12
それからしばらくしても夏芽の兄は音沙汰がないらしい。諦めたとは思えないが、店では先生や客の皆さんが守ってくれるからと本人も表面上は平気な顔をしていた。
「家に帰れば隣にかがみんがいるしね」
「俺の仕事は不規則なんだが?」
あまり当てにしていない口ぶりで言われたので、その通り、期待するなと返しておいた。
大家めいたおせっかいを大矢さんが焼いたとしても、夏芽が慕っているのは先生なんだ。俺の出番はない。
俺の方だって先日ゴタついたばかりで、女と関わるのはこりごりのタイミング。来る者は拒まずでやっていくのは失礼で危険で最低の所業なのだとわかった。流されていてはいけないのだった。
ならば俺の方から誰かに気持ちを向けることなんてこの先あるのかというと、一生ないのかもと考えたりする。心を乗せたセリフをしゃべりたいと願っているわりに、やはり俺の心はあやふやに雲散霧消するのみだった。
だが仕事では、とにかく借り物のセリフをしゃべればなんとかなる。二週ぶりに呼ばれた異世界アニメは、〈青い線〉だった村長が実は小ボスだったことが判明して苦笑しか出なかった。今回は絵があった。そして俺はあっさり主人公にやられた。
劇団ジョーカーは公演に向け着々と準備を進めていた。最終確認に舞台監督と美術さんが揃って顔を出し、仕込みの打ち合わせをしてくれる。ハコ入りの日は搬入、建て込み、灯体の吊り込み。それから場当たりとゲネプロで時間との戦いだ。
「鮎原さん、裏の仕切りもしないんですね」
不安げに言ってきたのは内田くんだった。
当日の裏方というのはわりと忙しい。楽屋、受付の管理もあれば、予期せぬ不足品の調達やスタッフへのお弁当の配食などで劇場周辺を走ることにもなる。その辺りの場数を踏んでいる先輩が指示を出してくれれば、と裏方専任の内田くんは頼りたかったようだ。
「体調悪いんだよ」
「降りた舞台なんて、観たくないんでしょうか」
しょぼんとされて申し訳なくなった。美紗を決定的に追い込んだのは俺だ。
「気にはしてるだろ。でも本当に、ちょっといろいろ無理が重なってたんだ」
何も消息を知らない元カノのことをどの口で語るんだろう。淀みなく話す上っ面な自分に呆れた。
だけど仕方ない、こうなったら舞台を大過なくやりとげて劇団ジョーカーからとんずらするのみだ。
だが公演本番の前に俺にはひとつイベントがあった。松葉家さの助のお座敷落語会だ。
〈おまえくるの〉
そうメッセージが飛んできたのは当日の朝だった。また必要事項のみの平仮名。
今日は十時からの仕事が入ったものの昼過ぎで終わるので聴きに行ける。少しの覚悟がいるが俺は返信した。
〈行きます〉
〈へえ〉
「いや、へえって何」
それきり止まるメッセージに苛立った。くそ。
聴いて品評するのはこちらのはずなのに、どうして俺が試されるような気分になるのだろう。高座から見下ろされるせいか。
見上げる姿勢は人の話を受け入れやすくなるのだとか。だから噺は高い所からやると聞いたことがある。素直な気持ちで笑え、という仕掛けだ。本当かどうかは知らない。
だがそんな位置関係のせいじゃなく、たんに俺はあの人に引け目があるんだと思う。芸に向き合う橘さんの姿勢を尊敬しているにもかかわらず、同じことができないばかりか浮わついたセリフばかりをしゃべっているから。
ついでに夏芽にメッセージを送った。行けそうなら当日夏芽に確認をと言われていたからだ。
〈今日の落語会
行けるんだけど俺の席あるかな〉
するとしばらくして、隣のドアが開く音がした。そうくるんじゃないかと構えていた俺がピンポンされる前に開けると、我が意を得たりという笑顔の夏芽がいた。
「かがみんの席なら作るんじゃない? その前にね、窯開けるから見においでよ」
「ああそうか」
今日は喫茶の定休日だった。本焼きした皿が冷めたので窯から出す日。それが言いたくて来てくれたのか。
