女子高生がエクスカリバー背負ってどこ行くんですか?【シナリオ】

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○暗闇

漆黒の闇の中、怪しく光り、浮かび上がる聖剣エクスカリバー…

エクスカリバー「…ついに時が満ちました」

エクスカリバーの刀身に映し出される少女、星野あすみ(17)。

エクスカリバー「選ばれし乙女よ、新たなる持ち主を求めて、私と共に旅立ちましょう!」

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○五輪神社境内

奉納舞の稽古をする制服姿のあすみと宮條つるぎ(17)。

あすみが懸命に舞い、つるぎが指南している様子。

つるぎ「ちっがーう!何度言ったらわかるんだよ!?」

つるぎの怒鳴り声にちぢみあがるあすみ。

あすみ「だって、だって、振り付けは合ってるでしょ?」

はあーっと大きなため息を吐くつるぎ。

つるぎ「振りだけしてたら良いってもんじゃないんだよ!神事だぜ!?もっと気持ちも込めるんだよ!」

あすみ、ムッとしてつるぎに食ってかかる。

あすみ「こ、込めてるもん!ちゃんと、エクスカリバーさんも大事に扱ってるし…これは偽物だけど」

つるぎ「あったり前だろ!?ゼッテー落とすんじゃねーぞ!?うちの宝剣だぞ!?」

あすみ「つ、つるぎがそういう風に脅かすから、必死になって気持ち込めるどころじゃないの!」

つるぎ「あ、やっぱり気持ち入ってねーじゃねえかよ!」

あすみ「だ、だからそれはつるぎが…」

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つるぎの祖母、宮條サヤ(70)が2人の元にやってくる。

サヤ「こりゃ!お前はまたあすみに怒鳴ってからに!」

あすみ、サヤに泣きつく。

あすみ「おばーちゃーん」

ヨシヨシ、とあすみを撫でるサヤ。

不貞腐れた表情のつるぎ。

つるぎ「だって、こいつどんくせーし、やる気ねーし」

あすみ「やる気はあるもん!」

つるぎ「だからそのやる気が踊りに見えてねーんだよ!」

サヤ、2人に割って入り、

サヤ「こら!お前はまた…!あすみはな、お前の代わりに踊ってくれるんだ!感謝しな!」

つるぎ「誰も頼んでねーよ!俺が練習してたのにばーちゃんが急にあすみに踊らせるなんて言うから…」

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サヤ、つるぎを無視してあすみの方へ向き直り、優しく語りかける。

サヤ「あすみ、お前はね、選ばれたんだよ。エクスカリバーに」

あすみ「うん…」

サヤ「何度も話したろ?ばあちゃんはな、お告げを聞いたんだ。エクスカリバーがお前を選んだんだよ?」

あすみ「…うん」

つるぎ「何だよ、剣が人を選ぶなんて…」

ぶつぶつと呟いて不満げなつるぎ。

サヤ「祭りはもう今晩だ。振り付けはちゃーんと覚えてるんだから、あとはあすみの思うままに踊りなさい」

あすみ「…わかった。ありがとう、おばあちゃん!」

サヤ、キッとつるぎの方を向き、

サヤ「つるぎ!お前はもう稽古はいいからこっちに来い!」

つるぎ「んだよー」

渋々サヤについて行くつるぎ。

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○神社内の宝物庫

サヤ、ガラスケースからエクスカリバーを大事そうに取り出す。

それを後ろから不貞腐れたまま見つめているつるぎ。

サヤ「…つるぎ、あすみはな、選ばれたんじゃ」

つるぎ「何度も言わなくてもわかってるよ!」

不満げに呟くつるぎ。

つるぎ「何で神社の息子の俺が選ばれてねーんだよ…」

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サヤ、真剣な表情でつるぎに向き直り、

サヤ「いいや、お前はわかっとらん…。あすみはな、本当に選ばれたんじゃ」

つるぎ「本当にって…」

サヤ「選ばられたからには、もう逃れられん…あすみの運命なんじゃ」

つるぎ「な、なんだよばあちゃん…大袈裟だなぁ!たかが祭りの奉納舞だろ!?」

サヤ「そんな単純な話じゃないんじゃ!」

エクスカリバーに目を落とし、呟くサヤ。

サヤ「ワシのせいかも知らん…つるぎと一緒に境内でよく遊ばせていたからのう…」

つるぎ「ば、ばあちゃん?」

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サヤ「あすみは良い子じゃ。今どき珍しい、純真で心優しく…根は強い。だから貴方様のお目に留まったのですね」

