ギターが実家に来てから数日、僕は秀影おじさんに頼まれて少し遠い場所まで野菜を届けに行くために自転車を漕いでいた。
野菜を届けた後で、僕はすぐに帰る気分にはなれず、少し回り道をして帰る事にした。
村役場の方へと自転車を走らせ、少し丘の上の公園へ自転車を走らせようと思っていたのだ。
しかし、公園に行く前に僕の自転車を漕ぐ足は村役場の前で止まった。
「この音は……。」
僕は吸い寄せられるように村役場の前で自転車を停め、開いている窓の近くにあるベンチに座る。
「よし!もう1回通してみよう!」
「明梨、流石に休憩入れないと……。流石に疲れたし、今日は奏いないんだし……。」
「あぁ、まぁ、そうか。確かにそうだね。ごめん、綾音。」
奏がいないんだし。その言葉を聞いて惇や村上さんの言っていたことを思い出した。
「あれ?吉人さんじゃないっすか。どうしたんですか――って聞くまでもないっすねこれは……。」
ちょっと待ってて欲しいっす。とだけ言って惇は村役場の中へと戻って行ってからペットボトルのお茶を二本持って戻ってきた。
「これ、吉人さんに僕からの奢りっす。」
渡されたお茶はまだキンキンに冷えており、おそらく買ったばかりの物なのだろう。
「ところで、奏が来てないって聞こえてきたけど……どう言う事なんだ?」
「そのままっすよ……。二日前くらいから急に部屋から出てこなくなっちゃったんっすよ。」
前にあった時には、明るそうに見えた惇の顔がとても暗くなっていた。
「何かあったのか……?喧嘩したとか、方向性が一致しなかったとか。」
そう聞いてみると惇は首を振った後で「全くそう言うのは無かったっす。なんか急にこう言う状況になってたんっすよ。」
奏を練習に誘おうと全員で色々したらしいが全く出てくる気配も無く、ただ「先に行ってて。」としか言われなかったという。
奏はボーカルなので数日なら欠けてても大丈夫だろうという話にもなり、今は練習をしているらしいが流石に愛宕祭の開催日的にも危ないようだ。
「なるほどな……。」
だから……。と言った後で惇は言葉を続ける。
「吉人さんにお願いがあるっす。奏と話してきて欲しいんっす。あと頼れるのは吉人さんぐらいなんっすよ!」
「分かった。でも、1つだけ交渉をしない?」
「僕が飲める内容ならいいっすよ……。」
僕は交渉内容を耳打ちすると、惇はびっくりしつつも話を通してみるっす。と答えてくれた。
そのまま惇と別れ、村上さんの宿に向けて自転車を漕ぐ。
お昼過ぎなのもあり、自転車を漕ぐたびに汗が物凄いがそんなのはお構いなしに漕ぎ続ける。
「ちくしょう……!回り道ついでに村上さんの所の宿に寄るとなると、めちゃくちゃ遠いなっ……!」
しばらく自転車を漕ぎ、やっとのことで宿の前へと着く。
村上さんに軽く挨拶をし、奏達が部屋を借りている階まで疲れてパンパンになっている足に鞭を打って階段を登る。
扉をノックしても返事はなく、ただ僕が扉を叩く音がフロアに響くだけだ。
「奏、居るなら返事をしてくれ!」
返事がないので出直そうと思ったその瞬間に、耳元に風を感じた。
「吉人は昔から視野が狭いよね。」
びっくりして横を見てみると寝巻きに着替えた奏が立っていた。
「久しぶりに大きいお風呂に入りたくて、下の大浴場に行ってたんだ。ごめん。」
奏はそのまま部屋の鍵を開けてからこちらを振り向き、僕を手招きした。
「話があるんでしょ?私もあるから。入って。」
中へ入ると、借りてる部屋とはいえども、きちんと整頓されている綺麗な部屋があった。
「座っていいよ。狭いかもだけどそこはごめんね。」
丁度二人がけほどのサイズのソファーに僕と奏は座る。
「まぁ、吉人が来た理由はなんとなく分かるよ。私がバンド練習に行ってないっていうのを、誰かから聞いたんじゃない?」
「まぁ、そうだね。奏の方の話したい事っていうのは何なんだ?」
「私が風邪ひいた日の話だよ。惇が私に伝言預かってるって聞いたからさ。聞いてみたらまたギターやる事にしたんだって?」
少しだけ内容が変わってしまってはいるが、だいたい伝えたい内容は当たっていたようでよかった。
「じゃあ、まぁこっちから。奏の予想通り何だけど最近練習に来てないっていうので心配で僕しか頼りがいないって言われて来たんだけど……。」
「そっか……。吉人は何でだと思う?」
急な質問にすぐには返せずに、少し考え込む。
「前言ってた昔のように演奏したいってことか?」
思いついたのはそれしか無かった。
「半分正解。またあのメンバーと新しく増えた惇とで私は今回の愛宕祭のステージをやりたい。」
奏も同じ想いだった。
僕がここにくる前に惇に交渉した内容もステージに参加したいから練習に入れて欲しいという内容だった。
「同じことを僕も考えてた。久しぶりにギターを見て弾きたくなっちゃってさ……。」
「久しぶりにお揃い、になったね。」
奏がこちらをにっこりと見ながらそう言ってくる。
「そうだな……。久々のお揃い、だな。」
そう言って二人で笑い合った後で奏は僕に一言こう言ってきた。
「今の吉人は、昔一緒にバンドしてた時の吉人にそっくりだよ。この吉人が私は好き……。」
