「お父さん! お母さん!」
パジャマ姿の少女・ヒカリは、燃え盛る炎の中、部屋の入口に向かって大声で叫んだ。しかし、返事は返ってこない。改めて炎に包まれている自分の部屋を見て、恐怖のあまり体が震えてしまう。
「……嫌だよ。死にたくないよ」
ヒカリは怯えながら言った。できることなら早く一階の部屋に降りて、両親に会いたいのだが、炎が怖くて座り込んだまま動けない。それでも、ほんの少しだけあった勇気を振り絞り、立ち上がろうとした。
「…………でも、やっぱり怖いよ!」
しかし、恐怖に打ち勝てず、床の上でうずくまってしまった。
その時、炎で燃え上がったタンスが、ヒカリに向かって倒れてきた。ヒカリは条件反射的に逃げようと思ったのだが、体が言うことを聞かなかったため、その場から動くことができない。
「キャー!」
ヒカリはうずくまりながら叫んだ。ヒカリにとっては、もう何もかも終わりだ、と完全に諦めた瞬間だった。
しかし、タンスは倒れてこない。
「……えっ?」
ヒカリは驚きながらゆっくり視線をタンスに向けると、見たこともないローブ姿の女性が、タンスを受け止めて立っていた。表が黒で裏が濃い赤の帽子とローブに、ファーの付いた白いケープ。帽子とケープには、薔薇のマークが描かれているようだ。腰まである長い金髪と、明らかに異国の顔立ち。その女性は、体中にいくつか真新しい火傷を負っていた。
「怪我はないか?」
ローブ姿の女性はヒカリに問いかけた。
「……うん」
ヒカリはうずくまった状態のまま、ローブ姿の女性に返答する。
「それなら急いで外に逃げるよ!」
ローブ姿の女性は焦りながら言った。
「待って! お父さんとお母さんは無事なの?」
ヒカリはローブ姿の女性に問いかけた。
「今はあんたを助けるだけで精一杯なんだ。……ごめん」
ローブ姿の女性はそう言うと、急いでヒカリを抱きかかえた。
「嫌だ! お父さん達と一緒じゃなきゃ嫌!」
ヒカリがバタバタと抵抗をするが、ローブ姿の女性は離してくれない。すると、ローブ姿の女性が部屋の窓を開けたので、何をするのかと思った次の瞬間、ヒカリを抱えたまま、勢いよく窓の外へ飛び出したのだった。
「いやーー! お父さん! お母さん!」
ヒカリは大声で叫んだ。その後、ほうきに乗って夜空を飛んでいることに気付いたが、そんなことよりも、両親を置いて一人だけ救出された事実を受け入れられず、大粒の涙が出てきた。
「お前たち! まだ火を消せないのか?」
「全然魔力が足んないです! ちくしょう!」
「くそっ! なんとかならないのか!」
ローブ姿の女性は、家の周りにいる同じローブを着た人と、焦った様子で会話をしていた。
「私達の力不足で申し訳ないね。先日力を使い過ぎてしまって、今は少ししか使えないんだよ」
ローブ姿の女性がヒカリを抱きしめながらそう言うと、ヒカリとローブ姿の女性は、ゆっくりと地上に降りていった。
しばらくすると、消防車が到着して消火活動を始めた。ヒカリは燃え盛る家の近くで、泣きながら両親の救助を待っていた。ただ明らかに火の勢いが衰えることが無かったので、ヒカリの気持ちは、少しずつ不安から絶望へと切り替わっていった。
そして、数時間経過した時、少し離れたところで、ヒカリをチラチラ見ながら気まずそうに、消防士が話をしていた。その様子を見たヒカリは、両親が亡くなってしまったことを、消防士から言われなくてもなんとなくわかってしまった。只々、両親を失った悲しみと、何もできなかった己の弱さを嘆き、涙が止まらなかった。
ヒカリが泣いていると、先ほどのローブ姿の女性が近寄ってきて、ヒカリと同じくらいの目線の高さまでしゃがんできた。すると、ローブ姿の女性は、髪に付けていた薔薇を模した髪留めを、ヒカリの髪に付け始めた。
「この髪留めはね、私の魔力が込められているの。これ以上の不幸が訪れないように、ずっと身につけておきなさい」
ローブ姿の女性の仲間が、その髪留めを渡しても大丈夫なのかと、ものすごく心配していたが、ローブ姿の女性はあっさり『構わない』と返事をしていた。ローブ姿の女性がヒカリに髪留めを付け終えた後、ヒカリは涙を流しながら、じっとローブ姿の女性を見つめた。
「……お父さんも……お母さんも……いなくて……私これからどうしたらいいの?」
ヒカリはローブ姿の女性に尋ねた。すると、ローブ姿の女性は、一瞬何かを考えたようにも見えたが、すぐにキリっとした真剣な眼差しでヒカリを見た。
「生きろ!」
それから少しの間、お互い何も言わず見つめ合う。
「……それだけだよ。じゃ、元気に生きていくんだよ」
ローブ姿の女性は、立ち上がりながらそう言って去っていった。
その後、ヒカリは無言で立ち尽くすだけだった。
「ヒカリ! ヒカリ!」
ヒカリを呼んでいる声が聞こえてきた。
「はいっ!」
ヒカリは授業中に居眠りをしていたのが、先生にバレてしまったのだと思い、慌てて椅子から立ち上がり元気よく返事をした。
「なにやってるの! もう帰る時間だよ!」
授業中の居眠りがバレたわけではないようなので安心したが、結局は誰が呼んでいたのだろうか。ヒカリは寝ぼけながら目の前にいた人物を確認した。黒の短髪に、学校指定のブラウスとスカートを身につけた女の子。いかにも学級委員のようなしっかりとした雰囲気。それは紛れもなく、親友のフミだった。
どうやら、授業中どころか帰りのホームルームまで終わっていたようだ。
「えっ、まじで? もうそんな時間? いやー、もうすぐ梅雨だからさ、今のうちに気持ちの良い春の陽気を堪能しておこうと思ったら、いつの間にか寝ちゃってたよ! はははは!」
ヒカリは薔薇を模した髪留めで、背中の中央まで伸びた髪を、左耳の上あたりにくくりながらそう言った。
「もう! 高三なんだからしっかりしなきゃ! 来年になったら進学するにしろ就職するにしろ、自分で生きていかなきゃいけないんだからね!」
フミはいつも通りプリプリと怒っていた。
「本当にフミはお母さんみたいだね!」
「うるさい!」
ヒカリはフミとこういったやり取りの会話をするのが楽しいので、少しばかりフミの言い方がきつくても嫌いになる理由にはならない。
「そういえばさ。……もう進路希望の紙は出しているよね?」
フミは明らかに疑っている表情を浮かべながら聞いてきた。
「……えっと。それは」
ヒカリはフミから視線をそらした。
「うわー、ここにいたよ! 先生がさっきのホームルームで、一人だけ出してないって言ってたけど。やっぱりヒカリだったのね!」
フミは進路希望の紙の未提出者がヒカリだとわかった途端、あきれた口調で言い放った。
「私だけ? みんな早いなー」
ヒカリは少し驚きながらそう言った。
「明日が期限なの! こんな大事なものギリギリで出さないわよ!」
「明日までなの?」
「はぁ。これだよー」
フミはあきれ果てている様子だったが、それに対してヒカリは、焦る様子もなく落ち着いていた。
