「確かに私は、グランフォールド家が進めていた研究を止めた」
秘密を守ることと、お母さまの制裁。
その二つを天秤にかけて、お父さまは後者から逃れることを選んだ。
まあ、仕方ない。
お母さまは、別に妾を許さないほど器は狭くないのだけど……
事前の相談もなしに浮気をされていたら、当たり前だけど怒る。
そして、怒った時のお母さまは怖い。
「グランフォールド家は、魔法についての研究をしていたと聞いていますが?」
「そこまで知っているのか……ならば隠す必要はないな。その通りだ。無から有を生み出す魔法……それについて、グランフォールド家は実用化を目指していた」
「研究がどれくらい進んでいたのか、それはわかりませんが、エスト君の話によると、ある日一方的に打ち切られたようです。それについては?」
「私の命令によるものだろう」
全てお父さまが関与していた。
そのことを、意外とあっさり認める。
ふむ。
こうもあっさり白状するということは、お父さまとしては、悪いことをしているとは思っていないようだ。
むしろ、正しいことをしていると思っているっぽい。
なぜ、そのような考えに至るのか?
そこを突き止めたい。
「一方的な打ち切りで、なにも説明がないと聞いています。お父さまは、なぜそのようなことを?」
「それは……」
「仕事をされている時のお父さまの全てを知っているわけではありませんが……しかし、そのような理不尽をする方ではないと、私は知っています。なにかしら理由があるのだと思っています」
「……」
「しかし、お父さまの様子を察するに、その理由を簡単に話すことはできない。公にすることは難しい。違いますか?」
「……まったく」
お父さまは苦笑した。
「その頭の回転の早さ、いったい誰に似たのだろうな」
「お父さまとお母さまの娘ですから」
あと、前世の知識も少し混じっています。
そう心の中で付け足した。
「理由を教えていただけませんか?」
「しかし……」
「秘密にするのには、それ相応の理由があるのでしょう。しかし、関係者になにも説明しないと、不満だけが残ります。それはくすぶり続け、いつか大きく燃え上がるかもしれません。そういった火種を残すつもりなのですか? それは悪手ではないのですか?」
「……本当に叶わないな」
お父さまは、降参というように肩をすくめてみせた。
よし。
ひとまず、最初の関門をクリアーすることができた。
ただ、問題はここからだ。
お父さまが魔法の研究をストップさせた理由を知り……
その上で、グランフォールド家の研究を再開させることができるか?
それはとても難しく、一筋縄ではいかないだろう。
とはいえ、話を進めてみないことにはなにも始まらない。
「三人共、言われなくてもわかっていると思うけれど、これから話すことは他言無用だ。絶対に話してはならない。いいね?」
「「「はい」」」
私とフィーとエストは、揃って頷いた。
お父さまはメイド達を下がらせて……
それから、心を落ち着けるように紅茶を一口、口に含む。
そして本題に入る。
「……私がグランドールド家の研究をやめさせたのは、魔法の危険性に気づいたからだ」
「そんな!?」
真っ先に反論したのはエストだった。
やや前のめりになり、お父さまを睨みつける。
「魔法は危険なものではありません! とても画期的な力で、新しい技術です。その方法が確立されれば、僕達の生活、技術は数段上になることが……」
「わかっているよ」
「あ……」
お父さまに静かな目を返されて、エストは我に返ったらしい。
大きな声を出したことを詫びて、ソファーに座る。
「すみませんでした」
「いや、気にすることはないさ。気持ちはわかるからね」
「なら……」
「ただ、それでも私は反対するだろう」
お父さまからは、とても強い意思を感じた。
なぜ、そこまで魔法の研究に反対するのだろう?
私も疑問だ。
ここは異世界。
魔法の研究が始められたばかりで、科学技術は劣る。
故に不便なことも多い。
それを補うために、魔法技術が確立されればいいと思うのだけど……
お父さまは、なにを問題視しているのだろうか?