「俺ひとつ仕事があるから。それ終わったらアトリエに寄る」
「なんだ忙しいじゃん。かがみんのくせに生意気」
「忙しくしてないと食えないんだよ」
二時ぐらいに顔出すから、と帰らせた。
忙しい、か。確かに少し仕事は増えた。まだまだ近所のイベントに参加する余裕がある程度だが。
夏芽は俺の名前を検索しただろうか。どうせロクな経歴が出てこなかったはずだ。エゴサで傷つきたくないので俺自身はしない。本当に大したことはやっていないから。
今日の仕事だって海外商品通販番組のボイスオーバーだった。品物はエクササイズ用品。
『うん、脂肪が燃えてるって感じるよ!』
そんな言葉のどこに真実があるっていうんだ。俺には燃えるような脂肪もあまりないが、画面の中の男のようなパンパンの筋肉だってなかった。
アトリエの扉は閉まっていた。外気を入れるにはそろそろ寒い。山の紅葉のニュースを見かけるし、街を歩いてもふと銀杏が香るような季節だった。
「夏芽」
コン、と叩いてからのぞく。ふわりと微笑みながら作業する夏芽は幸せそうだ。慈しむような視線が、手にした器の上からそのまま俺に流れてきた。
「あれ、もうそんな時間」
「ん」
近づいて窯をのぞいてみた。中はそんなに大きくない。すでに出された作品も思ったより数はなかった。
「釉がくっついちゃうから、ゆとりがいるの」
一度の素焼きをまとめて本焼きすることはできないのだそうだ。つくづく手間の掛かる作業なのだなと自分の無知を恥じる。皿なんて百均でも売っている物だし、こだわりもなかった。
「まだ少しあったかいな」
「開けたばかりはそうね。かがみん来るまで終わらないように昼すぎてから来たし」
「え、ごめん」
「出したては釉が鳴るんだよ。聞かせたくて」
「鳴る?」
すると言った通り、チリ、という音が器からした。チチ、パチ、と時々いう。
「冷えて縮んで、ひびが入るの。鈴が鳴るみたいでしょ」
かわいくない? と夏芽は愛おしげに皿をためつすがめつした。自分の生み出した物への誇りなのだろうと思った。
コトリ。コトリ。
窯から出された器たちが机に静かに置かれていく。今回焼かれた陶器は店で手にしたカップの青ではなく、優しくくすんだ薄黄色だ。
並べられる夏芽の皿と湯呑みは穏やかでまろやかだった。その隣で俺の皿はいびつに焼き上がり、なんだかみすぼらしく思えた。
「ううん、こういうのはね、味っていうの」
夏芽はそんな小皿たちでさえ、かわいい子のようにそっと扱う。
「これにはナッツを入れて。ちょっと大きいこっちには冷や奴。いい感じじゃない?」
大きさも一定じゃない皿。あの時つまみ用だと適当に言ったのをそのまま信じ、盛る食べ物を想像する夏芽は楽しげだった。
「……いいかもな」
「でしょ。使ってみればいいんだよ」
小さく切って置いてあった新聞紙で皿をくるみ、ヒョイヒョイと渡してくれる。俺はそのままカバンに突っ込んだ。
「ありがとう」
「どういたしまして。そのぶん働いてもらうからね」
「は?」
「さあ、中り屋にレッツゴーだよ!」
にっこりと俺の腕を引く夏芽。つまり落語会の準備を手伝えということなのだろうが、ストーリーの持っていき方にもセリフにも昭和感があふれ出ていた。
陳腐、あるいはレトロ。プロデューサーはいったい誰なんだ。
「そりゃァあたしだよ」
「ですよね……」
蕎麦屋に連行された俺は、大矢さんの満面の笑みに迎えられた。
「かがみんの席はあるか、て夏芽ちゃんに言われてね。んなモンもちろんあるけど、ご招待は遠慮するだろ」
「そんなの駄目ですよ」
「だから会場設営を手伝ってもらおうと思ったのさ」
落語を聴くのは蕎麦屋二階のお座敷だった。そこに高座をしつらえ、お客さま用の卓と座布団を並べる。でもまだ一階は営業中で従業員は忙しい。
「……わかりました、働きます」
