最近、バイト先の周りで不審者がうろついているという噂があるらしい。


「そう、だから女の子たちはみんな一緒になって帰るように。いいね?」


シフトに入る前にそう説明を受けた私としーちゃんは顔を見合わせてしまった。
確かに夜になるとお店の周りは暗くなるから少し危ないなという気がしていた。


「夏だからかなぁ」

「……夏って関係あるの?」

「いや、知らない!」


私の返事にしーちゃんが不安そう顔を浮かべたので「しーちゃんは私が守るから大丈夫!」とぎゅうっと強く抱き締めた。
ことの説明をしてくれた店長は乾いた笑いを漏らしながら、


「それはそれでいいけど、小野さんも気を付けてね」

「へ?」

「小野さんだって、見た目"だけ"は普通の女の子なんだし」

「だけってなんですか!? 中身は女の子じゃないってことですか!?」


私がそう問い詰めると店長は「そんなことないよ!」と慌てた素振りを見せるけど絶対に中身はか弱くないって意味だった気がする。
店の周りで不審者の出没事件があるかもしれないのに、もうちょっと心配してくれたっていいんじゃないかな。


「もぉー、じゃあ私のことは店長が守ってくださいね」

「俺一緒に帰れないから! あと急に抱き着いてこようとしないで」


離して!、と焦る店長の腰を今日も堪能したところで私たちは制服に着替えるために更衣室へと向かった。
しかし着替えている間も浮かない表情を浮かべるしーちゃんのことが気掛かりで、着替え中のところを後ろから「わっ!」と抱き着いたところなんとも可愛らしい声を上げてその場にしゃがみ込んだ。

何今の声、ちょっと癖になりそう。