9月になってから、まあまあ晴れた日を選んで、私たちは今年の夏最後のキャンプをした。

台風や大雨が来ると、山小屋の前に張ってあるテントやタープがダメになっちゃうから、一旦、片付けて、また冬になったら、冬用のグッズでキャンプをするってケイが森に向かって宣言していた。

まだ台風が来ているわけじゃなかったけど、九州のあたりではすでに台風が発生していて、関東でも強めの風が吹いている日だった。

タイミングを逃しちゃうと、あとは台風が団子になって発生する可能性があるので、じゃ、やっちゃいますか!ってことで、突如、日程が決まった。

肉を焼いたりするのには少し飽きてきたので、今回は、ケイが先日新しく仕入れたという簡易ピザ窯でピザを焼くことになった。ケイは女子力を超え、そろそろシェフ力の域まで来ていると思う。

ケイが前の晩から仕込んでいたピザ生地を用意してきたものを広げて台にしてくれる間、スーパーエミリオで買っておいた、シイタケ、ピーマン、サラミ、ハム、トマト、バジル、玉ねぎのみじん切りなどのピザの具を、音楽をかけたり、お喋りをしながら紗々と用意してた。

リビングの真ん中にあるテーブルは全部広げると、すごくピサの作業に向いていて、重ならないように上手に並べていくと、全部で8枚まで作れる。

私はピザに全部でどんな種類があるのかわからなくなってしまったので、紗々の家のポストに入っていたピザ屋のチラシを見て、冷蔵庫からいろいろ出してみた。いつも決まったものしか頼んでいないので気が付かなかったけど、ホワイトソースのピザなんてものがあるのを知った。

紗々が買ってきたピザソースを使おうとしたら、ケイが、クーラーバッグの中から、自作のトマトソースを出してきたので「トマトソースって作れるの?」と紗々を驚愕させていた。

8枚並べて、一枚ずつ違う味っで作ったら、これ以上置ける場所がなくなったので、一旦、ここで作業ストップ。ピザは思ったよりすぐ焼けちゃうらしいから、食べるたびに焼こうってことになった。

タープっていう雨よけみの屋根たいなものが、時々吹いてくる強い風でパタパタパタと音を出しているケイが、タープの支柱を確認して、うんって頷いていた。

ピザを焼き始めたら、本当に4分くらいで焼けた。アマゾンの箱についてくる平たい段ボールに乗せてある生ピザをピザ窯まで運んできて、大きなもんじゃ焼きのヘラみたいなのを、ピザ生地と段ボールの間に差し込んで、素早く簡易ピザ窯の中に入れる。

中を覗いていると、じわじわとチーズが溶けて、具を多い隠していく。それと同時に、ピザの端っこが一旦膨らんでまた薄いシートみたいになるのを、2~3回繰り返すと、いいにおいがしてくる。

それから、少し端っこが茶色になるのを待って、出来上がり。また、アマゾン段ボールの上に戻して、それをお皿代わりにする。昨日、100円ショップで買っておいた、ピザカッターが大活躍した。

ケイが台になる部分をすごく薄く作ってくれているので、具が乗ってる部分もパリパリしてとてもおいしかった。ケイは何とかっていう店のレシピだって言っていたけど、名前を聞いてもよくわからない。今度、連れてってもらおうと思う。

軽いし美味しいから、1人3枚は行けそう。
もう少し作ってもよいかも。

チーズとトマトが程よく溶けた、バジルの葉が載ってるやつが一番好きだな。これをもう一回焼いてもらおうかなって思いながら、別のサラミ味を食べると、やはりこれが一番おいしい気がするってなる。オニオンとベーコンのピザも捨てがたいし、チラシで見たホワイトソースのピザも食べてみたい。そんなことを言いながら、焼いては食べ、焼いては食べてをしていたら、結局、すぐ6枚目まで来た。

あと2枚で終わっちゃうし、一旦、休憩しようかってなって、ケイはまた、ピザ台を作りに山小屋に戻った。私は紗々と一緒に、パリパリして落っこちたピザの破片を拾ってはシートの外に放り投げる。

