「あー暑い!ねぇリアム、この車ってなんでカーテンがないの?」
真っ白な肌に照りつく日光を避けようと上半身を曲げながら、後部座席に座っていた花が左手で風を扇いで前を見た。
「悪いねぇお嬢ちゃん。この車は中古であまり機能が充実していないんだ。カーテンもその機能ってやつに含まれている」
「んなこと言っているけどカーテンつけりゃあいい話だろ」
運転しながら言い訳をする叔父に俺は追い打ちをかけた。後ろでトランプゲームをしながら盛り上がっている四人衆のやかましい歓声を煩わしく感じつつ、目が開かなくなるほどにまぶしい光を手で遮りながら、車窓を通り越した先にある風景を眺めた。
今乗っているこの車は、ベントン州の郊外であるバンカードという地方に向かっている。あたり一帯が葉の生い茂る木々で広がっていて、それに加えてこの強烈な夏の日光に照らされていると、目の前に広がっているのは果てしない熱帯雨林なのではないかと感じ、余計に熱を感じてならない。
叔父と友達四人を含めた俺ら六人は、今回の夏休みを使って、つい一か月ほど前に亡くなってしまった父が購入した別荘に数日間泊まることになった。せっかくの夏休みなのに、わざわざ手間暇かけて別荘に行き、父の形見を整理するなどごめん被ることであったが、叔父の再三の勧告によって俺は仕方なくいくことにした。
本当は叔父と二人で行く予定だったのだが、彼が言うに「せっかく行くなら友達を呼んでみんなでバカンス気分になろうじゃないか」ということで、知らぬうちに四人もメンバーが追加することとなった。
その四人が後ろにいるうるさい奴らだ。昔からよく一緒に遊んでいた花やトムならまだしも、なんであまり親睦のないクローデットとジェイクまでついてきたのか、少しだけ疑問に感じられた。ちなみにその二人とも花の友達であるらしい。
サンフランシスコからずいぶん車を走らせてようやくバンカードまでつくと、とりあえず俺らはいったん別荘に一番近い人里で降りた。そこでガソリンの補充をするとともに、叔父はここら一体のことについて地元の人に一応尋ねたのである。
人口の少ないバンカードでは、どうやら家屋も少ないようで、あまり地形的にも恵まれていないここで別荘を建てる者も相当レアケースであるようだ。特に自分たちがこれから向かおうとしている父の別荘は、その中でもかなり変わったところに建てられていると地元の人たちは認識しているようで、そこでは「呪いの屋敷」だとかで噂になっているようである。というのも、バンカードはカロツィア川という流域面積のかなり広い川で東西に分割されているらしく、人々のほとんどが東側に住んでいて、西側はほぼ森林が果てしなく広がっているだけなのに、その別荘はまるで人里を避けるかのように、わざわざ西側に建てられていたからだそうだ。
今いるこのガソリンスタンドのある町が別荘に一番近いところであるというのに、ここからさらに一時間半ほど森の中を西の方へ車で進み、そしてかなり老朽化した木橋から川を渡らないと、川沿いの別荘には到着できないらしい。
それを聞いて、別荘のことについてあまり父から聞かされなかった俺は気味悪がっていたのだが、好奇心旺盛な花は興味津々そうになっていた。トムもまるでホラーゲームの幕開けじゃないかと状況を楽しんでおり、ほかの二人に限ってはそもそも話を全く聞いていない。叔父に聞いても、どうやら彼も父からは何も聞かされていなかったらしく、父がなぜあのような場所に別荘を建てたのかが疑問に思えてならなかった。それはもちろん、別荘というのは自然が溢れる場所に建てた方がいいかもしれないが、それほど不便な場所に建てるのも、別段なにか理由があるとしか俺は思えてならなかった。
しかしここまで来てしまったものを、これから引き返すわけにもいかず、車を走らせてやっとの思いで川岸の方へと辿り着いた。ここまで向かうのに、舗装されていない森林の道の起伏が激しすぎて、道中何度も車の天井に頭をぶつけてしまった。
「相棒は図体がデカくて橋を渡れん。ガキンチョども、こっから歩くぞ」
