将来結婚しようね、と約束した幼馴染が剣聖になって帰ってきた~奴隷だった少年は覚醒し最強へ至る~

 あれから一週間が経った。

 たくさん体を動かして、しっかりと休憩をして、再び体を動かす。
 その繰り返し。

 身体能力の高いアイシャでも、最初はとても疲れた様子だったけど……
 トレーニングを繰り返すうちに慣れてきたのか、最近はわりと余裕を見せていた。
 激しい運動に体が慣れてきた証拠だろう。

 この様子なら、あと数日もすれば剣の修理を始められるかもしれない。
 そんな期待を抱きつつ、今日もトレーニングに励んだ。



――――――――――



「すみません。この前依頼を出した、フェイトっていいますけど……」
「はい、フェイト・スティア―トさんですね? 依頼の方、完了しています。こちら、特注の研磨剤と錬精水。それと、黒鉄鉱です」
「ありがとうございます」

 依頼料を払い、頼んでいた物を受け取る。

 どれも剣の修理に必要な材料だ。
 いくらか入手難易度が高い素材があったため、ギルドに依頼を出しておいたのだ。
 安くない依頼料だけど、雪水晶の剣を修理するためなら惜しくない。

「あれ?」

 家に帰ろうとしたところで、ホルンさんの姿を見つけた。
 そういえば、剣の修理に夢中になるあまり、あれから話をしていない。

「こんにちは」
「おぉ、フェイトか。久しぶりじゃな」
「すみません。剣の修理の準備で、色々と忙しくて……」
「なに、謝る必要はないぞ。雪水晶の剣が元通りになることは、儂も願うところ。むしろ、手伝えなくてすまんな」
「いえ、そんな! ホルンさんが謝ることじゃ……」
「……儂には、どうしてもやらなくてはいけないことがあってな」

 そう言うホルンさんは、とても険しい表情をしていた。

 普段の穏やかな雰囲気はどこへやら。
 抜き身の刃のように鋭く、触れることをためらわせる。

 でも、同時に思いつめているような感じもして……

 放っておいたらいけない。
 そんなことを強く思い、不躾なことだと自覚しつつも口を開く。

「その、やらないといけないこと、っていうのは……聞いてもいいですか?」
「……面白い話ではないぞ?」
「それでも、お願いします」
「……」
「……」

 視線と視線が真正面からぶつかる。
 すごい圧で、ともすれば目を逸らしてしまいそうになる。

 それでも我慢して……

「ふぅ」

 やがて、ホルンさんは小さな吐息をこぼした。
 それと同時にプレッシャーも消える。

「こう言ってはなんじゃが、フェイトは意外と気が強いのじゃな」
「そんなこと、初めて言われました……」
「まあ、そうでなければあの剣聖と一緒にいることなどできぬか……いいじゃろう。明るい話ではないが、質問に答えよう」
「ありがとうございます。それと、ごめんなさい」

 話をしてくれるお礼と。
 ズカズカと心に踏み込んだ謝罪をした。

 ホルンさんは小さく笑い、軽く手を振る。

「よい。儂は気にしておらん。それよりも、儂の目的じゃが……」
「は、はい」
「……ノノカに託された依頼を果たすことじゃ」
「託された依頼……ですか」
「うむ。儂とノノカの最後の冒険はこの近くでな……そこで、ヤツに出会ったのじゃ」

 当時を思い返しているらしく、ホルンさんはギリッと奥歯を噛む。

「……当時、儂とノノカはとある素材の採取という依頼を請けていた。遠出をしなければいけなかったが、それほど難しいものではなくて、問題なく終わると思っていたが……しかし、ヤツに……煉獄竜に出会ったのじゃ」
「なっ……!?」

 思わぬ単語が飛び出してきたことに、僕は驚き、言葉を失ってしまう。

 煉獄竜。
 Sランクに指定されている魔物だ。

 その能力は圧倒的の一言に尽きる。
 相対した者はほとんど生き残っていないため、詳細な記憶はないのだけど……
 噂によると、一匹で国を一つ、滅ぼすことが可能だとか。
 その噂が決して誇張されたものではなくて、むしろ過小評価されているとか。

 ……そんな話を聞く。

「すみません。こんなこと聞くのはなんですけど、それは本当に煉獄竜なんですか……?」
「うむ、間違いない。儂も自分の目を疑ったが……あれは間違いなく煉獄竜じゃったな。力もその名にふさわしいものじゃった」
「そう、ですか……」

 まさか、そんなとんでもない魔物に遭遇したなんて。

「ヤツのせいで依頼は失敗。そればかりではなくて、多くの森が焼けて、草花も炭になってしまった。そのことを、ノノカは大層悲しんでおったよ」
「……」
「そして、儂に頼んだ。いつか、あいつをやっつけて、とな」
「……」

