喪主する君と青い春。ギャラリストの迎合 石川編

今、
目の前にいる、貴方に、

いかにこの青が 得難い
奇跡の存在なのかを、
私は、存分に伝える事が出来るだろうか?

この心に描く 心情を、
正に目の前に存在する、
貴方に伝える程の技量を、
どうか私に 持ち合わせていますように。

それは、成し遂げたい、
告白のような

祈りなのです。


貴方は 思った事がないだろうか?

写真に撮ったデジタルの風景を、プリントアウトした時に、
その空の色がどうも、違うと感じた事が。

デジタルで描いたイラストや、
デザイン、仮想風景を、
3次元に出力した時、
どうも色や発色が、データで見る時と印象が違うと。

どんなに、斬新なファッションアイデアのカラーも、
自由に生地には出来ない。
デザインを、
生産ラインに乗せるまでの
納得した
サンプルカラーが出来ない。

3D技術で、こんなにも自由に
2次元をリアルに造り出せるのに、
どうしようもなき壁。


それを、色 で感じた事
ありませんか?

現在コンピュータ理論上では、
1680万の色を表現
できるのですが、
それを 3次元に再現するには、
自然物質だけでは難しく、
どうしても、化学合成物が
必要です。
それを専門にする
研究もありますが、

残念ですが、
貴方と、私の現実世界では、
コンピュータの世界ほど、

多彩な 色 を
まだ 表現、出来ないのです。


物体の 色 とは、
構成する原子が、太陽の光を
反射して生まれます。

貴方が、これまでに、
少し詳しく、絵を塗る事をしているならば、分かるでしょうか?

絵の具は、混ぜると、
無限の色を作れる気がします。

けれども、
混ぜれば、混ぜれる程、
色が『煤んでいる』事に
気がつきますよね?

粒子が混ざれば、
混ざる程、
密度が濃くなって、
光の反射が
悪くなるからですよね?


知らず知らず 分かってますね。

絵の具は、
絵の具のままに塗るが、
一番綺麗な発色を
出してくれるのです。

いわんや、色の三原色、

『赤・青・黄 』 は 混ぜれば、

たちまち、
その、明るさを 壊してしまう。

高級な車にだけ、使われる色が
あるのは
ラグジュアリー感の差別化?

いいえ、それ以上の理由です。
物質的に、使用頻度的に、

『価格の高い色』

を使えるからです。


例えば 赤。
世界の自動車色で、赤い車は実に
たった 8%しかありません。

発色のいい赤は、
有毒物質を化合して発色を
古来してきました。

それが、近年 それ以外の炭素で化合出来るようになりました。
でも、雨や熱の影響を受けやすいんです。

赤の 外車や、スポーツカー。

安全性が問われる車において、
赤ほど、
安全な色が 難しい色は、
無いのです。

安全に 鮮やかな 赤 を使うには、
お金が 掛かるという お話です。


安全性に 問題がある ものもあり、
安定性や、色度や、不透明度に
問題が ある ものも ある、
のが、

赤という色 なのです。

赤でさえ そうなら、
人類的に、人気の 青 ならどうだと思いますか?


古代エジプト
漢王朝
マヤ王国
現在までも

『高貴な青』色顔料は

『人を惹き付ける色』で
あり続けています。


貴方は、
世界で最も高価な『青』を
ご存知ですか?

金より貴重な『青』

その名も、
『海を越えて(来る青)』

天然ウルトラマリン。

この青は、宝石である
ラピスラズリが材料なんです。

古くは、地中海を
海路でもたらされた
ラピスラズリ。

その ラピスラズリから、
わずか
2%しか抽出出来ない『青』色。

ツタンカーメンの
黄金のマスクにもあるのも
ラピスラズリですね。

ですから、
西洋で『青』は重要な
意味を持ち、
『天の真実』を意味しました。

芸術家は、貴重な『青』で
聖母や キリストのローブを
彩ったのです。

神秘さと、
清らかさ、
高貴で、
唯一無二。

そのシンボルですよ。


けれども、『純度の高い青』の
ラピスラズリは、
地球上で

アフガニスタンでしか出ません。


数千年に渡り枯渇することなく、
今尚『青』を産出する場所が、

今 地球上で、

キリスト教徒の
いる事ができない

2つ国の1国なのは
何の皮肉でしょうか?


誘拐、紛争、テロの世界で、

その高貴な『青』は

悲しいですが、
貴重な軍事資金源として

使われています。


この様に あらゆる理由で、
完璧な青色を『創り出す』のは

色の世界では
長年の命題でした。


そして、2009年。
人類は
新星の『 青 』を、偶然生み出す奇跡に遭遇したのです。

それは、
強磁場、強誘電、強弾力
を併せ持つ
『マルチフェロイック』物質を
探す研究という、
全く『色』分野でない 過程での

出現でした。

多値メモリ、次世代型デバイス、磁気センサ、ナノ発電といった分野への応用物質の世界

身近なら、電話のデバイス
分野から

突如 出現した『青』なんて!

「イットリウムY」「インジウムin」「マンガンMn」
これを摂氏1200度で焼くと、
強烈に鮮やかな 『青』の粉が
この世に 出現したのです。

50年、色褪せず
耐久は
ウルトラマリンや、プルシアンブルーより高く

毒性は
コバルトブルーより安全で、

美しい色彩は、
フタロシアニンブルーより明るく、

安定していて、
ビクトリアブルーより エキゾチック。

熱反射率が良く
他のブルーより 群を抜いて ECO。

温度が低くなる 効果を持ち、
赤外線をも反射する。

ブルーにして、
太陽の煌めきの様な
レッドアンダートーン を持つ
無機『青』色顔料。

マンガンが 緑と赤の光を吸収し、青のみ残され、現れ出た、

その ブルーは、

『三方晶と両錐のコーディネーション』

『Yln Mn インミンブルー』

と名付けられました。

それが、発見から10年を掛けて、
ようやく
世界市場に 踊りでたのです。

この 新しい『青』の出現は
近い将来、
全く『新しい 赤、緑 、紫』を

この世界に出現させる
可能性さえ、証明した

奇跡の 『青』なのです。

それが、貴方の目の前に
在る 『青』なのです。

この 『青』に 出逢えた

貴方に

そう!!祝福あれ!!
カスガは、
目の前でハジメが語る
様々な話聞きながら、
その姿を改めて 眺める。

年齢不詳。
どちらかといえば、
地味でも整った、
チャラい タレ目顔?

喋ると、
個性が爆発的なのに、
見た目が 印象に残り難い?

「奥が深い話過ぎて、訳がわからないっすね。」

カスガは思った。
ハジメの話にもだが、
ハジメ自身の印象としても、
これが 本音。

「そんな 高そうな色、個人じゃあ、使う事ないですしっ。」

大体、カスガの周りには、
麻白のスリーピースなんて着る
人間がいない。
ご丁寧に、手でステッチまで
されているのだ。

「だよねー。キロ11万円、大さじ一杯で、5500円かな。」

それこそ 名立たる探偵や
なんちゃら ジェントルマン
てのが、 夏に着てそうな
スーツなんじゃないか?と
話半分、カスガは思い
描いていた。

「Assoc君、買っていく?金より高い青だよ~。ハニーにどう?」

いや?!何、

「そんなの貰って喜ぶ嫁じゃないですよ。」

勘弁してくださいっ!!
とんだ、えせ探偵の、
押し売りだよあんた!

