マレイスカ様、すっかりマラッカ(ゴルフ)に夢中だ。朝食を食べたらまたマラッカに誘われてしまった。

「ライカの実に代わるものはないのか?」

「んー。ちょっと待ってくださいね」

 木片を削り、糸を巻いて糊で固めて乾燥させる。

 それ一個では意味がないので穴を掘ってそこに入れてもらうことにした。これ、何て言ったっけ? パ、パン? バター? あ、パターだ。

「飛ばした玉を穴に入れてみてください。遠くに飛ばした玉を穴に入れる遊戯なんておもしろいかな~って」

「おー。それはよいな」

 玉を取ると、地面に置いてクラブで打った。

「くっ。外した!」

 子供のように悔しがるマレイスカ様。どうします? とロックダル様を見た。

 そう言われても……って顔を返された。そりゃそうだ。

 付き合わされるほうの身にもなって欲しいけど、文句も言えない立場としては黙って従うしかない。

「ロックダル様。お茶を持って来ますので場を離れますね」

 そんな! とか気配で感じたけど、スルーして民宿に戻った。

「キャロル。ただいま~」

 山を下りていたマリカルが帰って来た。

「お帰り~。お客さん来てるから会ったら挨拶してね。偉い人だから」

「わたしはパス。家を出ないようにするよ。偉い人に何か言われたら嫌だし」

 そそくさと家に逃げてしまった。

 偉い人に無理矢理国を出されたトラウマなんでしょう。大変だこと。

 民宿に入ると、側仕えの方がいたのでマイレスカ様にお茶を出すようお願いした。

「旦那様は、何をしているのです?」

「広場で運動しています。お茶の他に軽く食べるものを付けるとよろしいかと思いますよ」

「旦那様が運動だなんて珍しいこともあること」

 側仕えの方もかなり年配の方で、言葉から長く仕えていることがわかった。

「道がよくないので荷物はわたしが運びますね」

 台車で行くには厳しいのでバスケットに入れて訓練場に向かった。

 マレイスカ様はまだパターに夢中で、冬だと言うのに汗をかいていた。どんだけ集中してんだか。

「マレイスカ様。一度休憩してください。喉も渇いたでしょう」

 丸太に厚めの革を敷いて竈に薪を入れて火を付けた。汗が引いたら寒くなるからね。

「これで汗を拭いてください」

 バイバナル商会で売り出したタオルをマレイスカ様に渡した。

「うむ。このタオルは本当によいな」

「もう王都まで広まっているんですか。バイバナル商会はそこまで流通させる力があったんですね」

 今年のことよ? 生産から流通までしっかりとしたものを持っているんだ。

「賢いとは聞いていたが、ここまで賢いとはな」

「わたしは普通だと思いますよ」

 たぶん、わたしは話し相手として付かされているんでしょう。ただのイエスマンとして相手するのではなく、ほどよく相手することを求められている。否定することは否定しておきましょう。

「ふふ。場を読んで気負うこともしないか。きっとサーシャ嬢としてはおもしろかっただろうな」

 そうだろうか? お茶の席では笑顔を見せていたけどさ。

「わたしは世間知らずなのでおもしろい話はしてなかったと思います」

「ふふ。キャロルの話はおもしろいぞ。見た目からは想像できないくらい思考が速くて成熟しておる。世に天才はおるのだな」

「十で神童、十五で天才。二十歳過ぎればタダの人。きっとそうなりますよ」

「アハハ! なかなかおもしろいことを言う。至言だ」

 この世界にはなかった言葉みたい。しくじったかな?

「マレイスカ様。お茶を飲んだら一度民宿に戻りましょうか。汗を流しましましょう」

「む? そうだな。さすがに夢中になりすぎた。だが、午後からまたやりたいな」

「畏まりました。それまで職人に玉を作らせますね。あと、地面も少し均しておきますね。石が多いのでなかなか入らないですからね」

 まさかこれほど嵌まるとは思わなかった。午後まで最低限の整備はしておきましょう。

 側仕えの方に視線を飛ばした。

「そうか。では頼むとしよう」

 お茶を飲んだら立ち上がり、あとは側仕えの方とロックダル様に任せた。

「ルル。いる?」

「いるわよ」

 わたしの護衛をしてくれているルルを呼んだらすぐに現れた。

「火を見てて。職人さんたちを呼んでくるから」

 職人さんたちには申し訳ないけど、お貴族様の望みが優先される。文句はあるでしょうが、断ることはできない。説明したら仕事を中断して訓練場に集まってくれた。

「玉を作る人とここを均す人、あと、ここに休憩小屋を作る人に分かれましょう。昼食後まで完成させます」

 集まった職人さんたちは一流揃い。三時間もあれば完成させられるでしょうよ。

「終わったら美味しいものを差し入れしますね」

「それは張り切らんといかんな」

「任せておけ」

 頼もしい職人さんでよかった。てか、職人さんがいてくれて本当によかった。何が幸いとなるかわからないわね。

 職人さんたちががんばってくれたお陰で昼前には完了。せっかくなのでソーセージパーティーをすることにした。

 串にソーセージを刺して火で炙る。八人もいるので結構な量を消費しちゃったけど、喜んでもらえたので問題なしだ。

「これ、美味いな」

「猪肉と鹿肉を混ぜたものです。今度、燻製にしたものを食堂に持って行きますね」

 この冬は燻製作りに挑戦しようとしてたのよね。

 ソーセージパーティーが終われば片付け。そして解散。わたしは焚き火でお湯を沸かしてお茶を飲みながらマレイスカ様が来るのを待った。