エクスカリバーに向かって話し始めるサヤ。

訝しがるつるぎ。

つるぎ「ちょ、ばーちゃん何独り言…」

サヤ「どうぞあすみをお守りください。ばばの命に変えてお願いいたします」

エクスカリバーを頭上に掲げて祈り始めるサヤ。

キラリと一瞬鋭く光るエクスカリバー。

つるぎ「な、なんだよばーちゃん、怖えーよ!俺、出るから!」

つるぎ、サヤを残して慌てて外に出る。

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○宝物庫の外

慌てて飛び出してきたつるぎ。

つるぎ「なんなんだよ、急にばーちゃんは!」

宝物庫を振り返り、

つるぎ「それに、エクスカリバーが光って見えたけど…気のせいか…?」

空を見上げると既に暮れかかっている。

つるぎ「あすみ、大丈夫かなぁ」

ポツリと呟くつるぎ。

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○神社の境内(夜)

すっかり暗くなった境内。

あちこちで松明が焚かれ、多くの見物客達で賑わっている。

○神社内控室

緊張した面持ちのあすみが鏡台に向かって座っている。

顔には美しい化粧が施され、巫女の衣装と冠を着けている。

控室の入り口をキョロキョロと覗き込むつるぎ。

あすみ、つるぎに気付いて駆け寄る。

あすみ「つるぎー!やっぱり緊張するよー」

つるぎ、着飾ったあすみを目の前にしてぼんやりと見惚れている。

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キョトンとした表情のあすみ。

ぼんやりしているつるぎの顔を覗き込む。

あすみ「つるぎ??」

つるぎ、赤面して我に帰る。

つるぎ「あー、ゴホン!な、何!?」

あすみ「何って、つるぎが来たんじゃない」

つるぎ「あー、うん、ゴホン!これ、持っとけ!」

つるぎ、あすみに持っていたお守りを差し出す。

あすみ、受け取りながら、

あすみ「…ありがとう。…交通安全って書いてあるけど??」

つるぎ「え!えぇ⁉︎…適当に持ってきたから」

あすみ、ぷっと吹き出す。

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少し気まずい表情のつるぎ。

つるぎ「まあ、何でも一緒だろ!持っとけよ!」

あすみは嬉しそうに、

あすみ「うん、ありがと」

控室の奥から、案内役の巫女があすみを呼ぶ。

巫女「あすみちゃーん、そろそろ…」

あすみ「はーい!」

つるぎ「じゃあ、しっかりな」

あすみ「…うん、頑張る!」

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○舞台袖

エクスカリバーを大事そうに抱えたサヤ。

緊張した面持ちでやってきたあすみに剣を渡す。

サヤ「しっかりな、あすみ…」

あすみ「うん、おばあちゃん!」

サヤ「良いかい、何があっても気を確かに持つんだよ?エクスカリバーがついてるからね?」

少し不思議そうな表情のあすみ。

あすみ「…?う、うん!」

○神社境内の舞台

大勢の観客で賑わっている境内。

舞台上の準備が進められ、観客達は舞の始まるのを今か今かと待ち侘びている。

松明に照らし出された舞台に、数人の巫女と共に登場するあすみ。

手には聖剣エクスカリバーが握られている。

巫女たちとあすみの登場に沸き立つ観客たち。

厳かな音色の笛と囃子が鳴り始め、それに合わせて踊り始めるあすみ。

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観客達に混じって舞台上のあすみを見守っているつるぎの姿。

横の客たちがエクスカリバーについて話し始める。

観客1「あれが、聖剣エクスカリバー?中世イングランドに実在した、アーサー王伝説の…」

観客2「言い伝えでは、そうらしいよ。明治時代の宮司さんがイギリスに留学した時に持って帰ってきたんだと」

観客1「えー、まじで!?」

観客2「んなわけないだろ?本物だったらイギリス政府が黙ってないっつーの」

声の主達をジロリと睨むつるぎ。

心配そうに舞台上のあすみを見上げる。

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○舞台上

真剣な表情で懸命に舞っているあすみ。

あすみ(何だろう…さっきからエクスカリバーさんが熱い…)

囃子の盛り上がりと共に徐々に終盤へ向かう舞。

あすみ(もう少しで終わる…!けど、もう持っていられないくらい熱い!)

舞台下には心配そうにあすみを見つめるつるぎ。

つるぎ「…なんだ?あすみの様子がおかしい…?」

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苦しそうな表情でなんとか舞っているあすみ。

あすみ(…ダメ!熱すぎる!!もう終わりだけど落としちゃう!)