紗々が、ゴロンと横になって頭を肘で支えながら
「ピザとかやるなら、この辺にハーブとか植えちゃおうかなあ」
って言ってBBQコンロの少し向こう側、石垣の壁の内側で日当たりがありそうなあたりを指さした。うん、それいいかも。

明日、街の花屋さんに買いに行こうよって提案をして、レンガとかも買って、ちゃんとしたハーブ花壇にしようって話で盛り上がった。

19時だから、そろそろ日が暮れる。空がピンクと薄い水色に縞々になって、すごく珍しい色合いになってた。

「カワイイけど、変な空」
紗々が夕焼けを見ながらそんなことを言った。

「確かに。なんかが変だな。なんか、色合いが合ってないんだよ」
「わかるわかる。どっちも夕日に似合わないっていうか………」

ジーっとみてて思ったんだけど、多分、ピンクの夕焼けの部分がパステルピンクで、夜空が出始めている部分が水色なんだけど、なんか、夕日の光を浴びすぎててメタリック色っぽくなってるのね。

「うーん。画材が違うって感じかな」
って私が言ったら、紗々がウケてた。こういうの、ニュアンスでつかんでくれて笑ってくれるのって嬉しい。

笑いも、同じだけの情報力を持ってないと、伝わらないなっていうのを、この3人で話していると、つくづく思う。

ここんとこ、1人でいるときには、常にケイのことが頭にあるので、気持ちがジリジリすることが多かった。だから、紗々がウケているのに便乗して、私も笑った。

笑えるのって、いい。
友達って、いいな。

ふと、紗々は先生と年が離れてて、ジェネレーションギャップもあるのに、普段は何を見て、何を話して、何を分かち合っているんだろうって気になった。

「ねえ、紗々。先生とは普段、何を話してるの?」
「ん?いろいろだね。日本に来てからずっと一緒に居る感じだから、いろんなこと」

「そっか。紗々って、先生と会えなかった期間って、不安にならなかった?」
「何に?」

「先生がほかの人を好きになったりしないか、とか」
「あー、んー。その当時は、好きがよくわからなかったから、そういう心配はしたことなかった。先生はしたかもね」

「先生に聞かれたの?」
「うん、聞かれたような気がする」

「そっかあ」
「私も今なら心配とかするかも」

「そっかあ」
「でも、思うんだけどね。その人が心の中に深く存在しちゃうと、他の異性って全然、目に入らないんだよね」

「うん?そうなの?」
「まあ、私はそうだった。離れていた期間さ、全部で2年近くあったんだけど。先生、私に毎日、定期便送ってきてくれたでしょ。でもたぶん、私、あれがなくても、先生のこと一日も忘れなかったと思うよ」

「どうして?」
「もう、先生が、私の中にいたからだと思う。だから、誰に会っても、どんなステキな人に告られても全く気持ちの針みたいなのが、その人たちにまったく動かなかった」

「そっか。そうだよね。紗々、山のように告白されていたけど、全部、ものすごく男らしく断っていたね、そういえば」
「でしょ。ふふふ」
紗々は不敵な笑い方をした。私はずっと紗々のそばにいたので、紗々が転校してきて依頼、すごい数の愛の告白と、付き合ってください攻撃を見てきている。

それがサッカー部の花形選手だろうが、野球部のヒーローだろうが、生徒会長だろうが、学年一のモテ男だろうが関係なかった。そのたびに、紗々が、一瞬もためらわずに蹴散らしていくのを見ていた。

私ですら「あら、あんなカッコいい人もったいない」って思うこともあったけど、紗々には迷いがなかった。今になって思うと、それって、紗々の心の真ん中に、先生がいたからなんだなってわかった。

だけどその途端、私がずっと心の奥で気になっていたことの答えがわかって、自分の体が地面の中に吸い込まれちゃうんじゃないかって錯覚をするくらい、深く暗いところへつきとおされた気がした。

「あ………」
私は、自分で得た回答に驚いたの同時に、すごく傷ついたらしい。心臓のあたりに、激しい痛みが走って、自分の体と自分の心が二つに別れてしまったように感じた。