帰り道はフミと途中まで同じなので、毎日一緒に帰っている。ヒカリは歩きながらも進路のことを考えていた。
「ねぇ。フミは進路希望になんて書いたの?」
「私? ……私は、……実家の居酒屋で働くって書いた」
意外な答えだった。フミなら有名な大学にも行けるほど成績が優秀だから。ただ、フミの表情を見れば、進路について何か気にしていることがあるのだとすぐにわかった。
「そっか。学年一位の成績だから大学行くのかと思っていたけど、まぁ家庭の事情とかもあるだろうしね」
ヒカリはフミが大学に進学しない理由をどことなく家庭の事情だと察した。フミはお父さんと二人で暮らしていて、毎日居酒屋の手伝いをしているのもあるから、その辺はいろいろあるのだろう。フミが家を出て、お父さんに寂しい思いをさせたくないと思っているのか、もしくは、お父さんから居酒屋で働いてくれと言われているのか。
「でもね、お父さんは『せっかく成績もいいのに、大学行かないなんてもったいない!』って、言ってるんだけどね」
フミは少しうつむきながら話した。結果、お父さんの要望ではなく、フミ自身が選んだ道だということがわかった。それなのに、こんなにも元気がないのはなぜだろうか。おそらく、フミは誰からも進路について認めて貰えなくて、未だにその進路で本当に良いのかを、一人で悩んでいる状態なのだろう。ヒカリはそんなフミに対して、自分が何かしてあげなきゃいけないと思った。
「実家でお父さんと働くっていうのは、フミのしたいことなんでしょう?」
ヒカリは、うつむいたフミの顔をのぞき込むようにして質問をした。
「……うん」
フミはまだ元気のない表情を浮かべていた。
「それならいいじゃん! フミの人生なんだから、フミのしたいようにするのが一番だよ!」
ヒカリはそう言うと、まるで双眼鏡を持っているかのような構えをして、それをのぞき込みながらフミを見る。
「実は、私のこの双眼鏡には未来が見えます! むむっ、なるほど! あなたは……たくさん勉強して大学に進学……していない。都会の会社に就職して新しい生活を……始めない。な、な、なんと、宇宙飛行士になって未知の惑星へ……行かない」
フミはさっきまでの元気のない表情をやめ、優しい眼差しでヒカリを見ていた。
「……ふふ。居酒屋でお父さんと毎日ケンカしながらも協力し合って、二人で笑いお客さんとも笑い、苦しい日々も楽しい日々も、一生懸命過ごしていくあなたが見えます」
ヒカリは言い終わると、双眼鏡の構えをやめてフミに満面の笑みを見せた。
「……ふふ! その双眼鏡で見えちゃったのならきっとそうなんだろうね! いやー、わざわざ未来を見ていただき誠にありがとうございます!」
フミがヒカリにわざとらしく深々と頭を下げてお礼を言った後、二人とも笑いだしてしまった。
二人の帰り道が変わる分岐点に到着する。元気になったフミがヒカリの目の前に立った。
「じゃ、ちゃんとお婆ちゃんと相談して、進路希望決めてくるんだよ!」
フミは最後の最後まで心配してくれていた。
「わかってるって! じゃ!」
ヒカリは笑顔で手を振りながらフミと別れた。
ヒカリは一人で歩いて帰っていた時に何かに気付く。よく見ると、挙動不審な男が民家の近くで何かをしている。気になって見ていると、その男は慌てて逃げていってしまった。なんだったのかと心配になり民家に近寄ってみると、なんと民家に火がつけられていたのだ。
ヒカリはすぐに消防へ連絡した。その間にも炎はどんどん燃え広がっていく。その時、家の中からかすかに声が聞こえてきたので、慌てて民家の窓をのぞいてみると、お婆さんが一人倒れていた。運よく窓の鍵がかかっておらず、ヒカリは窓を開けてお婆さんに聞こえるように、大きな声で呼びかけた。
「大丈夫ですか! 早く逃げてください!」
お婆さんはどうにか起き上がろうとしていたが、なかなか起き上がれない。
「足が悪くて動けないんだよ」
弱々しい声でお婆さんは言った。
ヒカリが思っていたよりも火が回るのが早く、すぐにでもお婆さんを外まで運ばなければ助けられない状況だった。ただ、ヒカリは燃え盛る炎が怖くて、すぐに行動がとれず固まってしまう。それでも、今なら間に合う可能性が高いと思ったので、どうにか勇気を振り絞って、お婆さんのもとへ向かう決意をした。
「うわあああ!」
とにかく余計なことは考えないようにし、急いでお婆さんに駆け寄った。
「お婆ちゃん! 背中に乗って!」
「ありがとう」
ヒカリが思っていたよりも、おんぶするのに時間がかかるので焦りが高まる。その後、やっとおんぶができたので、急いで外に出ようと歩き出した瞬間、天井が崩れ落ちてヒカリが入ってきたルートを塞いでしまった。
「噓でしょ……」
ヒカリは過去の火事を思い出してしまい震え始める。炎はさらに燃え広がり、地獄のような光景を作りだしていた。
それから、数十秒ほど立ち尽くしてしまったヒカリだが、お婆さんの異変に気付く。声をかけてみても返事はないが、心臓は動いているようなので、おそらく気を失っている状態だと察した。
ヒカリは自分がお婆さんの命を預かっていることを再認識し、怖がっている自分の頬に思いっきりビンタをした。だが、痛みは感じなかった。
「ビビってる場合じゃないよ! また大事な時に無力で後悔するような結果になっちゃう! 大丈夫……できる……できる……できる……」
ヒカリは自分を信じる言葉を言い聞かせる。
「今の私ならできる!」
ヒカリはしっかり見開いた目と力強い声で言い放った。全身に力が入るのがわかる。
「もう一階の出口は無理みたいだし、ここもすぐに火が回るはず……だから、もう二階に行くしかないな。……よし、いくぞー! おりゃああああ!」
気合いで二階まで駆けあがるヒカリ。お婆さんとはいえ、一人の人間を背負って階段をのぼるというのは、想像以上に大変だった。どうにか二階にたどり着いたヒカリは、辺りを見渡し部屋が一つしかないことを確認すると、その部屋の中へ入っていった。
だが、二階の部屋はすでに炎に包まれている状態だった。来た道を振り返ってみても、火が回っていて戻れそうにない。
「くそっ! どうしたらいいの!」
ヒカリは途方もない状況に嘆いた。
「よくやったわね」
どこかから聞き覚えのある声が聞こえた次の瞬間、周りの炎が全て消えて、目の前にローブ姿の女性が現れた。
「よく持ちこたえてくれた。だから助かった」
ローブ姿の女性がそう言うと、ヒカリとお婆さんはいつの間にか家の庭に移動していた。その後、消防車と救急車が到着して、お婆さんは救急車で運ばれていった。
ヒカリはお婆さんが救急車で運ばれていくのを見届けた後、急いでローブ姿の女性に駆け寄った。
「あの! 私、小さい頃、あなたに助けて貰いました! ずいぶん前のことだから、覚えていないかもしれませんが! ずっと、ずっと、ずっとあなたに会いたかったんです!」
