早くも数日後の朝、俺達は中庭で修業をしていた。
まずは武術の型とか言って爺さんの動きを真似ている。
とにかくこれが基礎でまずはこれを覚えろとの事。
「呼吸はちゃんとするんじゃよ」
そう言う師匠の目線の先にはアリスがいた。
ゆっくりとした型は意外と足にくるのでアリスは踏ん張るために息を止めている。
アリスは息を付くとふらふらとするので危なっかしい。
「師匠、弟子入りしたのは俺だけだと思ってたんだが?」
「まぁの、しかし逃げる力もない者を見るとついのぉ」
逃げる力もないと評価されるとはどこまで残念なんだアリスは。
ちなみにリルにアオイ、ダハーカはしていない。
どうせ本気で戦う時は姿が違うし人型で戦う事もほぼない。
これはあくまで人間と身体の構造が似た者にしか意味はないとか。
カリンとオウカは物珍しさとまだまだ子供で実力もないので一緒にしているがアリスほど無様な真似はしていない。
「それに師匠、俺は刀について学びに来たのに何で体術について学んでんだ?」
「どちらも身体が基本じゃからじゃよ。後で教えてやるわい、お嬢ちゃん達には体術を教えてるわ」
師匠の武術は古武術と言われるもので完全に相手を殺すための武術らしい。
師匠が時代の流れと共に忘れられていった理由がこれだ。
何でも師匠が若かった頃は毎日魔物との戦いのためこの道場に通うものが大勢いたが魔王が現れる様になってからその必要性も減ったとか。
北の山では魔王が鳥型の魔物を統一し全て支配下に加わった事で争いは減り、南ではとある獣人型の魔物が獣型の魔物を統一、さらに危機感が減った。
これによりこの国は魔王との不可侵条約によって平和がもたらされた。
しかし相手を殺す技を教える事で生計を保っていた道場からどんどん門下生が減っていく。
おかげで師匠の所だけではなく同業者からも次々と職を無くし、いつの間にか師匠が最後に残った。
国は西からの脅威は魔王によって守られ、今ではすっかり平和ボケだとか。
「全く嘆かわしい事じゃ。魔王がいつまでも魔王で居るとは限らんのに」
それは確かに。
一時間ほど型の練習をすると身体の中から温かくなった。
「では次行くぞ」
そういって次の修業が始まる。
俺は刀の修業、他三人は体術の修業のステップアップだ。
昨日同様に師匠とひたすら木刀で戦い、ぼこぼこにされる。
正直ぼこぼこにされるのは慣れているが今までとは違うやられ方だ。
今までぼこぼこにされてきたフェンリルの爺さんやアオイは身体能力、経験、全て劣っていたから仕方ないと思っているが師匠は俺よりも身体能力は低い。
なのに戦いの経験と身体の動かし方一つでぼこぼこにされるのは初めての経験だ。
一応ダハーカやアオイには勝利できたがそれと全く別なところで今、戦いを学んでいるのだろう。
「ほい、隙ありじゃ」
「だっ!」
また木刀で殴られた。
ちきしょう、生存本能とか身体で覚えようとしてるのにまるで覚えられない。
むしろこれは思考すべきものなのか?