 その気持ちはよくわかる。
 放っておけばい、そのままになんてしておけない。

 ノノカはもういないのだけど……
 だからこそ、彼女の最後の願いを叶えてあげたいと思うのだろう。

「……あれ?」

 ふと、気がついた。

「今度こそ依頼を果たす、っていうことは……もしかして、この近くに煉獄竜が?」
「……うむ」

 ホルンさんは重々しく頷くのだった。
 とんでもない話だった。
 天災と同レベルの魔物がスノウレイクの近くにいるなんて……

 もしも街が襲われたら、とんでもない被害が出るだろう。
 場合によっては壊滅してしまうかもしれない。

「って、あれ?」

 続けて、気がついた。

「ホルンさんが煉獄竜と出会ったのって、だいぶ前のことなんですよね?」
「そうじゃな。かれこれ、数十年前になるじゃろうか」
「数十年前?」

 少し疑問に思う。
 それだけ昔からいて、スノウレイクに被害が出ないなんてこと、ありえるのだろうか?

 そんな僕の疑問を察した様子で、ホルンさんが言う。

「ノノカのおかげじゃ」
「ノノカの?」
「一矢報いたというか……最後に、彼女が煉獄竜を封印してくれてな。ヤツは今、とあるダンジョンの奥で眠っている」
「そうだったんですね」

 煉獄竜を封印してしまうなんて、すごい。
 すごいなんて言葉一つで表現できないくらい、本当にすごい。

 さすが、リコリスの友達というべきか。
 ノノカも色々と規格外だったのだろう。

「儂は、友の願いを叶えるにスノウレイクにやってきたのじゃ。今までの依頼は、そのための準備という感じじゃな」
「そうだったんですね……って」

 煉獄竜と戦うということは、その封印を解くわけで……
 もしも討伐できなかったら、そのまま煉獄竜が解き放たれることになる。
 その場合、スノウレイクが狙われる?

「大丈夫じゃよ」

 僕の懸念を察したらしく、ホルンさんが柔らかい口調で言う。

「ヤツはとあるダンジョンの最深部に封印されておってな。眠らせたりするのではなくて、巨大な檻を作り、閉じ込めている感じじゃ。ヤツはその巨体故に抜け出すことはできないが、儂ら人間は自由に出入りが可能じゃ」
「なるほど」

 それなら、もしも討伐に失敗しても煉獄竜が解放されることはない。

 一安心して……
 でも、いやいや違うだろう、と慌てる。

「む、無茶ですよ!」
「なにがじゃ?」
「あの煉獄竜と戦うなんて、絶対に無茶です! 返り討ちに遭うかも……」
「そうじゃな」

 ホルンさんは全て理解している様子だった。

 自分の剣では、煉獄竜に届かないこと。
 そして、絶対的な死が待ち受けていること。

 それでも、穏やかな様子は崩れない。

「なら、どうして……」
「男にはやらねばならん時がある」
「……あ……」
「フェイトも男なら、儂の気持ちがわかるじゃろう?」
「……」

 なにも言い返せない。

 つまらない意地なのかもしれない。
 男なんて、と笑われるのかもしれない。

 でも……

 ホルンさんが言うように、男には、確かにやらねければいけない時があるんだ。

「それに……儂も、もうこの歳じゃ。冒険者を続けているものの、いつ体が自由に動かなくなるかわからぬ。なればこそ、今のうちに仇を取りたい。悔いのない人生を生きたいのじゃ」
「それは……」

 そう言われると、もう反対できなかった。

 ホルンさんにとって、それだけノノカは大事なパートナーだったんだろう。
 その仇を討つ。
 当たり前の考えで、それを止める権利なんて僕にはない。

「最後にノノカの友達に出会うことができてよかった。いい思い出になったよ」

 ホルンさんは死ぬつもりだ。

 煉獄竜に一人で立ち向かうなんて、無謀極まりないけど……
 刺し違える覚悟で挑めば、あるいは。

 だけど……

「……僕にも手伝わせてくれませんか?」

 気がつけば、そんな言葉が飛び出していた。

 ホルンさんは目を丸くして驚く。

「……気持ちだけありがたく受け取っておこう」
「ダメですか?」
「これは儂の戦いじゃ。無関係のフェイトを巻き込むわけにはいかん」
「無関係なんかじゃありません」
「む?」
「僕はリコリスの友達……というか、家族みたいなものだと思っています。そして、ノノカはリコリスの友達。関係あります」
「それは……」
「それに、封印がずっと続くわけじゃないですよね? もしかしたら、なにかの弾みで解けてしまうかもしれない。なら、煉獄竜の討伐は、スノウレイクにとってとても大事なことです。故郷を守るための戦いでもあります」
「むう……」

