僕たちは最初から避妊をしなかった。それは二人とも前の結婚で子供ができなかったからと、天からの授かりものと思ったからだった。

愛し合って果てるときに紗奈恵は「赤ちゃんがほしい」と僕によくしがみついていた。それでも期待はしていたものの妊娠はしなかった。

紗奈恵は東京での生活に慣れてくると、近いところに働けるところを探した。電車で2駅の病院に管理栄養士として就職した。

彼女は仕事を優先しなかった。できるだけ定時に帰っていた。無理をしなくてもよいといっても定時に帰ることを心がけていた。

僕も仕事が終わればすぐに帰ることにしていた。僕も彼女も二人の生活と時間を大切にした。

休日には僕は紗奈恵を東京の観光スポットと言われるところを連れ回った。また、一日ショッピングに付き合ったり、美味しいものを食べに出かけたり、また一日部屋にいてゆっくり二人で過ごしたりもした。

お互いの呼び方も変わっていった。僕は紗奈恵を最初は君と呼んでいたが、紗奈恵ちゃんになり、サーちゃんになっている。紗奈恵も僕のことをあなたとか雅治さんとか呼んでいたが、いつの間にかマー君と呼ぶようになっている。

僕たちにはやはり子供ができないかもしれないと心配していたが、2年後、紗奈恵は妊娠した。体調がすぐれないので勤めている病院で診てもらったら妊娠が分かった。諦めかけていたので紗奈恵の喜びようはなかった。

紗奈恵の両親が喜んだことは言うまでもない。そして紗奈恵は実家へ帰って、可愛い女の子を産んだ。予定日よりも1週間早かった。

僕は出産には立ち会えなかったが、すぐに駆け付けて、生まれたばかりの我が子を抱いた。両手にすっぽり入るほどの小さな命だった。すっかり憔悴した紗奈恵が嬉しそうに笑っていた。その憔悴した笑顔が今も忘れられない。僕はようやくパパになった。

僕はその時、買っておいた指輪を持っていった。婚約指輪を買ってあげていなかったし、改めて買ってあげることもなかったのでよい機会だと思った。誕生日は僕と同じ9月だったのでサファイヤの指輪にした。

紗奈恵のその憔悴した力のない指に「頑張ったね、ありがとう」と言って嵌めてあげた。紗奈恵は「ありがとう大切にします」と泣きながら言った。

赤ちゃんを美奈と命名した。母親に似て顔立ちが整っている。人を癒せる優しい娘に育ってほしいと願ってつけた。

◆ ◆ ◆
今、僕と紗奈恵は離れて寝ている。ただ、その間には美奈が眠っている。僕はその小さな身体をいつも手で触れている。紗奈恵もそうだ。いつも手を触れて美奈と繋がっている。そして3人が繋がっている。

夜中に美奈がピーと泣く。僕は跳び起きてすぐにおむつを替える。紗奈恵は赤ちゃんを抱いて乳首を口に含ませているが疲れていて半分眠っている。幸い乳の出はよい。授乳が終わるとまた3人繋がって眠りにつく。

この3人の繋がりはこの先もずっと大切していかなければならない。紗奈恵も美奈も僕の宝ものだから。

これで僕たちの見合い結婚のお話はおしまいです。めでたし、めでたし。