった。やってみるよ」

「わたしも支えるから大丈夫よ」

 すべてを任せるわけじゃない。ただ、余裕が欲しいだけよ。

「ティナはマレイスカ様とマラッカをして。わたしじゃ相手ならなくなっいるからさ」  

 好きこそ物の上手なれを体現していて、段々と負けてきているのよね。ここは運転神経抜群のティナとバトンタッチだわ。

「わかったけど、ボクだと話し相手にならないよ」

「大丈夫よ。マレイスカ様もそんなにおしゃべりな方じゃないから。純粋にマラッカを楽しみたいと思っているからね」

 ティナは無口だけど、人見知りではない。必要なときはちゃんとしゃべるタイプだ。たまに辛辣な突っ込みもするけど。

「まあ、わかった」

 二人の了承を得たのでレンラさんと側仕えの方々、ロックダル様に話を通した。
 
 朝になり、ティナを連れて訓練場に向かった。

 ここに何しに来たんだ? って思うくらいマラッカに魅了されたマレイスカ様は、朝から訓練場に来ては打ちっぱなしを行っているのよね。

「マレイスカ様。少しティナが付き添いますのでマラッカを楽しんでください」

「何かあったのか?」

「マレイスカ様がもっと楽しめるよう準備を行いますので一日二日、離れます」

「ほぉう。それは楽しみだ」

 それを行うバイバナル商会は大変でしょうけどね。ほんと、ごめんなさいです。

 その場はティナに任せて次は奥様だ。

 奥様の朝は遅い。と言うか遅くなった。ハイ、わたしが原因ですね。すみません。

 側仕えの方々は六時には起きて来るので、マリカルのことを紹介して、奥様の相手をさせることを説明した。

 獣人であることに驚かれたものの、プランガル王国は近隣諸国。一応、国交は結ばれているようで、王都にも獣人はいるんだってさ。

「それは助かるわ。わたしたちでは話に付いていけなかったから」

 側仕えの方々も貴族とは言え、創作活動をした経験はなし。どうするか問われてもわからないでしょうよ。

 朝食の時間までは起きてくれたので、五人で朝食をいただくことにした。

「こんな賑やかな食事もいいものね」

 貴族の食事ってどんなものかと思うけど、礼儀だ作法だとかあるんでしょうね。そんなんじゃ食べた気しないわね。

「暖かい日があったら外で食事でもしてみましょうか。外で食べるのも楽しいですよ」

「まあ、外で食べるの?」

「はい。楽しいですよ。陽の光を浴びるのも体にいいですからね。浴びすぎると染みが出来ちゃいますけど」

 この世界の貴族はピクニックとかしないのかしら? やってそうな時代と情勢なんだけどな~?

「一度、経験としてどうですか? 話のネタにもなりますよ」

 民宿のことは必ず話に出る。なら、キャンプ? グランピング? も広めてもらいましょう。

「そうね。経験は大事だわ」

 それもバイバナル商会と相談しなくちゃね。

 朝食を終えたらすぐに馬車を出してもらって山を下りた。