 思いつくまま言葉を並べて、ホルンさんの退路を塞いでいく。
 咄嗟に出てきた言葉だけど、わりと説得力があったみたいで、ホルンさんは苦い表情に。

「それに……」
「それに?」
「僕は逃げたくありません」

 ここで、ホルンさんに全部任せて、なにもなかったことになんかできない。
 そんなことは絶対にダメだ。

 男として、一人の人間として。
 剣を取り、戦わないといけない場面だって、断言できる。

「……ふぅ」

 ややあって、ホルンさんは小さな吐息をこぼした。
 そして、手をこちらに差し出してくる。

「よろしく頼む」
「あ……はいっ!」

 僕は、しっかりとホルンさんの手を握り返した。
「……と、いうことになったんだけど……」

 宿へ戻り、ソフィアに事情を説明した。

「……」
「……」

 ソフィアはジト目だった。
 リコリスもジト目だった。

「?」

 アイシャはよくわかっていないらしく、小首をコテンと傾げている。
 そんなアイシャの足元で、スノウが楽しそうにじゃれついていた。

「……フェイト」
「は、はい!?」

 ソフィアが妙に怖い。
 ついつい背筋をピンと正してしまう。

 ソフィアは変わらずに僕へジト目を送り……
 ややあって、はぁとため息をこぼす。

「そういう大事なことは一人で決めないで、私達に相談してほしかったのですが……まあ、仕方ないですね。そういう話を聞いて、すぐに動いてしまうくらい、フェイトは優しいのですから」
「えっと……?」
「ま、次からはちゃんと考えなさいよ」

 よかった。
 二人は怒っていたわけじゃなくて、呆れていただけらしい。

 ……あれ?
 それはそれでダメなのかも?

「話は理解しました。煉獄竜なんてものがいるのなら、放っておくわけにはいきません。フェイトが言っていたように、なにかしらの弾みで封印が解けたら、とんでもないことになりますからね。今のうちに倒しておくべきです」
「それに、そいつがノノカの冒険を台無しにしてくれたんでしょ? なら、野放しになんてしておけないわね。ふざけたことをしてくれた礼、たっぷりしないと」

 リコリスの目は怒りに燃えていた。

 親友の仇を取ることができる。
 その想いが一気に膨れ上がっている様子だった。

「よかった」

 一人で決めてしまったことはよくないことだった。
 でも、二人は協力を約束してくれた。

 うん。
 改めて二人に感謝を。

「でもさー」

 いつもの調子に戻り、リコリスが言う。

「フェイトはどうやって戦うの? 今、剣がないじゃん」
「……あ」

 しまった。
 雪水晶の剣は、まだ修理前だった。

「出発は決まっているのですか?」
「ホルンさんは明後日、って言っていたけど……」

 絶対に間に合わない。

「そうなると、日をずらしてもらうか、代わりの剣を用意するしかありませんね」
「日をずらすのは難しいかも……」

 煉獄竜は月の満ち欠けで力が変わると言われている。
 新月になると力を失い、満月になると100パーセントの力を発揮することができる。

 そして、明後日が新月だ。

 その日を逃しても、一ヶ月待てば再び新月はやってくるけど……
 死も覚悟したホルンさんに、僕の都合で一ヶ月も待ってくれなんて、とてもじゃないけど言えない。

「仕方ありませんね。私の予備の剣を貸して……」
「いいや、それには及ばねえ!」
「父さん!?」

 いつからいたのか、父さんが部屋に入ってきた。

「友のために命を賭ける……くううう、泣かせる話じゃねえか!」
「話を聞いていたの?」
「悪いな。そんなつもりはなかったんだが、話が聞こえてきて、つい」

 父さん……僕らだからいいものの、他の人にそれをやらないでね?
 デリカシーが皆無で、下手したら訴えられるからね?

「そういうことなら、明後日までに剣の修理をしてやるよ」
「え? できるの?」
「ああ、問題はねえさ。今夜、準備をして、明日作業をする。そして、明後日の朝に仕上げをする。問題はねえ!」

 父さんは嘘を吐かない。
 そんな父さんが言うのなら、本当に可能なんだろうけど……

「リコリスとアイシャは平気なの?」

 問題は、父さん一人で全ての作業ができるわけじゃない、というところだ。
 リコリスとアイシャの協力が必須だけど、二人は……?