川を横たわる橋の前で車を止めて、叔父はそう言って車の外に出た。それにつれて俺たちも車を出て、目の前の光景に圧巻された。
それはいい意味でだ。淀みないきれいな川が流れる上、たった一本の木橋が微かに揺れながら向こう岸まで続いていき、そしてそのすぐ向こうに大きなダークオークの屋敷が聳え立つ。そしてそこをさらに微かに黄色い日光がデコレーションを加えてより神秘さを増させる。まるでおとぎ話に出てきそうな風景に、俺は思わず息を呑んだ。さきほどの別荘に対する不審がかき消されるほどに、その風景は美しかった。
橋を渡るのが大変そうであったが、形見を整理し、有用なものは持って帰る算段だった俺たちは、幸運にもあまり荷物を持ってこないことにしていたため、荷物に足を引っ張られる心配はなかった。かなり長い間改修がされていないようで、その橋はいたるところに蔦が生え、今にも崩れ落ちてしまいそうなくらいに頼りなく見えたが、足を踏み込んでも意外に丈夫そうで、一気に渡って別荘にまで近づく。
「うっひょー。ものすっごい大建築じゃないか!リアム君は隠れ大金持ちだったんじゃないか?」
別荘を見上げていたジェイクが俺の方に顔を向けてそう笑いかける。俺はリアクションに困ってとにかくぎこちない笑みを浮かべた。そもそも自分だって、父親がこれほど立派な別荘を建てるほどに財産を持っていたことを知らなかったのだ。自分の家庭は一般家庭と一緒であるのだとずっと思ってきたのだが、まさか父が自分に隠れてこんなものを建てていたとは、少し裏切られた気分である。
「ねぇとりあえず入ろうよ!肌が焼けて黒くなっちゃう」
バックを背負いなおしたクローデットがそう言うと、花はすかさず彼女に笑いかけた。
「あなたもともと肌が黒いでしょ」
「心外な。黒人だって肌は焼けるよ」
クローデットは花を睨みつけて先に歩いて行った。それに叔父がついていき、俺たちもぞろぞろと別荘の方へと足を向ける。
鉄の大きな門を通過して長い庭路を歩き、ところどころ錆びているがしっかりと鉄で縁取られている立派な木の門が軋む音を耳にしながら、一か月ほど近く密閉されたであろう別荘を開放した。大きな鉄のわっかにいくつものカギがぶら下がっており、叔父はそれを取り出してはまた面倒くさそうにバッグの中にしまう。大きすぎてポケットには入らないようである。
ドアを開けてすぐ目の前に広がったのは立派な広間だった。床一面をカーペットが敷かれており、奥の方までずっと続いている。玄関は広間と一体化されているらしく、中に入ると広い空間の左右に木製の階段がアーチを描くように曲がって、二階に続く廊下のところで中央に一つへと合流している。広間の中央に大きなテーブルが置かれ、それはまるで中世ヨーロッパ貴族が使いそうなダイニングテーブルほど広く四角いものであった。その上に多くの小物が乱雑に置かれている。そしてさらにその向こうの壁が貫かれてまっすぐと奥の方まで廊下が続いている。
「おいおい兄さん・・・こんなデカぶつ俺一人じゃあ管理しきれないよ」
広間だけでもこのあまりにもの広さで、叔父は圧倒されて亡き父に愚痴を吐きながらゆっくりと中の方へと進んでいった。
「電源装置を探してくる。お前らはとりあえずここでじっとしていろよ。勝手に動いたら迷子になりかねない」
そういって彼は懐中電灯を照らしながら広間の奥の闇の中へと消えていった。歩きながら彼は懐から小さく折りたたまれた紙を取り出してまじまじと見ていたため、おそらくそれがこの屋敷の見取り図で、彼はそれを見ながら電源装置の方まで進んでいったのだろう。
叔父の気配がしなくなり、シーンと静まり返った広間の静寂を、突如花の明るい感嘆の籠った声が打ち破った。彼女はまっすぐ目の前の大きなテーブルの方まで進むと、何かを取ったらしく、それを光った目で見つめながら、またとことこと帰ってきた。
「なんか拾ったのか?」
俺がそう聞くと、彼女はまるで自分の宝であるかのように、それを両手で大事そうに包みながら俺に見せた。
