「・・・・・・・・・・。



・・・・・・・・・・うぅ・・・・・。

・・・・・・・ふぅー・・・・・。」



キセキの手に持っていたボウガンから鉄のワイヤーが伸び、崖に生えている木に突き刺さっている、幸いそのボウガンは手首に固定してあったので、彼女の手から離れなかったのだ。
谷底に落ちるその数秒の間に、キセキは崖に生えている木に目をつけ、ボウガンに装備されてあったワイヤーを使い、落ちてグチャグチャになってしまう結末を、どうにか回避した。
だがボウガン以外の、キセキが持って来たバッグは谷底に落ちてしまい、バックはそのまま森の中に消えてしまった、だが幸い、スマホは胸ポケットにしまっておいたのだ。
そもそもこのワイヤーは、今回の事件を起こした犯人が逃走しない為に、キセキが予め付け加えておいた機能だ、だがヒツジ男に操られていた男には、あえて使わなかった。
何故なら、キセキが先程ヒツジ男に言った通り、「止める必要も価値も無かったから」だ、キセキにはもう分かっていた、男をこのまま助けたとしても、その後の未来がどんなに悲惨になるかを。
だがキセキは、初めから男に対して無情ではなかった、自分の罪を心から反省すれば、彼女だって情けはかけるつもりだった、少なくとも大怪我はするが命は助ける選択も、キセキは考えていたのだ。
だが男のあまりにも幼稚で身勝手な行動に、助ける気が心底失せてしまったキセキ、男は今、崩れた鉄道橋の下敷きになり、恐らく遺体も「全て」は見つからないのだろう。
そして、男を操っていたヒツジ男自身も、分かっていたのかもしれない、キセキが「普通の人間」ではない事に、そしてそれを悟られない様にしていたつもりなのかもしれない。
だが一枚上手だったのはキセキの方だった、だが彼女でも、まさかヒツジ男があんな行動に出るとは思わなかった、今回キセキが助かったのは、「予想外の幸運」だった。
それに、ヒツジ男に操られていた男が、万が一正気を取り戻したとしても、ヒツジ男は2人まとめて谷底に落とす結末も考えられる、今となっては、もうその結末なんて考えたくはない。
キセキは崖を足場にしながら上に登り、どうにか地面に辿り着けた、だがワイヤーはまだ外さない、念の為だ、鉄道橋が落ちる予想外の事態に対応できたキセキもキセキだが、まだその時の恐怖や驚きが、頭に焼き付いて離れていなかったのだ。
キセキは胸ポケットの中にあったスマホで応援を呼び、その場で待機する事にした、彼女の本心は、ヒツジ男の死亡を確認したかったのだが、さすがにあの事態を後にできるわけがなかった。