先生にしろ大矢さんにしろ、若者の面倒をみるのが好きすぎると思う。今どきこんなご近所づきあいが残っていることに驚くが、ずっとこの町に住んでいたのにそれに気づいたのは夏芽を拾ってからだった。人との出会いは奇妙な縁だ。
大きな座卓を座敷の奥に据え、毛氈を掛ける。その上にフカフカの座布団を置けば高座っぽいもののできあがりだ。
「これ、着物で上れるかねえ」
「ちょっと高いかもしれません」
座卓に足を掛けてみて言ったら夏芽が眉を寄せた。
「テーブルに上がるんだ?」
「今のこれは高座だし。なんだよ、お上品だな」
そんなところで育ちの良さを垣間見せないでほしい。大矢さんが持ってきた踏み台を後ろに設置して、俺はずかずかとそこに上がり座布団に座ってみた。
「客席から見てどうですか。低くないですか」
「うんうん、いいんじゃないかな」
「――あれ各務、おまえ前座やってくれるの」
ひょっこり顔を出したのは橘さんだった。不意をつかれて俺は何も返せなかった。挨拶もなしにいきなりそれは。大矢さんがいそいそと立ち上がってお辞儀した。
「さの助さん、お早く来ていただいてありがとうございます」
「こちらこそお声掛けありがたいことでございます。精一杯つとめさせていただきます」
二人が頭を下げ合う隙にサッと高座から下りた。座布団をひっくり返すと橘さんがケタケタ笑う。
「やっぱり前座じゃないか」
「……そりゃまあ、自分が使ったままのに座らせるわけには」
寄席では演者が高座を下りるたびに前座が出ていって座布団を返し、高座名の書かれた〈めくり〉をめくる。客席に風も埃も立てずに静かに座布団を返すのを落研の一年生だった時にやらされたものだ。そういうのは体に染みついて抜けない。
「本当になんかやらない? 『子ほめ』とか『初天神』とかならいけんだろ」
「いけませんて。何年さらってないと思ってるんですか」
「……さらえよ」
橘さんはブスッとしてジーンズのポケットに指を引っ掛けた。こうしていると噺家ではなく、学生時代の先輩のままだと錯覚する。
よくキャンパスでつかまって議論を吹っ掛けられていた時にこんなポーズだった。何故か俺にだけ妙にからむ人だった。それは今も変わらずに、無茶なことばかり言う。
「おまえ器用だし。俺の前座やって一緒にお座敷つとめて回ろうぜ」
「なんですその営業形態。俺、前座見習いすらやったことないんですよ。旦那方はプロの噺家だからお座敷に呼ぶんでしょうに、そんなの詐欺じゃないですか」
「しゃべるプロなのは変わらないけどなあ」
まったく本気じゃなさそうに橘さんは肩をすくめた。荷物の中から出囃子のCDを取り出し大矢さんに渡す。
「こちらのね、都鳥前弾きでお願いします」
「はいはい。手ぇついたあたりで消せばいいんでしょうか」
「あ、俺やりましょうか」
どうやら出囃子はCDデッキで鳴らすらしい。座布団に上がって挨拶し、拍手が起こったところでフェードアウトさせるのだ。こんな機械を見るのも落研以来で懐かしく、操作を確かめていると夏芽が興味津々でやってきた。
「これ初めて見た。ラジカセってやつ?」
「カセットテープはついてないみたいだけど」
「なに、各務の彼女?」
俺たちが気安くしゃべっていると思ったかそんなことを訊かれた。劇団員と付き合っていると教えたことはあるような気がする。夏芽はしれっと嘘をついた。
「えへへ、かがみんがお世話になってまーす」
「かがみん!」
橘さんが爆笑する。俺は思い切りしかめ面をしてみせた。
「これは近所ののら犬です。ちなみに劇団の女とはもう別れてますから」
「えーと……何からツッコめばいい?」
「誰がのら犬やねん!」
何もツッコまなくていいのに、犬本人が関西ノリできた。そのうえワクワク顔で迫ってくる。
「彼女いたの? なんで別れたの? 私が部屋に泊まったのとかまずかった?」
「んなわけない。汚れた犬を保護して何がまずいんだよ」
「各務、お泊りしたなら責任取ろうや」
「何もしてません!」