そこにあったのはハンコ入れだった。といっても、ずいぶんときれいな装飾が施された代物で、売ったら結構な値段になりそうな見た目をしていた。しかしあくまで見た目が、だ。縁を金色のメッキで固定され、それを沿うように色とりどりの石がピカピカと光っている。そして真ん中にとりわけ大きな緑に輝く石が埋め込まれてあり、それがエメラルドに似せた偽造石であることがすぐに分かった。花は昔からそういったキラキラするものが好きで、自分の部屋にそのようなものを集めた「宝箱」を何個も持っていることを俺は知っている。彼女は気に入ったものを見つけるたびにそれを俺の方に持ってきては、自分の宝箱の中に大切にしまうのだ。
「それ偽物だぞ」
俺は例に倣ってそう彼女に伝える。
「いいもん。きれいだから」
すると彼女は決まりセリフをこうして放って顔をひょいっと横に向けるのだ。
「ねぇこれもらっちゃってもいいよね?」
そう彼女が言うと、今度はクローデットが反応した。
「いや、まずいでしょ。それもリアム君の父の形見の一つなんだよ」
「いいのいいの。お父さんが死んじゃったら普通は全部その子供のものになるんだから。ねぇいいよね?リアム」
クローデットの言葉をものともせず、花は俺にそう問い詰める。面倒くさいので俺は適当に頷いた。別に形見の一つくらい減ったって大したことはないだろうと思ったのだ。それを見て花は小さく「やった」と叫んでそれをワンピースの上に羽織った、デニムパーカーのポケットの中に入れた。
するとちょうど叔父が帰ってきた。彼は広間に再び姿を現すと、すぐに手に持ったリモコンを天井にぶら下がる大きなシャンデリアに向けてボタンを押し、暗かった広間がたちまち優雅なパーティー会場へと変貌した。
「お待たせした。じゃあとりあえずいったん寝室に向かおう」
叔父がそう言い、俺たちは明るくなった屋敷の中に足を踏み入れた。
そしてそれと同時に、トムが叔父の指示でドアを閉め、それを見ていた俺は、それがまるで何か不吉なものの始まりのように感じられ、得体のしれない興奮に身を襲われた。
真っ白な肌に照りつく日光を避けようと上半身を曲げながら、後部座席に座っていた花が左手で風を扇いで前を見た。
「悪いねぇお嬢ちゃん。この車は中古であまり機能が充実していないんだ。カーテンもその機能ってやつに含まれている」
「んなこと言っているけどカーテンつけりゃあいい話だろ」
運転しながら言い訳をする叔父に俺は追い打ちをかけた。後ろでトランプゲームをしながら盛り上がっている四人衆のやかましい歓声を煩わしく感じつつ、目が開かなくなるほどにまぶしい光を手で遮りながら、車窓を通り越した先にある風景を眺めた。
今乗っているこの車は、ベントン州の郊外であるバンカードという地方に向かっている。あたり一帯が葉の生い茂る木々で広がっていて、それに加えてこの強烈な夏の日光に照らされていると、目の前に広がっているのは果てしない熱帯雨林なのではないかと感じ、余計に熱を感じてならない。
叔父と友達四人を含めた俺ら六人は、今回の夏休みを使って、つい一か月ほど前に亡くなってしまった父が購入した別荘に数日間泊まることになった。せっかくの夏休みなのに、わざわざ手間暇かけて別荘に行き、父の形見を整理するなどごめん被ることであったが、叔父の再三の勧告によって俺は仕方なくいくことにした。
本当は叔父と二人で行く予定だったのだが、彼が言うに「せっかく行くなら友達を呼んでみんなでバカンス気分になろうじゃないか」ということで、知らぬうちに四人もメンバーが追加することとなった。
その四人が後ろにいるうるさい奴らだ。昔からよく一緒に遊んでいた花やトムならまだしも、なんであまり親睦のないクローデットとジェイクまでついてきたのか、少しだけ疑問に感じられた。ちなみにその二人とも花の友達であるらしい。
サンフランシスコからずいぶん車を走らせてようやくバンカードまでつくと、とりあえず俺らはいったん別荘に一番近い人里で降りた。そこでガソリンの補充をするとともに、叔父はここら一体のことについて地元の人に一応尋ねたのである。