「私は、グランフォールド家の研究を……魔法をないがしろにするつもりはない。むしろ、魔法は素晴らしい技術だと思っている。実用可能になれば、大きな恩恵をもたらしてくれるだろう」
「そういうのならば、どうして?」
「魔法は素晴らしいものだが、しかし、同時に大きな危険を孕んでいるからだ」
「危険……ですか? お父さま、それはどのような……あっ」
問いかけようとして……
しかし、私は途中でお父さまの言葉の意味に気がついた。
そんな私を見て、エストは怪訝そうな顔に。
「なにか気になることが?」
「……ありますね」
エストにこんなことは告げるのは心苦しいのだけど、しかし、告げなければならない。
それで嫌われることになったとしても、それはもう仕方ない。
それに、嫌われるのは慣れっこだ。
なにせ、私は悪役令嬢なのだから。
秘密を守ることと、お母さまの制裁。
その二つを天秤にかけて、お父さまは後者から逃れることを選んだ。
まあ、仕方ない。
お母さまは、別に妾を許さないほど器は狭くないのだけど……
事前の相談もなしに浮気をされていたら、当たり前だけど怒る。
そして、怒った時のお母さまは怖い。
「グランフォールド家は、魔法についての研究をしていたと聞いていますが?」
「そこまで知っているのか……ならば隠す必要はないな。その通りだ。無から有を生み出す魔法……それについて、グランフォールド家は実用化を目指していた」
「研究がどれくらい進んでいたのか、それはわかりませんが、エスト君の話によると、ある日一方的に打ち切られたようです。それについては?」
「私の命令によるものだろう」
全てお父さまが関与していた。
そのことを、意外とあっさり認める。
ふむ。
こうもあっさり白状するということは、お父さまとしては、悪いことをしているとは思っていないようだ。
むしろ、正しいことをしていると思っているっぽい。
なぜ、そのような考えに至るのか?
そこを突き止めたい。
「一方的な打ち切りで、なにも説明がないと聞いています。お父さまは、なぜそのようなことを?」
「それは……」
「仕事をされている時のお父さまの全てを知っているわけではありませんが……しかし、そのような理不尽をする方ではないと、私は知っています。なにかしら理由があるのだと思っています」
「……」
「しかし、お父さまの様子を察するに、その理由を簡単に話すことはできない。公にすることは難しい。違いますか?」
「……まったく」
お父さまは苦笑した。
「その頭の回転の早さ、いったい誰に似たのだろうな」
「お父さまとお母さまの娘ですから」
あと、前世の知識も少し混じっています。
そう心の中で付け足した。
「理由を教えていただけませんか?」
「しかし……」
「秘密にするのには、それ相応の理由があるのでしょう。しかし、関係者になにも説明しないと、不満だけが残ります。それはくすぶり続け、いつか大きく燃え上がるかもしれません。そういった火種を残すつもりなのですか? それは悪手ではないのですか?」
「……本当に叶わないな」
お父さまは、降参というように肩をすくめてみせた。
よし。
ひとまず、最初の関門をクリアーすることができた。
ただ、問題はここからだ。
お父さまが魔法の研究をストップさせた理由を知り……
その上で、グランフォールド家の研究を再開させることができるか?
それはとても難しく、一筋縄ではいかないだろう。
とはいえ、話を進めてみないことにはなにも始まらない。
「三人共、言われなくてもわかっていると思うけれど、これから話すことは他言無用だ。絶対に話してはならない。いいね?」
「「「はい」」」
私とフィーとエストは、揃って頷いた。
お父さまはメイド達を下がらせて……
それから、心を落ち着けるように紅茶を一口、口に含む。
そして本題に入る。
「……私がグランドールド家の研究をやめさせたのは、魔法の危険性に気づいたからだ」
「そんな!?」
真っ先に反論したのはエストだった。
やや前のめりになり、お父さまを睨みつける。
「魔法は危険なものではありません! とても画期的な力で、新しい技術です。その方法が確立されれば、僕達の生活、技術は数段上になることが……」
「わかっているよ」
「あ……」
お父さまに静かな目を返されて、エストは我に返ったらしい。
大きな声を出したことを詫びて、ソファーに座る。
「すみませんでした」
「いや、気にすることはないさ。気持ちはわかるからね」
「なら……」
「ただ、それでも私は反対するだろう」
お父さまからは、とても強い意思を感じた。
なぜ、そこまで魔法の研究に反対するのだろう?
私も疑問だ。
ここは異世界。
魔法の研究が始められたばかりで、科学技術は劣る。
故に不便なことも多い。
それを補うために、魔法技術が確立されればいいと思うのだけど……
お父さまは、なにを問題視しているのだろうか?
「私は、グランフォールド家の研究を……魔法をないがしろにするつもりはない。むしろ、魔法は素晴らしい技術だと思っている。実用可能になれば、大きな恩恵をもたらしてくれるだろう」
「そういうのならば、どうして?」
「魔法は素晴らしいものだが、しかし、同時に大きな危険を孕んでいるからだ」
「危険……ですか? お父さま、それはどのような……あっ」
問いかけようとして……
しかし、私は途中でお父さまの言葉の意味に気がついた。
そんな私を見て、エストは怪訝そうな顔に。
「なにか気になることが?」
「……ありますね」
エストにこんなことは告げるのは心苦しいのだけど、しかし、告げなければならない。
それで嫌われることになったとしても、それはもう仕方ない。
それに、嫌われるのは慣れっこだ。
なにせ、私は悪役令嬢なのだから。