ヒカリは、ローブ姿の女性が過去の火事で助けてくれた人だと確信し、胸の奥底に秘めていた感情が溢れ出した。ローブ姿の女性がヒカリに近づきじっと見てくる。
「もしかして、その髪留め……。あの時の子?」
ローブ姿の女性はヒカリを思い出したようだ。
「へぇー、大きくなったわね。でも、なんで私に会いたかったの?」
ローブ姿の女性は少し不思議そうな表情で問いかけてきた。
「あの時、本当に大事なものを失いました。両親や家、家族との思い出……」
ヒカリは歯を食いしばりながらもローブ姿の女性に話した。そして、ヒカリはさらに真剣な表情で話を続ける。
「だから、同じように誰かが大事なものを失ってほしくないからこそ、私もあなたみたいな、人を助ける力を持った『魔女』になりたいんです!」
ヒカリがそう言うと、ローブ姿の女性は驚いた表情を見せた。
「本気? せっかく助かった命なんだから、人間らしい普通の人生を送った方がいいんじゃないの?」
ローブ姿の女性は少し心配そうな表情でそう言った。
「本気です! たしかに魔女になりたいって、普通の人からしたら笑われるようなことを言ってるのかもしれない。だけど……。私はたとえ周りからバカだのアホだの言われても、自分がやりたいことはやりたいんです!」
ヒカリは力強くそう言うと、ローブ姿の女性をじっと見つめ続けた。ローブ姿の女性も目を離さない。
「……ふふ。気に入ったわ。私はマリーよ。あなたのお名前は?」
マリーは笑顔でヒカリに問いかけた。
「ヒカリです!」
ヒカリは真剣な表情でマリーに自分の名前を言う。
「あなたが魔女になれるかもしれない道を与えてあげる。軽い気持ちでは決してなることができないけど頑張ってね」
マリーはヒカリに背を向けながら言った。
「はい! 頑張ります!」
ヒカリがマリーに元気よく返事をすると、マリーはほうきに乗り空高く飛び上がり去っていった。
その日の夜、マリーから一通の手紙が届いた。
一面に広がる畑の風景。ヒカリはその畑の間にある公道を黄色の原付バイクで走っていた。なぜかというと、マリーから届いた手紙に『来年の四月一日に鹿屋の霧島ヶ丘公園にある展望台に来ること』と記されていて、今日がその当日だからだ。ただ、なぜ霧島ヶ丘公園の展望台なのかというのは不思議で仕方がなかった。ヒカリは大きな坂を前に立ち止まった。
「この坂を上らないといけないわけ? キツイなー!」
霧島ヶ丘公園は少しばかり山を登ったところにあるため、傾斜のきつい坂道を通らなければならないのだが、ヒカリは原付バイクでこの坂道を登ったことが無く、心配だった。いざ、坂道を走ってみると、やはり原付バイクでは力が弱いため、簡単には登れなかった。
「だよねー! この坂はやっぱりキツイよね! 頑張れ! 頑張れ!」
ヒカリは必死で走る原付バイクを応援する。後続の普通車に追い越されながらもなんとか坂を越えると、目の前に霧島ヶ丘公園が見えてきた。ヒカリは懐かしい風景に少し心が弾みながら、公園の駐輪場に原付バイクを停める。
「ばら園もあるのよね! 薔薇のソフトクリーム食べたいな……。でも、今日はちゃんと目的があるんだから!」
ヒカリはソフトクリームの誘惑に負けそうになりながらも、当初の目的を思い出し、展望台に向けて歩き出した。公園やばら園を懐かしみながらゆっくり歩き、小高い丘の上にある展望台に到着する。
しかし、展望台に到着してみたものの何があるわけでもなく、そこにあるのはもちろん展望台だった。それでもよく見ると、展望台の一階部分に何やら看板らしきものがあり『ROSE株式会社』と書いてあるのを見つけた。
「ROSE株式会社? こんなところに会社があったの?」
もちろん過去に展望台に来たことはあったが、展望台からの眺めが目的だったので、一階が何なのかということは気にもしていなかったのだ。ヒカリはこの会社の人に尋ねれば、もしかしたらマリーの居場所がわかるかもしれないと思い、会社の扉を開いた。
「えっと、すいません……」
ヒカリはそう言いながら会社の扉をゆっくり開いた。目の前には受付と書かれたテーブルがあり、その裏には、事務所のように向かい合わせの机が並べられていた。人の数は五人くらいで慌ただしく作業をしている。
「いらっしゃいませ! こちらの席へどうぞ!」
受付の女性が声をかけてきた。茶髪で眉の位置で切り揃えた前髪とお団子状にまとめている後髪が可愛らしい女性で、白いブラウスにグレーのベスト、膝上丈の黒いスカートを身につけている。ブラウスの襟元と袖口には、黒いラインが入っているのが特徴的だ。ブラウスのリボンに描かれている薔薇のマークは、おそらくこの会社のロゴマークなのだろうか。ひとまず、案内されるがまま受付の椅子に座った。
「はじめまして、私はROSE株式会社の受付を担当しています『シホ』と申します。宜しくお願いします。それでは、今日はどういったご用件でしょうか?」
受付のシホが挨拶をして用件を伺ってきた。
「えーっと、人を探してまして……」
ヒカリは少し緊張しながら話した。
「人探しですね。かしこまりました。具体的にどんな人物なのか教えていただけますか?」
シホがヒカリの探している人の具体的な人物像を確認してくるが、ヒカリはマリーを注意深く見たことが無かったので、表現に戸惑ってしまう。
「えっと……。どんな人? んー。女の人で……身長が高くて……えーっと……髪が長くて金髪で――」
ヒカリが自分の中にあるマリーのイメージを一生懸命伝えていた時、受付の裏にある事務所の方が騒がしくなってきた。
「だから! ちゃんと報告書出しただろ!」
おでこにゴーグルを付けていて暗めの赤髪で、キリっとした目つきのヒカリと同じ歳くらいの青年が怒鳴っていた。白い長袖シャツに黒い長ズボン、緩く付けたループタイ。ループタイは薔薇のマークが入っていて、シャツも受付のシホが着ているものと似たデザインなので、おそらく男性社員の制服なのだろう。
「はー? こんなのが報告書ですか? ふざけないでください! こんな内容のない報告書じゃ、お客様が納得されるわけないでしょう!」
ピンクの髪を左右に一つずつお団子状でまとめた、高校生くらいの小柄な女の子が反論していた。服装は受付のシホと同じものなので、やはり女性社員の制服のようだ。
「じゃ、出張肩もみの報告書に『肩もみ完了』以外になんて書けばいいんだよ!」
「いろいろあるでしょう! 『この人の肩は右側だけ固かった』とかなんとか、もう少し頑張って絞り出せないんですか?」
「俺は別に肩もみの専門家じゃねぇんだよ!」
すると、奥から出てきた人が丸めて棒状にした書類で、騒いでいる二人の頭を叩く。よく見ると、奥から出てきた人はマリーだった。さらに、他の女性社員と同じ服装をしているので、おそらく、マリーもこの会社の社員なのだろう。
「あんたら何を騒いでいるの? 他の人の迷惑になってるんだよ」