「皆様、昼食が出来ました」
「ふむ、では一旦休憩じゃな。ほれ、礼をせんかい」
言われて起き上がり一つ礼をした。
すると師匠は満足そうに頷き道場へ戻る。
俺は一つため息をついて木刀を拾ってから飯にした。
アオイがこの国で買った飯も美味いが俺はずっと修業の事を考えていた。
師匠のような足捌きだけでも出来たらだいぶ状況は変わる、最低でも隙があると言われて転ばされる事はなくなるだろう。
うんうん唸りながら飯を食っているとアオイが心配そうに聞いてきた。
「リュウ様のお口に合わなかったでしょうか?」
「え、ああそうじゃないよ。唸ってたのは修業の事、アオイの飯は美味い」
「そうでしたか。しかしリュウ様、事を急いでは良い結果は出ませんよ」
「そりゃまだ初めて三日しか経ってないからいいけど、そう悠長に言ってられる状況でもないからな」
飯を食いながらも思考は止められない。
精霊王が集めてくれた情報だと聖女はかなり厄介な存在のようだ。
まず年は二十歳、聖女と言うならシスターかと思ったら現役バリバリの女騎士だった。
ティアとも仲は良いがティア以上の魔物嫌い、と言っても理由は教会の教えらしい。
教会は魔物を絶対悪と決めているため聖女はその教えに忠実なだけ、実際の所はかなりの現実主義者だとか。
ゲンさんいわく発言力はないと言っていたが仲間内、同じ教会の戦士からは大きな支持があるらしく中には教皇と繋がってるという噂すらある。
表向き地位はないのは事実らしいが強力なバックがいるのは確かだ。
教皇だけではなくどっかの国の貴族を助けた事もあるらしいし、今回の大森林への進行はその貴族からも少しだけ出るようだ。
次に軍事力は何と三万人だとか。
ライトライトの兵は表向きはフェンリル退治のため貸し出せないとなっているが全く手を貸さない訳にもいかないので2500の兵を貸したらしい。
軍に関して素人の俺だがかなり少なめにしてくれたのは分かる。
同郷の人間をあまり殺さずに済むのは嬉しい事だ。
今回の進行に参加するのは教会に同調した大国だそうで二万の兵、七千の教会の戦士、残りの五百は冒険者や傭兵らしい。
『魔王』になる条件として一万の人間の魂がいるらしいが俺はすでにある程度の人間の魂は確保している。
エルフの村を襲いに来た人間の魂とたまに会った盗賊の魂だ、奪った魂の管理はウルに任せているため詳しい数は知らないが数百個分の魂はあるらしい。
てっきりエルフの村の時は殺した者のもとに魂が行くと思っていたがどうも奪った魂は全て俺に送られてきていたようだ。
まあどっちにせよこの戦いが本当に起こるなら一気に三万もの魂が手に入ることになるが。
「ほい!」
「あだ!」
いきなり師匠が俺の頭を木刀で殴った。
修業の時だけじゃないのかよ!
「何でだよ師匠!」
「お主が力を発揮できとらんのは無駄な事ばかり考えておるからじゃ。戦いで無駄な事を考えとったら死ぬぞ」
「分かってるよ」
「分っとらん!修行の時からずっと雑念ばかりしおって、少し水でも被って来い!」
師匠につまみ出された……
仕方ないので外の井戸まで行って大人しく水を被ってから道場に戻ってくる。
流石に秋に水を被るのは寒い……
「午後の修業は普段とは変更し座禅とする」
そう言って座布団を引っ張ってきた師匠。
座禅とはきれいな姿勢を保ちながら座り、自身の心を落ち着かせる修業らしい。
つまり師匠は俺に落ち着けと言ってきたようなものだ。
これにはリルやアオイ、ダハーカも参加してきた。
ただ一人アリスだけはきつい修行じゃなくてよかったと思っている様だが。
とりあえず胡座を掻いてそっと目を閉じる。
………………暇だな。
かと言って変な事を考えると師匠に木刀で殴られるし……
………………仕方ないから音でも聞くか。
そのままそっと耳を澄ませる。
風の音が聞こえると草木がざわざわと静かに音が鳴る。