本当に夏芽はそういう相手ではない。ただそこにいるだけの、だが空気にしては少々うるさくかまってくる奴。たまに頭をなでてやる近所の犬という言い方がいちばん似合う存在だった。
蕎麦屋の二階が客で埋まった。
大矢さんが挨拶して引っ込むと俺は出囃子を鳴らす。ドドドンドンというイントロに乗って飄々と松葉家さの助こと橘さんが出てきて喝采が起こった。
「えー、こんなめでたい会にお呼びいただきまして、まことにありがとうございます。何がめでたいかと申しますともう、この店の名前が縁起がよろしいんでございまして」
橘さんはつらつらと店名をほめ、大矢さんをほめ、この商店街の活気をほめていく。呼んでいただいたのだから気分よくなってもらわなくてはいけない。そのへんは芸人なのだから幇間と同じなのだった。
そんなところから入った噺は『時そば』だった。これには「あたりや」という蕎麦の屋台が出てくるし、そりゃ演るだろう。
今日は場をあたためる軽いのをひとつ、それから大ネタをひとつやってくれる。まずはおなじみの蕎麦屋の噺からなのだった。
音響係の俺は一番前の端っこに陣取っていた。向かいに夏芽がいて何かとケラケラ笑い声を上げている。いい客だ。こういうのがいると客席全体が引っ張られてよく反応してくれる。
俺の隣は先生だった。真ん中をすすめたのだが、連れてきた奥さんのためにと遠慮された。楽しんでいても大声で笑ったりはできないから、と。数年前に患った肺の病気のせいで大人しく過ごしているといい、先生はかいがいしく気をつかっていた。
「――今なんどきだい? 変な所で時ィ聞きやがったね。あんな勘定してるさなかに時なんか聞いたら勘定間違えちゃうじゃねえかよ」
これは蕎麦の代金を詐欺る話だがいいのだろうか。まあ今日の蕎麦をおごってもらう俺が気にすることではないかもしれない。若者にタダで蕎麦をふるまっても、好きな落語を楽しむ大矢さんは上機嫌。
だが少し気になることがあった。橘さんが羽織を脱がないのだ。普通は少し話してあたたまったらさりげなく脱ぐものだがどうしたんだろう。人が集まった会場は暑いぐらいなのに。
『時そば』をサゲて拍手をもらいながら、橘さんは用意されている湯呑みを手にした。蓋をずらして少し喉を湿す。二つの噺、合わせて五十分ほどを一人でしゃべりきるのだ。しかもここから大ネタだった。湯呑みを戻す。
「――そろそろ北風がしみる頃合いになって参りまして、独り者のあたしには身も心も寒い時期になりましたが」
何を始めるのか。俺は静かに待っていた。
「もう少しするとクリスマスなんてェあたしを叩きのめすイベントがやってくるてんで、その日なんかは是非とも寄席に出ていたいと思ったんですね」
この人のすごい芸が観たいんだ。
本人には言わないが、大学時代から憧れて憧れて、届かなかったこの人の噺。
「ところが、どこの寄席ももぐり込む隙がない。先輩方にはじき出されちまいまして、こんな寂しい者しかいない業界にいてもいいんだろうかと、つくづく未来を悲観したわけなんでございますが」
橘さんを追いたくても、俺がしゃべれたのは使い捨てのセリフだけ。その場かぎりの浮き草の業界にいて芸の世界をうらやむばかり。
だからお願いだ、また俺を打ちのめしてくれ。俺がもっと高みに食らいつきたくなるように。
「クリスマスなんてのは異国から来たお宗旨のものでございますが、日本にも昔っからにぎやかなお宗旨があったもので――」
にぎやかな宗旨。
俺は、あ、となった。羽織を脱がないわけがわかった。噺の中で寒さに震える芝居がある『鰍沢』をかけるのか。
「――身延山の方にお詣りをいたしまして、その帰り。ひどい吹雪にあいました」
雪にまかれ、猟師の家に一夜の宿を求めた商人が金目当てに殺されかける物語『鰍沢』。
