クリスマスから春になり、
卒業式が半月後に迫っていた。
カレンダーを見て桂二さんが
悩み顔をしているのには理由がある。
僕と一葉ちゃんの卒業式が
かぶってしまったから
どっちの卒業式に出るか迷ってるのだ。
『桂二さん、一葉ちゃんの
卒業式に行ってあげて』
僕は両親がくるし、あの母親が
一葉ちゃんの卒業式に
行くとは到底思えない。
まぁ、一葉ちゃんだって
せっかくの卒業式に
あの母親に来てほしくないだろうしね。
『だが……』
まだ悩んでるらしい。
『一葉ちゃんの卒業式は
桂二さんしか出られないでしょ』
身内で一葉ちゃんの卒業式に
出られるのは桂二さんしかいない。
元妻の実家は知らないけど、
桂二さんの実家は岡山の方だと
前に言ってたし、
来ようと思えば来れるだろうけど
何より一葉ちゃんは祖父母より
父親の桂二さんに来てほしいはずだ。
『そうだな』
よかった~
*゜*゜*゜*゜ *゜*゜*゜*゜ *゜*゜*゜
**卒業式**
桂二さんは学校を休み
一葉ちゃんの卒業式へ。
あの母親は行ってるのだろうか?
卒業式の間、色々気になっていた。
無事にこっちの
卒業式は終わり、
教室では泣き声が
各々から聞こえてくる。
担任までも泣いていた。
*゜*゜*゜*゜ *゜*゜*゜*゜ *゜*゜*゜
校門を出て、歩きながら
桂二さんに電話をかけてみた。
《未央か》
《そっちは終わった?》
《あぁ、ちょうど
帰ろうとしていたところ》
後ろから一葉ちゃんの声がした。
《未央さん》
一葉ちゃんに代わったららしい。
《卒業おめでとう》
《ありがとうございます
未央さんも卒業おめでとうございます》
《ありがとう》
電話を切り、一旦
家に帰って着替えてから
マンションに向かった。
僕が行くと二人は
帰って来ていた。
「未央さん、お帰りなさい」
『お帰り』
二人は僕に〔お帰り〕
と言ってくれる。
『ただいま』
此所は僕が安らげる場所だ。
『未央・一葉、
卒業おめでとう』
桂二さんは一葉ちゃんと
僕に手のひらサイズの箱を渡した。
二人で首を傾げた。
「お父さん、これは?」
『卒業祝いだ』
まさか、桂二さんが
僕達の卒業祝いを用意してるとは
全然知らなかった。
『開けていい?』
『勿論だ』
一葉ちゃんと二人で同時に開けてた。
中身はお財布と細身の腕時計だった。
『桂二さん、ありがとう』
ちょうど、新しいのが
欲しいと思っていたところで
タイミングよすぎだよ(苦笑)
「お父さんありがとう」
僕達の卒業式ということで
桂二さんがお寿司をとってくれた。
卒業式だった日は
夕飯は母さん達と食べた。
あれから半年。
僕はマンションに引っ越して来た。
一葉ちゃんは四月から
高校生になり、宮戸さんとも
上手くいってよかった。
そう言えば、一葉ちゃんが
宮戸さんを連れて来た時の
桂二さんは可笑しかったなぁ(笑)
僕は知ってたから笑って
〈おめでとう〉
って言ってたけどね。
同じ教師同士だから
時間をかければ二人は
打ち解けると思うんだよね。
今度、此所で食事会をしよう‼
『一葉ちゃん』
リビングで洗濯物を畳んでいた
一葉ちゃんをキッチンに呼んだ。
「何ですか?」
手に持っていたタオルを
畳んでからこっちに来た。
『今度の休みに宮戸さんを
呼んで此所で食事会しよう。
宮戸さん、お酒飲める?』
大人なんだから、きっと
お酒を飲みながら話せば
きっと打ち解けられる気がする。
「飲めますよ。
そうですね、
夢仁さんに予定訊いときます」
春休みの僕達未成年者組は
マンションでのんびりと過ごしていた。
教師組の二人は春休みでも
何かと忙しそうだ。
*゜*゜*゜*゜ *゜*゜*゜*゜ *゜*゜*゜
**食事会当日**
教師組の都合がなんとかつき、
食事会の日がやってきた。
「お招きありがとうございます」
彼はご丁寧に土産を持って来た。
「夢仁さん、いらっしゃい。
それからありがとう」
一葉ちゃんが宮戸さんから
土産を受け取り、
中に入るよう促した。
「お邪魔します」
脱いだ靴を綺麗に整えた。
几帳面なのかも知れない。
「ええと、彼は?」
そういえば、