「どうしたの?麻衣」
寝ころんだまま、紗々が私を見た。

「あ。今、分かっちゃった。わ、私………ずっと、気になっていたことがあって」
私の様子が変なのを感じた紗々が、身体を起こして、私の顔を覗き込む。

「紗々、見て、ケイ、ケイが」
「うん?」

「ケイが全然、紗々のこと見ても、平然としてたのって、ケイにもそういう人がいたんだなって今、気が付いて」
「そういう人?」
紗々が、私の前で胡坐をかいて、頬に手のひらを当てて、眉間に皴を寄せていた。

「うん。うん。私、見ちゃったの、この前」
「見たって、何見たの?」
私は、多分、本当は、泣きたかったんだけど、なぜか全然涙が出てこなくて、それよりも傷ついた自分の胸のあたりがスースーして、二つに千切れた私の心と体が、もう二度ともとには戻らない感じがすごく怖かった。

あの時、ケイに内緒って言われてたから、誰にもしゃべっちゃいけない気がして言わなかったんだけど。よく考えたら、あれ、私のママにしゃべっちゃダメってことだった。だから、ずっと我慢してたんだけど、紗々には話しても良かったんだな。

「夜、園町で、ケイが、女の人と一緒にいたの」
「………へえ」
それを聞いて、紗々が、少し黙ってから相槌を打つ。

「それで、その人、多分、彼女だと思う」
「麻衣、それはないと思う。その人、あの時に私があった人と同じ人だと思うけど、あれは彼女とは違うよ」

「絶対、そうだよ。だって、この前も、2人で夜遅くに出かけてたもの」
「………もうっ」
紗々が、私の両手を取って、なんでか知らないけど、紗々がちょっと怒っていた。

私は喉の奥に黒くて冷たい鉄の塊があるような感じになって、誰かに話してしまわないと息が苦しくて死んでしまうんじゃないかって思って、怖かったので、そのまま続けた。

「それで、私、気が付いたんだけど、その、つまり………」
って言いかけたときに、紗々が、「麻衣、ちょっと待って!」って言って、私の手を強く握った。

「麻衣、ちょっとそのまま!ちょっと待ってて」
そう言って、紗々が山小屋にすっ飛んでいった。私の脳と体は、待っててと言われた言葉のまま従い、その間、何も考えず、何もしないで、ただ、じっとしていた。

しばらくして、ケイがピザ生地の粉で手が真っ白のまま、紗々と一緒に戻ってきた。私は泣いてはいなんだけど、心の中では確実に涙が流れていたと思う。

人って面白い、喜怒哀楽じゃなくて涙が止まらなくなってしまう時もあれば、こんなに胸が痛いのに涙が一粒も出てこない時もある。


「どした、マイマイ」
ちょっと、ケイがオロオロした感じで私の近くに来た。いつもみたいに私の頭に触れようとしたんだけど、両手が粉だらけなので、手をひっこめた。

私は、黙ってケイを見上げて、でも何も言えることがないので、また下を向いて黙ってしまった。のどのあたりの塊が、一回り大きくなった気がした。

ケイがかがんで私の前にいて、私はシートの上で横座りになっている状態なのを、なぜか紗々が腕組みした仁王立ちの状態で睨んでいる。紗々、何で怒ってるんだろう。

「ケイ、麻衣、私、これからママから電話があるから、ちょっと母屋に戻らなきゃいけないの。進路の話だから、2時間か3時間くらいかかっちゃうかもしれないけど、後で戻ってくるから」
と、ケイに向かって、なぜか凄んでいる。

ケイを見たら、なぜか叱られたようにシュンとした感じになっていた。

「ケイ、何やったってあんたの勝手だけど、麻衣が泣いたら許さない。絶対に許さない。戻ってきたとき、麻衣が泣いてたら、あんたの気に入ってるこの山小屋、即燃やすからね」
って言って、「麻衣、後でね」って言いながら、走って母屋に行ってしまった。犬が2匹とも、紗々の後を追って、母屋に向かった。