マリーが騒いでいた二人に注意をした。
「こいつが俺の報告書にケチつけるから悪いんだよ!」
「エドの報告書が、猿でも書けるくらいの内容しか書いてないのが悪いんです!」
「猿が書けるわけねぇだろ! お前アホか!」
「アホにアホって言われたくありませんね!」
また二人がもめ始めると、マリーが再び二人の頭を書類で叩いた。
「二人ともこれ以上騒ぐなら、減給にしてもいいんだよ?」
マリーが少しイラついた様子で、二人に対して言い放つ。
「減給……」
騒いでいた二人が同時にその言葉を発して少し立ち止まった後、二人は離れていった。
「すいません。お見苦しいところを見せてしまいまして」
シホはヒカリに対して申し訳なさそうに頭を下げた。
「いえいえ、大丈夫です! ていうか、探していた人はあの人です」
ヒカリはそう言ってマリーを指差すと、シホもその指差す方向を見た。
「えっ? マリーさん……ですか?」
シホが少し驚いた様子で言った。シホの声でヒカリの存在に気付いたマリーは、忘れていた何かを思い出したような表情を浮かべていた。
「あぁ、来たようだね。こっちへおいで」
ヒカリはマリーに連れられて会議室に入り、机越しに向かい合った椅子に座った。机の上にはお茶が用意されていた。
「それじゃ、あなたも今日からこの『ROSE株式会社』で働いてもらいます。具体的には、相談所として困っている人から依頼を受けて、解決に導くのが仕事になるわ。ちなみに、私はここの社長で、そっちのばら園の方も経営しているから」
マリーの話を聞いて驚いた。魔女になるために来たつもりなのに、この会社の社員になる話をしているのだから。
「えっ? ちょっと待って! 働くって何ですか? 私を魔女にしてくれるんじゃないんですか?」
ヒカリは慌ててマリーに詰め寄った。
「は? あなた何言ってんの? ちゃんと雇用関係の書類も送ったでしょ? 見てないの?」
マリーもヒカリの発言に驚いている様子だった。ヒカリはマリーから言われた瞬間に思い出したことがあった。それは、たしかにマリーから書類が届いていたことと、難しい内容の書類だったので、読むのを後回しにしていたことだった。ヒカリは急に冷や汗が出てきた。
「えっと……それは……。たくさん書類があってよくわからなくて……」
ヒカリは視線をそらしながら話した。
「見ていないのね。はぁ、先が思いやられるわ」
ヒカリの話を聞いたマリーは、少しあきれた様子だった。
「ごめんなさい。でも、魔女になるのに、なんでここで働く必要があるんですか?」
ヒカリはマリーに問いかけた。
「魔女になるのに働く必要があるからよ。それに、無償であなたの世話をするほど世の中甘くないし。生きていくには働かなきゃいけないでしょ?」
マリーはそう言いながらお茶を一口飲んだ。
「そりゃ、お金も必要ですけど……」
ヒカリもそう言った後、お茶を一口飲んだ。
「そういうことだから、今日からここの『契約社員』として働いてもらいます」
「わかりました」
ヒカリは話の流れですぐに返事をしてしまったが、正社員じゃなく契約社員だということを、さらっと言われたことに気づいた。
「……って、契約社員なんですか? 正社員じゃなくて!」
ヒカリは驚きながらマリーに言い放った。
「そうよ。あなたは期限付きの契約社員。その理由も順を追って説明するわ」
マリーはヒカリの驚きに動じず、冷静な口調で言い返した。
「まず、あなたが魔女になる方法としては、年に一回行われる『魔女試験』に合格するしかない。魔女試験では、試験中の全てが評価対象となり、様々な試験を通して試験官の魔女が受験者を評価し、魔女としてふさわしいかどうかを見極め、認められれば魔女になることができる」
「へぇー、そんな試験があるんですね。それに、チャンスは年に一回ってことですか」
ヒカリは今まで知らなかった魔女試験の話を聞き、少し胸を躍らせながらも真剣な表情でそう言った。
「チャンスは毎年あるが、私のもとで魔女を目指すなら、二回の試験までしか受けさせないと決めている」
マリーは目つきを鋭くして言った。
「えっ? どうしてですか?」
ヒカリは驚いてマリーに問いかける。
「昔、何度も挑戦させたことがあったが、少し残念な結果になってしまってね。……人は何度でも挑戦できると思うと、だんだんやる気がなくなってきてしまうものなんだよ」
マリーはヒカリから視線をそらし、どこか一点を見つめながら話した。ヒカリはそんなマリーの少し悲しそうな表情を見て、言葉が出てこなくなった。
「……だから、二回の魔女試験まで面倒をみる」
マリーはヒカリに視線を移し、真剣な表情でそう言った。
「魔女になるには、二回の魔女試験までってことですか。もし、試験がダメなら……」
ヒカリは少し不安になってきて、机に置かれたお茶を見ながらつぶやく。
「魔女にはなれない」
マリーがヒカリの発言に被せるようにして言う。やはり、ヒカリにとっては残酷なルールだったので、ヒカリは言葉を失ってしまった。
「だから、期限付きの契約社員なんだ。魔女になれなかったら契約満了で出ていってもらうよ。ここは魔法使いだけが働く会社だからね」
マリーは軽く視線をそらしながら言った。
「……わかりました」
ヒカリは魔女試験に落ちてしまわないかという不安もあるが、それでも魔女になれるチャンスを得られたことで納得してうなずいた。
「あ、そうそう。魔女試験なんだから、魔法の使い方や能力も評価されるわけで、魔法を使えるようにならないといけないよ」
マリーはふと思い出したかのように言った。
「でも、魔女試験を合格しないと魔法は使えないんじゃ?」
ヒカリは疑問に思い確認した。
「もちろん、そのままじゃ魔法は使えない。」
マリーはそう言うと、五百円玉と同じくらいの大きさの黒い球を取り出した。
「だから、魔女見習いの間は、この魔女玉をあんたに預ける。魔女玉があれば、魔女と同じように魔法が使えるようになる。もちろん、簡単に使いこなせるものではないけどね」
ヒカリはマリーから魔女玉を受け取った。
「これが魔女玉……」
魔女玉は黒い球が銀色の枠に包まれていて、ネックレスのようなチェーンが取り付けられている。黒い球の部分を覗き込むと、不思議な光がゆらゆら揺れているようで美しかった。
「…………はっ!」
ヒカリは掌に乗せた魔女玉に、何となく力を送り込んでみたが、何も起こらなかった。
「はは! そんなんじゃ魔法は使えないよ!」
マリーに笑われてしまった。
「これからは、ずっとその魔女玉を身に付けておきなさい。……ちなみに、世の中には、魔女玉を狙っている悪い連中もいるから気を付けるんだよ。まぁ私らが守るから心配しなくてもいいけどね」
マリーは話し終えると席を立ち、会議室入口の扉の前に立った。
「最後にあなたの魔法指導員兼世話役を紹介する」
マリーはそう言って指を鳴らした。
