高校2年生になった私は相変わらず1人で居た。クラスでは、まるで透明な壁で隔てられているかのように、グループが出来上がっていて、私はどこにも属していなかった。昼休み、楽しそうな笑い声が飛び交う中、私は窓際の席で、イヤホンから流れる音楽だけを頼りに、一人で弁当を食べていた。誰かと話すのが苦手だったし、話したいとも思わなかった。一人でいる方が、気楽だった。部活でもそうだった。周りの人は、私を避けているようだった。仲間なんて、どこにもいなかった。学校は、私にとって孤独な場所だった。
(今日も、いつものように一人で食べるお弁当。周りの楽しそうな笑い声が、まるで遠い世界の出来事のように聞こえる。私は、この透明な壁の中で、永遠に一人なんだろうか…。机に落ちる、クラスメイトたちの楽しそうな影。壁際に咲いた、名前も知らない小さな花。その花は、まるで私のように、誰にも気づかれずに、ひっそりと咲いていた。)
家に帰っても、誰かと話すことはなかった。ただ、一人でSNSを見ていた。そこには、私に対する悪口が書かれていた。「あいつ、マジでキモい」「話しかけてくんなよ」そんな言葉が、私のタイムラインを埋め尽くしていた。それでも、私は誰かに話を聞いて欲しかった。誰かに、この気持ちを分かって欲しかった。そう思っていた。
@〇〇
「今日も飛び交う私の悪口。クラス替えまでこの地獄が続くの…?だれか、助けて…」
そう呟いた私はスマホを投げた。画面に映る無数の悪意に、心がズキズキと痛んだ。このつぶやきにどんな言葉が来るのだろうか。心配とかのいい反応だろうか。それとも、さらに心を抉るような誹謗中傷なのか。私はそんなリプライが来ても気にしなかった。家族に話しても意味ないことを理解していた私は、その言いたいことをSNSにすべて吐き出していた。それほど、私は誰かに話を聞いてほしかった。否定も肯定もしない様な人に聞いて欲しかった。誰かにこの気持ちをわかってほしかった。そう思っていた。「大丈夫?無理しないでね。いつも応援してるよ」フォロワーさんたちの温かい言葉に、何度も救われた。時には、同じように孤独を抱えるフォロワーさんと、お互いの悩みを打ち明け、励まし合うこともあった。「私も、誰にも言えない過去があって…」「でも、一人じゃないって思えるから、頑張れるんだ」そんな言葉に、私は心の支えを見出していた。
(SNSの中だけが、私の居場所。画面越しに感じる温かい言葉だけが、私を辛うじて現実世界に繋ぎ止めている。でも、本当は、誰かに直接、話を聞いてほしい。誰かに、この孤独を分かってほしい…。スマホの画面に映る、優しい言葉の数々。しかし、その言葉は、私に届くことはない。まるで、遠くの街の灯りのように、ただ、そこにあるだけ。)
私は毎朝学校には一番についていた。そのため、毎日図書室に通っていた。授業が終わると、真っ先に図書室へ向かった。高い書棚に囲まれた静かな空間は、埃っぽい本の匂いと、静かにページをめくる音だけが微かに聞こえる、私だけの聖域だった。窓から差し込む朝の光が、埃っぽい空気中の微粒子を照らし出し、幻想的な光の筋を作っていた。本の世界に浸っている時だけは、孤独を忘れることができた。図書室には、私とは真逆で太陽の様な先輩が毎日お友達といた。何を話してるかまでは聞こえないけどこの騒がしさも私の図書室が好きな理由に入っていた。でも、私は誰とも話さなかった。話しかけられるのが嫌だったし、話しかけたいとも思わなかった。
(この静かな空間だけが、私の心の安らぎ。本の世界に逃避している時だけは、過去のトラウマを忘れられる。でも、いつまで、この孤独に耐えればいいんだろう…。古びた本のページをめくる音、静かに流れるクラシック音楽。その音だけが、私を現実から遠ざけてくれる。)
そんなある日、偶然、図書室でいつもお友達に囲まれている先輩が1人でいるところに出会った。偶然その人が立つ横の本棚に返したかった本がありその人の横に立つことになった。すると、彼は、私に話しかけてくれた。優しく、温かい言葉で。