そうか、紗々は進路のことで相談、そっか、留学するかもしれないんだもんね。みんな、こうやって自分の道を選んでいくんだな、そう思ったら、そう遠くない将来、また1人になるのかと思って、体中の力が失われていくような気分になった。

「はあ」
って、やっとの思いでため息をつく。私のそばに、ケイが腰を下ろし、胡坐をかいた。「どした」って聞かれても、一言も答えられない。黙っていたいわけではないけど、何も言葉が見つからないから、話せなかった。

「俺、なんかした?」
なんか、すごく申し訳なさそうな感じで、ケイが私に聞いてくる。いや、ケイは何もしてない。黙って、頭を振った。

「俺、マイマイは大事に扱っているつもりなんだけど」
そう言って、パンツの膝のあたりで、まだたくさん手についている粉をパンパンとはらった。黒っぽいパンツに、白い粉が移る。

「俺に、なんか怒ってんの?」
ケイが、恐る恐るって感じで聞いてくる。別にケイが悪いわけじゃないのに、これは気の毒だなって思ったから、頑張って、返事をする。

「別に。ケイに怒ってるわけじゃないよ」
「じゃあ、何に怒ってんの?」

「怒ってないよ、別に」
「じゃあ、なんでそんな感じなんだよ」
なんか、全然わからんって感じで、ケイが肘を自分の膝当たりにおいて、頬杖をついて私を眺める。

「そんな感じって、どんな感じなの、私」
ケイのほうが向けないから、そのままうつむいていた。シートの上に、まださっき食べたピザの細かな破片が落ちていたので、手元に集めた。何かしてないと、おかしくなりそう。

「ん………なんか、暗い感じだな」
暗い感じ。そうかも。いい気分ではない。けど、別にそれもケイのせいじゃない。ケイが、いつもみたいに「なんだ、なんかあんならちゃんと言えよ」って言いながら、自分の手のひらについてる粉を、シャカシャカ音を立てながら手のひらに伸ばしていた。

しばらく、私たちは黙ったまま座っていた。山小屋の奥の森の茂みから、鈴虫などの秋の虫の声がしてきて、もう、本当に夏が終わりなのを告げている。それがまた、今の私の心の状態とリンクして、すごくさみしい気分が増す。

そういえば、紗々がいつになく感情的だったのを思い出した。

「紗々、なんか怒ってたね」
「ん、ああ」

「なんで怒ってたの?」
「お前にじゃなくて、俺にムカついたんだろ」

「なんでケイにムカついてるの?」
「だから、その理由を俺がお前に聞いてんだろ?」
よくわからなかった。

「紗々は、さっき、ケイになんて言ったの?」
「お前とちゃんと話をしろって、言ってた」

「ふうん」
私は膝をそろえた体育座りをした。また、喉の奥に、冷たくて黒い塊が押し上げてきたので、苦しくなる。

「ケイ」
「ん?」

「あの人が好きなの?」
苦しいのを吐き出すような感じで、頑張って聞いた。泣くまいと思った。何を聞いても、今夜だけは絶対に泣かないようにしようと思った。

「あの人って?」
「み、美保さん」

「いや?そうでもない」
ケイの答えが、いつものやつなのか、それとも、何か隠してるからなのかわからない。そうでもないってどういうことなんだろう。全然わからないや。

「でも。美保さんはケイが好きだよ。はたから見てたらわかるよ」
「んーーー」
ケイはちょっと考え込むような感じで唸った。頬杖が深くなり、ケイのほっぺの中に、手のひらが埋まっている。

それを見ながら、私は今の自分の立場が、結局のところ、紅子と大差がないことに気が付いて、さらにどん底の気分になった。ずっと一緒にいたんだけど、ずっと一緒に居られるわけでもないことに、今気が付かされた感じ。


「私、ずっと引っかかっていたことがあるの。紗々と一緒に毎日いて、どうしてケイって、紗々のこと好きになったりしないのかなって」
「紗々はイイ奴だし、好きだけど、そういうのと違うな」

