それから、しばらくしてホルンさんが落ち着きを取り戻して……
 スノウレイクへ戻り、宿の前で別れて……

 僕とソフィアは家に帰り、アイシャとスノウに迎えられつつ、父さんと母さんと一緒に夕飯を食べた。

「……」

 自室へ戻り、ベッドに寝つつ、ぼーっと天井を見る。
 考えるのはホルンさんの話だ。

 リコリスの友達のノノカと出会い。
 友情の証として、雪水晶の剣をもらい。
 一緒に世界を旅した。

 しかし……

 ノノカは妖精狩りに遭ってしまい、最終的に命を落としてしまう。
 そのことを悔いたホルンさんは、雪水晶の剣を手放してしまう。

 僕はそっと体を起こして、傍らに立てかけておいた、雪水晶の剣の鞘を見る。

「僕が持っていていいのかな……?」

 雪水晶の剣は修理する。
 これは絶対だ。

 でも、その後は?

 雪水晶の剣は、ホルンさんとノノカの友情の証だ。
 もっと大げさに言うのなら、人間と妖精の絆の架け橋。

「そんな大事なものを僕が持っているなんて……あ、はい?」

 考え込んでいると、途中で扉をノックする音が響いた。

 ソフィアやアイシャかな?
 リコリス……は違うか。彼女ならノックなんてしない。

「こんばんはぁ」
「あれ、ミント?」

 姿を見せたのは、意外というかミントだった。
 もう夜なのに、どうして僕の家に?

「どうしたの?」
「私の家のお風呂が壊れちゃって、ちょっと借りていたの」
「そうだったんだ」
「それでー、フェイトとお話でもできればー、なんて」
「うん、いいよ」
「ありがとー」

 ミントはにっこりと笑い、近くの椅子に座る。
 僕も体を起こして、ベッドに座る。

「フェイトの部屋、久しぶりかもー」
「そうだよね。十年以上、帰っていなかったから」
「長すぎるよー。どうして、もっと頻繁に帰ってこないのー?」
「えっと……」

 奴隷になっていました。
 ……なんて、絶対に心配をさせてしまうので言えるわけがない。

「……ちょっと忙しくて」
「そっかー、それなら仕方ないねー」

 ミントはふんわりとした様子で言う。
 僕の気持ちを察してくれたというよりは、特に気にしていないのだろう。
 そういう女の子だ。

「じゃあじゃあ、暗い顔をしている理由は聞いてもいいかなー?」
「え? 僕、そんな顔をしているの?」

 部屋にある鏡を確認してみるけど、特に変わらないように見えた。

「いつもと同じだよね?」
「ぜんぜん違うよー?」
「そう、なのかな……?」

 ミントにしかわからないのかな?

「えっと……ちょっと、今悩んでいることがあって」

 迷った末、少しだけ話してみることにした。
 詳細はホルンさんやノノカのプライベートに関わるから話せないけど……
 ぼかす形でなら問題ないと思う。

「雪水晶の剣なんだけど……」
「フェイトのお父さんに修理をお願いした?」
「うん。あの剣って、とある友情の証に作られたものなんだ」
「へー、素敵な話だねー」
「でも……僕は関係なくて」

 天井を見上げる。

「本当に偶然手に入れただけで、それなのに僕が持っていていいのかな、って……」
「いいんじゃないかなー?」

 あっさりと肯定されてしまう。

 でも、ミントは考えなしにものを言う子じゃない。
 悩み相談をした時は、きちんと考えて、ミントなりの答えを口にしている。

「それは、どうして?」
「だって、ピッタリに見えるよ」
「ピッタリ?」
「フェイトと雪水平の剣」
「水晶ね」

 ピッタリって、どういう意味だろう?

「んー……私の感覚だからうまく説明できないんだけど、この前、ちょっと見たんだ。フェイトがその剣と一緒にいるところ」
「うん」
「そうしたら、すごく絵になっていたというか、違和感がないっていうか……いい感じ?」
「と、言われても……」
「それくらい自然で、なにも問題はないかなー、って思ったの。きっと、剣もフェイトと一緒にいたいと思っているんだよ」
「……剣が……」

 意外な言葉に、ついついぽかんとしてしまう。

 剣の気持ちなんて考えたことなかった。
 いつも僕のことだけで……

「きっと、大丈夫だと思うよ」

 ミントがにっこりと笑う。
 その笑顔は花のようで、太陽のようで……
 自然とこちらも笑顔になる。

「……うん、そうだね。ありがとう」
「どういたしまして」