「だからってさぁ、グラシエルの語り部とその罪の子が同一人物ってのは話がとびすぎじゃないのぉ?」
「とびすぎなわけがあるか。残っているおとぎ話でこの二つだけがやけに符合するんだ。事実に基づいた話じゃなきゃむしろおかしいだろう」
「うーん、一理あるような、ないような」
さて、この『語り部』がなにかというとこちらもおとぎ話、寝物語ではなく大人でも夢を見るような伝説や遺失した文明のような話に分類されるが、山脈に住み着く『語り部』が両部族の真相を知っているというものだ。語り部は『占い師』や『呪術師』と呼ばれることもあり、魔法使いよりも人外じみた容姿の姿絵で記されている。もっともそれもいわゆる想像図のひとつでしかないので考えるだけ野暮ではあるのだが現状それしか手掛かりがない。
ところで彼らがなんなのかというと……
「ついたな、門の前までくるとさすがに風が痛いな……」
「世界中のダンジョンを潜り抜けた私たちですよ、きっと大丈夫です」
「ダンジョンは寒くないじゃん、俺やだよぉー帰ろうよぉー」
いわゆる冒険者、というやつである。
冒険者といっても、この国も大陸も狩るような魔獣やモンスターはそういない。たまに超大型魔獣が出たとしても、その方面の専門家パーティに要請して麻酔銃などで捕獲できないかというのが先である。できれば殺さないようにしないとバッシングが酷いからだ。
なので冒険者のほとんどの仕事は地学や、生物学調査がメインで、腕の立つ者たちが未開の地である自然発生したダンジョンに潜り込みその中でのみモンスターを狩り、ダンジョン内のドロップ品を持ち帰ってくるのだ。
ダンジョンは生き物ではないか、というのが通説で、というのもドロップ品やモンスターが枯渇しないため、ダンジョン産のドロップ品は言ってしまえば生体反応の産物なのだということになっている。人間が生きてさえいれば爪や髪が伸びるのと同じような。
そんな「腕の立つ」彼らにとって、グラシエル山脈の攻略は言ってみればひとつのチャンスでもある。目的は『語り部』でも生きて帰ってくるだけでその後の人生を約束されたようなものだからだ。それだけこの壁と門には意味がある。この国でも、大陸でもだ。