事件の顛末を記しておこう。
貴族の屋敷を半壊させたわけだから、当然、すぐに騎士団、憲兵隊の両方が駆けつけてきた。
我に返ったゴーケンは俺を捕まえるようにわめいたものの、こちらにはネコネとエリンがいる。
彼女達の証言で、逆にゴーケンが逮捕されることになった。
もちろん、アーニやフリス。ドグも逮捕された。
いずれも国家反逆罪が適用される。
フリスとドグはまだ若いため減刑されるかもしれないが……
ゴーケンとアーニは間違いなく死罪となるだろう。
そして俺は……
――――――――――
「おはよう」
登校すると、すでに教室にはネコネがいた。
挨拶をすると、にっこりと笑顔を返してくれる。
「おはようございます、スノーフィールド君」
彼女の笑顔は癒されるな。
城でいかつい騎士団長や厳しい顔しかしていない王の顔ばかり見ていたせいか、尚更そう思う。
「改めて、ありがとうございました」
「またか?」
あれから何度も礼を言われている。
でも、ネコネはまだ言い足りないらしく、こうしてちょくちょく頭を下げてくる。
「本当に気にしないでくれ。あれは……」
任務だから助けた。
でも……
「友達を助ける、俺は当たり前のことをしただけだ」
そんな理由があってもいいような気がした。
「ありがとうございます。ですが、やはりなにもお礼がないというのは……」
「礼なら国から色々ともらったよ」
「それはそれ、これはこれです。エリンの姉として、妹を助けてもらったお礼をしたいのです」
「そう言われてもな……」
「私になにかしてほしいことはありませんか? なんでも構いません」
年頃の女の子がなんでも、とか言わない方がいいぞ。
「なら、一つ頼みたいことがある」
「はい、なんですか?」
「……アレをなんとかしてくれないか」
「アレ?」
ネコネが不思議そうに小首を傾げた。
と、次の瞬間……
「いたっ、ジーク様!」
とても元気な声。
振り返るとエリンがいた。
にっこりと満面の笑み。
そのまま勢いよく駆けてきて、俺に抱きついてくる。
「おはよ、ジーク様! 朝からジーク様に会えるなんて、あたし、なんて幸せ者なのかしら」
「えっと……エリン?」
「あ、お姉ちゃんもおはよう」
「おはよう……ございます?」
これは本当に私の妹か?
偽物では?
なんていう感じで、ネコネが顔をひきつらせていた。
そして、説明を求めるような感じでこちらを見る。
「レガリアさんは知らなかったな……あれから、ずっとこんな調子なんだ」
「ずっと……」
「だから、なんとかしてくれると助かる」
「えっと……エリン? 私の記憶の限りでは、エリンはスノーフィールド君を敵視していたように思うのですが……」
「あれは、あたしの黒歴史よ」
エリンは俺に抱きついたまま、きっぱりと断言してみせた。
「ジーク様に対する数々の無礼……ああもう、あの時のあたしは本当にどうかしていたわ。バカ、あたしのバカ! 過去に戻れたら、あの頃のあたしを徹夜で説教してやりたいわ。それと同時に、ジーク様の素晴らしさを3日かけて説明するの」
そう語るエリンは、目をキラキラと輝かせていた。
本当にエリンなのだろうか?
何者かが王女になりすましているのではないか?
そんな可能性を疑い、ありとあらゆる方法で調べたものの、エリンはエリンだった。
つまり……
先日の誘拐騒動をきっかけに心境の変化があったらしい。
俺のことを物語に出てくる王子様のように思い、こんな態度をとるようになった、というわけだ。
「……勘弁してほしい」
護衛対象に好かれるのは問題ないが、だからといってこれは困る。
こうもつきまとわれていたら、俺の正体がバレてしまうかもしれない。
そう。
俺は、このまま学院に残ることになった。
まだまだ王家の敵は多い。
王女が狙われる可能性もある。
ということで、ネコネと……さらにエリンの護衛も追加された。
仕事を押しつけすぎだ。
ブラックか。
まあ、その分報酬を追加要求したから、ウィンウィンの関係ではあるが。
「ジーク様、今日はヒマ? 時間ある? よかったら、あたしと一緒にデートしましょう。街で遊んで、ごはんを食べて、それから夜は……きゃーきゃー!」
「むぅ……」
なにやら勝手に盛り上がるエリン。
そして、なぜかネコネが不機嫌そうになる。
「レガリア、俺は別に君と遊ぶつもりは……」
「エリン」
「え?」
「エリン、って名前で呼んで。でないと返事、一切しないから」
「いや……レガリア?」
「……」
「……エリン」
「うん、なに?」
にっこりと笑うエリン。
この変わりよう、いったいどういうころだろう?
あの事件で好意を抱かれたのだろうが、だからといって変わりすぎだろう。
「スノーフィールド君」
ふと、ネコネが口を開く。
なにやら怖い顔をしているが……?
「私のことも、今後はネコネと名前で呼んでください」
「……どうしてそうなるんだ?」
「どうしても、です」
答えになっていない。
「……ネコネ」
「はい♪」
とても良い笑顔をされてしまった。
「あ、お姉ちゃんずるい!」
「ずるくなんてありません。それを言うのなら、エリンこそずるいです」
「そんなことないし」
「そんなことあります」
「えっと……」
任務をしつつ、学院の技術を学び、さらなる段階へ上がるつもりだった。
それなのに実際は、二人の王女に翻弄される日々。
どうして、こんなことになってしまったのだろう?