カスガが 気不味そうな顔を
浮かべるが、ハジメは 気にもしていない様だった。

「そうなの?
サムシングブルーって 花嫁のジンクスにあるじゃない!ブルーは、聖母の『純潔と愛』を意味する、と~っても意味ある色なんだよん。」

「あのっ!ハジメオーナー、

「永遠の愛は、赤でもピンクでもない!青なんだよ~。それとも、やっぱり、ラピスラズリの青が いいのかなぁ?」

全くカスガを、
眼中に入れてない風に
話し続ける ハジメに、
レンが うんざりした声で 制した。

「ハジメさん、戯れ言、そこまでですよね。あと、カスガは、新婚では 無いですよ。」

フゥと聴こえる溜息を付いて、
レンが シャーレの 蓋を
カタンと閉めた。

それを なんの事もない様子で、
ハジメが 銀のトレーごと、元のキャビネットへ持っていく。

「あれぇ?そうなの?てっきり、Assoc君は、新婚1年目ぐらいかと思ったのに~。」

カスガに振り返りながら、
意外そうに言う ハジメの言葉に、
カスガは少し照れるような
表情をして、

「あーっ。これでも子供もいるんすよっ。」

すんません。なんか、『どうだっ』て感じ、させてもらうっすよ!
っと、自分を指差して 答えた。

すると、ハジメは 明白さまに
拗ねた顔を作って、

「じゃあ、私も まだまだ だね~。てっきり、その指輪の感じで 新婚かなぁって思ったから。」

と カスガが 自分を指さした方の
手を示した。
だから、カスガは 自分の薬指を
解せない様に マジマジと見る。
うん?なんか 書いてる?指輪に?

「最近、用意したみたいなんですよ、カスガは。でも、こう見えて、結構 やり手なんですよ。ハジメさんと 違ってですね。」

そう言って、レンが
デスク前に立つハジメに 、 カスガは3人の子供のパパだと教えた。
よほど それが
ショックだったのか、
ハジメがカスガを見る目が
据わってくる。

「へぇ~。これは、私がAssoc君に、家庭的結婚の方法を 御教授 頂く べきなのだねん。ん?」

あーっ、心の声が聞こえた。
リア充爆発しろってかーっ。

カスガが 僅かに、
ヒクっと 引きつる。

「そうですね、ハジメさん。それは、またの機会に、しますよ。今日は これで退散いたしましょう。」

レンは 話にキリを付けて、
自分とカスガのグラスを、
デキャンタセットのトレーに片付けた。そして、

「ハジメさん、個人的な事で すいませんが、この指輪のクリーニング、制作した方に、お願いできますか?」

そう言いながら、左手をまるで
結婚会見で お決まりのポーズを
するように、美丈夫の横に添え見せた。
カスガは、隣でそれを見て
余りなスマートさに、
流石っと唸る。

そんな様子を 腕組みをしてから、
一瞬、考えた素振りのハジメが
応えた。

「預りに なるけど~?クリーニング出来たら、郵送で 御返しでも よろしいか Dir ?」

そうハジメは、 カスガから
渡された名刺を ヒラヒラさせて、レンに尋ねる。
レンが、ソファーから腰を
浮かせた。

「大丈夫ですよ。出来たら、自宅へ、送って貰えると、助かります。」

カスガ も慌てて、レンに継いで
立ち上がった。
レンが、手から指輪を抜く
仕草を見せると、

「Dir~! 自宅なら、アドレスいいかな? ついでに 下のアトリエに、 送り状あるから、書いて貰えると~、私は 面倒がないんだけどぉ。」

ハジメは レンを静止して、
自分から 向かって、
ドアを開け示した。

1階の窓も開けているのか、
下からの風が 開け放った
オーナーズルームのドアから
吹き込んでくる。

「わかりましたよ。両足骨折された、ハジメさんを、お姫様抱っこで、階段を、降ろしましょうか?」

レンは、思いっ切りの 笑顔を
張り付けて、 ドアの横に立つ
ハジメを揶揄する。

風に乗って薫る香り?が、
さっき先輩が
ハジメオーナーに
言っていた、
『月下美人』の香りだろうか?
と 呑気に思いつつ、

レンと、ハジメのやり取りを
居心地悪く
見守る カスガだったが、
数分後、
自分が 滝のような汗を
流す事になるとは、

全く 思っても いなかった。

ハジメ、レン、カスガの三人は
階段を降りて 1階へ移った。

カスガは 初めて オフィスに来たので、アトリエ横のギャラリーや
工房を 先に見に行っている。

ハジメとレンの二人は、
そんなカスガを そのままに、
先にアトリエに入っていく。

レンが 視線をやると、
アトリエには、
幾つものイーゼルに立てられた
キャンバスが 並んでいた。

どれも、様々な色合いのブルーを
主体にした絵画。
風景、人物、生物、抽象、
デザイン、スケッチもあれば、
宗教画、星図などもある。

今度、夏辺りの展示会に
とりあえず集めてた絵画だろうか?

レンは そのブルーの絵画達を
スッと確認をして、ハジメが出してきた 送り状を受け取る。

この人は、本当に 自分で書かせるんだな…。

そう、目を細めてハジメを
見ながら、差し出された トレーの上に、左手から外した指輪を、

1度 掌に握って、顔の前に翳してから、ゆっくりと 置いた。

この人は、もしかしたら、
自分とシオンの間柄を知っているのかもしれないな。

改めて、周りを囲むブルーの絵画を見回す。

レンは、送り状にアドレスを書くため、スーツのポケットから細身紫の 万年筆を取り出す。

『天然の、ウルトラマリンか。』

重金属 なんか全く必要ない、
土に、砂、そして硫黄。
それを
『業火』で燃え上げて成る『青』。

送り状に、今住む 自分のプライベートアドレスを 音無く書き込む。

レンの目には、
どこまでも静謐なブルーの空間は、
まるで 摂氏約1000度超えの、
高温に燃え上がる 青い溶岩炎だ。

「送り状書けましたよ。プライベートアドレスなので、よろしくお願いしますね。」

トレーの上を、出した送り状がかすめる。

レンには 青い焔に煽られたように、
懐かしい練乳のような、乳香がする気がした。

「そろそろ、元の様にしたいと願っていたので、有難いです。」

レンは、ハジメに
何の外連味のない笑顔を見せた。



そんな 珍しく素直な笑顔を見せた
レンに、ハジメは 内心驚いた。

トレーに乗せられた 指輪を
見つめる。

ハジメは知っている。
というより、ハジメが 初めてレンに会った時に 提案をしたのだ。

この指輪は、ダミーだ。

『だって、Dirは、独身貴族。』

一面、紺碧の海。

そんな『青』の空間に佇む、
氷の貴公子は 結婚をしていない。そもそも する気がない。

初めて会った時、
『そうは、世間は見逃してもくれない』とか Dirが 言うもんだから、
その時 ディスプレイをしていた、
指輪を示して、
『コレでも付けたら、いい虫避けになるよん。』って戯けたんだよね~。

