春になって、時雨は中学生になった。
美樹はもともと地元の中学校に通っていたので
学校は別々だったけれど、
家に帰ってきてからは時間がある限り
時雨は美樹に、会いに行った。
それでも美樹は寝ている日が多かったけれど、
起きている日に
「調子はどう?」
と聞くと、美樹は必ず
「全然!ピンピンしてる!」
なんて言って笑ったから時雨は
安心していた。
、、けれど時雨は気づいてあげることが
できなかった。
美樹の笑顔に隠された、大切なことを。
桜都の中学校入学式の日は雨だった。
けれど、スプリンクラーから出てきたような細くてしとしとと降る雨は、桜都にとって快感だった。
新しいクラスに入って周りを見渡すと、知っている人に紛れて知らない人が何人もいた。
桜都のこれから通う中学校は、二つの小学校の卒業生が一緒になる。だからその半分は、
全く知らない新しい人たちだった。
名簿順で決められた席に行くと、桜都の席には先着がいた。
髪が長くてくるくるしてて、お人形みたいな子。
思わず桜都は、その子に見とれていた。すると、
「あっ、ごめんなさい。席間違えちゃった。
私、美樹。篠原美樹です。よろしくねっ、桜都ちゃん!」
えっ、と思った。どうしてこの子は自分の名前を知っているのかと。けれど桜都が聞かない間に彼女は答えた。
「さっき座席表見たの。私の前の席“篠沢”さんだったから、なんか似てるな〜って思って!」
そう言ってにこっと笑ってから、彼女は桜都の後ろの席に座った。
、、美樹との出会いはだいたいこんな感じだった。
そのあと桜都は、美樹とお喋りして意気投合した。
その後、クラスのみんなからは篠コンビと呼ばれるほど、桜都と美樹は仲良くなった。