「だから、なんでかなって思ってたの。ほとんどの男の子は紗々に一瞬で恋に落ちるの。女の子だってそうだよ。私だってそうだもん」
「マイマイ、お前、紗々に惚れてんの?え?それが悩み?」
すごいびっくりした顔で、目を丸くして私をケイが見る。

「や、違うって。もーバカなの?そういうんじゃなくて。女の子でも好きになっちゃうくらい、紗々はきれいで中身もステキって話よ。だから、最初っから全然、紗々に心を奪われないケイって、何なんだろうってずっと思ってたの」
なんか、だんだん腹が立ってきたので、次第に強い口調になった。ケイは私の勢いに押されて黙ったまま、私のことをじーっと見てた。

「で、でね。紗々に紗々と先生の間で、他の人好きになるとか、そういうこと、気にならないかって話をしていたらね」
「うん」

「紗々が、自分の中に先生がもういるから、どんなステキな人に告白されても、1ミリも心が動かなかったって言ってて」
「うん」

「だっ、だから、ケ、ケイが、紗々と一緒に居ても、全然紗々を好きになったりしないのは、み、みほっ、みほっ、みほっ」
そう言いかけて、喉の奥が苦しくなってしまって、私は「みほっ」ていう咳をしている感じになってしまった。なんじゃこりゃ。

はあ、ってため息つきながら、私が息を吸い込んでいると、ケイが私の背中をトントンしてくれた。水持ってくるから待ってろって言って、コンロ脇に置いてあるペットボトルに入った水を持ってきてくれた。

なんか、もう、心身ともに疲れ切って、一気に老けこんだ気分。ケイの持ってきてくれたペットボトルの水を飲みながら、一息ついた。なんかもう、どうでもいいから、この時間を早く終わらせたい一心で

「だからあ、ケイの中にいつも美保さんがいるから!って思ったの!」
私はケイの方に向き直って、2人の間にペットボトルをなぜか、地面にダン!って置いてから、一気にそう言ってみた。

なんだこれは、酔っ払いのおじさんみたいじゃないか、私。でも、止まらない。

「ケイの心の真ん中にはいつも美保さんっていう大切な人がいるから、だから、だから紗々を見ても、全然気持ちが動いたりしないんだって、そのくらい、美保さんが好きなんだなって思った!思ったの!」
もう、最悪だ、って思いながら、でも、喉のあたりに詰まっていた言葉が一気に出てきて、気持ちはスカッとした。

ケイは、すごく衝撃を受けたような、目がチカチカしているような表情をしていた。そういう表情が、どういう心境を表すのかは、私は知らない。

でも、思っていたことを言い切ってしまったら、とりあえずここ数週間の間、私の心の中で重たく固まっていた気持ちがなくなった。

こういうのを、胸のつかえが取れたって言うんだろう。でも、この後、私、どうするんだろうって思った。

ケイを見たら、母屋に続く白い道を見ながら、何か考え込んでいた。別に、ケイから何か言葉を聞きたいわけじゃない。ただ、思っていたことを言いたかっただけ。

紗々は、私の言いたかったことは、紗々に打ち明けるのではなく、ケイに直接言うべきだって、言いたかったんだろう。紗々らしいって思った。

この後、どうすればいいのかわからず、私がまごまごしていたら、紗々が走って犬と一緒に戻ってきた。

「お、泣いてないね、麻衣。よしよし」そう言って、紗々が私の近くまですっ飛んでくる。一気に緊張が緩んで、私は「ささー」って言いながら、紗々に抱きついた。

「ケイ、麻衣に変なことしなかったでしょうね」
紗々が、私を抱きしめ返しながら、ケイに強めの口調で聞いた。振り返ったら、ケイが、泣きそうな顔で私たち2人を見て「そんなことしねえよ」って小さな声で言った。

結局、紗々が戻ってきた後には、ケイも私も、2人で話していたことはそのあとは話さずに、そのまままたピザを焼いて食べて解散した。翌朝、ケイがテントとタープなどを片付け、BBQセットを山小屋の中にしまった。