囃子が終わると同時に手を開いてしまうあすみ。だがエクスカリバーはあすみの掌に張り付いたまま落ちない。

あすみ「なに、これ…」

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その時、突如眩しく光り出すエクスカリバー。

呆気に取られる観客達。

観客達「な、何??何かの演出!?」

観客達を押し除けて舞台に駆け寄ろうとするつるぎ。

つるぎ「あ、あすみ!!」

辺りに響くような声でエクスカリバーが語り出す。

エクスカリバー「…我が名はエクスカリバー。真実の乙女を見つけし今、共に旅立たん!」

さらに眩しく発光するエクスカリバー。

あすみ「きゃあー!」

つるぎ「あすみー!!」

眩い光に包まれるあすみとエクスカリバー。

つるぎや観客達は目も開けていられない。

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突如光が消え、舞台上から忽然と姿が消えているあすみ。

戸惑い、ざわついている観客達。

慌てて舞台へ駆け寄るつるぎ。

つるぎ「あすみ!?あすみ!!」

背後からサヤが近づく。

サヤ「つるぎ…」

青ざめた顔で振り向くつるぎ。

つるぎ「ばあちゃん!あすみが…あすみが消えちまった!!」

サヤ「つるぎ、諦めなさい…あすみは旅立ったのじゃ…」

つるぎ「な、なんだよそれ!どこに行っちゃったんだよ!?」

サヤ「…それは、ワシにもわからん…」

つるぎ「そんな…!ばあちゃん…」

サヤ「大丈夫、エクスカリバーがきっとあすみを守ってくれる…」

狼狽えるつるぎと対照的に妙に落ちついているサヤ。満天の星空を見上げる…


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○場面転換して異世界のシャングリラ王国・城下町

花々が咲き乱れ、美しい街並み。多くの人々が賑やかに行き交っている。

○シャングリラ王国・城内

荘厳な城内に響き渡る声。

サイ「ガイ様ー!」

大声で城内を探し回る、シャングリラ王国大臣のサイ(55)。

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○城内中庭

大勢の若い兵士たちに囲まれて、一人の兵士と手合わせしているガイ(18)。

囃し立てる兵士たち。

兵士1「いいぞいいぞ!」

兵士2「ガイ様!負けたらビールおごりですよ!?」

ガイ「うっせーお前ら!」

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真剣に打ち合うガイ。

押され気味の手合わせの兵士。

兵士1「やばい!ガイ様がまた勝ちそうだ!」

兵士2「俺たちの今日のビールが!」

兵士3「こうなりゃ加勢だ!」

一斉にガイに襲いかかる見物していた兵士達

ガイ「あ!?ちょっとお前ら!ずりーぞ!?」

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中庭へ走り込んでくるサイ。

サイ「ガイ様―!」

そのまま兵士達と打ち合っているガイ。

サイ「ガイ様!ああ良かった、ここにおられた。今ちょっとよろしいですか?」

ガイ、兵士達との打ち合いを続けながら、

ガイ「よろしいように見えるか!?」

構わずに続けるサイ。

サイ「王妃様がですね、ガイ様の新しい舞踏会用の服をお仕立てになりたいそうで…」

ガイ「だから!今それどころじゃなくて!」

サイ「ですが、王妃様に任されますと、またフリフリのキラキラに…」

ガイ「あっそれは困る!」

一瞬の隙をついてガイの剣を撃ち落とす兵士達。

ガイ「あー!!」

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兵士1「やったー!ガイ様の負け!」

兵士達「ビール、ビール♪」

喜ぶ兵士たち。

ガイ「くっそー!お前のせいでビール奢る事になったじゃねーか!」

サイ「申し訳ございません。ですが私は、真っ白タイツとカボチャパンツからガイ様を救って差し上げたく…」

ガイ「くっ…そうだった!もう二度とあのような屈辱的な格好はしたくない!母上のところへ急ぐぞ!」

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○城内の王妃の居間

沢山の色とりどりの布地とレースに囲まれて王妃(40)と仕立て屋があれこれ話し合っている。

王妃「やはり私のガイには、深紅のビロードが似合うと思うの。髪も目も燃えるように赤いのだからそれに合わせて…それとあの子の花の顔(かんばせ)に負けないように沢山のクリスタルを嫌というほど刺繍して…」

勢いよく扉が開いてガイが入ってくる。

ガイ「母上!良い加減にしてください!」

王妃「おお、ガイ!わかりました。仕立て屋、クリスタルは良い加減で付けましょう!」

仕立て屋「かしこまりました!良い加減に…と」

メモを取る仕立て屋。

2人に突っ込むガイ。

ガイ「いやいやいやそうではなく!」

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王妃「何です、そなたの為に美しい服を仕立てようとしているのですよ?いつもそのような軍服ばかり着て…花の顔(かんばせ)が台無しじゃ!」