自己紹介してなかったっけ(苦笑)
『お会いするのは二度目ですが
きちんとご挨拶するのは
初めてですね。
一葉ちゃんの父親の“恋人”で
葛原未央と申します』
「恋人……!?」
予想通りの反応で
ちょっと可笑しかった。
『はい。“恋人”です』
二人は親子揃って
笑うのを堪えている。
隠しきれていないけどね。
『桂二さん、一葉ちゃん
こういう時は笑っていいんだよ』
僕の言葉で
宮戸さんも二人の方を見た。
『悪い未央』
別に怒っちゃいない。
というか、
貴方も当事者ですよ?(苦笑)
『改めて、一葉の父親で
彼の“恋人”の篠原桂二です』
宮戸さんはまだ少し
混乱気味みたいだ。
*゜*゜*゜*゜*゜*゜*゜*゜*゜*゜*゜
どうにか落ち着いた
宮戸さんにお茶を出した。
「なんか、すみません」
謝られてしまった。
『いえ、こちらこそ
驚かしてしまって申し訳ない』
教師組が謝りあっている。
ちょっと可笑しな光景だ。
僕の隣にいる一葉ちゃんは
一度落ち着いたのに
また笑い始めた。
『そろそろ、
夕飯の用意するけど
何かリクエストはある?』
食事会といっても
気楽に飲んだり食べたり
ようは話す機会が欲しかっただけだ。
『俺は何でもいい』
桂二さんならそう言うと思った。
「夢仁さんは?」
一葉ちゃんが恋人に訊ねた。
「人様の家でリクエストなんてできないよ」
「遠慮しなくていいのに……
未央さん、何作りますか?」
二人でキッチンに戻り、
冷蔵庫や野菜室を開けた。
『野菜炒めと冷奴と……
後、何作ろっか?』
とりあえず、野菜炒めの
材料を出しながら考える。
一葉ちゃんと相談しながら
作った夕飯は[野菜炒め]
[冷奴]、[ほうれん草の卵とじ]
[わかめと玉ねぎのお味噌汁]になった。
『お待たせ』
おかずを運び、四人分の
ご飯とお味噌汁をよそって
持って行き席に着いた。
教師組にはビールとグラスも。
僕達は炭酸飲料を。
飲み物も揃ったところで
四人で手を合わせ、食べ始めた。
夕飯が終わる頃には
宮戸さんも落ち着いたようで
僕とも普通に話してくれた。
*゜*゜*゜*゜*゜*゜*゜*゜*゜*゜*゜
「未央君は篠原さんの
何処に惹かれたの?」
食休み中、そんな質問をされた。
〔何処に〕
と訊かれると難しい……
一目惚れだったしね。
『そうですね……
一目惚れだったので
何処と決めるのは難しいですが
優しくて聞き上手なところですね』
桂二さんは本当に
聞き上手で、男子の喧嘩を
すぐに解決してしまう。
他の教師はガミガミと
叱り飛ばすだけで
話を聞こうともしないのだ。
『宮戸さんは一葉ちゃんの何処を?』
聞き返してみた。
「正直で真っ直ぐで……って
言い表せないかなぁ(苦笑)」
成る程、確かに一葉ちゃんは
いいところを沢山持っている。
あの食事会から十二年。
僕は三十歳、桂二さんは四十六歳。
宮戸さん改め夢仁さんが三十七歳
一葉ちゃんが二七歳に。
そして、今日は二人の結婚式だ。
参加者は一葉ちゃんの友人数名、
夢仁さんの同僚数名、妹の芙深ちゃん
そして僕と桂二さんだ。
当然の事ながら
あの母親は呼ばなかった。
夢仁さんにもあの話をしたら
一緒に怒ってくれて一葉ちゃんが
二十歳になった時に縁を切った。
芙深ちゃんには高校卒業後に
色々なことを話し、
今は一人暮らしをしている。
母親の話しを聞いた芙深ちゃんは
何も知らなくてごめんなさいと
一葉ちゃんに謝った。
苦手と言っていた
一葉ちゃんも芙深ちゃんに謝った。
あの頃は小学生で
姉と父親と離れて
暮らさなければならなかったのだ。
芙深ちゃんは寂しかっただろう……
『一葉ちゃん綺麗だね』
隣にいる桂二さんに言った。
ウエディングドレス姿の
一葉ちゃんは本当に
大人っぽくなり綺麗になった。
そして、一葉ちゃんが
ブーケを投げ、受け止めたのは
妹の芙深ちゃんだった。
『よかったね』
芙深ちゃんは
ブーケを抱き締めて
嬉しそうに笑った。
結婚式の帰り道、
僕は嬉しいのに
寂しくもなっていた……
それは、一葉ちゃんを
“桂二さんの娘”なのに
“自分の娘”のように
思っていたからだろうか……?