人口の少ないバンカードでは、どうやら家屋も少ないようで、あまり地形的にも恵まれていないここで別荘を建てる者も相当レアケースであるようだ。特に自分たちがこれから向かおうとしている父の別荘は、その中でもかなり変わったところに建てられていると地元の人たちは認識しているようで、そこでは「呪いの屋敷」だとかで噂になっているようである。というのも、バンカードはカロツィア川という流域面積のかなり広い川で東西に分割されているらしく、人々のほとんどが東側に住んでいて、西側はほぼ森林が果てしなく広がっているだけなのに、その別荘はまるで人里を避けるかのように、わざわざ西側に建てられていたからだそうだ。
今いるこのガソリンスタンドのある町が別荘に一番近いところであるというのに、ここからさらに一時間半ほど森の中を西の方へ車で進み、そしてかなり老朽化した木橋から川を渡らないと、川沿いの別荘には到着できないらしい。
それを聞いて、別荘のことについてあまり父から聞かされなかった俺は気味悪がっていたのだが、好奇心旺盛な花は興味津々そうになっていた。トムもまるでホラーゲームの幕開けじゃないかと状況を楽しんでおり、ほかの二人に限ってはそもそも話を全く聞いていない。叔父に聞いても、どうやら彼も父からは何も聞かされていなかったらしく、父がなぜあのような場所に別荘を建てたのかが疑問に思えてならなかった。それはもちろん、別荘というのは自然が溢れる場所に建てた方がいいかもしれないが、それほど不便な場所に建てるのも、別段なにか理由があるとしか俺は思えてならなかった。
しかしここまで来てしまったものを、これから引き返すわけにもいかず、車を走らせてやっとの思いで川岸の方へと辿り着いた。ここまで向かうのに、舗装されていない森林の道の起伏が激しすぎて、道中何度も車の天井に頭をぶつけてしまった。
「相棒は図体がデカくて橋を渡れん。ガキンチョども、こっから歩くぞ」
川を横たわる橋の前で車を止めて、叔父はそう言って車の外に出た。それにつれて俺たちも車を出て、目の前の光景に圧巻された。
それはいい意味でだ。淀みないきれいな川が流れる上、たった一本の木橋が微かに揺れながら向こう岸まで続いていき、そしてそのすぐ向こうに大きなダークオークの屋敷が聳え立つ。そしてそこをさらに微かに黄色い日光がデコレーションを加えてより神秘さを増させる。まるでおとぎ話に出てきそうな風景に、俺は思わず息を呑んだ。さきほどの別荘に対する不審がかき消されるほどに、その風景は美しかった。
橋を渡るのが大変そうであったが、形見を整理し、有用なものは持って帰る算段だった俺たちは、幸運にもあまり荷物を持ってこないことにしていたため、荷物に足を引っ張られる心配はなかった。かなり長い間改修がされていないようで、その橋はいたるところに蔦が生え、今にも崩れ落ちてしまいそうなくらいに頼りなく見えたが、足を踏み込んでも意外に丈夫そうで、一気に渡って別荘にまで近づく。
「うっひょー。ものすっごい大建築じゃないか!リアム君は隠れ大金持ちだったんじゃないか?」
別荘を見上げていたジェイクが俺の方に顔を向けてそう笑いかける。俺はリアクションに困ってとにかくぎこちない笑みを浮かべた。そもそも自分だって、父親がこれほど立派な別荘を建てるほどに財産を持っていたことを知らなかったのだ。自分の家庭は一般家庭と一緒であるのだとずっと思ってきたのだが、まさか父が自分に隠れてこんなものを建てていたとは、少し裏切られた気分である。
「ねぇとりあえず入ろうよ!肌が焼けて黒くなっちゃう」
バックを背負いなおしたクローデットがそう言うと、花はすかさず彼女に笑いかけた。
「あなたもともと肌が黒いでしょ」
「心外な。黒人だって肌は焼けるよ」
クローデットは花を睨みつけて先に歩いて行った。それに叔父がついていき、俺たちもぞろぞろと別荘の方へと足を向ける。