「ノノカの仇討ちのためなら、あたしだって、できることはなんでもやるわ」
「わたし……がんばる」

 二人はやる気たっぷりだった。

「フェイト」
「なに、父さん?」
「ただ修理するだけじゃなくて、前以上の最高の剣にしてやる。だから、お前はお前にしかできないことをやれ」
「……うん!」

 父さんの息子でよかった。
 この時、僕は心底そう思った。
「あーうー?」
「はーい、よしよし」
「きゃっきゃっ」

 スティアート家のリビングで、ソフィアは末っ子のルーテシアを抱いていた。

 慣れたもので、しっかりとルーテシアを抱いている。
 心地いいらしく、ルーテシアは笑顔で、小さな手をソフィアに伸ばしていた。

「あらあら。ルーテシアちゃんは、ソフィアさんのことを好きになったみたいね」
「ふふ、そうだとうれしいです」

 リビングにいるのはソフィアとアミラとルーテシアの三人だけだ。
 他のメンバーは、剣の修理の準備を進めている。

 ソフィアも手伝ってもよかったのだけど……

 それよりも、幼い子を抱えつつ、一人で家事をするアミラのことが気になり、ルーテシアの面倒を見ることにしたのだった。

 食器を洗い終えたアミラは手を拭きつつ、ソフィアの隣へ。

「ありがとう、ソフィアさんのおかげで助かったわ」
「お役に立てたのならなによりです」

 にっこりと笑うソフィア。
 ただ、その笑顔の下は、実は緊張でいっぱいだった。

 スノウレイクにやってきて、しばらくの時間が経っているが……
 フェイトを抜きにしてエッジやアミラと話をしたことはない。

 いつもフェイトが一緒にいた。
 だから特に緊張することもなく、自然体で接することができた。

 しかし、今は二人だけ。
 失礼をしてしまわないか?
 嫌われてしまわないだろうか?

 ソフィアの心境は、息子さんを婿にください! と挨拶をする者のそれで……
 とてもとても緊張していた。

「あうー」

 そんなソフィアの心をほぐすかのように、ルーテシアが触れてきた。
 小さい指はとても温かく、自然と笑顔になる。

「ふふ、かわいいですね」
「ソフィアさんは、赤ちゃんの予定は?」
「え」
「フェイトと子供を作らないのかしら?」
「……えぇ!?」

 ぼんっ、とソフィアの顔が耳まで赤くなる。

 それから、大きな声を出してしまったことで、はっとした顔になり、慌ててルーテシアを見る。
 ルーテシアは特に驚いてなくて、機嫌良さそうに笑っていた。

「ほ……」
「どうしたの、そんなに驚いて」
「お、驚きます。突然、そのようなことを言われるなんて」
「あら。でも、二人は付き合っているのでしょう?」
「……はい」
「結婚する予定なのでしょう?」
「……は、はい」
「なら、問題ないじゃない」

 そういうものだろうか?
 剣を極めたソフィアではあるが、こと恋愛に関してはド素人だ。
 アミラの言うことが本当に正しいかどうかわからず、なんともいえない表情をしてしまう。

「子供を作るにはえっちをしないといけないけど、別にそれは恥ずかしがることじゃないのよ?」
「そ、そういうものですか……?」
「そういうもの。大事な人との子供を作るっていう、とても大事なことだし……そういうのを抜きにしても、好きな人の温もりをものすごく感じることができるの。それ、とても大事なことだと思わない?」
「そう……ですね」

 ソフィアは、自分がフェイトとそういうことをしているところを想像した。
 再び顔が赤くなった。

 理屈ではわかっていても、まだまだ感情が追いつかない。
 そんなソフィアを見たアミラは、孫の顔を見るのはまだ先みたい、と密かに思うのだった。

「それはそうと……ソフィアさん、ありがとう」
「え?」

 突然のお礼の言葉に、ソフィアはキョトンとした。

「えっと……なんのことですか?」
「ソフィアさんがフェイトを助けてくれたのよね?」
「……知っていたんですか?」
「ううん、詳細はなにも知らないわ。ただ、フェイトが大変なことになっているのは、なんとなく想像できたから。定期的に届く手紙が届かなくなって、風の噂であの冒険者達がひどい人って知って……でも、私達はなにもできなかった。助けたいと思っても、そうするだけの力がなかった」

 そう語るアミラはとても悔しそうだ。
 一人の母として、子を守れないことを心底後悔しているのだろう。

「でも、ある日、手紙がまた届くようになったの。そこには、ソフィアさんのことが書かれていて……うん。手紙を見るだけでわかったわ。あの子はソフィアさんに助けられて、そして、充実した日々を送っているんだ、って」

 アミラはそっと頭を下げる。

「だから、ありがとうございました」
「そ、そんなっ」

 ソフィアが慌てる。

「私は、そんな大したことはしていません。フェイトを助けたというか、そんなことはなくて……フェイトは自分であの状況をなんとかしたのです。私は、少し背中を支えたくらいですから」
「それでも、ソフィアさんがいなかったら、どうなっていたかわからないわ。だから、やっぱりお礼を言わせてちょうだい」
「えっと……」

 どうしよう? という感じで、ソフィアは視線をさまよわせて……
 ややあって、アミラを見た。

 その顔は凛々しく、そして、優しくもある。

「どういたしまして」

 それだけで終わらなくて、

「それと、ありがとうございます」
「ソフィアさん?」
「私も、フェイトに何度も助けられてきて……だから、ありがとうございます。アミラさんに言うのはおかしいかもしれませんが、でも、今はそうしたい気分で……ありがとうございます」
「ふふ、どういたしまして」

