俺の名前はサリク・ローディオ。
 このクロイシェル伯爵家の一人娘サリーナ・クロイシェル様に仕える側近だ。
 
「サリーナ様、おはようございます! 仕事頑張ってくださいね」
「ええ、頑張るわ。サリクもね」

 サリーナはサリクに優しい声色でそう告げて歩き去って行く。
 サリクはそんなサリーナの背を見送ってから自分の今日の仕事を確認するべく部屋へと向かう為その場を後にする。
 サリーナ様が相談屋のお店を開いてから1ヶ月が経った。お店の評判も広がりつつあり、店に訪れるお客様も増えてきているらしい。

 朝早くに起きて王都にある仕事場の店に向かう為に家を出るサリーナ様も見送る為に、俺も最近は早起きしているのだが、昨日は中々読めていなかった漫画を夜遅くまで読んでいたせいで起きるのが少しきつかったが、サリーナ様を今日も見送りたいという強い気持ちがあったお陰でこうして今日も俺はサリーナ様を見送ることができた。とサリクは部屋へと向かう道のりを歩きながら安堵する。

「よし、俺も頑張らないとな」

 サリクの気合いの入った声は朝の心地良い空気に溶け込み消えていく。

         ***
  
 その日の夜、仕事を終えて自室へと戻って来たばかりのサリクの元にサリーナがやって来る。

「サリク、いるかしら?」

 部屋のドアが2回ほどノックされてから、サリーナの声がドア越しにサリクの耳に届く。サリクは足早にドアの前へと行き、ドアをそっと開ける。

「サリーナ様、どうしたんですか?」
「いや、なんかちょっと最近サリク、貴方と話せてなかったら少しお話したくて」

 サリーナの言葉にサリクは嬉しさを隠しきれず弾んだ声で『そうなんですね!』と返事をしてからサリーナを部屋へと招き入れる。
 サリーナはサリクに促されて部屋にある椅子に腰を下ろしてから話し始める。

「お店を開いてから1ヶ月経ったけど、有難いことにお客様も増えてきたわ。だけどお客様が増える程、一人で店を動かしていくのはきついなと思うことがあって……」
「確かに、お客様が増えるほど、一人で店を動かしていくのは大変ですよね」
「ええ、そうなのよね」

 サリーナは相談屋のお店を開業してから、今に至るまで一人で店を回している。お客様が増える程、全て一人で店のことをこなすのはきつくなってくる訳で。

「人手がほしいわ。最低でも一人か二人いれば少しは楽になるのだけど……」
「サリーナ様、よかったら俺、お手伝いしましょうか?」
「え……!? いいの?」
  
 まさかサリクが手伝ってくれるなんて思ってもみなかったサリーナは思わず聞き返してしまう。

「勿論、いいですよ!」
「ありがとう、サリク。とても助かるわ。けど、貴方仕事は大丈夫なの?」
「一応、旦那様に許可を取りますから大丈夫です。俺の仕事は雑務もありますが、サリーナ様の側近も含まれますしね」

 サリクはそう言い優しく笑ってサリーナを見つめる。サリーナもそんなサリクを見て優しく笑い返した。

「ありがとう。サリク」
「はい!」

 こうして俺はサリーナ様のお店《相談屋》の仕事を手伝うことになった。