ガイ「花の顔って…」

扉が開き、ガイの兄ロイ(20)が入ってくる。

ロイ「母上、お呼びでしょうか」

ガイ「兄上!」

王妃「おお、ロイも来ましたか」

ガイ「兄上!聞いてください!また母上が私に悪趣味な服を…」

ロイ「案ずるな、ガイ。そなたはいつも立派に着こなしているではないか!」

にこやかにガイを諭すロイ。

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王妃「おお、今2人が並んでいるのを見て、アイデアが湧きました!今度の舞踏会では久しぶりにお揃いの服を仕立てましょう!」

ガイ「な、何⁉︎絶対嫌ですよね⁉︎兄上⁉︎」

まんざらでもなさそうなロイ。

ロイ「愛する弟とお揃いか…ふむ、悪くない」

ガイ「あ、兄上…」

王妃「おお!決まりじゃ決まりじゃ♪」

王妃とロイ、あれやこれやと相談し始める。

王妃「生地はそなた達の髪色に合わせようと思うのです。ガイには真紅、そなたは黄色でどうです」

ロイ「なるほど、いつもながら母上のセンスお見事」

ガイ、ため息を吐きつつ、そっと部屋を出ていく。

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○シャングリラ王国・城下町(夕暮れ)

町を1人で歩くガイ。

すれ違う人々がにこやかにガイに挨拶をする。

「ガイ様!こんばんは!」

ガイ「おう!」

「ガイ様!お出かけですか?」

ガイ「ああ、兵士たちにビールを奢りにな!」

「今度うちの店にも来て下さいよ!」

ガイ「ああ、行くよ!」

ガイ、ふと立ち止まって振り返る。

美しい夕陽を背景に王城がそびえ立っている。

ポツリと呟くガイ。

ガイ「平和だなぁ…」

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○同じく城下町の酒場

大勢の客で賑わっている店内。

兵士達に囲まれてビールを飲むガイ。

兵士1「いやー、それにしてもガイ様は腕を上げられた!」

兵士2「まことに!ズルをせねばもう我々は敵いませんな!」

ガイ「ったくお前らは…」

兵士3「しかしシャングリラ王国のように平和な国では、せっかくのガイ様の腕前も宝の持ち腐れですな!」

兵士1「まこと、有難いことではあるがな!」

兵士2「そうだそうだ!我々が暇だというのは国が平和な証拠!」

兵士1「ホライズンランドなどは今大変そうだからな」

ガイ「ホライズンランド…」

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兵士1「ガイ様もお聞き及びでしょう。先日国王が崩御なされてから内戦が勃発し…」

兵士2「後継がおられなかったからなあ…家臣達が争い合うなど、まこと見苦しいことだ!」

兵士1「その点、我らがシャングリラ王国は安泰だ!ロイ様に加え、我らがガイ様もおられるのだからな!」

賑やかに談笑して盛り上がる兵士達。

その横でガイは静かに物思いに耽っている様子。

ガイ「ホライズンランドか…」

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○城内のガイの自室・(夜)

大きな窓辺に座り、月を見上げているガイ。

ノックが聞こえ、サイが入ってくる。

サイ「ガイ様、お呼びでしょうか?」

ガイ「うん」

外出着のガイを見て驚くサイ。

サイ「ガイ様、そのお姿は…?」

ガイ「俺は、今夜城を出る」

サイ「なんと!」

ガイ「いや、城というか、シャングリラ王国を出る!」

サイ「そ、そのようなこと…なぜ…」

ガイ「俺はな、幸運にもこのような境遇に生まれ、何不自由なく育ってきた。このまま王国に留まり、国王となられる兄上をお助けするのが俺の正しい道だとわかってはいる…」

サイ「…」

ガイ「だがな、1人のただの人間になって、自分の人生を切り開いてみたいのだ。この広大なシャングリラ王国の外に出て、どのような世界が広がっているのか自分の目で確かめたい」