 ソフィアとアミラは互いに笑う。
 そんな二人の優しい雰囲気にあてられたのか、ルーテシアはすぅすぅと穏やかな寝息を立て始めた。
「よし」

 一階の工房に父さんの姿があった。
 仕事着に着替えて、気合を入れるはちまきを頭に巻いている。

 その後ろにリコリスとアイシャが。
 二人の姿はいつも通りだけど、表情が違う。
 まっすぐに前を向いていて、絶対に剣を修理するという、強い決意が感じられた。

「それじゃあ作業を始めるぞ。俺が剣を打つから、妖精の嬢ちゃんは、指示したタイミングで魔力を注ぎ込んでくれ」
「任せなさい!」
「アイシャちゃんは、妖精の嬢ちゃんの魔力がなくなってきたら補給してくれ」
「がんばる」

 三人はやる気たっぷりだ。

 でも、気合が入りすぎているということはなくて……
 ほどよい感じに緊張して、ほどよい感じに息を抜いている。

 うん。
 これなら、きっとうまくいくだろう。

 僕は雪水晶の剣の復活を確信するのだけど……
 事態は思わぬ方向に転がっていく。



――――――――――



「……時間がない?」

 剣の修理が始まって数時間したところで、ホルンさんが尋ねてきた。
 僕とソフィアで対応をして……

 そして、煉獄竜の目覚めが近いと告げられた。

「封印の状態を観測する魔道具を置いていたのじゃが……それによると、封印はあと半日で解けてしまうじゃろう」
「そんな……!?」
「どういうことですか? 封印は頑強なもので、まだまだ問題はないという話だったと思いますが」
「そう、問題はなかったはずなのじゃが……しかし、何度も確認したから間違いない。このままだと、半日ほどで封印が解けてしまうじゃろう」

 いったい、どうしてそんなことに……?

 なにが起きているのか。
 色々と考えてみて……

「「……もしかして」」

 ソフィアとピタリと声が重なる。

 本来ならありえないことを引き起こしてしまう。
 そんなことができる連中に心当たりがある。

「『黎明の同盟』……かな?」
「可能性はあると思います。また、あの泥棒猫でしょうか……?」

 今回、彼らの影はなかったはずなのだけど……
 でも、不思議とこの悪い予感は間違っていないと思えた。

 またレナがなにかやらかしているのだろうか?
 そう思えてならない。

「そういうわけじゃから、儂はすぐに出発しようと思う。お主らはどうする?」
「それは……」

 雪水晶の剣の修理は終わっていない。
 終わるのを待っていたら、先に煉獄竜が復活してしまうだろう。

 それなら……

「僕も行きます」
「フェイト!? ですが、剣は……」
「ソフィア、代わりの剣を貸してくれないかな?」
「……わかりました。確かに、こうなった以上、のんびりと修理を待っているわけにはいきませんね」

 できることなら、雪水晶の剣で戦いたい気持ちがあった。

 人と妖精の絆の証。
 その剣で戦えば、色々な想いを乗せることができるだろう、って。

 でも、この状況で無理は言えない。
 被害を出さないことが最優先で……
 今は煉獄竜の討伐だけを考えよう。

「では、すぐに準備をしてくれ。儂は街の入口で待っておるぞ」
「わかりました」

 ホルンさんを見送り……
 それから、僕とソフィアは互いの顔を見る。

「やることはたくさん」
「すぐに済ませてしまいましょう」

 互いに小さく笑みを浮かべるのだった。
 父さん達に事情を説明して……
 準備を整えて……

 それから、僕とソフィアは家を出た。

「うん、準備はバッチリだね」

 動きを邪魔しない程度に防寒着を着込み、その下に軽鎧を。
 軽鎧ではあるものの、鍛冶の神様と呼ばれている父さんが作ったものだ。
 とても頑丈で、魔法に対する耐性もある。

 そして、腰にはソフィアに貸してもらった剣。
 銘はないものの、とある匠によって打たれた剣らしい。

 切れ味だけじゃなくて、耐久力も抜群。
 僕にピッタリの剣だ。

 その後、街の入り口でホルンさんと合流した。

「待っておったぞ」

 ホルンさんは重装備だった。
 防寒着が膨れ上がるほどの防具を着込み……
 さらに、背中に大きな荷物袋を抱えている。

「すごい装備ですね……」
「大丈夫なのですか?」
「うむ、問題ないぞ。若干、機動性は落ちるが、全て必要なものじゃ。ポーションや爆弾など、色々と詰め込んでいてな。戦いの最中にどんどん消費していくだろうから、すぐに身軽になるじゃろう」
「なるほど」

 逆に言うと、それだけの準備をしないといけない相手……か。

 伝説と言われている煉獄竜。
 その強さは、いったいどれほどのものなのか?
 倒すことができるのか?