突然の事に僕はしばらく固まってしまっていた。
野菜を届けた後で、僕はすぐに帰る気分にはなれず、少し回り道をして帰る事にした。
村役場の方へと自転車を走らせ、少し丘の上の公園へ自転車を走らせようと思っていたのだ。
しかし、公園に行く前に僕の自転車を漕ぐ足は村役場の前で止まった。
「この音は……。」
僕は吸い寄せられるように村役場の前で自転車を停め、開いている窓の近くにあるベンチに座る。
「よし!もう1回通してみよう!」
「明梨、流石に休憩入れないと……。流石に疲れたし、今日は奏いないんだし……。」
「あぁ、まぁ、そうか。確かにそうだね。ごめん、綾音。」
奏がいないんだし。その言葉を聞いて惇や村上さんの言っていたことを思い出した。
「あれ?吉人さんじゃないっすか。どうしたんですか――って聞くまでもないっすねこれは……。」
ちょっと待ってて欲しいっす。とだけ言って惇は村役場の中へと戻って行ってからペットボトルのお茶を二本持って戻ってきた。
「これ、吉人さんに僕からの奢りっす。」
渡されたお茶はまだキンキンに冷えており、おそらく買ったばかりの物なのだろう。
「ところで、奏が来てないって聞こえてきたけど……どう言う事なんだ?」
「そのままっすよ……。二日前くらいから急に部屋から出てこなくなっちゃったんっすよ。」
前にあった時には、明るそうに見えた惇の顔がとても暗くなっていた。
「何かあったのか……?喧嘩したとか、方向性が一致しなかったとか。」
そう聞いてみると惇は首を振った後で「全くそう言うのは無かったっす。なんか急にこう言う状況になってたんっすよ。」
奏を練習に誘おうと全員で色々したらしいが全く出てくる気配も無く、ただ「先に行ってて。」としか言われなかったという。
奏はボーカルなので数日なら欠けてても大丈夫だろうという話にもなり、今は練習をしているらしいが流石に愛宕祭の開催日的にも危ないようだ。
「なるほどな……。」
だから……。と言った後で惇は言葉を続ける。
「吉人さんにお願いがあるっす。奏と話してきて欲しいんっす。あと頼れるのは吉人さんぐらいなんっすよ!」
「分かった。でも、1つだけ交渉をしない?」
「僕が飲める内容ならいいっすよ……。」
僕は交渉内容を耳打ちすると、惇はびっくりしつつも話を通してみるっす。と答えてくれた。
そのまま惇と別れ、村上さんの宿に向けて自転車を漕ぐ。
お昼過ぎなのもあり、自転車を漕ぐたびに汗が物凄いがそんなのはお構いなしに漕ぎ続ける。
「ちくしょう……!回り道ついでに村上さんの所の宿に寄るとなると、めちゃくちゃ遠いなっ……!」
しばらく自転車を漕ぎ、やっとのことで宿の前へと着く。
村上さんに軽く挨拶をし、奏達が部屋を借りている階まで疲れてパンパンになっている足に鞭を打って階段を登る。
扉をノックしても返事はなく、ただ僕が扉を叩く音がフロアに響くだけだ。
「奏、居るなら返事をしてくれ!」
返事がないので出直そうと思ったその瞬間に、耳元に風を感じた。
「吉人は昔から視野が狭いよね。」
びっくりして横を見てみると寝巻きに着替えた奏が立っていた。
「久しぶりに大きいお風呂に入りたくて、下の大浴場に行ってたんだ。ごめん。」
奏はそのまま部屋の鍵を開けてからこちらを振り向き、僕を手招きした。
「話があるんでしょ?私もあるから。入って。」
中へ入ると、借りてる部屋とはいえども、きちんと整頓されている綺麗な部屋があった。
「座っていいよ。狭いかもだけどそこはごめんね。」
丁度二人がけほどのサイズのソファーに僕と奏は座る。
「まぁ、吉人が来た理由はなんとなく分かるよ。私がバンド練習に行ってないっていうのを、誰かから聞いたんじゃない?」
「まぁ、そうだね。奏の方の話したい事っていうのは何なんだ?」
「私が風邪ひいた日の話だよ。惇が私に伝言預かってるって聞いたからさ。聞いてみたらまたギターやる事にしたんだって?」
少しだけ内容が変わってしまってはいるが、だいたい伝えたい内容は当たっていたようでよかった。
「じゃあ、まぁこっちから。奏の予想通り何だけど最近練習に来てないっていうので心配で僕しか頼りがいないって言われて来たんだけど……。」
「そっか……。吉人は何でだと思う?」
急な質問にすぐには返せずに、少し考え込む。
「前言ってた昔のように演奏したいってことか?」
思いついたのはそれしか無かった。
「半分正解。またあのメンバーと新しく増えた惇とで私は今回の愛宕祭のステージをやりたい。」
奏も同じ想いだった。
僕がここにくる前に惇に交渉した内容もステージに参加したいから練習に入れて欲しいという内容だった。
「同じことを僕も考えてた。久しぶりにギターを見て弾きたくなっちゃってさ……。」
「久しぶりにお揃い、になったね。」
奏がこちらをにっこりと見ながらそう言ってくる。
「そうだな……。久々のお揃い、だな。」
そう言って二人で笑い合った後で奏は僕に一言こう言ってきた。
「今の吉人は、昔一緒にバンドしてた時の吉人にそっくりだよ。この吉人が私は好き……。」
突然の事に僕はしばらく固まってしまっていた。