毒入りの卵酒を口にするが、体が痺れたところにお詣りで手に入れていた毒消しの護符を飲み助かる。だがその後に、家の亭主が誤って毒を飲んでしまうのだ。くるわ抜けしてまで一緒になった愛しい男の災難を逆恨みした女が、亭主の火縄銃を持って吹雪の中追いすがり――というわりと壮絶な噺だ。
そこに滑稽はない。人を殺してでも金を奪い男と幸せに生きていきたい女の情念を語り上げていく。瀕死の男を前に泣きむせぶ女の芝居では拍手が起こった。そして吹きすさぶ雪。
「こけつ転びつ来てみれば切り立った断崖。その下はと見れば東海道は岩淵へと続く鰍沢。この数日降りつづいて増した水がドオオォ、と流れていきます。これは、と後ろを振り向けば、たもとに庇う火縄をチラチラさせながら迫るお熊の姿」
畳み掛ける橘さんの言葉に客は酔う。固唾を呑み、行く末を見守る。
つむぐ物語に心奪われるのは、聞かせる古今東西の語り部や吟遊詩人たちの鮮やかな芸によるもの。その一つが、ここにあった。
「――ここの蕎麦うまいね」
蕎麦御膳をあらかたいただいた頃合いになって俺のところに来た橘さんは素知らぬ顔だった。
「お材木で助かった」とサゲて喝采を浴びた人は、汗を拭き羽織を脱いで客と一緒に蕎麦をたぐってはチビリと酒もいただいていた。手にぐい飲みを持っている。顔が少し赤い。
「うまいですね。俺も初めてなんです」
「なんだよ、お馴染みみたいな顔してたくせに」
「大矢さんは知り合いですけど、近所で外食なんてしませんよ。貧乏役者なんだから」
違いない、と笑われた。
実のところ俺は上機嫌だった。思った通り、橘さんがすごかったから。こんなものを聴いて観たんだから、もう満足だった。
「――どうだったよ」
俺を睨めつけて橘さんはボソリと言った。
俺のことを少しは意識してくれているんだなと嬉しくなった。勝負する目で俺を見ていた。俺に聴かせるためにあれを掛けてくれたと自惚れてもいいだろうか。だとしたら小躍りしたい。俺は手にしたぐい飲みの中で酒をぐるぐる回しながら答えた。
「書き割りが見えましたよ。水墨画みたいな、雪の降りしきる山が」
語られた世界に俺は連れて行かれたんだ。
橘さんの口の端がほんの少しだけ上がり、ぐい飲みを差し出された。俺のを軽くぶつける。
な。これが芸ってもんだ。
たった独り、音も明かりもなしに芝居をやられてしまったら俺たち俳優はどうすればいいんだろう。
それからしばらくしても夏芽の兄は音沙汰がないらしい。諦めたとは思えないが、店では先生や客の皆さんが守ってくれるからと本人も表面上は平気な顔をしていた。
「家に帰れば隣にかがみんがいるしね」
「俺の仕事は不規則なんだが?」
あまり当てにしていない口ぶりで言われたので、その通り、期待するなと返しておいた。
大家めいたおせっかいを大矢さんが焼いたとしても、夏芽が慕っているのは先生なんだ。俺の出番はない。
俺の方だって先日ゴタついたばかりで、女と関わるのはこりごりのタイミング。来る者は拒まずでやっていくのは失礼で危険で最低の所業なのだとわかった。流されていてはいけないのだった。
ならば俺の方から誰かに気持ちを向けることなんてこの先あるのかというと、一生ないのかもと考えたりする。心を乗せたセリフをしゃべりたいと願っているわりに、やはり俺の心はあやふやに雲散霧消するのみだった。
だが仕事では、とにかく借り物のセリフをしゃべればなんとかなる。二週ぶりに呼ばれた異世界アニメは、〈青い線〉だった村長が実は小ボスだったことが判明して苦笑しか出なかった。今回は絵があった。そして俺はあっさり主人公にやられた。
劇団ジョーカーは公演に向け着々と準備を進めていた。最終確認に舞台監督と美術さんが揃って顔を出し、仕込みの打ち合わせをしてくれる。ハコ入りの日は搬入、建て込み、灯体の吊り込み。それから場当たりとゲネプロで時間との戦いだ。
「鮎原さん、裏の仕切りもしないんですね」
不安げに言ってきたのは内田くんだった。