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黙ってガイの話を聞いていたサイが口を開く。

サイ「…あなた様は剣の腕前も素晴らしく、人望もおありだ。本来ならばお兄様と同様に一国の主人も十分に務められる器のお方…」

ガイ「…兄上はきっと素晴らしい国王におなりだ。ましてこのように家族に愛されて育った身にはクーデターなど起こす気にもならぬ」

大きくため息をつき、諦めた表情のサイ。

サイ「…私が今さらお止めしても無駄でしょう。どうぞご無事で…」

ガイ「俺の一度きりのわがままだ。許せ…」

サイ「ご家族には明朝私からご説明を」

ガイ「…世話をかけるな」

気を取り直してふと、疑問を投げかけるサイ。

サイ「しかしガイ様、本当の理由は…」

ガイ「…家族の愛情が…重すぎるのだ!」

サイ「おお…ガイ様…おいたわしい…見ているこちらが恥ずかしくなるほどの愛されよう…」

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○シャングリラ城外・(夜)

月明かりの元、馬にまたがるガイ。

振り向いて城を見上げる。

ガイ「さらば、母上、兄上!」

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○場面転換

鬱蒼としたどこかの森の中。

巫女の装束のまま、気絶して横たわるあすみ。

傍にはエクスカリバーが怪しく輝いている…
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○ホライズンランド内 どこかの森の中

横たわって眠っているあすみ。巫女の装束は着けたまま。

何かがあすみの頬をベロンと舐める。

あすみ「う、うーん…」

目を開けるあすみ。大きな鹿の顔が目の前に。

あすみ「わ、わー!!」

あすみの声に驚いて逃げて行く鹿。

あすみ「あーびっくりした…鹿さんかあ…って!?」


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慌てて飛び起きるあすみ、キョロキョロと辺りを見回す。

あすみ「ここは…?」

辺りには見たこともない植物が生い茂っている。

あすみ「神社じゃないし…ジャングル??えーと…私はお祭りで五輪神社で踊ってて、それからエクスカリバーさんが急に光って…」

色々思い出した様子のあすみ。

あすみ「エクスカリバーさん!?」

見回すと、足元に落ちているエクスカリバー。

あすみ、大事そうに拾い上げる。

あすみ「エクスカリバーさん!エクスカリバーさん!」

エクスカリバー「…」

沈黙したままのエクスカリバー。

あすみ「…舞台では喋ってた気がするんだけど…」

あすみ、辺りを見回して、

あすみ「…とりあえず、人がいる場所に行こう!」

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○ホライズンランドの首都

エクスカリバーを抱えながら、キョロキョロと大通りを歩くあすみ。

あすみ「なんだろう…ヨ、ヨーロッパに来ちゃったの??それにしても皆さんおとぎの国みたいな格好して…」

自分達と違う風貌のあすみをジロジロと見ながら通り過ぎる通行人達。

あすみ「どう見ても日本じゃないよね…?え、英語通じるのかな…」

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あすみ、露天商のおじさんにおずおずと話しかける。

あすみ「あ、あのう…えくすきゅーずみー…」

露天商、あすみを怪訝な顔で見て、

露天商「ん?なんだ?…変わった格好だな」

あすみ「良かった!日本語わかるんですね!…ここはどこなんでしょう?」

露天商「ああん!?ホライズンランドの首都!キャピトルだろうが!」

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あすみ「ほらいずんランド??ヨーロッパですか?」

露天商「ヨーロ??何だか知らんけど、ここは世界の最果て、ホライズンランドなんだよ!」

あすみ「は、はあ…」

露天商「あんた何も買わないならどっか行ってくれ!…まったく…」

あすみ「す、すみません、お邪魔してしまって!」

あすみ、すごすごと立ち去る。

あすみ「どうしよう、スマホも持ってきてないし…とりあえず、公衆電話かネカフェを探そう!」

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○路地裏

ウロウロと彷徨っているあすみ。

あすみ「無いよー、電話もネカフェも交番も無いよー」

ため息を吐きながら独り言を話し始める。

あすみ「だいたいおかしいよ、目が覚めたらこんな知らない場所にいるなんて…誰かに拐われたにしても放っておくなんて酷い!せめて目的とかさ、教えてくれたりさ…」

ぶつぶつと呟きながらいじけ顔のあすみ。

すると、突然目の前にガラの悪そうな男が立ちはだかる。

驚いてぶつかりそうになるあすみ。

あすみ「わわっ」

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男、ジロリとあすみを見下ろして、

男「お前、異国の子供か?」

あすみ「こ、子供!?(ムッとして)私、高校生ですよ!?」

構わず続ける男。

男「その奇妙な服に漆黒の髪色…」

あすみ「そ、そうなんです。多分私は外国人で…誰も知り合いがいなくて困ってるんです!」

男、ニヤリと微笑んで、

男「そうかそうか、それなら俺が助けてやるよ。一緒に付いてきな」

あすみ「わーありがとうございます!良かった!親切な方に声をかけてもらって!」

素直すぎるあすみにちょっと引いている男…

男(なんて引っかかりやすいんだ…)

