「ぐっ……!?」

 ゼノアスの顔が苦痛に歪む。

 僕の剣は届いた。
 彼の肩に深い裂傷を刻むことに成功する。

 とはいえ、これで勝ったなんて思わない。
 彼ほどの剣士になれば傷なんて当たり前。
 多少、動きは鈍るかもしれないけど、戦闘不能に陥ることなんてない。

 まだまだ戦いは続く。

「やってくれるな!」

 ゼノアスが吠えて、カウンターを繰り出してきた。
 超高速の突き。
 紅と似ているから、真王竜なのかもしれない。

 復讐を果たすために作られた剣術。
 それはとても鋭く、殺意にあふれていた。

 すぐに跳んで避け……
 いや、避けられない!
 ゼノアスの攻撃の方が早い。

 それを理解した僕は、逃げるのではなくてあえて前に出た。

「うくっ」

 ゼノアスの剣が脇腹を貫いた。
 ただ、咄嗟にこちらから前に出たことで致命傷は避けることができた。

 痛い。
 泣けるほどに痛い。
 でも、まだまだ動くことはできる。

 ゼノアスの行動を真似するかのように、今度は僕がカウンターを叩き込む。

 ……そこから先は剣と剣の応酬だ。
 刃を叩き込み、叩き込まれて。
 斬りつけて、斬られて。
 突いて、突かれて。
 ほぼほぼゼロ距離で互いに剣を振り、自分と相手に傷を刻んでいく。

「うぁあああああっ!!!」
「おぉおおおおおっ!!!」

 どんどん傷が蓄積されていく。
 血が流れすぎたせいか、痛みは感じなくなってきた。

 でも、体が止まることはない。
 むしろ今まで以上に加速して、強く速く剣を振ることができるようになっていた。

 頭はどこまでもクリアだ。
 思考が冴えわたる。
 その中で、どこをどうすればゼノアスに剣を届かせることができるか? どのように戦うことが最適なのか?
 そんなことを考えつつ、彼の一歩上をいくために、戦い続ける。

 それはゼノアスも同じだ。
 僕の一歩上に行こうと、ありとあらゆる角度から攻撃を叩き込んでくる。
 フェイントや視線をズラすなどの技術も織り交ぜてくる。

 一つ選択を間違えれば、その瞬間に僕の命は終わっていただろう。

 でも、僕は生きている。
 こうして剣を振ることができる。

 僕は……まだまだ戦うことができる!

「僕は、絶対に負けない!」

 命を賭けても大事な人を守る覚悟がある。
 でも、本当に命を失うつもりはない。
 それは最低最悪、最後の手段だ。
 最後の最後、本当にどうしようもならなくなった時まで諦めない。
 絶対に諦めない。

 僕が死ぬことで大事な人達を守ったとしても、しかし、それは守ったことにならない。
 きっと心に傷を残してしまう。

 だから、僕は生きて帰る。
 この戦いを生きて乗り越えてみせる。

 それは生に対する執着だ。
 ともすれば醜く映るかもしれない。

 でも……

 どんな形であれ、『生きる』と思う者は強い。
 そのことが証明されるかのように、決着の時が近づいていた。