『ギッ、・・・ギッ・・・、』

洋館の階段を、慎重に~慎重に。
足元~、気をつけて~、


私は シオン君との打ち合わせを終えて、2階のオーナーズルームから 今、階段を降りて、いる。

危なげに、手摺を 両手で握り 降りる、私の後ろに
やや、呆れた雰囲気の シオン君の姿が分かるようだよ。

建物は
昭和の黒屋根洋館。
どこか和風も感じる、折衷様式の建物。
目を引くのは、『マンサード屋根←腰折れ屋根』的な 黒の屋根だろう。

1階は アトリエと工房、ギャラリーとサロンカフェを 置いて、別棟にオフィスを構えている。

工房は 彫金の工房。
古い歯科治療器具を あ・え・て、ディスプレイ。

この麗しき建物の前身が、歯科だった名残を残しておいた。

良く見てもらうと、アトリエやギャラリーにも、アンティーク調に歯科治療器具がアートフレームになって飾られているはず。
彫金の機器と、歯科機器、ってある意味、一緒。

だから上手く共存して、 ノスタルジーを醸し出している。

シオン君は、彫金工房で、ギャラリー商品のリペアや、 修復微調整もスタッフとして担っている。

本部ギャラリーに、シオン君の作ったアクセサリーや、オブジェがあるのは、これまでの展示会で、ディスプレイとして製作してもらった品だねん。


「アトリエに、次の企画に合う商品の一部を入れてますから、オーナー見てください。さっき、お渡ししたレポートの絵もあります。」

はい、わかりましたよん、シオン君。
はあ、足~なんとか 階段降りれたよん。ま、痛みはないんだよ。ただぁ 疼く気がするだけでねぇ。

「あと、例の画材、いろいろ仕入れてます。これも 試せると思いますよー。」

「インミンブルーも?」

お、顔料だけじゃなく、アクリル画材で 入ったかな?


「もちろんですよ。今回はメインでもあるんですよねー?!ブルーのオブジェもディスプレイ探しますか?」

そっか。これは シオン君が興奮する色だということねん。
なら、

「鉱石と近々、ミネラルショーがあれば 見に行ってみるし、何か面白いものあるかな~?♪」

私は、斜め上に視線を向けて、顎に親指を掛ける。
と、閃いたように

「あ!でも今日は ヨミ君と、2人で 県央の挨拶周りに行ってもらっていいかなぁ~?」

口を弓なりにして、シオン君に 言いつける。
すると、すぐ脇の出入口から声が投げられた。

「オーナーに、留守を『お1人で』任せる事になりますが。・・本当ーに、足の方は、大丈夫なんですか?」

オフィス棟に、私とシオン君の声が聞こえて、来たのだろうねぇ。

ハミングバードに ローズフレームの眼鏡越しに、非難めいた視線のヨミ君が 現れた。

「う~ん。'だから'、私が 留守番するよ。歩き回るの、まだちょっと怖いしぃね。マダムもいるじゃない?大丈夫だよん。先にサカキバラに顔見せてくるから、それから すぐにでも、出発してもらえる?」

ヨミ君の目が、私の言い訳がましい台詞を 無言のまま、思案する。
それを、振り切ったのは、シオン君だった。

「わかりましたー。良いじゃないですかー。先輩とお出掛けですよー。」

チャッと、シオン君が敬礼して、ヨミ君の腕を掴んだね。
引き摺られるように、ヨミ君もシオン君と 外回りの準備に消えたよ。


消えた2人を そのままに、アトリエの入り口へむかう私。

「さて、クルーズギャラリーの青の企画は『何青い』にするかなあ~♪。」

広重ブルー、
東山ブルー、
フェルメールブルー・・

古今東西、青は、人々の魅力し、テーマCOLORとして描かれてきた事幾ばく。そして、世紀の大発見により、200年ぶり、

新しい『青 』が誕生したのだ。

『 YIn Mn ブルー』


「ここは、やっぱり、マドンナの青 かなん?」

古く『マリス・ステラ=海の星』を聖母マリアの呼び名にし、
宗教画では 聖母のマントを青で表現してきた。

『マドンナ・ブルー』

ラピスラズリが、東洋貿易で
ヨーロッパに入り、青の顔料が作られる。アフガニスタンが原産国である事から、その青は、

『海を越えて来た、ウルトラマリン』
と呼ばれる。

鮮やかなブルーは、高価。
だから、憧れの顔料。
貴重な、稀なる絵の具。
その 青を使うべき 被写体。
時代の画 家達はこぞって、
ウルトラマリンで 聖母を描く。

レオナルド・ダ・ビンチ。
ラファエロ。

『聖母の青』が
シンボルとなる。

古の画家達にも、深い海の色が
母なる慈愛の聖母のイメージに繋がっただろう。
今回は 夏の展示会を 私は、『船、クルーズギャラリー』と 考えている。

「『ウルトラマリン』、『マドンナブルー』。集めるには、良いかもしれないね~。」

そう、1人呟きながら
アトリエの窓を開け放つ。
海岸線から吹く『あいの風』をアトリエが孕む。

「さあ~、こい。マドンナの青に惹かれて 来る !鳥たちぃ!!私の巻く薫りに酔って、こいっ!」

吹き込む風に煽られて、
私は恍惚の顔を 窓辺で浮かべた。