「私、七年間も茜ちゃん達に嘘ついてきたし。今さら謝っても許してもらえないだろうし。ってか私達、最初から『出会ってはならない存在』だったんだよ」

なんで、なんでそんなこというの?

紗季、どうしちゃったの?

「だから、本当にごめんね茜ちゃん。私も今から小学校に行って、学校側から茜ちゃんに謝るようにお願いするから。それとバレてしまったから、もう茜ちゃんの前には現れないようにするから。目障りでしょ?『親友のとの関係を壊した偽りの親友の顔』なんて見たくないでしょ?」

笑っている紗季だけど、そこには感情はない。
何もない辛そうな笑みを見せているだけ。

まるで、誰かに無理矢理笑うように命じられたロボットのような紗季の顔。

その紗季を見ているのが私には辛過ぎた。
『本当にどうしちゃったんだろう?』って思う。

・・・・・・。

ってかふざけんな!

どうして私から逃げるのさ!

紗季らしくないよ!

「今さらカッコつけないでよ!バカ紗季が!」

物音一つしなかった図書室に私の声が響く。
あまりにも唐突だったためか、タオルを被って寝ていた図書委員は突然立ち上がり、すごく驚いた表情を見せている。

そして『驚いた表情』と言えば紗季も同じだ。
紗季の目は丸くなっていた。

とても驚いた表情で私を見ている。

そんな『バカ紗季』に、私は思いを伝える。

「どうしていつも紗季は他の人の事しか考えられないかな?どうして紗季はもっと自分の事を大切にしないのさ!私と疎遠になってどうするつもりなのさ!あと数ヵ月で卒業だし、顔を会わせる時間も限られているから、この際に縁を切っちゃおうと考えているの?だとしたら本物のバカだよ!そんなことしたら『後悔する』って見え見えなのに、なんでそんなことを考えるのさ!もっと自分を大切にしてよ!」

自分の正体がバレそうになったから逃げる?
その考えは本当にバカらしいと私は思う。

ってか頭のいい人はどうして『すぐに逃げよう』と考えるのだろう。
どうして目の前の壁に立ち向かうことをやらないのだろうか?

『あれ』をしたら『こうなる』とか、やってみないとわかんないじゃん!
屁理屈ばっか並べて、誰かが幸せになった試しがないじゃんか!

ある意味それ、『バカの一種』じゃん。

怒りが収まらない私は同時に悔しかった。
また情けなく涙を流すと共に、私は紗季に説教を続ける。

「それと人を励ますことは得意なくせに、『自分を励ますのは無理』なのですか?無理なら私達を頼ってよ!私でもいいし樹々でもいいし、小緑でもいいじゃん!どうして『人に頼れ』って何て言うくせに自分が出来ないのかな?それ一番カッコ悪いよ。一何情けないよ。私に『みんなをもっと頼れ』って言っておきながら、『自分が仲間を頼らない』って変だよ。おかしいよ!」

そして、私も充分に『バカ』で『変』だ。
まだ完全に人を頼ることが出来ないのに、そんなことを偉そうに人に語るなんて。

本当にバカ以外の何者でもない。

でも不思議だった。
何故だか力が湧いてくる。

紗季には悪いけど、『今の紗季にはなりたくない』と思う自分がいる。
『口だけの人にはなりたくない』と思う自分がいる。

『頑張ろう』と心が騒ぐ自分がいるんだ。

・・・・。

なのに、その私の『頑張ろう』と言う気持ちを嘲笑うように、目の前から大きな笑い声が聞こえてくる。

「あはは!何それ!」

紗季は突然笑いだした。
腹を抱えて、大声で笑い始めた。

爆笑する紗季は何かを言っているけど、なんて言っているのか全く伝わらない。
笑い声しか聞こえない。

・・・・・・。

って、なんで?