マリーが指を鳴らした後、先ほど事務所で騒いでいた、赤髪の青年が会議室に入ってきた。
「マリー! なんだよ! こっちは忙しいんだよ!」
「あんたね、私は一応社長なの! 口の利き方がなってないね!」
「うっせーな! 俺はそれくらいフレンドリーな社風がいいんだよ!」
赤髪の青年は会議室に入ってくるなり、マリーと言い合いを始めた。ヒカリは魔女玉を首に掛けながら席から立ち上がり、二人の様子を黙って見ていた。
「まぁ、いいわ。しっかりこの子の世話しなさいよ」
マリーがヒカリを指差しながら言う。
「はっ? なんで俺が?」
赤髪の青年は世話役の話が初耳だったのか、驚いた表情を見せた。
「この前の仕事の赤字分、あんたの給料で払ってもらっても構わないんだけど? どうする?」
マリーは赤髪の青年に対して少し脅すように言った。
「ぐっ……。……わかったよ。やればいいんだろ」
赤髪の青年は痛いところを突かれたのか一瞬で冷や汗を流し、顔を下げながら悩んでいるような表情を見せた後、マリーの要求に応じた。おそらく、赤髪の青年は仕事で大きな赤字を出してしまったのだろう。
「ふふ。決まりね。お互い挨拶しなさい」
マリーはそう言って赤髪の青年とヒカリの間に立った。
「……はじめまして! 私は『ヒカリ』って言います! まだまだわからないことばっかりですが、よろしくお願いします!」
ヒカリは赤髪の青年に挨拶をして深々と頭を下げた。少ししてからヒカリが頭を上げると、赤髪の青年と目が合う。すると、赤髪の青年は一瞬固まった後、すぐに目をそらした。
「……お、俺は、『エド』っていう……よ、よ、よろしく……」
エドはなぜか言葉が詰まり気味だった。
「あれー? エド、どうしたのー? そんなに顔を赤くして」
マリーはエドに対して、からかっているような口調で言った。
「な、なってねぇよ! バーカ!」
エドはからかわれたことに怒ったのだろうか、マリーに言い返していた。言われたマリーは笑っていた。
「今日のところは、皆にヒカリを紹介してあげてちょうだい。ばら園の方はシホが引率するように言ってあるから」
マリーはエドにそう言うと、ニヤッと笑みを浮かべていた。
「シホに頼んだのは、とってもとっても忙しいエド君を気遣ってあげたからですよー」
またマリーはエドをからかっているような言い方をした。
「あ・り・が・と・う・ご・ざ・い・ま・す!」
エドは歯を食いしばった感じでマリーにお礼を言う。その後、マリーは会議室を出ていった。
「えっと、マリーさんとエドさんは、いつもこんな感じなんですか?」
ヒカリはエドに尋ねた。
「まぁ、そうだな」
エドは少し疲れているような様子で答えた。
「……それと、『エド』でいいし。ため口で話してくれな。その方が気が楽だからさ」
エドは少し落ち着いた口調でそう言った。ヒカリはエドがさっき言っていた『フレンドリーな社風がいい』という言葉を思い出し、エドは誰とでも垣根なく接していきたい人なのだろうと察した。なぜだか嬉しい気持ちが湧き上がってきているのは、エドがなんとなく怖い人じゃないとわかり少し安心したことと、自分を仲間扱いしてくれたことが原因なのかもしれない。
「わかった! よろしくね! エド!」
ヒカリは笑顔で言った。
「おう!」
エドも笑顔で返してくれた。
「じゃ、ROSEの社員を紹介していくか」
エドはそう言いながら会議室の扉を開けた。ヒカリとエドが会議室を出ると、ドタバタと社員が集まってきた。
「へぇー、新入社員だったんだね! どちらから来たんですか? エドの彼女か? 彼女じゃねえよ! なんで顔赤くなってんだよ! うっせーな! お茶飲みます? 風になりたくないか? 俺はリン、顔良し、強さ良し、性格良しの最強イケメン魔法使いだ!」
社員達がヒカリに勢いよく詰め寄りながら、一斉に話しかけた。ヒカリは急すぎて戸惑ってしまう。
「ちょっと待て待て! 俺が紹介する役目なんだよ!」
エドはヒカリと集まってきた社員との間に割り込み言い聞かせる。
「後輩ができて調子に乗ってるな」
集まってきた社員全員が口を揃えてエドに言った。
「なんでそこは息ピッタリなんだよ!」
エドは怒りをこらえているような仕草で言う。
「じゃ、一人ずつ簡単に紹介していくか。まずは……一番人数の多い任務実行員から」
エドがヒカリに社員紹介を始めた。
「任務実行員?」
ヒカリは任務実行員という言葉を初めて聞いたので、気になりエドに問いかけた。
「あぁ、そっか。そこから話をしていかなきゃな。……まず、この会社には職種が三つある。一つ目は『受付員』で、相談所に来たお客から依頼内容を確認したりする仕事。二つ目は『事務員』で、依頼内容を詳しく確認したり費用を算出したりする仕事で、電話の窓口にもなっている。三つ目は『任務実行員』で、実際に依頼を遂行する仕事。そして、マリーが任務実行員への仕事の割り振りを決めている。そんなとこだ」
ヒカリはうなずきながらエドの話を聞いた。
「それじゃ、任務実行員を紹介していく。……まずはケンタ! 見た目どおり食欲バカだ!」
「バカは余計だ!」
ケンタはオレンジの髪をさっぱりと持ち上げたスタイルで、お世辞にも痩せているとは言えないくらい太っている、三十歳手前くらいの男の人だ。体つきからしても、たくさん食べる人なのだろう。
「次はライアン! ケンタと同い年でバイクバカだ!」
「バイクは好きか?」
ライアンは少し青みがかった黒髪を、オールバックにしている男の人だ。室内にも関わらず、サングラスをしているのは、きっとポリシーなのだろうか。
「次にリン! せっかくの容姿がもったいないナルシスト野郎だ!」
「俺はリン、顔良し、強さ良し、性格良しの最強イケメン魔法使いだ!」
リンは深緑色のイケメン風な髪型の二十歳くらいの男の人だ。たしかにナルシストな発言とポーズをしているので、そうなのかもしれない。
「そして最後に……俺も任務実行員だ」
エドも自分を指差しそう述べた。
「次に受付員のシホ。去年入社したばかりだけど、めちゃくちゃ仕事ができる期待の社員。今のところ受付員は、シホ一人でこなしている」
「よろしくね!」
シホはニッコリ笑いながらそう言った。
「次は事務員を紹介していく。……まずはマツダ。すっごく几帳面でめっちゃ仕事ができる。それとパソコンとか詳しいから、すごく頼りになるおっさんだ」
「困ったらいつでも声をかけてくださいね」
マツダは黒縁メガネをしていて、灰色の髪と口髭が特徴的なおじさんだ。男性社員で唯一ループタイを首まで締めていて、アームカバーも装着しているところを見ると、きっと真面目な性格なのだろう。
「あと一人の事務員はベル。まだ十四歳くらいの子供だ」
「はぁー? 何言ってるんですか? 今年で十七歳になるんですよ! 学校には通っていませんが、高校生の年齢なので、もう大人みたいなもんです!」