男「こっちだ!俺の仲間達もいるから」

あすみ「はい!」

男、歩きながら振り返り、

男「ところでお前、どこから…ってあれ!?」

忽然と姿を消しているあすみ。

男「何だ!?消えちまった…」

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○真っ暗な家の中

何者かに背後で口を塞がれているあすみ。

ドアに耳をつけ、外の様子を伺っているあすみを捉えた人物。

レイ「…行ったか」

あすみを解放するレイ。

あすみ「ぷはー!」

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顔を上げると、20歳くらいの金髪の女性が立っている。

あすみ「あ、あの…」

レイ「あなたねー、あんなチンピラにのこのこついていく奴がいますか!」

あすみ「あ、でもあの人助けてくれようとして…」

レイ「んなわけないでしょーが!どう見てもあなたを女衒の元に連れてって売っぱらうつもりだったでしょーが!」

あすみ「売っぱらう…」

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レイ「私が!たまたま2階の窓からあなたを見てたから助けられたけども…まったく!」

青ざめているあすみ。

あすみ「私…てっきり…」

呆れて怒りが収まらない様子のレイ。

レイ「今のホライズンランドは子供が1人でうろうろできる状況じゃないんですよ⁉︎しかもそんなおかしな格好で髪まで真っ黒 で…」

あすみ「私、私…」

あすみの目からポロポロと涙が溢れる。

とたんにあたふたするレイ。

レイ「わわっ、泣かなくても!す、すみません、ちょっとキツく言いすぎたかな…」

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あすみ「…ごめんなさい。あの、誰も知り合いがいなくて…歩くのももう疲れて…やっと、助けてくれる人に出会えたと思ったのに…」

泣いているあすみを前に、やれやれと言う表情で見つめるレイ。

レイ「何か事情がありそうですね…しばらくはこの家で休みなさい。どうせ私しか居ませんしね」

あすみ「あ、ありがとうございます…えっと…」

レイ「レイ、薬屋のレイです」

にっこりと微笑むレイ。

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○レイの家・居間

居間に続く台所でお茶を淹れる準備を始めるレイ。

レイ「今、お茶を淹れてあげるから、ゆっくりして下さいね」

あすみ、家の中をキョロキョロと見渡す。

棚には色々な瓶がぎっしりと詰められていて、天井からは無数に乾燥した植物らしきものが吊り下げられている。

あすみ「あの、レイさんはお薬屋さんなんですか?」

レイ「そうです。うちは代々薬屋」

あすみ「あ、あの…私、あすみって言います。それで、その…なんて説明したらいいか…」

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レイ、急に苦しそうな表情であすみを見て、

レイ「…いいよ!言わなくて良いです!あなたのその格好…だいたい想像がつきました…」

あすみ「ん?あ、これは巫女の…」

レイ、あすみを遮って、

レイ「あなた、貴族の家の召使ですね?まだ子供なのに、家が貧しいんですねぇ…かわいそうに」

あすみ「ん??あ、いや…」

レイ「それにその格好!主人の夜伽の相手をさせられそうになったんですね!ああ、かわいそうに…」

あすみ「よ、ヨトギ?」

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レイ「金持ちってのはロリコンの変態が多いって本当なんですね!あなたまだ子供じゃないですか!」

あすみ「あ、あのレイさん?ちょっと話が…」

レイ、なおも遮って、

レイ「それにその剣!ぼろっちく見えるけど、立派な装飾ですね…路銀の足しにしようとしてロリコンの貴族の家からかっぱらってきたんですね!」

エクスカリバー「…」

あすみ「あ、エクスカリバーさんは聖なる剣で…」

全然あすみの話を聞かないレイ。

レイ「わかってます!逃げ出してきたは良いけど、どうせ家にも帰れないし…何故ならあなたの家は貧しいから…嗚呼!かわいそうに!!(涙ぐんでいる)」

あすみ「えーと、レイさん…?」

レイ、あすみに駆け寄り手を握る。

レイ「大丈夫です!しばらくここにいても良いですよ。どうせ家族も疎開して私1人なんだから!遠慮しなくて良いですよ!」

あすみ「あ、アリガトウゴザイマス…?」

レイ「うんうん今まで辛かったですねぇ」

レイ、あすみを引き寄せて頭をヨシヨシする。

あすみ(レイさん何か勘違いしてるけど、話を聞いてくれない…)


