レナと和解することができた。
 友達になることができた。

 それは、すごく嬉しいことなのだけど……
 ただ、喜んでばかりもいられない。

「レナは……これからどうするの?」

 友達になったものの、レナは、黎明の同盟を抜けてはいない様子。
 なら、この先敵対することも……

「うーん……フェイト達に協力してもいいよ? 王都に来たのは、黎明の同盟と決着をつけるためなんでしょう?」
「「えっ」」

 その言葉はとても意外なもので、ソフィアも一緒になって、驚きの声をあげてしまう。

「い、いいの……?」
「仲間を裏切るのですか?」

 驚く僕。
 厳しい視線を向けるソフィア。

 一方で、リコリスとアイシャとスノウは、食後のお昼寝をしていた。
 なんていうか……平和なのかそうじゃないのか、よくわからない状況だ、これ。

「裏切るというか……正したい、のかな」

 レナは苦笑して……
 本当に苦い表情をして、言葉を続ける。

「あの時、フェイトとソフィアと戦って……お説教されて……ボク、わかったんだ。今のままでいたらいけない、って」

 そして、レナは自分のことを語る。

 レナの両親は黎明の同盟の一員だ。
 だから、レナも生まれた時から同盟の一員となった。

 過去に理不尽に討たれた神獣の敵を討つ。
 憎しみ、恨み、怒り……
 それらを晴らすことが正義であり、生きる道。
 それこそが存在理由であると、そう信じていた。

 そしてレナは、魔剣に対する高い適合性が確認された。
 稀に、先祖の血を強く引いて、魔剣に飲み込まれることなく、自由自在に扱える者が現れるという。
 レナは、その適合者だった。

 両親はレナに期待を寄せた。
 仲間達も期待を寄せた。

 あなたが恨みを晴らすのよ。
 あなたが正義を執行するのだ。
 あなたがやるべきことは、神獣の正義を伝えることだ。

 そんな言葉をずっとかけられて、レナはその気になっていた。
 自分のやるべきことは復讐であり、それは正当なことだと思っていた。

 ただ……

「初めてなんだ。ボクのことを叱ってくれたの……本当に、初めてだったんだ」
「偉そうだったかもしれないけど……うん。僕は、また同じことが起きたら、同じことを繰り返すと思う」

 過去に虐げられた神獣には同情する。

 でも、今を生きる人は関係ない。
 それに、復讐のために同族を犠牲にするなんて、そんなことは間違っている。
 そこに正義なんてない。

 あるのは、ただの憎しみだけだ。

「そんなフェイトだから、ボク、目が覚めたのかも」

 レナは嬉しそうに言う。

「酷いことをしたのに、でも、ボクを見捨てないでくれた。何度も何度も本気でぶつかってきてくれた。必死に呼びかけてくれた。手を差し伸べてくれた……本当に、本当に嬉しかったんだ……」
「……レナ……」
「黎明の同盟の一員じゃなくて、類まれなる魔剣使いでもなくて……フェイトは、ボクのことをただの『レナ・サマーフィールド』として見てくれた」

 レナは涙を浮かべつつ。
 でも、とても晴れやかな顔をして、こちらを見る。

「ありがとう、フェイト」
「……うん、どういたしまして」

 そこまで大したことはしていない。
 ただ、彼女と友達になりたいと思っただけ。

 でも、それが彼女の心に強く響いたのだろう。
 そんなことができて、それはそれで嬉しいと思った。

「だから……ボク、フェイト達と一緒に行動したいな、って。それで、ボクがそうだったように、組織のみんなも考え直してほしいんだ。言われてみると、やっぱりおかしいことだからね……あはは、今更な話だけどね」
「いいえ」

 ソフィアは、そっとレナの手を取る。

「ソフィア……?」
「あなたにとって、黎明の同盟は家族のようなものなのでしょう? それを正そうとすることは、とんでもない勇気がいるはずです。それを、今更と笑うことはできません。そんなことをする人がいたら、私が怒ってあげます」
「……」
「私は、あなたのことを尊敬しますよ」
「……あはは、なんていうか、もう……そんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったよ」

 レナがうつむいた。
 その表情はわからないけど……
 でも、なにも触れないでおく。

「……ありがとう……」

 ややあって顔を上げたレナは、どこかさっぱりした表情になっていた。

「だから、ボクは、ボクにできることをしようと思うんだ。そのために仲間達と戦うことになっても、前に進むよ」
「うん」

 レナに手を差し出す。

「一緒にがんばろう」
「うん!」

 レナは、笑顔で僕の手を取るのだった。