本間大吾が生まれ育った川越市は、埼玉県の南西部に位置している。人口は約三十五万人。
江戸時代には幕府の北の守りだった川越藩の城下町として栄えていた。それどころか、江戸時代以前には江戸を上回る都市だったとかで、「江戸の母」と称されてもいたらしい。
いまは「小江戸」と呼ばれ、街には常に観光客がいる。
城跡、神社、寺院、旧跡など歴史的建造物が多く、関東地方では神奈川県鎌倉市、栃木県日光市に次ぐ文化財の数を誇っている。海外の日本旅行ガイドブックに紹介されたこともあったためか、最近では外国人旅行者も増えた。
大吾の家は特に商売などはしていないが、戦後まもなくからほぼ建て替えをしておらず、敷地内には昔ながらの蔵も建っているせいで、観光客たちによくカメラを向けられている。
学生時代には、門を出た瞬間に、カメラを抱えた彼らと眼が合うと妙な気まずさを覚えたものだ。
帰郷以降、面接に出る以外はほぼ引きこもり状態なので、そんな遭遇も減ってしまったが。