『大蔵省』は この日本国において、実に1300年の長きに、
国の金の全てを握って参りました。
戦後 全省庁が、GHQにより解体のうきめにあっても、
連合国の「協力者」として、
生き残りました。
「省の中の省」「官僚の中の官僚」と云われた由縁でございます。

ハジメ様をはじめ、私共夫妻は、代々 大蔵一族を成した 元 家格の末席家でございます。

末席と 言いますのは、
体の弱かった ハジメ様のお母上が 旦那様と離縁され、
静養地を廻られましたのは
ハジメ様の幼少時。

母様方にハジメ様が籍を移され
家を興されたからで ございます。

本来ならば、
ハジメ様も 財務省に入られる筋ですが、
旦那様の 後妻様 長子が 現在、席に着かれております。

「私には、似合う椅子では 無いよぉ。」

と 軽口され、

ハジメ様は、
卒業後すぐ 次なる席があります、国税庁の管轄へと入所されました。
その頃、残念ですが、ハジメ様のお母様が、亡くなられて。

「母さんの、顔は立てておくべきだろう~?」

と私共に 弱味を見せないように、ウインクされましたから、
生前 奥様が 元旦那様に 申し入れされてたのかもしれません。

私共夫妻は、お世話の為
ハジメ様に付いて、下向致しました。

税の番人の名で、国民のあらゆる『事柄』を調査する権利を
実は持っており、
治外法権の国税でございます。

警察の捜査権よりも、
国税庁調査権の方が強力。
警察を凌ぐ『徴税権』なる権力
が国税に あるのは、
皆様は 意外ではないでしょうか。

ハジメ様は、その中枢の
別名『ナサケ』、にいらっしゃいました。
キャリア的にも
花形の 別名『ミノリ』にいるはずのお方ですが。

「この性格には、こっちが性に合っているよね~」の一言で、

敢えて、『ナサケ』で
内偵班に身を置かれました。
でも、それも どうなのでしょう。

嫌疑関係者 全ての内偵は、
苛烈な任務でございます。
入れば、1年で精神を病むなどと噂されますが、
実際そうでございます。

そんな場所を 敢えて選ばれる、
ハジメ様の気持ちは、
解りかねますが、

「そんなに、真面目じゃない私だからねぇ。それに、アイツも 良い奴だから。ほら、バディなんて、ドラマみたいで、憧れるだろぅ?」
と、それは 嬉しそうでした。

指南役の 同僚様の存在と、
ハジメ様自身の好奇心を
満たす事があるのだと、
当時は 毎日、
私共夫妻に 話してくださいました。

脱税疑惑のライン金額は、
都市部に置いて
2000万円でございます。
ああ、覚えて置かれると 良いですね。

「う~ん。地方とかだと、1000万とかでも 見る件数少ないと 疑惑持たれるかもね~。」
など、云われた事も ございますが。

脱線いたしました。

まあ、
大口の嫌疑者は
守秘義務でございます。

最近 新しいところで、
フリーランス業の
コンピュータ周辺業、インターネット各種取引や、活動を行っている個人様も 増えたようでございます。
例えば ネットオークション。

気を付けねば なりませんね。

述べましたのは、
如何にも『未申告の例』でございますが、
それ以外が 『確信犯申告』で ございます。

施設費として、絵画。
備品として、高級服飾品。
接待費として、骨董。
換金制の高い物質を透視する
目が必要でございます。

まあ、ハジメ様は 大口内偵先での、そのような
『裏金物品』自体に
大変興味を向けられ、
楽しんで居られました。

内偵先では、
思いも掛けない珍品に出会う事が どうもあるようなのでございます。
一見すると、ガラクタ。
しかし、マーケットに出せば、
うなぎ登りの金額が付く品。
ハジメ様は、幼少頃より、
特殊でございまして、
目が利く方なのです。

しかも、やれ、
「あの絵画はもともと別の家の盗品だ、」とか。

「あのオリエンタルグラスは 希少価値が国宝級だから、差し押さえたら寄贈すべきだ」とか。

「申告しないのは 問題だけど、生きた金使いをしている奴だ」とか。

よく、指南役様にも
「『お前は、へんな 鼻が効きすぎる』と、呆れられるんだよ~」

と、ヘラヘラ 笑ってらっしゃいました。

でも、その方も 体調を崩し入院されまして。

「私は、お飾り『ナサケ』だから、アイツにツケが廻ってるんだろうか?」

などと、柄になく悩んでらして、
顔を出せる時は、必ず病院へ行かれてました。

「今日 見た、面白いモノを、アイツに話てやると 声出して笑うんだよ。」

ハジメ様には、
家族が いませんから・・・。

そんな頃で、ございます。
海外顧客を持つ、
ネットオークション主が
該当者になりまして。
格式ある家から 火事場泥棒された品を 在ること無いこと付けて売り出されおりました。

普通でしたら、
海外貨幣ならば帳簿操作も安い事、盗品同然の売買、
まあ、なんと上手い悪事をする輩か?と憤ると頃でございます。
建前としても。

ところが、ハジメ様は、
その在ること無いことを紹介して、日常工芸品を売り付ける様に、
驚かれて、
「凄い カルチャーショックだ!!
まるで、古の海外貿易みたいじゃないか!!」とまあ、
こともあろうか 感嘆さえされたのでございます。

大口 嫌疑者だっただけに、
ハジメ様の言動は、
不謹慎極まり無いと、大元の国税からも教育が入りました。

まあ、もっと『元』からの横槍でございましょう。
国税が独立した庁などと、
それも建前でございますから。
世界中で
日本ぐらいでございます。
『予算立権』と『徴税権』の実権を1つ所が持つような国は。