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○場面転換して、シャングリラ王国内・田舎道

のどかな牧草地を馬に乗って移動するガイ。

ガイ「もう城を出て5日も立つのに、まだシャングリラ王国内から出ないな…今はどの辺りだろう」

遠くに小さな町が見える。

ガイ「よし、今日はあの町で泊まろう」

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○シャングリラ王国外れの小さな町

馬を引きながら町に入ってくるガイ。

沢山の人たちで町はごった返している。

ガイ「…何だ?このような小さい町にしては人が多いような…」

家財道具を乗せたリヤカー等を引っ張り行き交う人々。

ガイ「随分と旅人が多いな。それに皆すごい荷物だ」

広場の一角、人だかりができて、新聞屋が号外をばら撒いている。

新聞屋「号外!号外だよ!」

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ガイ「ん?なんだ?」

ガイ、落ちていた新聞を拾い上げる。

ガイ「わー!何だこれは!」

新聞の一面にカボチャパンツ姿のガイ。下に小さく王妃(泣き顔)と兄ロイの写真。

見出しには、『家出したお騒がせ王子ガイ様!生きたまま連れ帰った者には報奨金!』

集まった人々が話している。

町人1「報奨金て、いくら貰えるんだ!?」

町人2「とりあえず、生きていればいいんだな?」

会話を聞いて青ざめるガイ。

ガイ「大変だ…」

フードを深く被り、こそこそとその場を離れる。

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○町外れの酒場

ガイ、酒場に入ってきて、やれやれとテーブルに腰を下ろす。

ガイ「ふー、」

酒場の女将「いらっしゃい!お兄さん何にする?」

ガイ「とりあえず水と、何か食べ物をくれないか」

酒場の女将「あいよっ」

ガイ、拾った号外を握りしめて、

ガイ「まったく母上は…」

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ガイの隣のテーブルでは、男達が雑談をしている様子。

隣の客「…とにかく、ホライズンランドはもうおしまいだ」

客2「お世継ぎがおられないんじゃしょうがないなあ」

客1「国王が崩御されてからみるみる荒れてしまって…」

ガイ(なるほど、それでシャングリラ王国内に難民が押し寄せているのか…)

客1「家臣達が玉座を巡って争っているからな。これは長引きそうだ」

客2「こんな時こそ“聖剣の乙女”が現れてくれたら良いんだが」

思わず会話に参加するガイ。

ガイ「聖剣の乙女?」

客2「にいちゃん知らないのか?ホライズン王国に伝わる伝説だよ」

ガイ「伝説…」

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客1「その昔、聖剣を携えた清らかな異世界の乙女が、王を選んだって言う伝説さ」

