フィーの誕生日パーティーは、大成功で終わり……
 みんな、最後まで笑顔だった。

 フィーが喜んでくれて、アレックスとジークも喜んでくれて、父さまと母さまも喜んでくれた。
 一連の流れを企画した身としては、うれしい限りだ。

 今回のことで、アレックスとジークが、私に対する見方、印象を変えてくれたらラッキーなのだけど……うーん、どうだろうか?
 二人共、満足していたような気はするが、フィーに対する好感度が上昇しただけで、私に対する好感度は変わっていない気がする。

 というのも、誕生日パーティーの時、二人は私のドレス姿を見てなにも褒めてくれなかった。
 フィーに対しては、綺麗だのかわいいだの言っていたのに……
 私を見ると、途端に気まずそうな顔になり、目をそらしていた。
 見るのもイヤなのだろうか?

 うーん……それなりに順調に進んでいると思っていただけに、二人の反応は残念だ。

「まあ、それはそれで構いませんけどね」

 アレックスとジークのことは気になるものの……
 でも、今日はなによりも、フィーのことを一番に考えないといけない。

 そして、誕生日パーティーは成功した。
 フィーは本物の笑顔を浮かべていた。
 それで十分だ。

「……そろそろ寝ましょうか」

 ペンを置いて、日記帳を閉じる。

 フィーを真似て日記を書き始めたのだけど、なかなか楽しい。
 一日の出来事を思い出して、色々なことを考えることができる。
 それが楽しくもあるし……
 おそらく、後々で見返した時に、重要な発見をしたりもするのだろう。

 これからも、毎日、日記をつけていこうと思う。

 コンコン。

「はい?」

 扉がノックされる音が響いて、答える。
 こんな時間に誰だろう?

「あの……アリーシャ姉さま、まだ起きていますか? シルフィーナです」
「フィー? どうぞ」
「失礼します」

 恐る恐るという感じで、フィーが部屋に入ってきた。

 かわいいフリルのついた、ピンク色の寝間着姿だ。

「ごほっ!?」
「アリーシャ姉さま? ど、どうしたんですか?」
「……フィーは、私を萌え死させるつもり」
「もえ……?」
「いえ、なんでもありません。それよりも、どうしたのですか?」

 寝間着に気を取られて気づかなかったけれど、なぜか枕を手にしていた。

 ふと、その理由に思い至る。
 これはもしかして、もしかすると……?

「あの……子供っぽい、って笑われるかもしれないんですけど、でも、その……一緒に寝てもいいですか?」
「もちろん!!!」

 二つ返事で了承する。
 かわいい妹と一緒に寝られるなんて、最高か!

「えへへ……よかったです、断られなくて」
「フィーの頼みを断るなんて、ありえませんよ」
「アリーシャ姉さま、優しいです」
「それじゃあ、寝ましょうか」
「はいっ」

 ベッドに移動して、フィーは自分の枕を横に並べた。

 まずは私がベッドに横になり、続けてフィーが。
 おじゃまします……なんて、少し照れた様子で言う姿は、たまらない破壊力だ。
 くっ……この世界にスマホがないことが悔やまれる。

「……アリーシャ姉さま、まだ起きていますか?」
「横になったばかりですよ。さすがに、まだ起きています」

 苦笑しつつ、フィーの言葉を待つ。
 ただ単に、一緒に寝たいだけではなくて、なにかしら話したいことがあるのだろう。

「ありがとうございます」
「誕生日パーティーのことですか? 妹のために、姉として当たり前のことをしただけですよ」
「それもあるんですけど、でも、それだけじゃなくて……」

 フィーが恥ずかしそうにしつつ、言葉を続ける。

「……私の姉さんになってくれて、ありがとうございます」
「……フィー……」
「アリーシャ姉さまのおかげで、私、自分を好きになることができました。シルフィーナ・クラウゼンを嫌いにならないですみました。だから……ありがとうございます。全部、全部、アリーシャ姉さまのおかげです」

 そっと、フィーが私の手を握ってきた。
 おっかなびっくりではあるのだけど……
 でも、一度握った後は、離したくないというかのように強い。

「私は、大したことはしていませんよ」
「でも……」
「フィーが自分を好きになることができたのは、フィー自身の力によるものですよ」
「そんなことありません。アリーシャ姉さまがいなかったら、私は……今も、自分を好きになれなかったと思います。ただ流されるままに、なにも考えずに生きていたと思います。アリーシャ姉さまが、私のことを、ただの人形から血の通う人にしてくれたんです」

 フィーは、私の手を両手で握る。
 そして顔を近づけて、キラキラとした目をこちらに向けた。

「だから、ありがとうございます」
「私はなにもしていない、と言っても、あなたは納得しないのでしょうね」
「はい。私のこの気持ち、想いは、アリーシャ姉さまでも覆すことはできませんから」
「なら……一応、否定するのはやめておきます」
「……」
「……」

 互いの顔を見て、

「ふふっ」
「くすっ」

 共に小さく笑う。

 フィーの浮かべている笑顔は、心からのものだ。
 以前のように、曇っているようなことはない。
 そんな笑顔を生み出すことに、私が少しでも関わることができたのなら、それはとても誇りに思う。

「アリーシャ姉さま」
「はい、なんですか?」
「あの……これからも、ずっと一緒にいてくれますか?」
「もちろんです」

 にっこりと笑いながら答える。

「フィーがイヤと言っても、私は一緒にいますからね。ずっとずっと、傍にいますからね。だって……私達は、姉妹なのですから」
「アリーシャ姉さま……はいっ」

 フィーは、花が咲いたような、明るく輝いた笑みを浮かべて、

「アリーシャ姉さま、大好きです」

 とびきりの笑顔と共に、そう言うのだった。