東京、浅草の片隅。
連日、観光客で賑わいを見せる大通りから一本入った裏路地の先に、その一軒の古民家はあった。
木造で風情のある佇まい。一見すると、古民家カフェに見えなくもない。
だが、格子窓のついた扉を開けひとたび店内へと入れば、そこは色とりどり大小様々なぬいぐるみが所狭しとひしめき合う人形店。
そんな可愛らしい店内とのギャップ激しい店主である神代司は、珍しくイラついていた。
普段は、感情を表に出さない冷静なタイプだと自他ともに認めているのだが……。
今は鋭い目をさらに研ぎ澄まし、ストレスをぶつけるようにテーブルに中指を規則的に打ち付けていた。
なぜかと言えば。
「なにこのドーナツ! めちゃめちゃおいしい!」
「それは、よかったです。この間、どうしても食べたくなって外に出たのですが、【洗い物発作】が起こってしまって、その後陽葵ちゃんのストーカー事件で、ついさっきまで忘れていたのです。それを突然思い出したので、この間のお詫びもかねて買ってきました」
原因は二人の女子高校生。
「ありがとう。でもこの間のことはもう怒ってないよ。来夢」
「そう言っていただけると有り難いです。やよいさん」
である。
どちらかと言えば静けさを好む性質の司には、近距離での10代特有のワントーン高い声でなされる言葉のキャッチボールは遠慮願いたい部類のもので、さらに言うと、
「駅前の喫茶店の新作パフェもおいしいよ」
「そうなのですか。それはぜひ食べてみたいです」
目の前にいるのに無視をされるというのもあまり好きではない。
したがって、
「おい! お前らはいったいなにをしに来たんだ」
と、語気も荒くなるというもの。