「どうしたのだ、騒々しい。客人の前だぞ」
「す、すまない長老。でも一大事なんだ!」

 若い獣人はとても焦っているみたいだ。
 ここまで全力疾走してきたらしく、息が切れている。

「ま、魔物が現れた!」
「なんじゃと!?」
「かなりの数だ! 今、みんなで防いでいるものの避難が間に合っていない!」
「くっ、なんという……」

 魔物に襲われたことがないのだろうか?
 長老の苦い顔を見る限り、かなりのピンチなのだろう。

 だとしたら、僕達のすることは決まっている。

「ソフィア」
「はい」

 ソフィアも同じ気持ちだ。

「リコリス、アイシャとスノウをお願い。ここにいてね」
「はーいはい、あたしに任せておいて」
「うん、頼りにしているよ」
「フェイト、行きましょう」
「お二人共、なにを……?」

 戸惑う長老に、ボクとソフィアは同時に言う。

「「魔物を倒します!」」



――――――――――



 魔物が現れたという、村の最南端へ向かう。
 すると、そこは戦場になっていた。

「怯むなっ、押し返せ!」
「し、しかし、あまりにも数が多く……」
「グルァ!」
「ぎゃあああ!?」

 たくさんの獣人が戦い。
 たくさんの血が流れて。
 そして……彼らに迫る魔物の群れ。

「このっ!!!」

 血が沸騰するかのような怒り。
 それを魔物にぶつける。

 剣を縦に振り下ろして。
 それから横に薙いで。
 最後に下から上に跳ね上げる。

 狼のような魔物を三匹、まとめて退けることに成功した。
 牽制のために刃を魔物に向けつつ、怪我をしている獣人を背中にかばう。

「大丈夫ですか?」
「あんたは……」
「援軍です! 今は後退を」
「わ、わかった、助かる!」

 信じてくれるかどうか不安だったけど、助けたからか、なんとか信頼を得られたようだ。
 怪我をした獣人は素直に後方へ下がる。

 よし。
 この間に、どうにかして戦線を押し返して……

「神王竜剣術、仇之太刀……」

 ソフィアが前に出る。

「閃っ!!!」

 ソフィアが大上段に構えた剣を一気に振り下ろした。

 極大の斬撃。
 そして、圧倒的な闘気。
 それらがまとめて解き放たれて、魔物の群れを百単位でまとめて吹き飛ばす。

 魔物は抗う術を持たない。
 一瞬でその命を刈り取られ、体を塵と化す。

 彼らの運命は、ソフィアがここにやってきた時点で決していた。

「……やっぱり、すごいなあ」

 僕の幼馴染は剣聖だ。
 剣を極めていて、見ての通り、とんでもない力を持っている。

 その隣に並んで、対等になるまで何年かかるだろう?
 というか……どれだけの時間をかけたとしても、対等になれるかどうか。
 そんな迷い、悩みを抱いてしまう時がある。

 でも。

「僕もがんばらないと」

 手が届かないと、諦めたくない。
 無理だと決めて、足を止めたくない。

 やっぱり……
 僕は、ソフィアのことが好きだから。
 彼女と、ずっとずっと一緒にいたいから。

 だから、なにがあろうと。
 どんなことがあろうと、がんばり続けるだけ。

「よし!」

 というか……
 今は僕のことよりも、ここにいる獣人の力にならないと。

 改めて気合を入れ直して、僕は魔物の群れに立ち向かう。