当日の裏方というのはわりと忙しい。楽屋、受付の管理もあれば、予期せぬ不足品の調達やスタッフへのお弁当の配食などで劇場周辺を走ることにもなる。その辺りの場数を踏んでいる先輩が指示を出してくれれば、と裏方専任の内田くんは頼りたかったようだ。
「体調悪いんだよ」
「降りた舞台なんて、観たくないんでしょうか」
しょぼんとされて申し訳なくなった。美紗を決定的に追い込んだのは俺だ。
「気にはしてるだろ。でも本当に、ちょっといろいろ無理が重なってたんだ」
何も消息を知らない元カノのことをどの口で語るんだろう。淀みなく話す上っ面な自分に呆れた。
だけど仕方ない、こうなったら舞台を大過なくやりとげて劇団ジョーカーからとんずらするのみだ。
だが公演本番の前に俺にはひとつイベントがあった。松葉家さの助のお座敷落語会だ。
〈おまえくるの〉
そうメッセージが飛んできたのは当日の朝だった。また必要事項のみの平仮名。
今日は十時からの仕事が入ったものの昼過ぎで終わるので聴きに行ける。少しの覚悟がいるが俺は返信した。
〈行きます〉
〈へえ〉
「いや、へえって何」
それきり止まるメッセージに苛立った。くそ。
聴いて品評するのはこちらのはずなのに、どうして俺が試されるような気分になるのだろう。高座から見下ろされるせいか。
見上げる姿勢は人の話を受け入れやすくなるのだとか。だから噺は高い所からやると聞いたことがある。素直な気持ちで笑え、という仕掛けだ。本当かどうかは知らない。
だがそんな位置関係のせいじゃなく、たんに俺はあの人に引け目があるんだと思う。芸に向き合う橘さんの姿勢を尊敬しているにもかかわらず、同じことができないばかりか浮わついたセリフばかりをしゃべっているから。
ついでに夏芽にメッセージを送った。行けそうなら当日夏芽に確認をと言われていたからだ。
〈今日の落語会
行けるんだけど俺の席あるかな〉
するとしばらくして、隣のドアが開く音がした。そうくるんじゃないかと構えていた俺がピンポンされる前に開けると、我が意を得たりという笑顔の夏芽がいた。
「かがみんの席なら作るんじゃない? その前にね、窯開けるから見においでよ」
「ああそうか」
今日は喫茶の定休日だった。本焼きした皿が冷めたので窯から出す日。それが言いたくて来てくれたのか。
「俺ひとつ仕事があるから。それ終わったらアトリエに寄る」
「なんだ忙しいじゃん。かがみんのくせに生意気」
「忙しくしてないと食えないんだよ」
二時ぐらいに顔出すから、と帰らせた。
忙しい、か。確かに少し仕事は増えた。まだまだ近所のイベントに参加する余裕がある程度だが。
夏芽は俺の名前を検索しただろうか。どうせロクな経歴が出てこなかったはずだ。エゴサで傷つきたくないので俺自身はしない。本当に大したことはやっていないから。
今日の仕事だって海外商品通販番組のボイスオーバーだった。品物はエクササイズ用品。
『うん、脂肪が燃えてるって感じるよ!』
そんな言葉のどこに真実があるっていうんだ。俺には燃えるような脂肪もあまりないが、画面の中の男のようなパンパンの筋肉だってなかった。
アトリエの扉は閉まっていた。外気を入れるにはそろそろ寒い。山の紅葉のニュースを見かけるし、街を歩いてもふと銀杏が香るような季節だった。
「夏芽」
コン、と叩いてからのぞく。ふわりと微笑みながら作業する夏芽は幸せそうだ。慈しむような視線が、手にした器の上からそのまま俺に流れてきた。
「あれ、もうそんな時間」
「ん」
近づいて窯をのぞいてみた。中はそんなに大きくない。すでに出された作品も思ったより数はなかった。
「釉がくっついちゃうから、ゆとりがいるの」
一度の素焼きをまとめて本焼きすることはできないのだそうだ。つくづく手間の掛かる作業なのだなと自分の無知を恥じる。皿なんて百均でも売っている物だし、こだわりもなかった。
「まだ少しあったかいな」