「君、いつもここで本を読んでいるね。」
「え?」
私は、驚いて顔を上げた。先輩は、窓から差し込む光を浴び、まるで後光が差しているかのように、にこやかに微笑んでいた。その笑顔は、まるで春の陽だまりのように、私の心を温かく包み込んだ。
「僕は、この学校の三年生だよ。君は?」
「私は、2年生です。」
「そっか!年下か〜。」
と明るく笑った。
「せっかくだし、自己紹介しようよ!」
私はその明るさに負けてしまった。
「僕は、太智《だいち》!よろしく!クラスは3-5。じゃあ次君!」
私はゆっくりと口を開いた。
「私は葵です。クラスは2-9です。いつもここにいます。よろしくお願いします。」
小さくお辞儀をした。
すると先輩が、
「おっけ!葵ね!覚えた!」
先輩は私の名前を覚えてくださった。
「葵って素敵な名前だね。」
「え?」
あまりにも初めて言われたのでびっくりしてしまった。
「ありがとうございます。」
そう言うと先輩は
「そんなかしこまんなくていいよ〜!」
と明るく笑った。
私はドキドキした。こんな小さなことで褒められたのは久しぶりだった。
(この人は、一体何なんだろう?私のことを、少しも知らないのに、こんなにも優しくしてくれるなんて…。先輩の笑顔、優しい声。それは、まるで私の凍り付いた心を溶かす、温かい陽だまりのようだった。)
その日の放課後。部活でも孤立している私は部活になんか戻れる状態ではないためここ最近は行ってなかった。その代わり図書室で勉強や読書をしていた。すると、まだ見慣れない太智先輩の姿が見えた。お友達と別れたのか図書室にまっすぐ入ってきた。そして私の目の前に座った。
「よっ!葵ちゃん!」
いきなり呼ばれた名前に少しびっくりした。あの短時間しか話してないのにもう名前も顔も覚えたのかと少し驚いた。
「こんにちは」
精一杯の笑顔で挨拶を返す。
「何読んでるの?」
そう聞かれたので、少しだけ本の表紙側をあげた。
「え!雑誌?しかもそれアイドルやん!」
「あっ。はい。私この雑誌に載ってるこのアイドルが好きなんです」
少し指を差す。すると顔を近づけこういった。
「わあ!かっこいいね!確かその人〇〇事務所の人だよね?あそこの事務所、演出とかすごいもんね!」
私はこんなにも趣味を肯定してくれる人を初めてみた。まだ、この人を完全に信頼はできてない。いつ人は裏切るか分からないことを知っているから。でも、先輩は私のくだらない話をその放課後の時間聞いてくれた。先輩と話していると少し心が軽くなる気がした。人と話していてこんなに心地良く感じたのは久々だった。少しだけ、私の心についた分厚い氷が溶けた気がした。
(この人は、私のことを理解しようとしてくれている。私の好きなものを、一緒に楽しんでくれる。こんな人、初めてだ…。先輩の瞳に映る、私の好きなアイドルの写真。その写真に写るアイドルは、まるで私たちを祝福しているかのように、輝いていた。)
話に夢中になっていると司書さんが
「さあ!2人とも帰って帰って!」
「は〜い。」
そう言うと先輩はカバンを持った。そして
「じゃあ、葵ちゃん、また明日ね!」
先輩はそう言って私に手を振った。私はその爽やかな笑顔が忘れられなかった。あの話している時間の温もりが忘れられなかった。それは、私にとって初めての淡い恋心だった。
(また、明日…。先輩に会える。そう思うと、胸がドキドキする。この気持ちは、一体何なんだろう…。先輩の笑顔、優しい声。それは、まるで私の心の奥底に咲いた、小さな蕾のようだった。いつか、この蕾が花開くのだろうか…。)
次の日、図書室に向かうと、太智先輩はいつものように友達と楽しそうに話していた。しかし、私に気づくと、友達に「ちょっとごめん」と声をかけ、私の席にやってきた。
「おはよう、葵ちゃん!今日も会えたね!」
その笑顔は、昨日よりも眩しく、私の胸を高鳴らせた。
(どうして、私なんかに…?)
