美紀は自分の賢さに自信があった。テストの点数の良し悪しではなく、持って生まれた特質的なものだ。要領の良さ、呑み込みの早さと言ってもいい。
 だから学友たちのことは少なからず下に見ていた。お勉強ができたところで世の中のことがわからないのではしょうがないじゃないか。社会に出てから学ぶものとはいえ、あまりにも皆考え方が幼すぎた。

 男の子は特にそうだ。美紀は中学生の頃、家庭教師の大学生と付き合っていた。付き合うといっても軽くキスをした程度だ。受験が終わればそれきりだった。だがこの経験のせいで美紀の目には同級生の男子など益々子どもに思えた。

 みんな頭が悪い。身勝手で自分のことしか考えていない。話を合わせるのが苦痛だ。そう思う自分だって自分のことしか考えていなかったわけだが、当時の美紀はそのことに気づけなかった。子どもだったのだ。

 由梨は違う。聡明で、頼りなさそうに見えるのに物怖じしない。美紀の賢さが小賢しい類のものであるなら、由梨はそれこそ本質的に物事を見抜く目を持っていた。
 それを悟ったとき、始めは由梨に嫉妬した。彼女のそれは得難い才能のように思えたのだ。自分より上にいる人間なのだと思えて悔しかったのだ。

 だけど由梨の生い立ちを聞いたとき、美紀の意識は百八十度変わった。安心したのだ。育ってきた環境が違いすぎる。才能の有無ではなく、人の能力を決めるのは家庭環境なのではないだろうか。そう思えるくらいに。
 こんな自分だから由梨がわかるのだ。誤解もなく欲もなく、話ができるのだ。本当の友だちだと思った。

 だから由梨がくだらない男子と付き合い始めたときには腹の底から怒りが込み上げた。由梨は自分の価値をわかっていない。だから手作り弁当なんてくれてやったあげくに突き返されるなんて仕打ちを受けた。男の方が由梨に見合う相手じゃなかった。

 なのに由梨は自分が悪いと落ち込んだ。バカな子だ。あんなに聡明なのに自分のことはわかっていない。早々に別れたことは喜ばしかったが、美紀は卒業するまでバスケ部のその男に嫌がらせを繰り返した。これは今でも由梨には内緒の話だ。