最初に事務所でエドと騒いでいた女の子は、ベルという名前らしい。身長がだいたい百四十センチメートルくらいの細身で小柄な可愛らしい女の子だ。
「これで社員は全員だ」
エドがそう言うと、ヒカリは集まってきた社員に一歩近づく。
「あの……。私の名前は『ヒカリ』と言います! 魔女見習いとして今日からお世話になります! えっと……どうか、よろしくお願いします!」
ヒカリは深々と頭を下げて挨拶をした。頭を上げると集まってきた社員達が、ヒカリに『よろしく』と返事をして自席に戻っていく。
「こんな奴らだけど悪いやつはいない。とりあえず、仕事しながら仲良くなっていけばいい」
エドは落ち着いた表情でそう言うと、事務所の奥に座っているマリーの方を向いた。
「マリー! そういや、ヒカリは何の仕事をするんだ?」
エドはマリーに問いかける。
「シホと一緒に受付の仕事かな……」
その言葉を聞いたシホとヒカリは、お互い目を合わせる。
「よろしくね」
シホは優しい笑顔を浮かべながらヒカリに言った。
「よろしくお願いします!」
ヒカリはまた深々と頭を下げてシホに挨拶をする。
「じゃ、シホ! ばら園の方にヒカリの紹介よろしくな!」
エドがシホに向かってそう言うと、シホはうなずいていた。
ヒカリとシホは事務所を出て、ばら園の方に向かって歩いていた。すぐ近くにあるとはいえ、霧島ヶ丘公園の広い敷地内を移動するわけだから、散歩だと考えるといい運動になる距離だ。これからお世話になる受付員の先輩のシホは、まだゆっくり話したこともないので、実際どうなのかはわからないが、歩いていても姿勢が良く、美人できっと素敵な先輩なのだと直感的に思った。いずれにしても、魔女の先輩ができたので、ヒカリは気持ちが高揚していた。
「すごい元気な人ばかりなんですね!」
ヒカリはシホに話しかける。
「うん! 面白い職場」
シホは進行方向を向き、少し笑みをこぼしながら答えた。
「みんな魔法使いなんですよね! すごいなー、魔法使えるの!」
ヒカリはワクワクしながら言う。
「実はね、私もヒカリちゃんと同じで魔女見習いなの。今年で二年目」
シホは少し落ち着いた口調でそう言った。
「そうなんですか! 他にも魔女見習いの方はいるんですか?」
ヒカリはシホが魔女見習いだと知って驚いた。
「ううん。私とヒカリちゃんだけ」
シホはほんの少しだけ笑顔を浮かべながらヒカリを見た。
「そうなんですね。魔女見習いの先輩ですね! 同じ境遇なのですごく親近感湧きます!」
ヒカリは自分以外の魔女見習いがいることに喜びを感じた。
「私もすごく嬉しいよ! よろしくね!」
シホは満面の笑みでそう言った。
「よろしくお願いします!」
ヒカリはそんなシホの笑顔を見て、やはり素敵な人だと思った。
「でもね、一回目の魔女試験で不合格だったから、次で最後なんだ」
シホはまた進行方向を見て話す。
「魔女試験って、やっぱり難しいんですか?」
ヒカリは少し不安な気持ちが出てくる。
「年に一回あるけど、一人も魔女になれないことも多いらしいからね」
シホは進行方向を見ながら落ち着いた表情で話す。
「そんなに難しいんですね……。シホさんは、なんで魔女になりたいんですか?」
ヒカリはシホに問いかけた。
「うーん……。正直言うと、最近よくわからなくなってしまってね」
シホは少し苦笑いを浮かべながらそう言った。
「……まぁ、いろいろあるってことかな! ふふふ!」
シホは苦笑いをやめて、笑顔で元気よくヒカリの顔を見て言う。
「人それぞれ、魔女見習いもそれぞれってことですね!」
ヒカリは笑顔でそう言った。
「そうそう!」
シホは優しい笑顔で返した。
ヒカリとシホはばら園正面入口の広場に到着した。薔薇にちなんだ商品を販売している売店とレストラン。ヒカリは久しぶりのばら園に自然と心が弾んだ。
「このばら園やレストラン、そしてこの辺りの敷地にあるものは、全部マリーさんが所有しているものなんだよ」
シホは指差ししたり腕を広げたりして話した。
「小さい頃からここには来ていましたけど、まさか魔女が運営していたとは、本当に驚きです」
ヒカリは周りを見渡しながら言う。
「こんにちは、シホちゃん! そちらの方は?」
かのやばら園と書かれた緑のメッシュキャップに緑のポロシャツを着た人達が集まってきた。
「相談所に今日から入った新入社員です。今日は皆さんに挨拶をしにきました」
シホはそう言うとヒカリに合図をした。
「こんにちは! ヒカリと言います! よろしくお願いします!」
ヒカリは集まってきたばら園の方々に挨拶をした。ばら園の従業員達は『よろしく』と返事をした後、離れていった。
「その髪留めは……もしかして?」
ばら園の従業員なのだろうか、花柄の割烹着を着た一人のお婆さんがヒカリの髪留めを見て驚いていた。
「あ。これは昔マリーさんからもらったものです」
ヒカリはそのお婆さんに言った。
「そうかい。……いやー、懐かしいものだったから驚いた。またねい」
そのお婆さんはそう言うと去っていった。
「まぁ、ばら園の皆はすごく忙しそうだから、ヒカリちゃんの顔見せだけにしておくか。相談所の従業員もばら園が忙しい時には手伝いをするから、その時に顔と名前を覚えていってね」
シホは仕方なさそうな顔でそう言った。
「よし。……じゃ、戻ろっか」
シホはヒカリにそう言い、ヒカリは事務所に戻ろうとした。
「……と、その前に。ヒカリちゃん、ばらソフト好き?」
シホはヒカリに問いかける。
「好きです!」
ヒカリは即答した。
「じゃ、ちょっとサボろうか!」
シホはわんぱく少年がいたずらして、楽しんでいる時のような表情を浮かべながら言った。
「えっ? シホさん、意外とそういう感じなんですか?」
ヒカリはシホの少し不真面目そうな行動にすごく驚いた。今までの真面目そうな雰囲気が偽りだったのかとも疑ってしまう。ただ、少し不真面目そうなシホもそれはそれで人間味があり、ヒカリ的にはむしろ好印象だった。
「ヒカリちゃんの入社祝いで、ばらソフトおごってあげる!」
シホはヒカリの目を見て笑顔でそう言った。
「あ、ありがとうございます!」
ヒカリは少し戸惑いながらも、自分をお祝いしてくれるシホの温かい気持ちが嬉しかった。
「へへへ」
シホがそう言って笑った表情は、世の男性を一瞬で虜にしてしまうくらい、可愛いらしさと優しさがいっぱいに詰まったものだった。
日陰のベンチに座り、ばらソフトを食べるヒカリとシホ。気持ちの良い自然の風景を見ながら食べるばらソフトは最高だった。
「まぁ、ROSEは休憩できる時に休憩するのがオッケーな会社だから、全然いいんだけどね」
シホはさらっと笑顔で言った。
「えっ? いいんですか! ……びっくりしましたよ! シホさん結構やんちゃなのかと!」
ヒカリはシホが少し驚くような発言をしただけなのかと思って安心した。
「でも、実際は……どちらかと言えば、やんちゃかもね」
シホは含み笑いを浮かべて言った。
