「おいっ通行証は?」

 城下町入り口の門に辿り着くと、胸の所だけ簡易な鎧を着た男が二人立っていて、通行証は? と俺に向かって一人の男が手を前に出す。

 やはり通行証ってのが必要なんだな。そんなもん持ってねーしな。

「ええと……通行証を持ってないんだが」

「通行証がない? じゃあ身分証と一人につき銀貨一枚だ。その抱いてる小さな子供も一人と数えるからな?」

 何!? 身分証だと!? あれだよな? 免許証みたいなやつだろ? そんなもん持ってるわけねーだろ! 勝手に召喚されてんだからさ? だがそんなこと言える訳ないし。

「おいっ! 早くしろ?」

 どうしようかと困っていたら、早くしろと急かす男達。ったく、ちょっとくらい待ってくれてもいいだろう?

「ええと……身分証がなくて……そのう」
「はぁ? 身分証がない? まさか……お前」

 身分証がないと言うと。
 訝しげに俺を見た後、腕の中にいる稲荷をじっと見る。
 次の瞬間、稲荷のマントを軽く捲り上げた。
 服を着てない稲荷の、肌が露になる。

「何も隠してねーか」
「そいつ……服を着てないじゃねーか!」
「いきなり何するんだよ!」
「そんなマントにぐるぐる巻きにされているガキなんて、なんか隠していると思うのが普通だぜ? ましてや身分証も無い怪しい男が連れているんだから、なおさらだろ?」
「うぐ……それはそうだが」
「うゆう……」

 俺が声を荒げたせいで、稲荷が唸り声をあげ男達を睨む。
 慌てて稲荷を包み直し、大丈夫だからなっと、ぽんぽんと軽く頭に手を乗せる。

「稲荷……落ち着け」
 
 とりあえず耳と尻尾には、気付いてないみたいだし。このまま上手くやり過ごさないと。
 耳まで見つかると、余計にややこしい事になりそうだし。

「これは……ちょっと色々ありまして……」

 俺は男達二人に金貨一枚ずつを手渡した。

「おお?」
「身分証の代わりにお納め下さい」

 俺がそう言うと男はニヤリと笑い。

「お前は身分証を紛失したんだな? 再発行は街のギルドがしてくれるから行ってみな?」
「中々賢いな? これは通行証二人分だ! ほらっさっさと通れ」

 そう言って通行証を無造作に手渡し、中に通してくれた。
 金貨の力ってスゲエな!
 あの態度の変わりよう。
 この世界の身分証の作り方も教えてくれたし。
 金貨いっぱい盗っ……拝借して良かったな。

 街の中に入ると、そこには異国の風景が広がっていた。
 煉瓦で作られた壁に、屋根の色が色とりどりで美しい。

「うわぁ綺麗だな」

 昔。師匠と一緒に旅した国もこんなだったなと、思い出す。

 そうだよな。行った事のない国に来たって思えばいいんだ。
 異世界って気負っちまうから、不安になるんだ。
 外国に遊びに来たと思やーどって事ないじゃん。

「ははっ何だか楽しくなって来たぞー!」
「うゆ?」

 稲荷が不思議そうに俺を見る。

 さてっと、城下町の探索に行くとするか!
 歩いている人を見ると、かなり少ないが獣人族だろうと思われる、動物の耳や尻尾がついた人も歩いている。
 良かった。これなら稲荷もそこまで目立たないぞ。

 まずは服屋だな。早く稲荷の服を用意しないと。
 後はギルドって言ったか? そこに行って身分証を作って貰わないとだな。
 
 琥珀を出してやりたいけど、流石に二足歩行で歩いている謎の動物はいない。
 町の様子がもう少し分かるまでは、ちょっとだけ我慢してもらおう。
 
 俺は少しワクワクしながら、町を歩いて行った。