「開けたばかりはそうね。かがみん来るまで終わらないように昼すぎてから来たし」
「え、ごめん」
「出したては釉が鳴るんだよ。聞かせたくて」
「鳴る?」
すると言った通り、チリ、という音が器からした。チチ、パチ、と時々いう。
「冷えて縮んで、ひびが入るの。鈴が鳴るみたいでしょ」
かわいくない? と夏芽は愛おしげに皿をためつすがめつした。自分の生み出した物への誇りなのだろうと思った。
コトリ。コトリ。
窯から出された器たちが机に静かに置かれていく。今回焼かれた陶器は店で手にしたカップの青ではなく、優しくくすんだ薄黄色だ。
並べられる夏芽の皿と湯呑みは穏やかでまろやかだった。その隣で俺の皿はいびつに焼き上がり、なんだかみすぼらしく思えた。
「ううん、こういうのはね、味っていうの」
夏芽はそんな小皿たちでさえ、かわいい子のようにそっと扱う。
「これにはナッツを入れて。ちょっと大きいこっちには冷や奴。いい感じじゃない?」
大きさも一定じゃない皿。あの時つまみ用だと適当に言ったのをそのまま信じ、盛る食べ物を想像する夏芽は楽しげだった。
「……いいかもな」
「でしょ。使ってみればいいんだよ」
小さく切って置いてあった新聞紙で皿をくるみ、ヒョイヒョイと渡してくれる。俺はそのままカバンに突っ込んだ。
「ありがとう」
「どういたしまして。そのぶん働いてもらうからね」
「は?」
「さあ、中り屋にレッツゴーだよ!」
にっこりと俺の腕を引く夏芽。つまり落語会の準備を手伝えということなのだろうが、ストーリーの持っていき方にもセリフにも昭和感があふれ出ていた。
陳腐、あるいはレトロ。プロデューサーはいったい誰なんだ。
「そりゃァあたしだよ」
「ですよね……」
蕎麦屋に連行された俺は、大矢さんの満面の笑みに迎えられた。
「かがみんの席はあるか、て夏芽ちゃんに言われてね。んなモンもちろんあるけど、ご招待は遠慮するだろ」
「そんなの駄目ですよ」
「だから会場設営を手伝ってもらおうと思ったのさ」
落語を聴くのは蕎麦屋二階のお座敷だった。そこに高座をしつらえ、お客さま用の卓と座布団を並べる。でもまだ一階は営業中で従業員は忙しい。
「……わかりました、働きます」
先生にしろ大矢さんにしろ、若者の面倒をみるのが好きすぎると思う。今どきこんなご近所づきあいが残っていることに驚くが、ずっとこの町に住んでいたのにそれに気づいたのは夏芽を拾ってからだった。人との出会いは奇妙な縁だ。
大きな座卓を座敷の奥に据え、毛氈を掛ける。その上にフカフカの座布団を置けば高座っぽいもののできあがりだ。
「これ、着物で上れるかねえ」
「ちょっと高いかもしれません」
座卓に足を掛けてみて言ったら夏芽が眉を寄せた。
「テーブルに上がるんだ?」
「今のこれは高座だし。なんだよ、お上品だな」
そんなところで育ちの良さを垣間見せないでほしい。大矢さんが持ってきた踏み台を後ろに設置して、俺はずかずかとそこに上がり座布団に座ってみた。
「客席から見てどうですか。低くないですか」
「うんうん、いいんじゃないかな」
「――あれ各務、おまえ前座やってくれるの」
ひょっこり顔を出したのは橘さんだった。不意をつかれて俺は何も返せなかった。挨拶もなしにいきなりそれは。大矢さんがいそいそと立ち上がってお辞儀した。
「さの助さん、お早く来ていただいてありがとうございます」
「こちらこそお声掛けありがたいことでございます。精一杯つとめさせていただきます」
二人が頭を下げ合う隙にサッと高座から下りた。座布団をひっくり返すと橘さんがケタケタ笑う。
「やっぱり前座じゃないか」
「……そりゃまあ、自分が使ったままのに座らせるわけには」
寄席では演者が高座を下りるたびに前座が出ていって座布団を返し、高座名の書かれた〈めくり〉をめくる。客席に風も埃も立てずに静かに座布団を返すのを落研の一年生だった時にやらされたものだ。そういうのは体に染みついて抜けない。