ハジメは、トレーのリングの横に『Dir』と付箋紙を貼る。

ヨーロッパの伝統的な
フィレンツェ彫りシルバーリング。
一見マリッジリングに 見える
ほどの、細い
フィレンツェ彫りなのは、
スタッフのシオン君が
彫金して仕上げ一品モノなんだけど・・・

まさか、本当に Dirが、
ダミーマリッジリングを
買い上げるなんてね~。汗汗。

ハジメは、送り状の確認をして、控えを ギャラリー紋様を型押した、封筒に入れる。

氷の貴公子のマリッジリングね~。

マジマジと、相手の顔を見ながら、
ハジメは、レンに
その封筒を手渡す。

青い空間の中で、
貴公子は 大切そうに、
それを直した。

ウルトラマリンは、

鉱物のケージに、
三硫化のマイナスイオンが
閉じ込められている色
なんだって、
科学者ので 読んだよ。

かごの中に 閉じ込められた
青い鳥が 色を、世界に贈るよう
なんだって。

まるで、Dirのような 青だよ。

その身の内に、どんな鳥を
閉じ込めているのやら。

そうだなぁ 私は、
まだ扉を開いて
嫁鳥を待っているんだよぉ。

「なるべく、早く 送れるようにするね~♪」

ハジメは、レンに訳知り顔の
笑顔を向けた。


と、そこに ようやく、
他の1階部屋を探索し終わった
であろう、カスガが 入ってくる。

レンの元へ、
ツカツカと歩いたカスガは、
その 足を 途中で 止めた。

次の瞬間、ハジメとレンは

『ガターンンン、、、』


という、
派手にモノが倒れる音がして、
驚く。

二人が 音が鳴り響いた先を、

見ると、

床に 倒れ落ちている、
木製のイーゼルと、

1枚のキャンバスを

後ろに 隠して 蒼白な顔をして

立っている、 カスガがいた。

一方、金沢市内で挨拶周りの二人。



ヨミの手の中にある、金の鳥。
それを見た、シオンは

「先輩?もしかしてー、その『開運おみくじ』、集めてます?ー」

そう言って、おみくじ箱を指さした。
そこには、12個の縁起物のどれかが入っていると書いている。
ヨミは、ニッコリと笑って応えた。

「初めて、『鷽替え』がでたわ。」

いそいそと、ヨミが 財布に金の鳥を入れるのを、シオンは見ながら
思い出した事を伝える。

「先輩、その鳥、見て思ったんですけど。オーナーの 『聖徳太子と、人魚の浮世絵』って、それ、滋賀の石山寺ですよー。」

「あら?後輩ちゃんの得意地域かしら?」

まあ そんなとこですねー、と頷いて シオンはヨミに付いて歩く。

「結構、有名な話なんですよー。きっと、日本で一番古い人魚のミイラに纏わる話です。因果応報?因果一如?を人魚が話すんです。あ、北陸も人魚の話ありますよね?」

ヨミは、シオンに今度は、
展示館関係を廻る事を示して
サラリと答えた。

「八百比丘尼の伝説ね。人魚の肉を食べて、今も生きているって伝説。」

シオンを、再び助手席に乗せて、ヨミは車を走らせる。

「それです!先輩!その八百比丘尼が食べた肉って、『ジュゴンの肉』だって言われてるんですよー。」

得意げに語る シオン。

お堀通りは左右に緑が多くて、
街中の道でも 気分よく走れる。

「後輩ちゃんは、本当に食べるモノなら なんでも興味、示すわよね?」

と 今度はヨミが、嫌味を含めて
微笑んだ。

「まるで、食べ物しか興味ないみたいじゃないですかー。まあ?そうなんですけど。」

左手に通称『21美』が出て来て、歌劇場が見えた。ヨミを 横目に見る。某歌劇団の講演がある舞台だからだ。
助手席のシオンが ヨミを非難する。

「早くに亡くなった義叔父が、南の出身だったんですけど、昔は その辺りで ジュゴンを漁していた事を聞いたんです。」

「えぇ!!日本でジュゴンって食べるの!それ、やだ、凄くない!」

ヨミが、思わず シオンの顔を
ガバッと見て仰天する。

右手に今度は、放送局の 鉄塔が
見えてきた。

「昔は、四国とかも いたみたいですよ。ほら、聖櫃=アークを包んでいたのも、ジュゴンの皮だって言うでしょ?ジョバンニのアザラシ皮と一緒で 耐水性あるらしいです。老不死とか媚薬に出来て、骨はお守りにしたって。涙だって、恋愛の効能があるとか。年貢としても、肉を納めてたらしいです。汎用性高いから乱猟ですねー。」


ハンドルを切って、ヨミは
裏側に回った駐車場に、車を停めた。

「弱冠、引く話だわね。あ、着いたから! 降りるわよ。ここから少し歩くわね。」

二人は 車から出て、緑の多い小道を奥に行く。
歩きながら、ヨミは 続ける。

「何、ジュゴン凄いじゃない?でも、絶滅危惧種よね?もう保護対象じゃないかしら。」

まもなく、低層モノクロツートーンの建築物が出き。

「その通りですよー。5000ぐらいしかいなかったかも。ジュゴンがモデルだって言われる人魚って、やっぱり『涙=アクアマリン』が、漁師の航海の守り石 なんです。だから、オーナーの見たっていう、船箪笥に入れているのも、国は違いますけど、ちょっと 納得ですねー。」

話て近づくと、『禅』の精神を
投影したような 建物は
とてもモダンな建築だった。
一目で有名建築家のものと解る。

「ふむ。でも私的には、人魚には、因果応報より 不老不死の秘訣を、ぜひ説いて欲しいかも。」

ヨミは 夢見る様な 目をした。

「あたしー、こないだ エンディングドレスを用意したんで、『不死』は困ります!」

間髪いれずに、
今度はシオンが ヨミに 言放つ。

木々や石垣、
モノトーンの石タイルがモダンだ。

「あのね、後輩ちゃん、貴女は 先にウェディングドレスを用意しなさいよ!!おかしいでしょう、なんでエンディングドレス先に用意するのよ?」

ヨミは 呆れながら シオンを嗜めて、

建物に入った。

入り口で挨拶をした
学芸員スタッフに、シオンが
名刺と企画のフライヤーを渡す。ヨミの知り合いらしい。

「やはり、海外に初めて 禅思考を発信した宗教家の記念館ですから、外国からのお客様が 3割も来られるんです。」

そう、いいながら、玄関の庭を
横手にヨミとシオンを、内回廊を通り 案内をしてくれる。

水鏡に佇む白い建物。
水面に 青い空が写り込む、
静寂の空間。

「シリコンバレーを代表する、
コンピュータパイオニア企業の
創立者が 思考したのが『禅(ZEN)』だと、海外で広く知られたのが、きっかけですけど。」

学芸員は重ねて語り、
水鏡の庭を建物をまわる。

無言の悟りを呼ぶ様な
雰囲気の外部回廊をまわる。
と、大きな音が響き、

波紋が出来る。

「夕方のライトアップや、
朝瞑想もできますよ。よければ
又いらして下さいね。」

丁寧にでいて、踏み込みむ事なく、
案内してくれた 学芸員は、
ヨミに頷いてから 消えた。

水鏡に立つ建物の中。
薄暗い正方形の部屋に
畳のベンチが置かれている。
部屋に入ると、外の風景が
別世界に写る。
それが どこか 金沢的だと
シオンは思った。

八百比丘尼が 入定する洞窟から
外を見ると、こんな感じ?