置いておきまして。

それでも、そんな事は、
ハジメ様にとっては 些末な事。

指南役のご同僚様が 亡くなられた事に、心を痛められてましたから。
ハジメ様にとって、
初めての気のおけない 同僚で、
一般事の指南役様。
それでいて、
特殊な任務のバディ様。

ハジメ様に、
心から 寄り添える『家族』
という存在が 出来るならと。
やはり 私共夫妻は、
思うので
ございます。



ハジメ様が、指南役様と
最後に話されたのが、
ハジメ様最後の内偵先の
品物について、だったようです。

「アイツに、今日は 凄いお宝を見たんだよ~って報告したんだよぉ。『聖徳太子と人魚の浮世絵』が裏蓋に貼られた『船箪笥』なんだぜ~って。」

「そしたら、アイツが『人魚って、肉食ったら不老不死になるんだろ?』って云うんだ。なんでも、『有名な都市伝説』だって。笑うよね~。」

「だから、『日本書紀』に、もう人魚は出て来てるし、第二次世界大戦中の日本軍の機密文書に、『日本の領海、沖縄海域で多く目撃の報告。
日本海軍が多数人魚を銃殺』って記録があるんだよんって 教えてやったんだぁ。」

「そしたら、驚いてさあ。『不老不死になれるなら、食べてみたいな』って云うんだ。だから『昔、北陸の漁師が もらった人魚の肉は、白くてぶよぶよした 薄気味悪い肉』だって書き残しているけど、食べれそうなのかい?って聞いてあげたんだ~。」

「そしたらアイツさ、『見た目気持ち悪くても、味だろ?』って。
だから、ちゃんと教えておいたよ。『食べた娘は、天下一品の味だったって。』って。アイツが食べるなら、そうだな 私も食べていいかな。」

「西鶴はさあ、『人魚の塩漬け』の効果をさ、高血圧、ガンの免疫強化、老化防止って、書いてたんだよね。800年も生きなくていいから、せめてガンに効くならねぇ。食べさせたいよねぇ。」

さようで、ございますね・・・



伝説では、人魚は不老長寿の妙薬とされます。

八百比丘尼は、人魚を食べたことで長寿になりました。
800歳まで生き姿は、
17~18歳の様に若々しかったといいます。

そうそう、最近いいます
『アマビエ』も、予言をする人魚でございます。



それから間もなくしてです。

ハジメ様は 『ナサケ』を辞められました。
もう、実権のある舞台ではなく、
自分の『本当』の場所を

芸術の世界で造られました。


「アイツがさあ、『どうして、船箪笥の蓋に聖徳太子と人魚の絵を貼ってたんだろな?』って云ったんだよぉ。その言葉で、私は、雷に撃たれたみたいに なったんだ~。」

「思い出したんだよ!人魚のミイラの事!!もう、運命的だよね~!!あの、嫌疑主の所で 同じような手法をする存在を思い出すなんて!!」

ハジメ様の恍惚とした顔は、
忘れもしません。
あの勢いで、
ここまで来られましたね。
無理されたかもしれません。



もうずっと昔は、
本当に人魚を 見た人がいるのかもしれません。

江戸時代『人魚の見世物』は、
多額の金銭が動くエンターテイメントになったそうでございます。

そうしますと、模造品を作って
儲けようという輩が出ます。
主に漁師が、
偽造人魚制作に手を出したのでした。
猿の上半身と鮭や、
鯉の下半身を縫い合わせ、
動物の毛皮や皮膚で覆います。

人魚のミイラ職人が誕生し、
名人がでてきます。

緻密に、様々な素材をつかい、
オオカミウオの顎、
狐の毛皮、中にはコウモリの翼
などなど。
こうして、秘伝の職人技になるのでございます。

これが密貿易の際に、
西洋人に
現在の1千両=11万円で売られ、ヨーロッパで模造人魚旋風が上昇。
もちろん、模造だと伝えて。

はい、世界の模造人魚のミイラは全て、Made in Japanなので ございます。凄いですね。

模造人魚は 西洋博物学者ですら
騙せるほどのクオリティでございました。
当時、日本人船乗りから、
11万円で卸された人魚のミイラは、ヨーロッパでは 85万円相場で売買されるのでございます。


「全国から 人魚のミイラに使う材料を 職人地へ運んで、今度は日本の海域から海外へ、鎖国中に密輸出する。そんな船の船箪笥だったんじゃないかって思うよね!」

「たとえ、近年の紙幣だとしてもさ、初めて「お札の顔」になった聖徳太子と 不老不死の人魚の浮世絵だよ!『錬金と不死』人類の最大ロマンだ!」


「想像しただけで、なんてグレートな商魂。どれだけ戦略的なアピールをしたんだ!」

って、まあ、大興奮でございました。
間違いなく、あの頃の全てが、
今の、ハジメ様の切っ掛けでございましょう。

ところで、
海外では模造としても
十分な価値を見出だされた、
人魚のミイラは、

国内ではまた別。
本物とされるものが
信仰対象でございまして、

日本国内で、最古の人魚の標本は1400年前とされ、
富士山の麓で某神道団体が保有されております。

実に模造人魚のミイラが
造られたより

ずっと古いものが

国内各地にはございますねぇ。


ハジメ様は、人魚の肉でも、
ミイラのような蘇生術でも、

何かしら そのようなモノを
探しているのでしょう。

では、私は、
倉庫1度戻らせて頂きましょう。
ハジメ様が、

『マドンナ・ブルー』

『聖母の青 』でございますね。

今回は

これを、

お探しになられるみたい
なので。