そう思った瞬間、太智先輩が私の好きなアイドルグループの新しいグッズの話を始めた。
「この前話してた〇〇の新しいグッズ、もうチェックした?今回のグッズ、めっちゃかっこいいんだよ!」
私は驚いた。昨日、少し話しただけの私の好きなものを、覚えていてくれたんだ。
「まだ…です。」
「え!まじで?絶対見た方がいいよ!一緒に見ようよ!」
そう言って、太智先輩はスマホを取り出し、グッズの写真を見せてくれた。私は、太智先輩と話している間、まるで夢を見ているようだった。こんなにも、私の好きなものを肯定し、一緒に楽しんでくれる人がいるなんて。
(もしかしたら、この人は…)
そう思った瞬間、過去の裏切りの記憶が蘇り、心が冷たくなった。ダメだ。また、信じて裏切られたら…。でも、先輩と話していると、心が温かくなる。こんな気持ち、久しぶりだ。どうすればいいんだろう…。私は、太智先輩の優しさに惹かれながらも、心のどこかで警戒していた。太智先輩は、葵の孤独に気づいていた。クラスでいつも一人でいる葵、図書室で静かに本を読む葵、SNSで誰にも言えない想いを吐き出す葵。太智先輩は、葵の心の傷を癒し、笑顔を取り戻してほしいと思っていた。だから、積極的に話しかけ、葵の好きなものを共有し、葵の心を温かく包み込もうとしていた。太智先輩は、毎日図書室に通い、葵に話しかけた。葵の好きな本の話、好きなアイドルの話、時には、葵の悩みにも耳を傾けた。太智先輩の優しさに触れ、葵は少しずつ心を開き始めた。しかし、過去のトラウマは、そう簡単に消えるものではなかった。葵は、太智先輩に惹かれながらも、人を信じることへの恐れを捨てきれずにいた。
(この人は、一体何が目的なんだろう?私に近づいて、また、私を傷つけようとしているのだろうか?でも、先輩と話していると、心が温かくなる。こんな気持ち、もう二度とないと思っていたのに…。先輩の言葉、優しい眼差し。それは、まるで私を誘う、甘い罠のようだった。)
太智先輩との出会いは、葵にとって、凍りついた心が溶け始める、春の兆しだった。しかし、過去の傷は、そう簡単に癒えるものではない。葵は、太智先輩の優しさに触れ、心が揺れ動きながらも、人を信じることへの恐れを捨てきれずにいた。太智先輩との関係が深まるにつれ、葵の心の葛藤は激しさを増していく。
(この人は、本当に私を理解してくれるのだろうか?また、裏切られるのではないだろうか?)
葵は、太智先輩の優しさを信じたい気持ちと、過去のトラウマからくる恐れの気持ちの間で、激しく揺れ動いていた。太智先輩は、葵の心の葛藤に気づきながらも、焦らず、ゆっくりと葵の心を温めようとしていた。太智先輩は、葵の好きなものを共有し、葵の悩みを聞き、葵の心の傷を癒そうと努めた。
(いつか、葵が心を開いてくれると信じている。葵の笑顔を、もう一度見たい。)
太智先輩は、葵の心の壁を壊すために、根気強く葵に寄り添い続けた。葵は、太智先輩の優しさに触れるたび、少しずつ心を開き始めた。しかし、過去のトラウマは、そう簡単に消えるものではなかった。葵は、太智先輩に惹かれながらも、人を信じることへの恐れを捨てきれずにいた。
(私は、この人を信じてもいいのだろうか?また、傷つくのではないだろうか?)