真ん中に空いたスペース。
「見えない四畳半」

見える長方形に
切り取られた景色は、
それこそ、『禅』の思想に
一歩でも近づけそうだ。

生と死

老いと 若い

陰と陽

因と果


人魚の涙って
守りにも
恋愛の媚薬にも
なるなんて。
どうやって、泣くの?

海亀みたいに、
生み出す時に 泣くの?


と、シオンは ぼーっと
関係無い思考を 少しする。

常に 世界の美術館ランキング
上位の美術館や、
五感が刺激される体感の場所。
街中に ユニバーサルデザインな
建築物があり、歴史と文学が共存している。

挨拶周りだけでも、
つい時間を忘れてしまいそうな
街だと、
シオンはヨミと、畳の椅子に
座り、感じる。

そして、つい 隣のヨミに、

「先輩。石山寺の 西国三十三周り。廻ると、六種類の 鳥を、お土産の土鈴で 集めれるんですよ。」

と、小声で、囁く。

「うそ?! ほんと!可愛いの?それ、欲しい。」

ヨミの反応に、にまっと
シオンは満足した。
ラクシュミー。

神々が『不死の薬』を造る為に
世界創造し、海の泡から出現した
ヒンドゥー女神。

そんな イメージが ぴったりとくる紺碧の 宗教画のような
『少女画』には、

『No.12』としかタイトルは無い。

というより、このアーティストの
絵画は、全てナンバリングのみの
タイトルなのだ。



ハジメは、カスガが 後ろに隠す様に持っているキャンバスに視線を留め、確認する。
絵画自体は、破損はなさそうだ。

木製イーゼルのネジは、

飛んでいるが。

もしかしたら、今の音で、サロンにいるマダムが 飛んで来る
かもしれないなあ~、とハジメは呑気に考えた。

レンが カスガを凝視したまま、
ハジメに 咄嗟に謝罪する。

「ハジメさん!申し訳ないです。うちのカスガが、粗相をした様で。カスガ、どうした?絵を倒してしまったか? 絵を見せて、確認する。」

レンは、カスガの表情を読みながら、近づいて行く。
と、カスガが 蒼白の顔で、
頭を振った。

「先輩っ、違う、違うんす。でも、これは、見せれません !」

後ろに持つキャンバスを
庇う様に、カスガは 二人から
距離を取る。

「「?」」

もし、後ろが崖なら、
それこそ飛び降りる雰囲気を
出すカスガの言葉の意味が、
ハジメもレンにも、
全く理解できない。

「カスガ!どうした?その絵、何かあるのか?おまえ、絵画とか、あまり興味あるとは、思ってなかったんだが。」

レンは、静かに、
そして宥めるように、
目の前で ガクガクと震える
カスガに、手を差し伸べる。

しかしカスガは口を結んで、
頭を振る。

レンは、ハジメを見て

「ハジメさん、すいません。何かあれば 弁償はします。ただ、例えば 変な絵とかじゃないですよね?」

ハジメは、動かない カスガを
前に、腕組みをして 静観してるが、
レンの台詞に 眉を大袈裟に潜める。

「止めてくれないかなぁ~Dir!いくらなんでも、精神に影響を及ぼす作品、ホイホイ置いとかないよ~。」
その 危ない ハジメの 答えに、
レンは小声で、
持ってるんですねと 呟く。

お、 アトリエの入り口に
マダムが 顔を出した。
そりゃそうだよね~。

「あのね~。そんな作品なら、もっと 高くなるもんなんだけど、残念ながら 『無名といえば、無名のアーティスト』の作品なの!今のところ!」

へぇー、というレンの視線が
ハジメを射ぬく。
そして、ご丁寧にも、レンは
入り口に向かって 会釈した。

カスガは、俯いて 無言のまま。

床には、
イーゼルが転がったままだった。

「このアーティストは、まだ 本人と 契約が出来ていないけどぉ。全ての作品は、私が 親族から、委託されているよ。だから、ゆくゆくは 全部の作品をシリーズにして 企画するつもりなのぉ。」

ここで、
カスガが 追い詰められた犯人の
ごとく、半狂乱になる素振りも
見せないからか、

ハジメは 近くにあった、
アンティークチェアに腰掛けた。

「Assoc君は、意外にも その作品を気に入ってくれた?という事かな~?。まだ、マーケットに出てないアーティストだから Dirにも お教えするよ。 弁償や、購入は これから ゆっくりとかな?」

ハジメは、カスガの持つ
キャンバスに 注視しながらも、
椅子の肘掛けに
腕を預けて組む。

「このアーティストはね、12枚、全ての作品を『少女』を題材に描いているんだ~。少女達は、その姿から全員 違う、女子高生。なぜなら、みんな いろんな制服を着ている 後ろ姿だからだよん。」

レンも、
ハジメの語る内容を
聞きながら、
カスガから 目を放さない。

「どれも、様々なブルーに 他の色をグラデーションで差し込み、背景COLORにしているのが、紫陽花みたいで綺麗だ。幻想的なんだよ。背景も 無数の気球だったりしてね。」

と 俯いていた、 カスガが ハジメを見つめた。

ハジメは、入り口に
サカキバラが 来ている事を
感じた。
とりあえず、もし Assoc君が
暴れても 安心だねぇ。

「でも、その 最後の
作品だけ ちょっと違うんだよ。いや、全然違うかも~?」

ハジメも、カスガの目を
見据え ている。
レンは、そんな二人を見つめ、

「ハジメさん、その、最後とは?作家は亡くなられた方ということですか?」

先ほどからの疑問を 挟んだ。




「判らないんだよねぇ。消息不明~。」

ハジメは、カスガから視線を
外さなかったが、この言葉に、

カスガの目に 、狼狽える色を
見ていた。

「海外に行ったままなんだよ。ねぇ、最後の作品が 他の作品と どう違うか、君の上司に教えたいから、そのキャンバスを こっちに見せてくれないかな~?」

レンは ハジメが 絵画の状態を
確認したいと、
カスガに 闇に交渉してきている
と考える。

けれども カスガの答えは、
意外なモノだった。



「知って、るっすよ、、これだけ、、後ろ向きじゃない、、正面の 、、裸の 女神だっ。」

そして、徐に 自分の上着を脱いでキャンバスに
掛け抱えた。

虚をつく 二人に カスガが
叫けび倒す。

「見るなあああっ!!こっ、、オレの だあああっ、、

同時に、
入り口から、屈強な サカキバラが
飛び出して、

床のイーゼルを カスガの首もと
にかませて、

カスガを 捻り上げた。

レンが、額に片手を翳して
深く、呼吸をしたのが、
全員に 分かった。
『キーン♪コーン♪カーンン コオーン…』


キャンバスを

サカキバラから
取り上げられた、カスガは

拘束まではされないものの、
ハジメとレン、サカキバラ夫妻を前にして 、
アンティークチェアに 座らされいる。

アトリエで 暴れられては困ると、
カスガを連れて、同じ1階にある サロンに 一行は場所を移した。

その際 キャンバスは
2階のオーナーズルームに、
マダムが持ち上がり鍵をしている。
一応、キャンバスは カスガの手前、布を覆って保管となったわけだ。


サカキバラ夫妻は、
サロンカウンターの向こうに
影を潜め、存在を消す。



『あの絵、、オレが、、その、 高校ん時、描かれたヤツ、っす。』

観念した カスガは 少しずつ
不可解な行動の 理由を、洩らし
始めた。

そうして、
カスガの 心証風景に ハジメと
レンは、聞き入っていく。

青い、学生時代に訪れる
夕暮れ時の刹那の時間に。




『キーン♪コオオオーン、』



授業の終わりを告げる
チャイムが、教室に響くと、
担任が早速 終礼をする為か、
教室に入ってくる。


「あれが、Assoc君が恋する君って事かな~?なかなか、可愛い子だよねぇ。家庭的な感じかも~。」

カスガの 熱心に視線を注ぐ、
その先には、1人の女生徒が、
髪を なびかせ 座っていた。
放課後に入る前の 慌ただしい
空気の中で、彼女の周りだけが
光って見えた。

