朋也と電話をしたすぐあとは、服装のことなど全く考えていなかった。
 しかし、酔いが醒めた翌日になって、やはり女らしさをアピールしたいと急に思い立ち、当日になって着ていく服を物色し始めた。
 しかも、夜が待ち遠しく思え、時間の流れがいつになく遅く感じてソワソワする。

 こんな涼香を見たら、紫織はどう思うだろう。
 もしかしたら、『涼香可愛い』などと言いながら楽しそうにケラケラ笑うに違いない。
 馬鹿にする、というより、素直に涼香が〈女〉になっている姿を喜ぶ。
 紫織はそういう人間だ。

 だが、姉と妹は絶対に違う。
 紫織と違い、あからさまに面白がり、揚げ句の果てにはデートの相手を確かめてやろうと躍起になる。
 色んな意味で恐ろしい姉妹だから、親に頭を下げてまで一人暮らしを始めて良かったとつくづく思う。

「それにしても、これって変に気合入り過ぎて変に思われないかな……?」

 涼香はひとりごちながら、全身鏡で今の自分の格好を改めて見つめる。
 仕事の時はともかく、普段は進んでスカートを穿くことがない。
 だが、せっかくだからと滅多に着ることのない、黒地に白い花柄があしらわれたワンピースを引っ張り出したものの、いかにも〈私、すっごく張りきっちゃってます〉感が出ていて、やっぱりこれはどうなのだろうかと思い直してしまう。
 かと言って、いつものような白シャツとジーンズだとあまりにもラフ過ぎて、それも違うのでは、と思ってしまう。

 こんな時、紫織がいたらどう言ってくれるかと考える。

「やっぱ紫織だったら、こっちがいいって強く主張してくるな……」

 考え抜いた末、紫織が出すであろう意見を尊重しようと決めた。
 自分で結論を出したというのが恥ずかしいから、勝手にこの場にいない紫織をダシにしたようなものだが。

「私だって女なのよ、うん!」

 鏡の向こうの自分に強く言い聞かせ、何度も頷いて見せる。
 よくよく自分の姿を見てみれば、ワンピース姿も決して悪くない。
 膝が隠れるか隠れないかのギリギリの長さだから、脚もいつもよりも長く見える。
 私もそこそこ見られるじゃない、と思ってしまう辺り、結構なナルシストなのかもしれないと涼香は自分で呆れた。