意外と心地いな。このまま寝たいがこれも修行だ、我慢しよう。
しばらくしていると悲鳴のようなものが聞こえる。
耳を澄ますとどうも巨大な鳥が来たらしい、確か緊急事態を知らせる鐘の音も聞こえる。
鐘の音に交じって大きな翼を羽ばたく音も聞こえる。
「いい加減にしろ!」
「あだ!いってぇよ師匠!鳥が来ただけだろ!」
「ただの鳥ならこんな騒ぎならんわ!あれは魔王じゃ!」
「魔王?」
少し中庭に出ると巨大な赤い鳥が二羽飛んでいた。
赤い羽に包まれた巨大な鷲、たまにきらりと見える金色の羽といいカリンに似ている。
ただたまに出てくる鳴き声はどこか必死な気がする。
「あのでっかいのが魔王か…………カリン何て言ってるか分かるか?」
しかし反応はなくただ茫然としている。
不思議に思いもう一度言葉をかけようとしたとき上から敵意を感じた。
魔王が俺に向かって突っ込んで来ようとしていた。
まずは武術の型とか言って爺さんの動きを真似ている。
とにかくこれが基礎でまずはこれを覚えろとの事。
「呼吸はちゃんとするんじゃよ」
そう言う師匠の目線の先にはアリスがいた。
ゆっくりとした型は意外と足にくるのでアリスは踏ん張るために息を止めている。
アリスは息を付くとふらふらとするので危なっかしい。
「師匠、弟子入りしたのは俺だけだと思ってたんだが?」
「まぁの、しかし逃げる力もない者を見るとついのぉ」
逃げる力もないと評価されるとはどこまで残念なんだアリスは。
ちなみにリルにアオイ、ダハーカはしていない。
どうせ本気で戦う時は姿が違うし人型で戦う事もほぼない。
これはあくまで人間と身体の構造が似た者にしか意味はないとか。
カリンとオウカは物珍しさとまだまだ子供で実力もないので一緒にしているがアリスほど無様な真似はしていない。
「それに師匠、俺は刀について学びに来たのに何で体術について学んでんだ?」
「どちらも身体が基本じゃからじゃよ。後で教えてやるわい、お嬢ちゃん達には体術を教えてるわ」
師匠の武術は古武術と言われるもので完全に相手を殺すための武術らしい。
師匠が時代の流れと共に忘れられていった理由がこれだ。
何でも師匠が若かった頃は毎日魔物との戦いのためこの道場に通うものが大勢いたが魔王が現れる様になってからその必要性も減ったとか。
北の山では魔王が鳥型の魔物を統一し全て支配下に加わった事で争いは減り、南ではとある獣人型の魔物が獣型の魔物を統一、さらに危機感が減った。
これによりこの国は魔王との不可侵条約によって平和がもたらされた。
しかし相手を殺す技を教える事で生計を保っていた道場からどんどん門下生が減っていく。
おかげで師匠の所だけではなく同業者からも次々と職を無くし、いつの間にか師匠が最後に残った。
国は西からの脅威は魔王によって守られ、今ではすっかり平和ボケだとか。
「全く嘆かわしい事じゃ。魔王がいつまでも魔王で居るとは限らんのに」
それは確かに。
一時間ほど型の練習をすると身体の中から温かくなった。
「では次行くぞ」
そういって次の修業が始まる。
俺は刀の修業、他三人は体術の修業のステップアップだ。
昨日同様に師匠とひたすら木刀で戦い、ぼこぼこにされる。
正直ぼこぼこにされるのは慣れているが今までとは違うやられ方だ。
今までぼこぼこにされてきたフェンリルの爺さんやアオイは身体能力、経験、全て劣っていたから仕方ないと思っているが師匠は俺よりも身体能力は低い。
なのに戦いの経験と身体の動かし方一つでぼこぼこにされるのは初めての経験だ。
一応ダハーカやアオイには勝利できたがそれと全く別なところで今、戦いを学んでいるのだろう。
「ほい、隙ありじゃ」
「だっ!」
また木刀で殴られた。
ちきしょう、生存本能とか身体で覚えようとしてるのにまるで覚えられない。
むしろこれは思考すべきものなのか?