「変な目で 見んの、やめてくださいっ。その 意味が、わからないっ。オレ、彼女、入学ん時から、ずっと好きだったんすから!」


ハジメは カスガに構わず、
廊下の窓から 顔を突っ込んで
教室の中を、 興味深々に 彼女
以外のクラスメートも 眺める。

「ハジメさんは、家庭的な女性が一番の条件でしたよね?」

レンがハジメの様子を見て、
言い放った。レンの 言い方で、
ハジメが、自分の理想に叶う
女生徒を、物色している事が
分かる。

それを聞いて 赤面した カスガは、慌てて ハジメの目を 自分の方に
反らさせた。

「Assoc君、もしかしてぇ、彼女は初恋の君ぃ?」

ハジメが 揶揄って、
そんな カスガの肩を小突いた。


「さすがにっ、初恋じゃ、ないっすけどっ、、」

それを、レンは 顔色を変えず
見ている。ハジメは、今度は
レンの顔をマジマジと観察する。

「Dirって~、初恋は いつぅ?」

カスガは、ハジメの台詞に
ギョッとするが、関心満杯で
レンの返事を待っているのが、
わかる。

「3才です、けど?」

「早っ!」

思わず 口にしたカスガが、
レンの視線に 下を向いた。
ハジメは、口笛~♪で
レンを煽る。

終礼も終わったのか、担任が
教室を出ていくと、生徒達も
各々荷物をまとめて、教室を
出てい来きはじめる。


高校時代のカスガは、生徒鞄と
一緒に、カメラバックを持って
教室を出ようとしていた。

「カスガ、高校から映像だったのか?」

レンが、高校時代のカスガを
見て、カスガ本人に 聞く。

「いえ、高校は普通っすよ。クラブで写真してて。それから、大学で映像工学はじめた感じっす 。クラブは、写真甲子園とか出てて、活動が活発だったんでっ。」

カスガが、慌ただしく離れた。
例の彼女も 荷物を持って、
クラスメートに声を掛けられ
ながら、出て行ったからだ。


「ハジメさん。初恋してます?」

レンは突然、ハジメに真面目な
顔で言ってくる。

カスガを先頭に、ハジメとレンは
彼女の後をついて、
校内を歩きながら 校内の様子も
伺っている。

「Dirはぁ、失礼だなあ~。私も初恋ぐらい、小学生でしているよぉ。ありがちだけどぉ、ほら 小学生って、勝ち気な女の子とか 友達の延長で 好きに成っちゃうでしょ~?」

そう レンを見たハジメに、
カスガさえも疑いの目だ。

「じゃあ、告白、しました?」

レンが、ハジメに突っ込んで
くる。
掃除当番の生徒が、バタバタと
遊びながら 箒を使っている。

放課後の活動に行くだろう、
生徒達も慌ただしく 三人の回りを
行き交かう。

「なんかさあ~、高校建物の感じが、シンプルだよ?こんなモノなのぉ?」

キョロキョロと教室や廊下を
珍しそうに見回しながら
ハジメは 続けた。

「告白!したよ~!でも、他の男子も皆いたんだよねぇ。これが~。クラスの勝ち気な、マドンナだったからさぁ。Dirって~どうして そんなに私に聞くのぉ?」

三人は、彼女を追いかけて
特別教室棟らしき建物へ
やって来た。

「貴方の、 恋愛観が、何時からかと、」

「・・・」

そう レンに聞かれて、
ハジメ自身が 目を瞬きさせた。
そして、

「どうかなあ。いつが、家庭的が理想の、始まり?かあ~」

廊下のずっと奥を見るように、
ハジメは呟いた。



追っていた彼女の姿が消えたが、
カスガは さして急がない。
彼女の行き先が 解っている
素振りだった。

「彼女、これから クラブ活動なのぉ?」

空気を変えるように、ハジメが
カスガに聞いた。

テニスコートが二面グランドに
作られ、ラケットを手にした
生徒が、備品の籠を運んでいる。

カスガは 彼女の行き先なのだろう、棟の階段を登って行く。
どうやら ハジメの足は、
ここでは疼かないらしい。

「彼女は 美術部っす。ここの先が、美術室で。」

三人は、 階段を登る。
ハジメは、各階をわざわざ
覗き込んでは 楽しんでいる。
まるで、女子高の学祭に来た
男子校生みたいだと、カスガは
ひっそりと 呆れた。


先を行く 彼女は、
美術室と表示が出る教室の、

隣の引き戸を開けて入って行く。

「今、彼女が入ったとこが、教員準備室なんですけど、」

カスガは、美術室に入って、
隣の教員準備室と繋がる
ドアを開ける。

美術室には、
明かり取りの窓が天井にあり、
デッサン用の彫像が並んでいる。

壁には、簡易イーゼルが数十脚、重ね置かれていた。

「カスガが持っていた、キャンバスのモデルが、彼女という事だね?カスガ?」

隣とのドアを開けると、
衝立の向こうに、

大判キャンバス用のイーゼルが
見える。

レンは

そのイーゼルに、
キャンバスが置かれて、
男性の足が、下から
見えているのを見つめて

聞いたのだ。

男性の上半身は、キャンバスに
隠れて見えない。

「あそこにいるのは、若かりしMy maestroだよねぇ?Assoc君? ということは、そうなんだ、彼女が 最後のモデルかぁ。」


隣に 先ほどの彼女が 笑顔で
座っているのが見えた。


目の前の 光景を
衝立のこちら側から、
食い入る様に見るカカスガは、

無言だ。


教師と、彼女と、それを見る
カスガの様子。
ハジメも、レンも、
なんだか 居心地を悪く感じる。


「先生は、、非常勤で 美術を教えて、て、」

カスガの歯切れは悪い。

窓から指す 明かりに 照らされ、
ボンヤリと明るく 彼女と、
教師が 浮き出される 。

幻灯機に写し出されるような
二人を 見ながら、
レンは 腕組みをして 言い放つ。

「教え子をモデルにしていたということだろう。何年かすれば、別の学校っで、またモデルを探すというところかな。」

そんな 非情な台詞を吐く
レンを
ハジメは、眉間に皺を寄せて
非難する。

「なんかぁ、言い方に刺あるんじゃない Dir?」

ハジメとレンの雲行きを見て、
カスガが 仲裁に入った。

「へんな先生じゃないっすよ。男女の生徒に人気あったしっ。先生が、三年の女子をモデルに 絵を描くのは 有名ってか。その絵は、絵画展に出るんで、結構モデルは名誉な感じっつー、女子の憧れって感じでしたっ。」