葵の心の葛藤は、太智先輩との関係が深まるにつれ、激しさを増していった。
葵の過去のトラウマの具体例
中学時代、葵はクラスのグループの中心人物だった親友の〇〇に裏切られた経験があった。文化祭の準備で忙しい中、葵は〇〇に頼まれ、クラスの出し物の衣装を一人で製作した。しかし、完成した衣装を見た〇〇は「ダサすぎ」と酷評し、葵がいないところで「あんなの着れない」と他のクラスメイトに言いふらしていた。その結果、葵はクラスで孤立し、誰にも信じてもらえなくなった。この出来事が、葵が人を信じられなくなったきっかけだった。
太智先輩の過去の女の子との関係
太智先輩が中学時代に出会った、図書室でいつも一人で本を読んでいる少女だった。彼女は、太智先輩と同じように、孤独を抱え、誰にも心を開こうとしなかった。しかし、太智先輩は諦めずに彼女に話しかけ、少しずつ心の距離を縮めていった。二人は、互いの孤独を埋め合うように、共に過ごした。しかし、彼女は病に倒れ、短い生涯を閉じた。太智先輩は、彼女を救えなかった後悔と、彼女を失った孤独を抱えながら生きてきた。
葵と出会い、葵の過去を知り、彼女の心の痛みに触れる中で、太智先輩は自分自身の過去と向き合うことができた。葵を支えたい。彼女の笑顔を守りたい。その気持ちが、太智先輩を強くした。過去の女の子との思い出は、太智先輩にとってかけがえのないものだった。しかし、葵と出会い、葵と未来を歩みたいと強く願うようになった。
二人の関係の進展
太智先輩は、葵の心の壁を壊すために、根気強く葵に寄り添い続けた。葵は、太智先輩の優しさに触れるたび、少しずつ心を開き始めた。しかし、過去のトラウマは、そう簡単に消えるものではなかった。葵は、太智先輩に惹かれながらも、人を信じることへの恐れを捨てきれずにいた。
ある日、葵は太智先輩に、過去のトラウマを打ち明けた。太智先輩は、葵の過去を受け止め、彼女の気持ちを理解しようと努めた。そして、葵に伝えた。
「葵ちゃんの過去は、葵ちゃんの大切な一部だ。俺は、葵ちゃんの過去ごと、葵ちゃんを愛している。だから、過去のことは気にしないでほしい。俺たちは、これから二人で、新しい未来を築いていこう。」
葵は、太智先輩の言葉に、深く感動した。そして、太智先輩への愛と感謝の気持ちを改めて強くした。
情景描写
図書室の埃っぽい空気の中に漂う古本の匂い、夕焼け空の下で感じる二人の心の温かさ、二人の間に流れる時間の静けさなどを描写することで、読者は物語の世界に没入しやすくなります。
葵の心の葛藤
葵は、太智先輩の優しさに触れるたび、心が揺れ動いた。しかし、過去のトラウマが、葵の心を強く縛り付けていた。葵は、太智先輩を信じたい気持ちと、過去のトラウマからくる恐れの気持ちの間で、激しく葛藤した。
ある日、葵は太智先輩に、過去のトラウマを打ち明けた。太智先輩は、葵の過去を受け止め、彼女の気持ちを理解しようと努めた。そして、葵に伝えた。
「葵ちゃんの過去は、葵ちゃんの大切な一部だ。俺は、葵ちゃんの過去ごと、葵ちゃんを愛している。だから、過去のことは気にしないでほしい。俺たちは、これから二人で、新しい未来を築いていこう。」
葵は、太智先輩の言葉に、深く感動した。そして、太智先輩への愛と感謝の気持ちを改めて強くした。
二人は、過去のトラウマを乗り越え、愛し合い、共に未来を築いていくことを決意した。二人の絆は、過去の悲しみを乗り越え、未来へと向かう希望の光で結ばれていた。