「皆様、昼食が出来ました」
「ふむ、では一旦休憩じゃな。ほれ、礼をせんかい」
言われて起き上がり一つ礼をした。
すると師匠は満足そうに頷き道場へ戻る。
俺は一つため息をついて木刀を拾ってから飯にした。
アオイがこの国で買った飯も美味いが俺はずっと修業の事を考えていた。
師匠のような足捌きだけでも出来たらだいぶ状況は変わる、最低でも隙があると言われて転ばされる事はなくなるだろう。
うんうん唸りながら飯を食っているとアオイが心配そうに聞いてきた。
「リュウ様のお口に合わなかったでしょうか?」
「え、ああそうじゃないよ。唸ってたのは修業の事、アオイの飯は美味い」
「そうでしたか。しかしリュウ様、事を急いでは良い結果は出ませんよ」
「そりゃまだ初めて三日しか経ってないからいいけど、そう悠長に言ってられる状況でもないからな」
飯を食いながらも思考は止められない。
精霊王が集めてくれた情報だと聖女はかなり厄介な存在のようだ。
まず年は二十歳、聖女と言うならシスターかと思ったら現役バリバリの女騎士だった。
ティアとも仲は良いがティア以上の魔物嫌い、と言っても理由は教会の教えらしい。
教会は魔物を絶対悪と決めているため聖女はその教えに忠実なだけ、実際の所はかなりの現実主義者だとか。
ゲンさんいわく発言力はないと言っていたが仲間内、同じ教会の戦士からは大きな支持があるらしく中には教皇と繋がってるという噂すらある。
表向き地位はないのは事実らしいが強力なバックがいるのは確かだ。
教皇だけではなくどっかの国の貴族を助けた事もあるらしいし、今回の大森林への進行はその貴族からも少しだけ出るようだ。
次に軍事力は何と三万人だとか。
ライトライトの兵は表向きはフェンリル退治のため貸し出せないとなっているが全く手を貸さない訳にもいかないので2500の兵を貸したらしい。
軍に関して素人の俺だがかなり少なめにしてくれたのは分かる。
同郷の人間をあまり殺さずに済むのは嬉しい事だ。
今回の進行に参加するのは教会に同調した大国だそうで二万の兵、七千の教会の戦士、残りの五百は冒険者や傭兵らしい。
『魔王』になる条件として一万の人間の魂がいるらしいが俺はすでにある程度の人間の魂は確保している。
エルフの村を襲いに来た人間の魂とたまに会った盗賊の魂だ、奪った魂の管理はウルに任せているため詳しい数は知らないが数百個分の魂はあるらしい。
てっきりエルフの村の時は殺した者のもとに魂が行くと思っていたがどうも奪った魂は全て俺に送られてきていたようだ。
まあどっちにせよこの戦いが本当に起こるなら一気に三万もの魂が手に入ることになるが。
「ほい!」
「あだ!」
いきなり師匠が俺の頭を木刀で殴った。
修業の時だけじゃないのかよ!
「何でだよ師匠!」
「お主が力を発揮できとらんのは無駄な事ばかり考えておるからじゃ。戦いで無駄な事を考えとったら死ぬぞ」
「分かってるよ」
「分っとらん!修行の時からずっと雑念ばかりしおって、少し水でも被って来い!」
師匠につまみ出された……
仕方ないので外の井戸まで行って大人しく水を被ってから道場に戻ってくる。
流石に秋に水を被るのは寒い……
「午後の修業は普段とは変更し座禅とする」
そう言って座布団を引っ張ってきた師匠。
座禅とはきれいな姿勢を保ちながら座り、自身の心を落ち着かせる修業らしい。
つまり師匠は俺に落ち着けと言ってきたようなものだ。
これにはリルやアオイ、ダハーカも参加してきた。
ただ一人アリスだけはきつい修行じゃなくてよかったと思っている様だが。
とりあえず胡座を掻いてそっと目を閉じる。
………………暇だな。
かと言って変な事を考えると師匠に木刀で殴られるし……
………………仕方ないから音でも聞くか。
そのままそっと耳を澄ませる。
風の音が聞こえると草木がざわざわと静かに音が鳴る。
意外と心地いな。このまま寝たいがこれも修行だ、我慢しよう。
しばらくしていると悲鳴のようなものが聞こえる。
耳を澄ますとどうも巨大な鳥が来たらしい、確か緊急事態を知らせる鐘の音も聞こえる。
鐘の音に交じって大きな翼を羽ばたく音も聞こえる。
「いい加減にしろ!」
「あだ!いってぇよ師匠!鳥が来ただけだろ!」
「ただの鳥ならこんな騒ぎならんわ!あれは魔王じゃ!」
「魔王?」
少し中庭に出ると巨大な赤い鳥が二羽飛んでいた。
赤い羽に包まれた巨大な鷲、たまにきらりと見える金色の羽といいカリンに似ている。
ただたまに出てくる鳴き声はどこか必死な気がする。
「あのでっかいのが魔王か…………カリン何て言ってるか分かるか?」
しかし反応はなくただ茫然としている。
不思議に思いもう一度言葉をかけようとしたとき上から敵意を感じた。
魔王が俺に向かって突っ込んで来ようとしていた。