「えっ? そうなんですか!」
ヒカリはまた驚く。
「んー、内緒!」
シホはニヤリと笑いながら言った。
「えー!」
それからヒカリはしばらくシホといろんな話をした。高校のことや休みの日の過ごし方など。不思議だった、滅多に自分の話をしてこなかったヒカリなのに、シホが相手だと自然と話せていたからだ。なんだろう、この環境だと本当の自分を包み隠さずにいられる気がする。こんなに心の底から笑ったのはいつぶりだろうか。ほんの数分、そんな短い時間で、シホとの会話が幸せなひと時だと思えるようになっていった。二人の会話が途切れた後、少しだけ沈黙が流れた。
「こうやってさ……。ずっとここで働いていたいなって思うんだけど、難関な魔女試験合格しないとそれは無理で。…………どうなることやら」
シホは少し寂しそうな表情を浮かべながら言った。ヒカリはシホが魔女試験に対して、ずっと不安な気持ちを抱いているということがわかった。ヒカリ自身もまだ経験をしていない魔女試験だが、経験していなくてもそれなりの不安はある。それでも、こうやってヒカリに仲良く優しく接してくれるシホとの時間は、今日のたった数十分しか過ごせていないのに、どうしても無くなって欲しくない時間だと思った。そう思っている自分の気持ちに気づき始めたら、だんだん胸が熱くなってきた。
「…………絶対」
ヒカリは下を向きながらつぶやく。
「ん?」
シホはヒカリの発言が気になったように聞き返してきた。すると、ヒカリは勢いよくベンチから立ち上がりシホを見た。
「絶対、魔女試験合格しましょう! そして、二人揃ってここでばらソフトを食べながら、生きていきましょう!」
ヒカリは真剣な表情で力強くシホに言った。シホは目を大きく開いて驚いているような表情を見せた。
「……ふふ。……そうね! 私もヒカリちゃんとばらソフト食べながら過ごしていきたい! まだ知り合って少ししか経ってないけど、ヒカリちゃんとはすごく気が合うと思うし、きっともっともっと仲良くなれるはずだから!」
シホも立ち上がりながら真剣な表情で力強くそう言った。
「だから、お互い…………がんばーろーー!」
シホは両腕を下から大きく振り上げ、V字の形に持っていく動作をしながら『頑張ろう』と言った。
「ふふ! がんばーろーー!」
ヒカリもシホと同じ動作をして言い返した。
「あれ? この動き、意外と力強くないなー! 失敗したー!」
おそらくシホはもっと力強く表現したかったらしい。ただ、この動作は力強いというよりは、可愛いものだと思う。なんにせよ、こんなに明るくて元気なシホは、ヒカリにとって魅力的な存在だった。
「えっ! 可愛い動きがしたかったんじゃないんですか? どう見ても子供がするやつですよ!」
ヒカリがシホにそう言うと、二人とも面白かったのか、お腹を抱えて笑い始めてしまった。
ヒカリとシホは事務所に戻ってきた。ベルがシホの代わりに受付員をしていたようなので、シホはお礼を言ってから受付の席に座る。シホの隣にはもう一つ椅子が用意されていた。
「ヒカリちゃんの席も用意されてるみたいだから、ここに座って」
シホは隣の席を指差してそう言った。ヒカリは受付の席に座った。
「えーっと……何をしたら……いいんですか?」
ヒカリは受付の席に座った途端、働いたことが今まで一度も無かったので、緊張してしまった。
「まぁ、今日の仕事はもうすぐ終わるし、明日から教えていくよ。だから、申し訳ないけどちょっとゆっくり休んでてね」
シホは書類をまとめながら言った。
「はい!」
ヒカリは緊張のあまり少し大きい声が出てしまった。ちょっと恥ずかしい気持ちになったが、誰も気にしていないようなので安心した。
それから、シホは黙々と仕事をしていた。よく考えれば、こうやって間近で働いている人を見るのは初めてだったので、すごく新鮮だった。
しばらくすると、シホが机の上にあった書類を片付け始め、フーと軽く息を吐き出した。
「そういえば、寮に入るんだっけ?」
シホがヒカリに視線を送り話しかけた。
「えっと。そもそもここで働くとか知らなかったんで、何も考えてないんですけど……。家から通う感じですかね?」
たしかに、これから毎日この会社に通うわけで、社員寮なるものがあれば、そこに入るという選択肢もあるかもしれない。ただ、マリーから送られてきた書類に目を通していなかったヒカリは、恥ずかしい話になるが、そういったことについて全く計画が無かったのだ。故に、社員寮に入るための手続きや準備はしていないので、家から通うしかないと思った。
「あんた何言ってんの? 魔女見習いなんだから寮に入ってもらうわよ」
マリーが後ろから現れて言った。
「そうなんですか!」
ヒカリは寮に入ることも初耳だったので驚いたが、魔女見習いなのだからそういうものなのかと、すぐに割り切った。
「大丈夫? 急な話で家族は心配しない?」
シホは心配そうな表情でヒカリに言った。
「えっと、私、家族いないんで大丈夫です! 婆ちゃんがいたんですけど、去年亡くなったんで」
ヒカリは落ち着いて話した。
「……そうなんだ。ごめんね、嫌なこと聞いちゃって」
シホは申し訳なさそうな表情で言った。
「大丈夫です! むしろ、気を遣わせてしまってごめんなさい!」
ヒカリはシホを申し訳ない気持ちにしてしまい、かえって申し訳なく思った。
「でも、寮かー。……どんな寮なんだろう」
ヒカリは寮を想像しながらつぶやいた。
「私はいい寮だと思うよ」
シホはニッコリ笑いながら言った。
「はい。これが寮の鍵。エドの隣の部屋にしといたから」
マリーがヒカリに寮のカギを手渡した。
「そういや、ずっとエドの姿が見あたらないんですけど……」
ヒカリはエドを会社で見かけないことに気づいて、マリーに問いかける。
「今日は外で仕事してるからね。帰ってくるのも遅くなるはず」
マリーがヒカリの顔を見て言った。
「そうなんですね」
ヒカリはエドが任務実行員だということを思い出し、外での仕事もあって大変だろうなと思った。
「寮にはシホが案内してあげて」
マリーがシホに依頼してシホがうなずいた。
「でも、ヒカリちゃん。よく考えたら生活用品が何もないけどどうする?」
シホは肝心なことに気づいた様子で言った。
「あっ! そうですね! 困ったなー、家から持ってくるとしても、どうしようかな……」
ヒカリは生活用品を家から寮に持って行くにしても、車があるわけでもないので困ってしまった。それに、お金もあまり持っていないので、引っ越し業者に頼むのもできれば避けたくて悩んでしまう。
「荷物は、ある程度あなたの家から移しておいたから大丈夫よ」
マリーが困っているヒカリにさらっと伝えた。
「あ、ありがとうございます。……って、えー! そんなことできるんですか?」
ヒカリは反射的に感謝の気持ちを述べたのだが、よく考えてみたらすごいことだと気づいて驚いた。