「……まあ」
これはこれで悪くないのかもしれないな。
苦笑しつつ、俺は窓の外を見た。
空は青く晴れていて、白い曇がゆっくりと泳いでいる。
その中で輝く太陽はどこまでも明るくて、まぶしくて……そして、温かかった。
貴族の屋敷を半壊させたわけだから、当然、すぐに騎士団、憲兵隊の両方が駆けつけてきた。
我に返ったゴーケンは俺を捕まえるようにわめいたものの、こちらにはネコネとエリンがいる。
彼女達の証言で、逆にゴーケンが逮捕されることになった。
もちろん、アーニやフリス。ドグも逮捕された。
いずれも国家反逆罪が適用される。
フリスとドグはまだ若いため減刑されるかもしれないが……
ゴーケンとアーニは間違いなく死罪となるだろう。
そして俺は……
――――――――――
「おはよう」
登校すると、すでに教室にはネコネがいた。
挨拶をすると、にっこりと笑顔を返してくれる。
「おはようございます、スノーフィールド君」
彼女の笑顔は癒されるな。
城でいかつい騎士団長や厳しい顔しかしていない王の顔ばかり見ていたせいか、尚更そう思う。
「改めて、ありがとうございました」
「またか?」
あれから何度も礼を言われている。
でも、ネコネはまだ言い足りないらしく、こうしてちょくちょく頭を下げてくる。
「本当に気にしないでくれ。あれは……」
任務だから助けた。
でも……
「友達を助ける、俺は当たり前のことをしただけだ」
そんな理由があってもいいような気がした。
「ありがとうございます。ですが、やはりなにもお礼がないというのは……」
「礼なら国から色々ともらったよ」
「それはそれ、これはこれです。エリンの姉として、妹を助けてもらったお礼をしたいのです」
「そう言われてもな……」
「私になにかしてほしいことはありませんか? なんでも構いません」
年頃の女の子がなんでも、とか言わない方がいいぞ。
「なら、一つ頼みたいことがある」
「はい、なんですか?」
「……アレをなんとかしてくれないか」
「アレ?」
ネコネが不思議そうに小首を傾げた。
と、次の瞬間……
「いたっ、ジーク様!」
とても元気な声。
振り返るとエリンがいた。
にっこりと満面の笑み。
そのまま勢いよく駆けてきて、俺に抱きついてくる。
「おはよ、ジーク様! 朝からジーク様に会えるなんて、あたし、なんて幸せ者なのかしら」
「えっと……エリン?」
「あ、お姉ちゃんもおはよう」
「おはよう……ございます?」
これは本当に私の妹か?
偽物では?
なんていう感じで、ネコネが顔をひきつらせていた。
そして、説明を求めるような感じでこちらを見る。
「レガリアさんは知らなかったな……あれから、ずっとこんな調子なんだ」
「ずっと……」
「だから、なんとかしてくれると助かる」
「えっと……エリン? 私の記憶の限りでは、エリンはスノーフィールド君を敵視していたように思うのですが……」
「あれは、あたしの黒歴史よ」
エリンは俺に抱きついたまま、きっぱりと断言してみせた。
「ジーク様に対する数々の無礼……ああもう、あの時のあたしは本当にどうかしていたわ。バカ、あたしのバカ! 過去に戻れたら、あの頃のあたしを徹夜で説教してやりたいわ。それと同時に、ジーク様の素晴らしさを3日かけて説明するの」
そう語るエリンは、目をキラキラと輝かせていた。
本当にエリンなのだろうか?
何者かが王女になりすましているのではないか?
そんな可能性を疑い、ありとあらゆる方法で調べたものの、エリンはエリンだった。
つまり……
先日の誘拐騒動をきっかけに心境の変化があったらしい。
俺のことを物語に出てくる王子様のように思い、こんな態度をとるようになった、というわけだ。
「……勘弁してほしい」
護衛対象に好かれるのは問題ないが、だからといってこれは困る。
こうもつきまとわれていたら、俺の正体がバレてしまうかもしれない。
そう。
俺は、このまま学院に残ることになった。
まだまだ王家の敵は多い。
王女が狙われる可能性もある。
ということで、ネコネと……さらにエリンの護衛も追加された。
仕事を押しつけすぎだ。
ブラックか。
まあ、その分報酬を追加要求したから、ウィンウィンの関係ではあるが。
「ジーク様、今日はヒマ? 時間ある? よかったら、あたしと一緒にデートしましょう。街で遊んで、ごはんを食べて、それから夜は……きゃーきゃー!」
「むぅ……」
なにやら勝手に盛り上がるエリン。
そして、なぜかネコネが不機嫌そうになる。
「レガリア、俺は別に君と遊ぶつもりは……」
「エリン」
「え?」
「エリン、って名前で呼んで。でないと返事、一切しないから」
「いや……レガリア?」
「……」
「……エリン」
「うん、なに?」
にっこりと笑うエリン。
この変わりよう、いったいどういうころだろう?
あの事件で好意を抱かれたのだろうが、だからといって変わりすぎだろう。
「スノーフィールド君」
ふと、ネコネが口を開く。
なにやら怖い顔をしているが……?
「私のことも、今後はネコネと名前で呼んでください」
「……どうしてそうなるんだ?」
「どうしても、です」
答えになっていない。
「……ネコネ」
「はい♪」
とても良い笑顔をされてしまった。
「あ、お姉ちゃんずるい!」
「ずるくなんてありません。それを言うのなら、エリンこそずるいです」
「そんなことないし」
「そんなことあります」
「えっと……」
任務をしつつ、学院の技術を学び、さらなる段階へ上がるつもりだった。
それなのに実際は、二人の王女に翻弄される日々。
どうして、こんなことになってしまったのだろう?
「……まあ」
これはこれで悪くないのかもしれないな。
苦笑しつつ、俺は窓の外を見た。
空は青く晴れていて、白い曇がゆっくりと泳いでいる。
その中で輝く太陽はどこまでも明るくて、まぶしくて……そして、温かかった。