 ちょっと不安になってしまうのだけど……

「フェイト」
「……あ……」

 そっと、ソフィアに手を握られた。
 手袋越しだけど、彼女の温もりが伝わってくる。

「大丈夫ですよ」
「……うん、そうだね」

 弱気は消えた。
 勇気も湧いてきた。

 うん。
 やっぱり、ソフィアと一緒ならなんでもできるような気がした。

「やれやれ、老人の前で見せつけてくれるわい」

 ホルンさんがからかうように言って、僕とソフィアは顔を熱くするのだった。

 決戦の前にこんな調子でいいのかな? なんて思わなくもないけど……
 でも、いい感じに緊張がほぐれたと思う。

 さあ、行こう。
 いざ決戦の地へ。



――――――――――



 今日はあいにくの天気で吹雪いていた。
 視界が塞がるほどひどくはないけれど、移動に時間がかかり、体力が奪われてしまう。

 それでも焦らないでしっかりと足を進めて……
 悪天候の中ではわりと早く、目的地に到着することができた。

「ここに煉獄竜が……」

 雪に埋まってしまうほど小さな洞窟だ。

 しかし、それは入り口だけ。
 奥に進めば進むほど広くなっていく。
 いくら歩いても終着点が見えてこない。

「すごい洞窟ですね」
「最初はとても狭かったのに、今はこんなにも広く……大きな城が入ってしまうほどです」
「天然の牢獄といったところじゃな。ノノカの力も借りて、ここにやつを封印したのじゃ」

 そう語るホルンさんは、どこか寂しそうな声をしていた。
 当時を思い出しているのだろう。

「……そろそろつくぞ」

 ホルンさんの言葉通り、さらに十分ほど歩いたところで最深部に到着した。
 そして、僕達は思わず言葉を失うことになる。

「これが……」
「煉獄竜……」

 巨大な氷塊の中で、同じく巨大な竜が眠っていた。
 竜は自分を抱きかかえるようにして、氷の中で眠っていた。

 その氷は地面から生えていて、天井にまで届くほどに巨大だ。
 これが封印なのだろう。

 ただ、ホルンさんが言っていたように、封印が解けようとしていた。
 軽く触れてみると、溶け始めている。

 どれくらいかかるのか、それはハッキリとは言えないけど……
 そのうち氷が溶けて、煉獄竜は解放されてしまうだろう。

「これは……す、すごいね」

 想像していたものの倍くらい大きい。
 迫力も満点だ。

 こんな相手に勝てるのだろうか? と不安になってしまうのだけど……

 でも、右を見ればソフィアがいる。
 反対側にはホルンさんがいる。

 うん、大丈夫だ。
 僕は一人じゃない。
 頼もしい恋人と先輩がいる。

 なら、きっとなんでもできるはずだ。

「フェイト、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫」
「なら良かったです」

 彼女の笑顔がたくさんの勇気と元気を与えてくれた。

「では、封印を解くぞ」
「はい」

 ホルンさんが氷漬けの煉獄竜に近づいて……

「ホルンさん、待ってください!」

 それに気づいて、慌ててストップをかけた。

 巧妙に隠しているけど、覚えのある気配が。
 それと、よくよく見てみると、奥に人影が。

「そこにいるんだよね?」
「……」
「もう気づいているから、黙っていても無駄だよ」
「……ちぇ」

 姿を見せたのは……

「うまく隠れたつもりだったんだけどなー。なんでわかったの? あ、これって愛の力?」

 レナだった。

「むっ」

 色々な意味でライバルのレナを発見したソフィアは、反射的にという様子で僕を抱き寄せた。
 ぎゅっとされてしまう。

 い、色々と当たっているのだけど……
 でも、ソフィアは僕を離してくれない。

「むかっ。なに、それ。ボクを挑発しているの?」
「いいえ、そのようなことはありません。私とフェイトは相思相愛ですからね。あなたなんて道端の石のようなもので、相手にされることもありませんし」
「ぐぎぎぎ!」
「むむむ!」

 二人がにらみ合い、バチバチと火花が散る。

「えっと……ソフィア? 今はこんなことをしている場合じゃ……なんでレナがこんなところにいるのか、それを問い詰めないと」
「はっ!? そ、そうですね……」
「でも、大体の予想はついているけど」

 煉獄竜の封印が解け始めた。
 そして、黎明の同盟であるレナが封印の地にいる。

 この二つを偶然と考えるほど抜けているつもりはない。

「レナが煉獄竜の封印を解こうとしていたんだね?」
「正解♪」
「やけにあっさり認めるんだね」
「まあ、状況証拠が揃いまくりだからね。ここまできて否定しても、白々しすぎるでしょ? ならまあ、愛するフェイトのために素直に答えてあげようかな、って」
「フェイトを愛しているのは私です!」