三人は、改めて モデルをする
彼女と、イーゼル前の教師を見た。

「だから、二年の時に、先生が三年の先輩モデルで書いてたのも、皆、知ってますっ!」

気が着くと、幻灯機の二人の
後ろにも、描かれたキャンバスが壁に飾られているのに、
ハジメが気が付く。

「『No.11』ってことぉ?」


「はいっ。」

カスガが返事をする。

それを 良く見れば、
紫陽花色の気球が背景に、
後ろ姿の女子高生が描かれた
絵画だ。

『コンコン!』

すると ドアがノックされ、
高校時代のカスガが、カメラを
持って 準備室に入ってきた。

「何やってるんのん?Assoc君は、ストーカーのカメラボーイ~?」
ハジメが、高校カスガを見て、やや怪訝そうに言った。

すると、
イーゼルの向こうの教師が、
カスガに声をかけ、
モデルをしている 彼女に
カメラを向けたのが 分かった。

「違う、違いますっ。あれは、 モデルにずっと彼女が来るのも悪いから、先生が写真を撮ってくれって、オレに頼んだんすっ!」

「で、おまえの分も現像したんだよね?」

レンの言葉に被さり、
カメラのフラッシュが光る。

「まあ、、そうっす。て、先生とこに 彼女が行くのが、嫌で。オレ、先生に 彼女が好きなんで、手伝って欲しいって。相談して、そしたら 先生が、彼女のモデルの時間減らすって!」

『 パシャ!!』
目映い光が 閃光になる。

「そうやって、先生を 牽制したんだな?」

『パシャ!!』


「は、い。」

「なんだか、ガキっぽいよな。」

写真を撮った後、
彼女は 美術室と繋がるドアから、外へ出て行った。


「え?」

「え~そうなかなあ?」

そうすると、高校時代の
カスガが、
イーゼルの向こうに居る教師に
現像が出来たのだろう

写真を渡している。


「いや、十代って 俺もそうだったのかなって思って。いや、カスガの場合は、若い小聡明さが 裏目に出そうで、危ういんじゃないのか?」

教師は、イーゼルの端っこに、

その写真を止めた。


「だから何が~?」

「ハジメさん、貴方は、 博愛過ぎるから、わからないですよ。」

レンが、ハジメを バッサリと
言葉で切り捨てる。そして、

「大人の余裕をぶっこいて、それこそ 彼女に おまえの気持ち、 教えてそうな 教師だな。」

カスガに 憐れな視線を向けた。

高校時代のカスガは、
その 渡したはずの写真を
勿体なさそうに、見つめている。


「止めてくれたまえ~、Dir。M y maestroは、大事なアーティストだよん。そんな、Dirみたいな、性悪じゃない~。」

今度は、レンがハジメに
瀬世ら笑うような顔を向けた。

「大事になるのは 後の話でしょ?」


そんな、高校時代のカスガに
教師は、
目もくれないで、
筆を動かしている様だった。

「先輩が、言いたい事は、、なんとなく、分かってっますよっ!でも、こん時は、こうすれば、一石二鳥だろって考えたん、す。」

「ねぇ~、彼女って。My maestroの事 好きとかじゃないの?」

「ハジメさん。」

「あのっ、それこそ、止めてくださいっ!」

「だって~、そうじゃないなら 普通モデルしないよん。」

「う、うぅ。」

そんな教師を 横から 見る
高校時代のカスガを、
ハジメとレン、
そして カスガ本人も 眺めていた。

『~♪ー♪、♪~』

吹奏楽部が練習を始めたのか
楽器の音色が、聞こえてきた。


「そうだな、 まるで、ガキっぽいよな。」

レンは、そう言って ドアから出る。
ハジメと、カスガも それに習った。


「でもさあ、Assoc君は 偉いよ!子供っぽくてもぉ、相手に、 My maestroに、ちゃんと宣戦布告してる~。」



ドアの外に出ると、
そこは 美術室ではなく、
ハジメのオフィス1階サロンだ。

ハジメは、
アンティークチェアに腰掛け、
レンも 続く。

「まあ、写真でも、先生とこにあんのは、めちゃくちゃ嫌 でしたっし、先生は人気あったっすから!言う時は、言いますっ。」

最後に、カスガが 腰掛けた。

「ふーん。だから、あの絵画も、俺達が見るのを 嫌がったのか?いつまで、ガキなんだよ?」

マダムが カウンターから、
出てきて
三人にお茶を出していく。
ハジメは、
マダムに笑顔で応えて、
出されたティーカップを
手にした。

「嫌なのは、嫌で、、すいませんでしたっ。」

そう言って カスガは
椅子に座ったままだが、
頭をテーブルに擦り付けて 謝る。

「まあ~、絵画を破損したとかじゃあないからねぇ。理由がわかれば 問題はないよ~。一応、今回はぁ」

ハジメが、口を付けて
満足そうにすると、
マダムがレンとカスガにも
遠慮するなと合図する。

二人も 甘い香りの
ティーカップに口を付けた。
濁みのないのに、

芳醇な甘薫り。

「それに~、初めて気がついたよ
。私は 小学生以来、ちゃんと告白なるものを、してないって事にぃ。」

レンは驚いて、ハジメに問う。

「これは、もしかして、月下美人のお茶ですよね?」

一瞬、
カウンター向こうの
サカキバラを見てから、
ハジメは、

口を弓なりにして

Yes と答えた。


片山津温泉郷。
シオンは、その干潟湖である
柴山潟の真ん中にある、
高さ70mの噴水を
船から見ていた。

「「いやゃああ♪ー!」」

というより、噴水の豪雨に
船が穿たれるのを
ヨミとシオンは 大きく声を上げて 楽しんでいた。

多方向に豪快な水を咲かせる
巨大噴水。
夕方から 七色にライトアップ
された噴水や、
浮御堂への遊歩道の眺めが

綺麗だ。

「先輩、見てくださいー!あれ♪ー!」

見上げると、
夕方の斜陽が噴水に 大きな虹を
掛けてる。ヨミとシオンは
そんなサプライズに 息を飲んだ。

これで 夏には、花火まで見れる
なんて、どんな贅沢だ。
と溜息をつくしかない。

船に また噴水の飛沫を
風が運んでくる。

「後輩ちゃん、今日は とりあえずだったけど、挨拶周り お疲れ様ね。」

そういって、ヨミは 纏め上げて
いる髪を 押さえた。

風が少し出てきた様だ。

それは、すこし潮を含んだ風。
日本に、風の名前は、二千以上
ある事を 何気無く、
シオンは思い出す。

日本で最も古い風の名前は、
この北陸に吹く『あいの風』だ。

「こちらこそ、1日有り難うございますー、先輩。」

シオンも、乱れ髪を 押さえ
ながら、笑顔で ヨミに礼をする。

「今日は、挨拶だけじゃなくて、いろいろ連れて貰えて、良かったです。また、先輩に 何かお礼しますねー。」

船を気持ちよく動かし、
船乗りを味方する風。

江戸時代、北前船の順風も
『あいの風』だった。

「お礼ね。まあ、楽しみにしておくわね。じゃあ、最後の顔出しをして、今日は直帰だから。」

昼間訪れた建物を シオンが
いたく称えたので、ヨミが
金沢にある、同氏設計の図書館にも 連れてくれたのだ。
『世界で一度行ってみたい図書館』に選ばれている場所だ。

