ヒカリは一人で歩いて帰っていた時に何かに気付く。よく見ると、挙動不審な男が民家の近くで何かをしている。気になって見ていると、その男は慌てて逃げていってしまった。なんだったのかと心配になり民家に近寄ってみると、なんと民家に火がつけられていたのだ。

 ヒカリはすぐに消防へ連絡した。その間にも炎はどんどん燃え広がっていく。その時、家の中からかすかに声が聞こえてきたので、慌てて民家の窓をのぞいてみると、お婆さんが一人倒れていた。運よく窓の鍵がかかっておらず、ヒカリは窓を開けてお婆さんに聞こえるように、大きな声で呼びかけた。

「大丈夫ですか! 早く逃げてください!」

 お婆さんはどうにか起き上がろうとしていたが、なかなか起き上がれない。

「足が悪くて動けないんだよ」

 弱々しい声でお婆さんは言った。

 ヒカリが思っていたよりも火が回るのが早く、すぐにでもお婆さんを外まで運ばなければ助けられない状況だった。ただ、ヒカリは燃え盛る炎が怖くて、すぐに行動がとれず固まってしまう。それでも、今なら間に合う可能性が高いと思ったので、どうにか勇気を振り絞って、お婆さんのもとへ向かう決意をした。

「うわあああ!」

 とにかく余計なことは考えないようにし、急いでお婆さんに駆け寄った。

「お婆ちゃん! 背中に乗って!」
「ありがとう」

 ヒカリが思っていたよりも、おんぶするのに時間がかかるので焦りが高まる。その後、やっとおんぶができたので、急いで外に出ようと歩き出した瞬間、天井が崩れ落ちてヒカリが入ってきたルートを塞いでしまった。

「噓でしょ……」

 ヒカリは過去の火事を思い出してしまい震え始める。炎はさらに燃え広がり、地獄のような光景を作りだしていた。

 それから、数十秒ほど立ち尽くしてしまったヒカリだが、お婆さんの異変に気付く。声をかけてみても返事はないが、心臓は動いているようなので、おそらく気を失っている状態だと察した。

 ヒカリは自分がお婆さんの命を預かっていることを再認識し、怖がっている自分の頬に思いっきりビンタをした。だが、痛みは感じなかった。

「ビビってる場合じゃないよ! また大事な時に無力で後悔するような結果になっちゃう! 大丈夫……できる……できる……できる……」

 ヒカリは自分を信じる言葉を言い聞かせる。

「今の私ならできる!」

 ヒカリはしっかり見開いた目と力強い声で言い放った。全身に力が入るのがわかる。

「もう一階の出口は無理みたいだし、ここもすぐに火が回るはず……だから、もう二階に行くしかないな。……よし、いくぞー! おりゃああああ!」

 気合いで二階まで駆けあがるヒカリ。お婆さんとはいえ、一人の人間を背負って階段をのぼるというのは、想像以上に大変だった。どうにか二階にたどり着いたヒカリは、辺りを見渡し部屋が一つしかないことを確認すると、その部屋の中へ入っていった。

 だが、二階の部屋はすでに炎に包まれている状態だった。来た道を振り返ってみても、火が回っていて戻れそうにない。

「くそっ! どうしたらいいの!」

 ヒカリは途方もない状況に嘆いた。

「よくやったわね」

 どこかから聞き覚えのある声が聞こえた次の瞬間、周りの炎が全て消えて、目の前にローブ姿の女性が現れた。

「よく持ちこたえてくれた。だから助かった」

 ローブ姿の女性がそう言うと、ヒカリとお婆さんはいつの間にか家の庭に移動していた。その後、消防車と救急車が到着して、お婆さんは救急車で運ばれていった。

 ヒカリはお婆さんが救急車で運ばれていくのを見届けた後、急いでローブ姿の女性に駆け寄った。

「あの! 私、小さい頃、あなたに助けて貰いました! ずいぶん前のことだから、覚えていないかもしれませんが! ずっと、ずっと、ずっとあなたに会いたかったんです!」

 ヒカリは、ローブ姿の女性が過去の火事で助けてくれた人だと確信し、胸の奥底に秘めていた感情が溢れ出した。ローブ姿の女性がヒカリに近づきじっと見てくる。

「もしかして、その髪留め……。あの時の子?」

 ローブ姿の女性はヒカリを思い出したようだ。

「へぇー、大きくなったわね。でも、なんで私に会いたかったの?」

 ローブ姿の女性は少し不思議そうな表情で問いかけてきた。

「あの時、本当に大事なものを失いました。両親や家、家族との思い出……」

 ヒカリは歯を食いしばりながらもローブ姿の女性に話した。そして、ヒカリはさらに真剣な表情で話を続ける。

「だから、同じように誰かが大事なものを失ってほしくないからこそ、私もあなたみたいな、人を助ける力を持った『魔女』になりたいんです!」

 ヒカリがそう言うと、ローブ姿の女性は驚いた表情を見せた。

「本気? せっかく助かった命なんだから、人間らしい普通の人生を送った方がいいんじゃないの?」

 ローブ姿の女性は少し心配そうな表情でそう言った。

「本気です! たしかに魔女になりたいって、普通の人からしたら笑われるようなことを言ってるのかもしれない。だけど……。私はたとえ周りからバカだのアホだの言われても、自分がやりたいことはやりたいんです!」

 ヒカリは力強くそう言うと、ローブ姿の女性をじっと見つめ続けた。ローブ姿の女性も目を離さない。

「……ふふ。気に入ったわ。私はマリーよ。あなたのお名前は?」

 マリーは笑顔でヒカリに問いかけた。

「ヒカリです!」

 ヒカリは真剣な表情でマリーに自分の名前を言う。

「あなたが魔女になれるかもしれない道を与えてあげる。軽い気持ちでは決してなることができないけど頑張ってね」

 マリーはヒカリに背を向けながら言った。

「はい! 頑張ります!」

 ヒカリがマリーに元気よく返事をすると、マリーはほうきに乗り空高く飛び上がり去っていった。

 その日の夜、マリーから一通の手紙が届いた。