 そこ、対抗しないで。

「どうしてこんなことを……」
「あ、勘違いしないでね? 近くの街を滅ぼしてやろうとか、そういう物騒なことは考えてないから」
「どうでしょうか。あなたの性根はねじ曲がっていますからね。ちょっとしたいたずらで街を滅ぼそうとしても、おかしくないと思いますが」
「やだなー、さすにそんなことはしないって。ただ単に……って、素直に目的を話すところだった。面倒だから、隠したままにしておこうっと」

 てへ、と笑うと、レナは洞窟の奥へ移動する。

「待ちなさい!」
「やだよー」

 待てと言われて待つ者はいない。
 そんなことを言うかのように、レナは奥へ消える。

「ま、今回は素直に退いておくよ。ばいばいーい」

 そして、気配が完全に消えた。
 レナの性格上、隠れて様子を見る、っていうことはなさそう。
 たぶん、本当に立ち去ったのだろう。

「くううう……あの泥棒猫は!」
「お、落ち着いて、ソフィア。ここにレナがいたことは驚いたけど、でも、僕達がやるべきことは別のことだよ」
「……そうですね」
「ふむ? なにやら因縁のある相手じゃったが、よいのか?」

 成り行きを見守っていたホルンさんが、そう尋ねてきた。
 それに対してしっかりと頷いてみせる。

「大丈夫です。今の目的は煉獄竜を倒すことで、彼女を追うことじゃないですから」
「ならよいが……他に気を取られていると、それが致命傷になるかもしれぬぞ?」
「気をつけます」

 レナのことは今は忘れよう。
 煉獄竜の討伐だけを考える。

 ソフィアも気持ちを切り替えたらしく、凛とした表情に。

 そうやって僕らの覚悟が決まったのを感じたらしく、ホルンさんは表情を引き締めた。

「では……いくぞ」
 ホルンさんはポケットから手の平サイズの宝石を取り出した。

 ぐっと握りしめて……
 そのまま砕く。

 キィンッ! という甲高い音が響いた。

「……」

 反射的に身構えるけど、なにも起きない。

 不発?

 怪訝思いつつ、さらに様子を見ると……

「……あっ」

 煉獄竜を包み込む氷が溶け始めていた。
 時間を加速しているかのように、異様な速度で氷が溶けていく。

 ほどなくして、ピシリと氷にヒビが入る。
 それは全体に広がり、砕ける寸前のガラスような姿へ。

「二人共、来るぞ」

 ホルンさんが剣を構えた。
 それにならい、僕とソフィアも剣を抜く。

 そして……

 ギィンッ!!!

 耳をつんざくような音と共に、氷が一気に砕け散る。

「オオオオオオォッ!!!!!」

 産声のように、煉獄竜が雄叫びを響かせた。
 ビリビリと空気が震えて、耳がどうにかなってしまいそうだ。

「グルルルゥ……」

 最強の竜が君臨する。

 封印から解放されたことに喜びを覚えているのだろう。
 牙の並ぶ歯を見せつけるようにして笑っている。

 封印されたことに怒りを覚えているのだろう。
 瞳を光らせて、ホルンさんを睨みつけている。

「これ、は……」

 想像以上の化け物だ。

 巨大な壁が立っているかのような圧迫感。
 死が直面したかのような危機感。
 自然と呼吸が乱れ、頭が真っ白になってしまいそうになる。

 でも。

「んっ」

 唇を噛んで、その痛みで我を取り戻す。

 ヤツの迫力に飲まれたらダメだ。

 ここで煉獄竜を倒す。
 スノウレイクを守り……
 そして、リコリスの友達の仇を討つ。
 ホルンさんの手伝いをする。

 改めてやるべきことを思い返したら、勇気と力が湧いてきた。

「いくぞ!」
「「はいっ!!」」

 まず最初に、ホルンさんが突撃した。

 この決戦のために用意された剣は、とても大きくて長い。
 まるで鉄塊だ。

 そんな剣を己の手足のように扱い、ホルンさんは、鉄塊を煉獄竜の頭に叩きつけた。

「グァッ!?」

 煉獄竜が怯み……
 その間にソフィアが突撃する。

「神王竜剣術、壱之太刀……破山っ!!!」

 最初から全力全開。
 聖剣エクスカリバーによって生み出された一撃は、怯む煉獄竜の体を切り裂いた。

「神王竜剣術、弐之太刀・疾風っ!!!」

 ソフィアが作った傷に、さらに攻撃を叩き込む。

 頑丈な竜の鱗を切り裂くような力は僕はない。
 でも、あらかじめ傷ができているのなら、追加のダメージを与えることはできる。

「ギアアアアアァッ!!!」

 煉獄竜の悲鳴。
 巨体が仰け反る。

 いける!

