ホルンさんはポケットから手の平サイズの宝石を取り出した。

 ぐっと握りしめて……
 そのまま砕く。

 キィンッ! という甲高い音が響いた。

「……」

 反射的に身構えるけど、なにも起きない。

 不発?

 怪訝思いつつ、さらに様子を見ると……

「……あっ」

 煉獄竜を包み込む氷が溶け始めていた。
 時間を加速しているかのように、異様な速度で氷が溶けていく。

 ほどなくして、ピシリと氷にヒビが入る。
 それは全体に広がり、砕ける寸前のガラスような姿へ。

「二人共、来るぞ」

 ホルンさんが剣を構えた。
 それにならい、僕とソフィアも剣を抜く。

 そして……

 ギィンッ!!!

 耳をつんざくような音と共に、氷が一気に砕け散る。

「オオオオオオォッ!!!!!」

 産声のように、煉獄竜が雄叫びを響かせた。
 ビリビリと空気が震えて、耳がどうにかなってしまいそうだ。

「グルルルゥ……」

 最強の竜が君臨する。

 封印から解放されたことに喜びを覚えているのだろう。
 牙の並ぶ歯を見せつけるようにして笑っている。

 封印されたことに怒りを覚えているのだろう。
 瞳を光らせて、ホルンさんを睨みつけている。

「これ、は……」

 想像以上の化け物だ。

 巨大な壁が立っているかのような圧迫感。
 死が直面したかのような危機感。
 自然と呼吸が乱れ、頭が真っ白になってしまいそうになる。

 でも。

「んっ」

 唇を噛んで、その痛みで我を取り戻す。

 ヤツの迫力に飲まれたらダメだ。

 ここで煉獄竜を倒す。
 スノウレイクを守り……
 そして、リコリスの友達の仇を討つ。
 ホルンさんの手伝いをする。

 改めてやるべきことを思い返したら、勇気と力が湧いてきた。

「いくぞ!」
「「はいっ!!」」

 まず最初に、ホルンさんが突撃した。

 この決戦のために用意された剣は、とても大きくて長い。
 まるで鉄塊だ。

 そんな剣を己の手足のように扱い、ホルンさんは、鉄塊を煉獄竜の頭に叩きつけた。

「グァッ!?」

 煉獄竜が怯み……
 その間にソフィアが突撃する。

「神王竜剣術、壱之太刀……破山っ!!!」

 最初から全力全開。
 聖剣エクスカリバーによって生み出された一撃は、怯む煉獄竜の体を切り裂いた。

「神王竜剣術、弐之太刀・疾風っ!!!」

 ソフィアが作った傷に、さらに攻撃を叩き込む。

 頑丈な竜の鱗を切り裂くような力は僕はない。
 でも、あらかじめ傷ができているのなら、追加のダメージを与えることはできる。

「ギアアアアアァッ!!!」

 煉獄竜の悲鳴。
 巨体が仰け反る。

 いける!

 そう思ったのだけど……
 でも、そうそう簡単にはいかないらしい。

「ガァアアアアアッ!!!」

 煉獄竜は怒りに瞳を燃やしつつ、ブレスを放ってきた。

 直撃したら骨も残らない。
 かすっただけでも致命傷だろう。

 追撃は諦めて、全力で回避。
 思い切り横に跳ぶ。

「あつつ!?」

 だいぶ距離をとったはずなのに、熱湯を浴びせられたかのように全身が熱い。
 なんて威力だ。
 これじゃあ迂闊に近づくことが……

「むぅんっ!」
「ホルンさん!?」

 ブレス? それがどうした。
 そんな感じで、ホルンさんが再び突撃した。