船は 少しずつ日が落ちる中を、
復路へと揺蕩う。

「最後って、『晶子染め』の工房ですか?」

昼にヨミから渡された、
リストの最後を見て、
シオンが確認をする。

「そうよ。この柴山潟の底にある土と片山津温泉の源泉を使った泥染めを、金沢大学の教授が発案したの。」

ヨミは、船の上から 湖面を
指差して、続ける。

「落ち着いた 薄い紫に染まるんだけど、それが、あの有名な女流歌人が詠んだ歌に合うって、『晶子染め』って、なったのよ。」

シオンは、へぇっ!と感心する。

「『風起こり うす紫の波うごく 春の初めの片山津かな』ってね」


辺りが薄暗くなると、
ライトアップの光が増してきた。

「全国をサロンを開きながら、ご主人と旅されたんですよね?片山津にも来てたんですねー。」

「なんでも、北海道から九州まで巡業的にサロンを開いてたらしいわよ。『旅かせぎ』って言って、 100カ所は温泉だけでも回ったって。旅行先を歌で発信。今でいう元祖旅ブロガーよね。」

岸に近くなると、
ライトアップだけでなく、
湖の辺りは『青』のイルミネーションや、マッピングもしているのがわかった。
とても、幻想的だ。


「たしか、不倫の末結婚して、子供も12人?13人生んだんですよねー。愛に生きる。羨ましいかもー。」

浮御堂の横を船が行くと、
一際、黄金に輝いてみえる。


「うちの、旅するギャラリーの発想も、案外 この女流歌人の手法からかもね。」

シオンは、黄金に輝く浮御堂の姿を、電話を翳して 写真に収めた。

「 オーナー見てると、『原始女性は太陽だった』的な発言が多いですもんねー。その割り、女性への思いって、淡白そうー」

シオンは その 写真を ヨミに見せる。

「あたしも、写真撮ろっと。で、後輩ちゃん、その台詞はまた、別の人よ。」

「あれ、そうでしたっけー。」

「それに、淡白なのか?拗らせてるのか?オーナー本人も解ってないんじゃない?」

ヨミが シオンを見ずに言う。

『今、片山津温泉郷の船ですー。工房行って、直帰でーす。両足、気を付けて下いよー!』

シオンは、さっきの写真を
ハジメオーナーに
送信した。

「じゃあ、オーナーが、本当に好きになる人って どんな人なんですかねー。」

さあね。
生きてるうちに会えたらいいわねーと、ヨミの声が聞こえて、

『男は夢を追う生き物、女は現実を生きる生き物。』って、誰が言ってたかしらね。

と 重なってシオンの耳に届くと、

船はクルージングを終えた。


夕方。

斜陽傾く時間に 結局、
レンが 引きずるようにして、
カスガを ハジメのオフィスから連れ出し

今、レンとカスガは、レンが運転する車に居た。
予定通り、片山津温泉で泊まる為だ。

「カスガ、もう 落ち着いたな?。今日は、もう このまま宿に行くが、いいな?」

車は、オフィスから国道に入って、干潟の柴山潟に向かっている。

宿泊先は、一応 仕事で来ているので、ビジネスで良く使われる系列だ。
夫人が帽子を被って広告塔になっている 逆張りキャッシュ仕入れで全国展開するグループホテル。


押しだまった ままのカスガを
ミラーで伺いながら、レンは 白い手で ハンドルを握り直す。

「カスガ、今のうちに言っておくが、」

レンがそう言うと、カスガの肩が僅か少し 動いた。
外の景色は、林道のようで、前後が同じ様にみえる。

車の案内がなければ 本当に迷いそうだ。

「これから、カスガだけで、北陸を車で回る事もある。だから、敢えて伝えるが、周りの景色でわかるだろう?夜は なるべく 1人の時は、移動をしない方がいい。」

カスガは もっと別の話をされるだろうと考えていたのか、助手席で
狐に摘ままれた顔をしている。

「この辺りは、まだ平地だから
マシだが、山間部で 蛇行した道は、車のヘッドライトしかない
場所もある。案内を見るヒマも
ないぐらい、ハンドルを切る道もある。」

カスガは、ようやく 窓の外を
確認して 納得した 顔をした。

「こういうのも、変な話だが、
俺は夜、北陸のハイウェイを
走らせると、人外な力が通って
いるような気配を感じたりして、
肝を冷した事もある。『伊勢が表なら、能登は 裏のパワスポ』も、
俺は頷けるよ。何より、昔は、
拉致も多い半島だった。1人で回る時間は、夕方までにするのが、
ベターだろうね。」

レンが 静かに 説き伏せるように
助手席の カスガに語ると、

「もっと、責任とか、信用、謝罪とか 説教されるかと思ってたっす。」

カスガが、静かに呟く。

「まあ、そうだな。」

レンは、それだけしか 言わない。

景色は ようやく街に入り、
薄暗くなる中、ポツポツと幾つかのホテルの灯りが並び始めた。
温泉郷に入ったのだろう、茶屋にあるような 灯明が並んでいる。

「…ホテル、なんか何時もと違う感じっすね、」

カスガが、和風ホテル前に着くと
声を少し 上げた。

「まあ 出張宿だよ、これでも いつものグループホテルだ。それより、今回は1人部屋がないから、俺と一緒だ。四六時中、上司と一緒で、悪いな。」

レンは 苦笑しながらも、
車をホテルに入れて、
案内で ロビーに向かう。

カスガも周りを見回すが、
エントランスは広く、
天女が天井で舞い、
大階段の両脇には 青磁の大壺が
飾られている。

グループが『錦に貢献修得』したという、
もと高級老舗旅館だけはある。
入り口の和風重厚と、
中の解放感は、他のグループホテルとは一線を画していた。

まさに グループの本陣が金沢と感じる。


2階フロントで レンが受付をして、車のキーを預ける。
好印象なフロントマンが 、
片山津温泉で最大の絶景風呂から、
巨大噴水のライトアップも
見れると、説明をしてくれた。


