〇〇市で今日、歩行者が車道に飛び出し乗用 車と衝突する事故がありました。警察によりますと、この事故で歩行者が意識不明となり病院に搬送されたとのことです。
「赤信号で信号待ちをしていたところ、隣から女の子が歩きだした」という目撃者の証言から、自殺を図ろうとしたとみて捜査が行われています。
ピピッ ピピッ──────
不快な電子音が私を夢から引き戻す。
鳴り止まないスマホのアラーム。
朝かぁ。
重たい瞼は未だ閉じたまま、布団から何とかスマホを探し出し、アラームを止める。
「まだ寝てたい……。」
昨日の夜、遅くまで勉強をしていたせいなのか疲れが未だ残っている。
でも、いつまで寝ているわけにはいかない。身体を起こしベッドから降りる。
カーテンを開ければ眩しい日差しが部屋へと入ってくる。気持ちがいい。軽く伸びをする。
私はこの時間が好きだ。どんなに眠くて辛い朝でも爽やかな気分になるから。
少しの間、朝日を見ながらのんびりしていると、朝食の時間が近づいていたことに気付いた。
朝はやることがいっぱいある。
私は急いで部屋を出ていく。
まずはキッチンへと向かった。
「今日は何も作ろうかな。」
私の1日は朝食の準備から始まる。
和食を好む父のため、
今日のメニューは
おにぎり・味噌汁・ソーセージ・卵焼きとなった。
私は急いで調理に取り掛かる。
「お父さんは甘めが好きなの」
前にお母さんが卵焼きの作り方を教えてくれた時に言ってたな。
そんなことを思い出し、味付けは甘めにすることに。
小さい頃にお母さんから料理を教わり、いつしか唯一の特技となっていた。
当時は不器用だった私だったが料理を担当するようになって数年が経ち、手際は良いほうだと思う。
昔は上手くできなくて拗ねてたなぁ。
お母さんとの昔話を思い出していると、家族が起きてくる時間が近づいていた。
残りの料理も手早く進めていく。
準備が終わるころ、父と妹の美桜がリビングへとやってきた。
「いただきます。」
全員揃ったところで朝食を取り始める。
テレビでは、昨日の野球の試合結果の音声だけが淡々と流れている。
陽気な性格だったお母さんがいなくなってから、家族での会話は減っていた。
誰一人も喋ることは無い。それがこの家の日常。
誰もが喋らず食事をしているなか、父が口を開いた。
その場の空気が張り詰めたのを肌で感じる。
私は息を呑んで父の発言に耳を傾ける。
「テスト勉強は進んでいるのか。」
教育熱心な父は、口を開けばいつも勉強のことばかり。
「うん。」
いつ機嫌を損ねるか分からないため、無駄なことは言わないよう簡潔に答える。
「そうか、気を抜くなよ。」
父の言うことは絶対で、逆らうことは許されない。
私はより気を引き締める。
私の言葉に満足したのか、それから父から話しかけてくることはなかった。
またしばらく沈黙の時間が続いた。
「ご馳走様。」
少しでも早くこの場所から去りたかった私は、急いで食べ終わった食器を片付ける。
昔は仲の良い家族で近所でも評判だった。
昔から無愛想な父だったが、明るいお母さんのおかげで毎日楽しかった。
変わったのはそう。
お母さんが亡くなった8年前。
誰もが悲しみ、家は一気に暗い雰囲気と化した。お母さんの存在はそれだけ大きかった。
父が変わったのもその頃だった。元々頑固で
厳しかった父。逆らうことは許されなかった。顔色を伺う毎日だった。
全てはいい職に就くため。勉強を強制される日々が始まった。
結果を出さなければ見放される。
〝お父さんに見捨てられたくない〟
その思いだけで必死に勉強してきた。
毎日のように塾に通い、寝る間を惜しんで勉強をすることも。
本当は勉強なんて苦手だった。
全ては父のため。
〝定期テストでは1番でなければ意味がない。〟
〝良い職につきなさい。〟
その言葉の数々がいつしか私を縛り付けた。
一歩も道を踏み外すことが許されない、綱渡りのように……。
進学先も、将来の職業も、決めたのは全て父だった。
私は父に従っていればいいだけ。つまり、父の用意した綱を上手く渡りきればいいだけ。そうすれば、いつかきっと父は私に振り向いてくれるはず。
そうしている間に、いつしか自分の将来に対して無関心になっていた。
幼少期の夢などとっくに忘れてしまって。
朝食後の片付けをし、朝の家事は終了した。
疲れたなぁ。
父のいる場は気が抜けない。私の体は疲労困憊の状態だった。
ひとまず深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
気持ちを切り替え、次は学校へ行くための準備。
身なりを整えるため洗面所へと向かう。
「学生のうちは勉強が第一だ。」という父の教えでメイクや手の込んだヘアアレンジはもってのほか。洗顔をし、セミロングまで伸びた髪を1つに縛るだけで身支度が整った。
真面目な女子高生の完成だ。
残った時間は、勉強時間にあてる。
「そうか、気を抜くなよ。」
リビングでの父の言葉が重くのしかかる。
集中しているとあっという間に家を出る時間になった。