これからも二人に
幸せが続くといいなぁ♬*.+゜♬*.+゜
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『なんか、家が広いね』
一葉ちゃんの結婚式から
帰ってきて思ったのは
そんなことだった。
『そうだな』
桂二さんが頷いてくれた。
不図、実家を思い出した。
僕が家を出た後に
母さん達も同じことを
思ったのだろうか?
そうだとしたら
“親”の気持ちが少し
わかった気がする(苦笑)
三つしか違わない
男の子に思う気持ちじゃ
ないことはわかっているけど
未央さんは
〔お母さん〕みたいだと思った。
一緒に料理をしてくれて
私の話しも真剣に聞いてくれる。
夢仁さんを好きになった時も
一番に相談した。
最初、未央さんを
お父さんに紹介された時は
吃驚したけど反対しようとは
少しも思わなかった。
そして、二人のおかげで
芙深と和解できた。
結婚式で私が投げた
ブーケを受け取ったのは芙深だった♡
私はあのマンションを出たけど
二人には何時までも幸せでいてほしい(*˘˘*)
お姉ちゃんが私とお母さんを
嫌っていたと知ったのは
高校を卒業した日だった。
過去形なのは
もぉ和解したから。
お父さんと恋人の未央さんが
いなければ、私達姉妹は
和解しないままだったと思う。
私はお姉ちゃんに
嫌われていると気付かず
お姉ちゃんは私を嫌ったまま……
お父さん達が離婚した時
私は小学五年生、
お姉ちゃんは中学三年生。
あの時、お姉ちゃんは
迷わずお父さんに
ついていくと言った。
今から考えれば当たり前だよね……
態々、嫌いな人と暮らすことはない。
お母さんとは
二十歳の誕生日を最後に会っていない。
ウエディングドレス姿のお姉ちゃんは
本当に幸せそうでよかった(*´︶`*)
そして、ブーケは私の元へ♡
恋人はまだいないけど
何時かお姉ちゃんや
お父さんみたいに
ずっと一緒に居たいと
思える人に出会えたらいいなぁ♡
『んん……ぁっ……
桂二さん……そこ駄目ぇ‼』
一葉ちゃんが家を出て早三ヶ月、
二人になったためか
遠慮なくアレコレするようになった//////
『身体は正直だぞ? (* ̄ー ̄)』
誰にも聞こえないからか
最近はこんな風に
言葉責めをしてきたりもする……
『ひゃん‼
ぁっ、ぁっ……』
気持ち善すぎて
声を押さえられない……
こういう時に
歳の差を感じたりする。
『未央、もっと感じて』
耳元で囁かれ、
イイ所を突かれて
僕はイってしました//////
『桂二さん、もっと……』
足りない……
もっと、桂二さんを感じたい。
〔駄目〕なんて
本当は思っていない。
恥ずかしいだけで。
『今日は寝かせてやらないからな』
〔今日は〕じゃなくて
〔今日も〕だけどそんな思考回路は
快楽の底に沈んだ……
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目を覚ますと服を着ていた。
桂二さんが綺麗にして
着せてくれたのだろう。
隣で寝ている桂二さんの
寝顔を見ながら
幸せを噛み締め、
眠りについた。
早く目が覚めたため
朝食の準備をしていた。
何時も一葉ちゃんと
並んで調理していたから
キッチンが広く感じる。
今頃、一葉ちゃんも
朝食の準備中だろうか?(笑)
そんな想像をして
料理をしながら
一人で小さく笑った。
(完)