私が尋ねると、先輩たちはキョトンとした顔で私を見る。
「……それだけ、って?」
「それだけで批判されなくちゃいけないんですか? 理不尽すぎません?」
 理事長がなぜ供養絵画を遺言として残したのか、私にはわからない。でも設立したからこそ、自分の最期を飾ってほしいと思っても不思議ではない。上級生のほとんどが美術部の事情を知っているのなら、芸術コースの生徒に一度話がされていたのかもしれない。本当は芸術コースの誰かに描いてほしかったのではないか。――しかし、学校側の返答は「ノー」だった。
「自分から断っておいて後から評価を欲しがるとか、みっともない! 大体、芸術コースが目玉だからって何よ、美術部があったっていいじゃないですか!」
 ちやほやされた子どもが何も悪くない子を仲間外れにする、自分の地位を優先した勝手な行動にしか思えない。生徒はともかく指導者の立場である教師と学校側がするべきことではないと、私は思う。中には学校側の事情というものがあるのだろう。それでも芸術コース以外の生徒が絵を描いたり彫刻に興味を持つことを否定していい理由にはならないはずだ。
「おおう、怒ってんなー。ちょっと水飲みな」
 高嶺先輩に促されてペットボトルの水を煽った。半分以上飲んでも、早紀のこともあって苛立ちが抑えられなかったらしい。時折埃っぽい空気が入って小さく咳き込めば、香椎先輩は鼻で笑った。
「当事者じゃない浅野がそこまで苛立つ理由がわからねぇけどさ。……ありがとな」
 これは仕方ないことだと笑う。「でも」と口を開いたけど、香椎先輩が困った顔をしていたのを見て、出かかっていた言葉を飲み込んだ。理不尽を口に出して訴える私も、学校側と同じ子どもなのかもしれない。
「ってことで、美術部は一応俺たちの代で終わりにするつもりだ。……だから、入部は勧められない」
 高嶺先輩がごめんな、と小さく呟く。本当は先輩たちも卒業した後も美術部を残したかったのかもしれない。香椎先輩がいなくても、芸術コースに入れなくても、少しでも絵に触れられる場所にいたい生徒だっているはずなのに。
 すると、香椎先輩が立ち上がり、先程まで描いていたであろうカンバスを片付け始めた。
「あれ? 香椎、今日はもう終わり?」
「そろそろ引き渡しの時間だろ。どうせ話は長くなるだろうし、戻ってきても区切りが悪くなりそうだから」
「ああ、そっか。興奮して忘れてた」
 高嶺先輩が腕時計を見て、納得したようにいう。
「そうだ、浅野さんも行く?」
「行くって、どこにですか?」
 生憎、先程の会話だけで二人がどこに行くか読み取れるような高等技術は持ち合わせていない。長年の付き合いでお互いが考えていることができるようになるという話も、信憑性に欠けることもあって信じていない。
 換気のために開けっ放しになっていた窓を閉めた香椎先輩は、口元をニヤリと歪ませた。
「展示ホールに一時保管させてもらってた『明日へ』の絵の引き渡し。せっかくだから立ち会えよ」