「いらっしゃいませー」


来客を告げるベルの音に反応すると店の入り口に家族連れのお客様が立っていた。
すれ違うようにバックルームに入ってきた瑞希ちゃんが「しーちゃん!」と私に合図を送った。


「ごめん、手が離せなくて。お願いしてもいいかな?」

「う、うん!」


彼女の指示で入口へと向かうとお客様をテーブルへ案内する。同級生である瑞希ちゃんが働くファミレスでアルバイトを始めて一か月。徐々に業務にも慣れ、接客もスムーズにこなせるようになってきた。
最初のころは男性愚か、普通のお客様ですら接客することが難しかった私も少しずつ人と話すことに対して恐怖感を抱かなくなってきた。今なら男性グループの接客も……いや、それはまだできないかもしれない。

でもここでアルバイトを始めてから自分でも成長できていることが実感できた。
勇気を出してアルバイトを始めて本当に良かった。



休憩の為にバックルームに入ると後ろから瑞希ちゃんが肩を叩いて声をかけてくれた。


「しーちゃん、さっきはありがとう。助かった~」

「う、ううん。役に立ててよかった」


二人で休憩室に向かっていると彼女が「そういえば」と、


「前に比べてしーちゃん、話すときにあんまり声気にしなくなったよね。店長がこのあいだ普通に話しかけてくれて嬉しかったって言ってたよ」

「そ、そうかな。店長さんのこと最初は怖いなって思ってたけど、ここ最近はそう思わないというか」

「あはは、店長のこと怖いって言うのしーちゃんくらいだよー」


店長さんが怖いというより父親以外の大人の男性が怖かった。だけど瑞希ちゃんと話している店長さんを見ていると怖がる必要なんてないのでは、と思い始めた。
このあいだ相談に伺った時も優しく話を聞いてくれたし。

休憩室に入ると先に桐谷先輩が席に座っており、テーブルになにやら紙のようなものが置かれていた。