鉄の大きな門を通過して長い庭路を歩き、ところどころ錆びているがしっかりと鉄で縁取られている立派な木の門が軋む音を耳にしながら、一か月ほど近く密閉されたであろう別荘を開放した。大きな鉄のわっかにいくつものカギがぶら下がっており、叔父はそれを取り出してはまた面倒くさそうにバッグの中にしまう。大きすぎてポケットには入らないようである。
ドアを開けてすぐ目の前に広がったのは立派な広間だった。床一面をカーペットが敷かれており、奥の方までずっと続いている。玄関は広間と一体化されているらしく、中に入ると広い空間の左右に木製の階段がアーチを描くように曲がって、二階に続く廊下のところで中央に一つへと合流している。広間の中央に大きなテーブルが置かれ、それはまるで中世ヨーロッパ貴族が使いそうなダイニングテーブルほど広く四角いものであった。その上に多くの小物が乱雑に置かれている。そしてさらにその向こうの壁が貫かれてまっすぐと奥の方まで廊下が続いている。
「おいおい兄さん・・・こんなデカぶつ俺一人じゃあ管理しきれないよ」
広間だけでもこのあまりにもの広さで、叔父は圧倒されて亡き父に愚痴を吐きながらゆっくりと中の方へと進んでいった。
「電源装置を探してくる。お前らはとりあえずここでじっとしていろよ。勝手に動いたら迷子になりかねない」
そういって彼は懐中電灯を照らしながら広間の奥の闇の中へと消えていった。歩きながら彼は懐から小さく折りたたまれた紙を取り出してまじまじと見ていたため、おそらくそれがこの屋敷の見取り図で、彼はそれを見ながら電源装置の方まで進んでいったのだろう。
叔父の気配がしなくなり、シーンと静まり返った広間の静寂を、突如花の明るい感嘆の籠った声が打ち破った。彼女はまっすぐ目の前の大きなテーブルの方まで進むと、何かを取ったらしく、それを光った目で見つめながら、またとことこと帰ってきた。
「なんか拾ったのか?」
俺がそう聞くと、彼女はまるで自分の宝であるかのように、それを両手で大事そうに包みながら俺に見せた。
そこにあったのはハンコ入れだった。といっても、ずいぶんときれいな装飾が施された代物で、売ったら結構な値段になりそうな見た目をしていた。しかしあくまで見た目が、だ。縁を金色のメッキで固定され、それを沿うように色とりどりの石がピカピカと光っている。そして真ん中にとりわけ大きな緑に輝く石が埋め込まれてあり、それがエメラルドに似せた偽造石であることがすぐに分かった。花は昔からそういったキラキラするものが好きで、自分の部屋にそのようなものを集めた「宝箱」を何個も持っていることを俺は知っている。彼女は気に入ったものを見つけるたびにそれを俺の方に持ってきては、自分の宝箱の中に大切にしまうのだ。
「それ偽物だぞ」
俺は例に倣ってそう彼女に伝える。
「いいもん。きれいだから」
すると彼女は決まりセリフをこうして放って顔をひょいっと横に向けるのだ。
「ねぇこれもらっちゃってもいいよね?」
そう彼女が言うと、今度はクローデットが反応した。
「いや、まずいでしょ。それもリアム君の父の形見の一つなんだよ」
「いいのいいの。お父さんが死んじゃったら普通は全部その子供のものになるんだから。ねぇいいよね?リアム」
クローデットの言葉をものともせず、花は俺にそう問い詰める。面倒くさいので俺は適当に頷いた。別に形見の一つくらい減ったって大したことはないだろうと思ったのだ。それを見て花は小さく「やった」と叫んでそれをワンピースの上に羽織った、デニムパーカーのポケットの中に入れた。
するとちょうど叔父が帰ってきた。彼は広間に再び姿を現すと、すぐに手に持ったリモコンを天井にぶら下がる大きなシャンデリアに向けてボタンを押し、暗かった広間がたちまち優雅なパーティー会場へと変貌した。
「お待たせした。じゃあとりあえずいったん寝室に向かおう」
叔父がそう言い、俺たちは明るくなった屋敷の中に足を踏み入れた。
そしてそれと同時に、トムが叔父の指示でドアを閉め、それを見ていた俺は、それがまるで何か不吉なものの始まりのように感じられ、得体のしれない興奮に身を襲われた。