客2「もう何千年も昔の、ホライズンランドの昔話さ」

客3「とっくの昔に聖剣も失われて行方不明だ」

ガイ「ふーん、聖剣の乙女か…」

客の1人がガイの顔を覗き込む。

客1「あれ?にいちゃんどこかで見た顔じゃねえか?」

客2「ん?俺も見覚えがあるような…」

青ざめてフードを被り直すガイ。

ガイ「わー!お、俺、たまに八百屋でバイトしてるからっ、た、多分そこで…。も、もう帰らないと!」

ガイ、慌てて立ち上がり、逃げるように酒場を出る。

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○酒場の外

ガイ「危なかった!号外をばら撒くなんて…母上を甘く見ていた…!」

空を見上げると、もう暮れかかっている。

ガイ、ため息を吐いて、

ガイ「今夜は街を出て野宿するしか無いな…」

○町の外

沢山の人々がテントを張り、焚き火で料理などしている。

ガイ「ホライズンランドの人々はここでキャンプをしているのか…」

《page22》

ガイ、少し離れた場所に馬を繋ぎ、袋からカチカチのパンを取り出す。

ガイ「今夜はこれしかないな…」

辺りを見回すと、近くで焚き火をしている家族の元へ歩み寄る。

ガイ「あの、すみません、このパンを温めさせて貰いたいのだが…」

快く応じてくれる父親。

父親「どうぞどうぞ!」

ガイ「ありがたい!」

《page23》

ガイ、パンを木に刺して炙る。

父親、ガイのパンを見て、

父親「…ん?君の食事はそれだけかね?」

ガイ「あ、ああ…ちょっと事情があって…」

父親「お母さん!スープ残ってたね?この若者に出してあげなさい!」

ガイ「いやいや、そんな!申し訳ない!」

父親「困った時はお互い様だ。こんな時こそ助け合わないと!」

ガイにウィンクして見せる父親。

ガイ「…では、あなた達もホライズンランドから?」

《page24》

父親、深刻そうな顔になり、

父親「うむ。ここのキャンプの人達はみんなそうだよ。ホライズンランドは酷い有様だ」

ガイ「そのようだな…」

母親、温めたスープを持ってくる。

母親「どうぞ!キノコしか入ってないけど美味しいわよ!」

スープを受け取るガイ。

ガイ「ありがたい…!」

美味そうにスープを口に運ぶ。

父親「ところで君は…」

《page25》

ガイ「…俺はこれからホライズンランドに行ってみようと思う」

父親「なんと!」

ガイ「自分の目で何が起きているのか確かめたい!」

父親「…」

ガイ「俺はシャングリラ王国から出たことがないからな。本当に何も知らないのだ…今だって、このように旅に出ていなかったらホライズンランドの惨状も知らなかった…」

《page26》

突然家族の子供が父親の元へ駆けてくる。

子供「パパー!」

父親、笑いながら子供を受け止める。

子供、ガイの顔をじっと見つめる。

子供ににこやかに応じるガイ。

ガイ「ん?なんだい?」

子供、ガイを指さして、

子供「このお兄ちゃん知ってるー」

ガイ、ギョッとする。

子供「かぼちゃのパンツがあ…」

慌てて子供を遮るガイ。

ガイ「ああっと!ゴホン!それじゃあ、俺はもう寝るよ!明日早いからな!」

父親「うん?そうかい、おやすみ」

ガイ「世話になったな!おやすみ!」

ガイ、そそくさと立ち去る。

ガイ(あっぶねー)


《page27》

○場面転換・翌朝

荷物をまとめて旅立つ準備をしているガイ。

父親「おーい!昨日の若者!」

遠くから父親が駆け寄ってくる。

ガイ「おう!昨日は世話になったな!」

父親「君に頼みがあってね。ホライズンランドに行ったらこの包みを私の娘に渡して貰いたいのだ」

ガイ「えっあんたの娘はまだ残ってるのか?」

《page28》

父親「ああ、一番上の娘がな。こんな時こそビジネスチャンスとか何とか言って…」

ガイ「へ、へぇ…たくましいな」

父親「言い出したら聞かないんだよ。とにかく、この包みを頼むよ。住所も書いておいた」

ガイ「わかった!預かろう」

ガイ、荷物を受け取って荷造りを再開する。

父親、ガイの後ろ姿をじっと見つめて、

父親「…ところで…どこかで見た顔だと思ったら、君はガイ王子じゃないかね?」

驚いて振り向くガイ。

ガイ「!!」

《page29》

得意顔になる父親。

父親「やはりな。新聞の写真とはあまりにも衣装が違うので、もしやと思ったが…」

ガイ、赤面して、

ガイ「あ、あの屈辱的な衣装は母上が勝手に…!」

父親「ふっふっふ…もう一つ当てて見せよう。さては、君、家出と見せかけて花嫁探しの旅に出るのだね?」

ガイ「ん??花嫁??」

したり顔の父親。

父親「あー!やはりな!王族にありがちな、決められた政略結婚が嫌で、自ら花嫁を探す旅に出るのだな!?」

ガイ「ち、ちがっ…」

父親、ガイを遮って、

父親「いやー!わかっとるわかっとる!ワシも若い頃は絶対恋愛結婚がしたいと思って、親の薦める見合い相手ではなく自力で妻を…」

ガイ「おっさん…勘違いしてるぞ…」

《page30》

またもやガイを遮る父親。

父親「あー!心配するな!報奨金目当てに君を売ったりせんよ!わしはそこまで野暮じゃない!」

ガイ「…」

遠くで妻の呼ぶ声

妻「あなたー!」

父親「む、我が愛妻が呼んでおる。じゃあ、ガイ王子、小包みを頼んだぞ!」

ガイ「お、おう…」

《page31》

父親、去り際に振り向き、

父親「あ、それと…わしの娘も中々美人だからな。惚れるなよ!?」

ガイ「…」

父親「まあ、そうなったらワシも王族と親戚か!」

父親、ガハハと笑いながら去る。

ガイ(なんちゅう思い込みの激しいおっさんだ…)

《page32》

〜その頃のあすみとレイ〜

○場面転換してレイの店

キッチンで料理しながら泣いているレイ。

レイ「あすみはきっと、あんなこともこんな事もされたに違いない…(泣)嗚呼、本っ当に可哀想な子だ!」

ドアの隙間からそっと見ているあすみ。

あすみ(レイさんの思い込みで私がどんどん悲惨なキャラ設定になってる…)




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