 そう思ったのだけど……
 でも、そうそう簡単にはいかないらしい。

「ガァアアアアアッ!!!」

 煉獄竜は怒りに瞳を燃やしつつ、ブレスを放ってきた。

 直撃したら骨も残らない。
 かすっただけでも致命傷だろう。

 追撃は諦めて、全力で回避。
 思い切り横に跳ぶ。

「あつつ!?」

 だいぶ距離をとったはずなのに、熱湯を浴びせられたかのように全身が熱い。
 なんて威力だ。
 これじゃあ迂闊に近づくことが……

「むぅんっ!」
「ホルンさん!?」

 ブレス? それがどうした。
 そんな感じで、ホルンさんが再び突撃した。
「ぬぅおおおおおっ!!!」

 ブレスを恐れることなく、ホルンさんが前に出た。
 そんなホルンさんに目標を変更して、煉獄竜が再びブレスを放つ。

 極大の炎。
 目を灼くかのような強烈な閃光。

 それでも……

「おおおおおぉっ!!!」

 ホルンさんは止まらない。

 直撃は避けた。
 しかし、わずかながらかすってしまっている。

 ホルンさんが身につけている鎧がみるみるうちに焦げて、一部は溶け始めていた。
 そんな力にさらされているホルンさんは、相当な激痛を受けているだろう。

 それでも足を止めず、煉獄竜の懐に潜り込む。

「むぅんっ!!!」

 ホルンさんは、背中に背負っていた大剣を手に取り、そのまま振り抜いた。
 己の身長ほどもある巨大な剣だ。

 その威力は破格だ。
 強靭な鱗を斬ることは敵わないが、叩き潰すことには成功した。

「これでも……くらぇえええええいっ!!!」

 ホルンさんは、再び大剣を叩き込む。
 剣としてではなくて、棍棒のように扱い、刃の腹で潰れた鱗を叩いた。

 ギィンッ! という音と、煉獄竜の悲鳴が重なる。
 さらに……

 ゴガァッ!!!

 あらかじめ刃に爆薬を仕込んでいたらしく、大剣が爆発した。

 業火と衝撃。
 そして、至近距離で撒き散らされる鉄片の嵐。
 さすがの煉獄竜も、これにはたまらない様子で、身をよじり、苦しそうにしている。

 効いている。
 でも……

「ホルンさん、大丈夫ですか!?」
「う、む……なんのこれしき」

 自爆技のようなものだ。
 ホルンさんもそこそこのダメージを負ってしまい、あちらこちらから血が流れていた。

「早く手当てを……」
「そんなヒマはない」
「で、でも……」
「今が攻め時じゃ。わかるな?」
「……わかりました」

 ホルンさんの目を見て、説得は不可能と諦めた。

 ホルンさんは殉教者のような目をしていた。
 刺し違えてでも煉獄竜を倒そうと、覚悟を決めているのだろう。

 そんなホルンさんの意思を曲げさせることはできない。
 彼の生き方……今までの想いを全て否定するようなことになるからだ。

 なら……

「援護します!」

 ホルンさんが刺し違えることのないように、全力で援護をする。
 僕にできることをする。

 それだけだ。

「フェイト、一緒にいきますよ!」
「うん!」

 最初に、ソフィアが前に出た。
 文字通り、目にも留まらぬ動きで煉獄竜を翻弄する。

 さすがの煉獄竜も、ソフィアの神速を追いきれないようだ。
 ブレスも連発できるわけじゃなくて、温存している様子で、手足や尻尾を振り回している。

 荒れ狂う嵐が意思を持ったかのようだ。
 巨大な岩が簡単に砕け、地震が連続しているかのように大地が揺れる。

 それでも、ソフィアは攻撃の手を緩めない。
 むしろ、さらに加速させていく。

 斬る、斬る、斬る、斬る、斬る……斬るっ!!!

 一撃一撃のダメージは小さいけれど、着実に煉獄竜の体力を削っていった。
 そして僕は……

「このっ!」

 ソフィアより圧倒的に手数が少ないものの、攻撃を加えていく。

 ソフィアによって傷つけられた場所に、再び斬撃を送り込む。
 あるいは、オイルの詰まった革袋を足元に放り、煉黒竜の動きを阻害する。

 悔しいけど、今の僕にできることは少ない。
 圧倒的に力が足りていない。

 でも、それで腐っても仕方ない。
 僕は、僕にできることを。
 全力で、ありとあらゆる手を使い、ソフィアとホルンさんのサポートをするだけだ。

「グァアアアアアッ!!!?」

 度重なる攻撃に音を上げるように、煉獄竜は悲鳴を響かせる。
 こころなしか動きが鈍ってきているように見えた。

 よし。
 この調子で攻撃を重ねていけば……

 そう思ったことが油断だったのかもしれない。

「フェイトっ!?」

 ソフィアの悲鳴。
 気がつけば、煉獄竜の尻尾が目の前に迫っていた。