「カスガ、いつもの出張通り、
朝食だけだ。夕メシは、 ホテルの日本食でいいか?」

カスガは、
少しボーッとしながら、
フロントビューになっている
一面ガラス張りから、
干潟湖を眺めていた。

「おまえ、大丈夫か?ハジメさんの所に顔出したのは、どうも 間違いだったな。」

レンは カードキーの1枚を、
カスガに渡しながら そのまま
食事処にカスガを促す。

「…すんませんっ。やっぱり、ハジメさん所は、当分、、行く事ないですか。」

また、カスガの歯切れが悪いと、
レンは察し、

「ハジメさんには、俺から また詫びを入れておくから、大丈夫だ。」

とだけ、言い渡して、二人は
すぐに食事をした。

結局
その後、部屋に入って、
露天風呂から帰ったレンは、

部屋からカスガの姿が
消えるまで、

カスガへの疑念は
全く脱ぐ得なかったのだ。

そして、
フロントで レンタカーの鍵を、
カスガが持って行った事を
確認すると、

ハジメに連絡を入れた。

「ハジメさん、すいません。
やっぱり、カスガが 宿を抜けて、そちらに向かっていると思います。」

そう言って、レンは
フロントビューから見える

チェックイン時よりも、
鮮やかになった

干潟湖に映りこむ
七色のイルミネーションと、

金色に輝く 浮御堂を 見つめる。

電話の向こうの
ハジメの声を 捉えつつ。

「あとは、ハジメさん次第かな」

と レンは 思考にふけった。


ハジメは オーナーズルームに、
保管していたキャンバスを
イーゼルに飾って、室内の照明を
消す。

すっかり日も暮れて
照明を消せば、カーテンを引いた
室内は 真っ暗になる。

そうして、ハジメは 飾った
キャンバスの面に、 手にした
ブラックライトを当て 見た。

う~ん。
シオン君が レポートしてくれた
作品が、『No.12』だったとはね~。

と ハジメは 愉快そうに、
その キャンバスに 目を光らせた。

さて~、
Dirの電話から、もうすぐ
この 『No.12』に ゲストが
やって来るらしい。
どうなること やらだねぇ。



ハジメは 再び 部屋の照明を
光々と点けて、デスクチェアに
座って、クルンと回ってみた。

普段なら オフィスの終業時間になれば、サカキバラ夫妻と共に、
生活をする 近くの別屋敷に、
戻るのだハジメだが、今日は
昼間の事から、戻るつもりは
無かった。

そうしている内に、
車が止まった気配がするれば、
サカキバラが ギャラリー玄の関を
開けて、上に通す手筈だ。

案の定、暫くして、ハジメがいる
オーナーズルームのドアが、
ノックされた。


「やあ~ Assoc君は、鳥でなくて、コウモリだったかなぁ?」


サカキバラの後ろから、
カスガが現れたのをハジメが視線で捉え、声をかける。

「コウモリ?っすか?」


中に促されと、仏頂面をした
カスガはハジメの前で、答えた。

「昼間に君のとこのDirが言ってたろぅ? 私が付けてる薫りが『月下美人』だって。あの花は 夜に1日だけ咲く花だけど、受粉に呼ぶのがね、鳥でも虫でもない、コウモリなんだよねぇ~。」


後ろのドアは
閉められたが、サカキバラが
気配を潜めて 隅にいるのを、
ハジメは キッチリ 確認している。

「君は バットマンてわけだぁ~。さあ、私の所から、何を持って行くつもりなのかなぁ?」


そんな のっけからの、
ハジメの挑発に、カスガは、
ハジメの横にある 布が掛けられたイーゼルを睨んだ。

「私が居なかったら、盗む勢いだよね~、バットマン?」

ハジメは、
睨んだままの カスガに
オーナーズルームの革張り
キャメルソファーに座る事を示して揶揄する。


カスガは 示されたままに、
ソファーへ座り、

「ハジメオーナーっ。その絵を 公にすんのを 止めて下さいっ!」

ハジメを真っ向から 見据え、
言い放った。
ハジメは 暫し、カスガの顔を
思案するかの様に 凝視する。
そして、覚悟を決めた
声で、カスガに告げる。


「Assoc君~。このモデル、只の片思いのお嬢さんではないよねぇ?」

そうカスガに
質問しながらも、
ハジメは、隣のイーゼルに
立て掛けている、
キャンバスに
一旦、顔を向けて、
カスガを見た。

「ここに、描かれているのはAssoc君を、スウィートホームで待つ、ハニーでいいのかな?」

「、、、」


「Assoc君 てぇ、もしかして学生結婚?で、デキ婚とか?高校卒業とかで 直ぐなんじゃない~?きっと、図星だよねぇ。」

カスガは、無言だったが、
その目に ハジメは
何かしらの焔が揺らぐのを
見つけると、

「しかも誘ってきたのが~、意外にもハニーからとかぁ?違う?」

畳み掛ける。

さすがに、カスガが口を開いた。

「ち、違いっます!ちゃんと、オレが告白してっす。」


カスガが手を、
壊れそうなぐらい
握り締めているのを、
ハジメは 気が付いている。

ああ、目の前のAssoc君も、
これは 冷や汗かいてるよ~。

「で、それも My Mestoroにでも相談して 、告白にお墨付きでも貰っての行動だった?。」

「?!その、通り、ですっ。」

はあ~、これは Assoc君は、
口にする勇気もないだろうし、
私が ハズレクジを引いたよん。


「ねぇ~、『No.12』以外の
少女達は 、本当に みんな後ろ姿の制服なんだよぉ。なのに、
この少女は 正面を向いた
半身裸体の女神。実は Assoc君、 完成品を見たのは今日が初めて
なんでしょ~?」

この言葉に、カスガの目が
大きく見開く。それは 今日、
昼間に アトリエへカスガが入ってきた時に見た顔と同じだと、
ハジメは 確信する。


「『No.12』の女神は、瞳を閉じてまるで眠っているみたいだぁ。この顔って、どんな時の表情なのぉ?Assoc君は 分かるんじゃないのかなあ~。」

もう、
そう昼間も、蒼白だったんたよねぇ。
まるで、不倫現場に遭遇した
男の顔見たいだったんだよ~、
Assoc君。


「あとぉ、1ついい~?」

ハジメは、まだ布が掛けられた
キャンバスをの淵を手にして、

「この絵~、不可視インクで、
女神に何かしら描かれてるんだけどぉ、ーーー Assoc君、
気にならないかい!?」

大袈裟な程に、
頭を振って ハジメは、カスガを
挑発する。

カスガは 昼間の再来、
崖に 追い詰められた
犯人の様な顔をしている。

「く、うぅ、」

とても、声を出せそうに無い
カスガを前に、ハジメは非情な台詞を続けた。


「まあ?いいや。で、さっきの話だけどぉ、Assoc君もわかるよね~。Assoc君の希望には、『無理だよん。』が答えだぁ。
委託さるている以上、価値を発信するのが、仕事だからねぇ。」


「、、じゃ、あ。売って、、下さい、」

呻くような、声が 相手から
発せられた。



「本気~?、そりゃAssoc君のモノにすれば、インクを確認する事もできるわけだしねぇ。」

それは、なんという表情~。

「いくら、な、んですかっ、」

「Assoc君は、

この絵を幾らで

買ってくれるの?。」



そんはに、ショック受けたみないな顔されてもね~♪

「絵ってねぇ、本当にピンから
キリだよ~。1号2万円から、
200万円も 幅があるぐらいぃ。
この絵はF40号。どう?」

ハジメは、立ち上がって
キャンバスを持ち上げる。

カスガが、そのキャンバスから
まるで目を放さないで、

「あ、80万から、、2000万円、ですっか、」

明らか 落胆した声で 嘆く。

「それが基本ねぇ。ネームバリュー付くとまた 別。さて、この絵は Assoc君には、どれだけの価値があるぅ?」

それと、現金は今日、
用意出来ないよね~と
ハジメなりに 気を使う素振りだ。

でも、いい考えを思い付いたと

カスガの左手にある
指輪を指差して、

「その、ハニーとのマリッジリングを担保に預かる~」と

口を弓なりにして、ハジメが
カスガに

提案してきた。