「マリーさんは、最強の魔女って言われてるんだから、そんなの余裕よ」
シホはヒカリに冷静に伝えた。
「えっ。そうなんですか。……最強の魔女なんだ」
ヒカリはマリーが最強の魔女と呼ばれるくらい、すごい魔女だとは知らなかったので、またしても驚いてしまった。
「しっかり仕事をこなして、仕事が終わったら魔法の修行をみっちり行いなさい。時間は限られているんだから」
マリーはヒカリとシホに少しだけ喝を入れた。
「はい!」
ヒカリとシホはマリーに元気よく返事をした。二人の返事を聞くとマリーは去っていった。そこにリンが現れて、シホに話しかけた。
「シホ、今日の修行はどうする?」
「リンさん、今日はヒカリちゃんに寮の案内をした後、お願いします」
「わかった。いつもの場所で待ってる」
シホとリンは淡々と会話をして、それが終わるとリンは去っていった。
「リンさんが魔法指導員なんですか?」
ヒカリはシホに質問した。
「そう! いつも熱心に教えてくれる、私にとって最高の指導員だよ!」
シホはすごく嬉しそうにそう言った。
「……なんかいいですね! 師弟関係って!」
ヒカリはうらやましそうにシホを見た。
「うん! ヒカリちゃんとエドもいいペアだと思うよ! ……まぁ、エドは初日から仕事で不在だけど」
シホは少しだけ残念そうに言った。
「……そうですね」
ヒカリは仕事だから仕方ないと思いながらも、なんとなく相手してもらえない寂しさを少しだけ感じた。
退勤時間になり、ヒカリとシホは会社を出て駐輪場に向かっていた。
「ヒカリちゃんも原付なんだね」
シホはヒカリに話しかける。
「さすがに車を買うほどお金も無くて。でも、バイクも楽しくて好きです!」
ヒカリはニコニコ笑いながら言った。
「バイク楽しいよね! 鹿児島は自然が豊かだからバイクで走ると、すっごく気持ちがいいんだよね! 特に海沿い!」
シホは少し興奮した様子で言う。おそらくバイクが好きなのだろう。
「私、県外には修学旅行でしか行ったことないんで、他の県がどんなところなのか、よくわからないんですよね。鹿児島ってやっぱり田舎なんですかね?」
ヒカリは苦笑いしながら言った。
「鹿児島市内は田舎って感じでもないけど……この辺はちょっと田舎かもね! ただ、それなりに買い物できるお店もあるし、大きな病院やスポーツ施設もあるから、田舎の中では都会かもしれないね!」
シホは考えているような仕草をしながら話した。
「田舎の中では都会ですか……。てことは、のんびり暮らすには、ちょうどいいってことですね!」
ヒカリは鹿屋の良さを改めて理解し、笑顔でそう言った。
「そう! ちょうどいい! ふふ」
シホも笑顔でそう言った。
「ちなみに、ヒカリちゃん! 鹿児島市内に行く時のフェリーに乗ったら、最初は何する?」
シホはニヤニヤしながら聞いてきたが、この辺に住んでいる人の答えは一つしかないと、すぐにわかった。
「ふふ。じゃ、一緒に言いましょう! せーの――」
ヒカリはニヤニヤしながらこの会話を楽しんでいた。
「うどんを食べる!」
二人とも同じ答えだった。なぜだかわからないが、この辺の人達は、フェリーに乗ったらうどんを食べるという風習があるのだ。むしろ、フェリーに乗るならうどんを食べなきゃいけない、くらいの気持ちになっている人も少なくない。
「だよねー! フェリーに乗ったらうどん! それがこの辺に住んでる人達の最高の楽しみなんだよ! でも、他の地方の人には、よくわからないかもしれないけどね! ふふふ」
シホはすごく興奮しているようだ。ヒカリもその気持ちが分かるので興奮する。
「なるほど! やっぱりいいところですね! 鹿児島は!」
ヒカリが笑顔でそう言うと、シホもニッコリ笑っていた。
ヒカリとシホは駐輪場に到着し、原付バイクにまたがった。シホは水色の原付バイクに水色のハーフキャップタイプのヘルメットで、可愛いらしいシホにはすごくお似合いだった。
「じゃ、私の後についてきてね」
「はい!」
ヒカリはシホの後を追って原付バイクを走らせる。山道を下っていくと、夕陽に照らされた美しい錦江湾が見えてきた。気持ちの良い風景に心が洗われるようだ。それから、海岸線を走って浜田海水浴場付近までくると、山側の建物の駐車場に入っていった。シホが原付バイクを駐輪場に停車したので、ヒカリも隣に停車する。
「はい。寮に着いたよ」
シホはヒカリにそう言った。ヒカリは駐輪場から寮の建物全体が見えるところまで走っていき、寮を見渡した。
「なんか……結構地味ですね」
ヒカリが想像していた寮は、おしゃれなコテージのような雰囲気だったが、実際の寮は、鉄筋コンクリートで作られている、築四十年くらいの二階建ての古い建物だった。
「まぁ、そうだね」
シホも地味だと思っていそうな雰囲気で答えた。
それからヒカリはシホに連れられて寮に入り、二階の一番奥にある部屋の扉の前に着いた。
「ここがヒカリちゃんの部屋だね」
シホは落ち着いた口調で言った。
「ここが私の部屋……。……よし! さっそく開けてみます!」
ヒカリはだんだんワクワクしてきた。マリーから受け取った部屋の鍵を取り出して、鍵を開けドアノブに手をかけた。
「オープン!」
ヒカリは元気よく扉を開けた。八畳ほどの部屋の中央には、家から移された生活用品がちらほらあり、木枠のシングルベッドとシンプルな机と椅子が置いてあった。
「やっぱり、地味な部屋ですよねー」
おしゃれな部屋だったらいいなと少しだけ期待していたヒカリだが、予想どおり地味な部屋だったので、気分もそんなに上がらなかった。
「でも、ヒカリちゃん。カーテンを開けてみて」
シホはニコっと笑いながら言った。ヒカリはなんでカーテンを開けて欲しいのかわからなかったが、言われるがままカーテンを開けた。
すると、窓から見えた景色は美しく、夕日に照らされた穏やかな錦江湾と綺麗な砂浜、遮るものがない空に一瞬で心が奪われた。
「綺麗…………。本当にすっごくいい眺め! 海も浜も見渡せて気持ちがいい! こんなに美しい景色が部屋から見えるなんて! ……何もなくてすごく地味な部屋だけど、いい部屋ですね!」
ヒカリはさっきまでのガッカリ感が嘘のように、はしゃいでいた。
「ふふ。気に入ってもらえてよかった」
シホも嬉しそうだった。
「あとは、食堂で朝と夜のご飯が出るのと、お風呂は大浴場があるから、好きな時に入っていいよ。……あ、でも今日の夜ご飯は少なめかもしれないけど」
シホは寮の説明について、伝え漏れが無いように考えながら言っているようだ。
「はい! わかりました! 何から何までありがとうございます!」
ヒカリは元気よく感謝の気持ちを伝えた。
「いえいえ、会社と魔女見習いの先輩ですから……当・然・です!」
シホは最後の『当然です』を腰に手を当て胸を張り、わざとらしく言った。ヒカリはそんなシホの行動が面白くて笑いだし、シホも笑いだした。