「本当になんかやらない? 『子ほめ』とか『初天神』とかならいけんだろ」
「いけませんて。何年さらってないと思ってるんですか」
「……さらえよ」
橘さんはブスッとしてジーンズのポケットに指を引っ掛けた。こうしていると噺家ではなく、学生時代の先輩のままだと錯覚する。
よくキャンパスでつかまって議論を吹っ掛けられていた時にこんなポーズだった。何故か俺にだけ妙にからむ人だった。それは今も変わらずに、無茶なことばかり言う。
「おまえ器用だし。俺の前座やって一緒にお座敷つとめて回ろうぜ」
「なんですその営業形態。俺、前座見習いすらやったことないんですよ。旦那方はプロの噺家だからお座敷に呼ぶんでしょうに、そんなの詐欺じゃないですか」
「しゃべるプロなのは変わらないけどなあ」
まったく本気じゃなさそうに橘さんは肩をすくめた。荷物の中から出囃子のCDを取り出し大矢さんに渡す。
「こちらのね、都鳥前弾きでお願いします」
「はいはい。手ぇついたあたりで消せばいいんでしょうか」
「あ、俺やりましょうか」
どうやら出囃子はCDデッキで鳴らすらしい。座布団に上がって挨拶し、拍手が起こったところでフェードアウトさせるのだ。こんな機械を見るのも落研以来で懐かしく、操作を確かめていると夏芽が興味津々でやってきた。
「これ初めて見た。ラジカセってやつ?」
「カセットテープはついてないみたいだけど」
「なに、各務の彼女?」
俺たちが気安くしゃべっていると思ったかそんなことを訊かれた。劇団員と付き合っていると教えたことはあるような気がする。夏芽はしれっと嘘をついた。
「えへへ、かがみんがお世話になってまーす」
「かがみん!」
橘さんが爆笑する。俺は思い切りしかめ面をしてみせた。
「これは近所ののら犬です。ちなみに劇団の女とはもう別れてますから」
「えーと……何からツッコめばいい?」
「誰がのら犬やねん!」
何もツッコまなくていいのに、犬本人が関西ノリできた。そのうえワクワク顔で迫ってくる。
「彼女いたの? なんで別れたの? 私が部屋に泊まったのとかまずかった?」
「んなわけない。汚れた犬を保護して何がまずいんだよ」
「各務、お泊りしたなら責任取ろうや」
「何もしてません!」
本当に夏芽はそういう相手ではない。ただそこにいるだけの、だが空気にしては少々うるさくかまってくる奴。たまに頭をなでてやる近所の犬という言い方がいちばん似合う存在だった。
蕎麦屋の二階が客で埋まった。
大矢さんが挨拶して引っ込むと俺は出囃子を鳴らす。ドドドンドンというイントロに乗って飄々と松葉家さの助こと橘さんが出てきて喝采が起こった。
「えー、こんなめでたい会にお呼びいただきまして、まことにありがとうございます。何がめでたいかと申しますともう、この店の名前が縁起がよろしいんでございまして」
橘さんはつらつらと店名をほめ、大矢さんをほめ、この商店街の活気をほめていく。呼んでいただいたのだから気分よくなってもらわなくてはいけない。そのへんは芸人なのだから幇間と同じなのだった。
そんなところから入った噺は『時そば』だった。これには「あたりや」という蕎麦の屋台が出てくるし、そりゃ演るだろう。
今日は場をあたためる軽いのをひとつ、それから大ネタをひとつやってくれる。まずはおなじみの蕎麦屋の噺からなのだった。
音響係の俺は一番前の端っこに陣取っていた。向かいに夏芽がいて何かとケラケラ笑い声を上げている。いい客だ。こういうのがいると客席全体が引っ張られてよく反応してくれる。
俺の隣は先生だった。真ん中をすすめたのだが、連れてきた奥さんのためにと遠慮された。楽しんでいても大声で笑ったりはできないから、と。数年前に患った肺の病気のせいで大人しく過ごしているといい、先生はかいがいしく気をつかっていた。
「――今なんどきだい? 変な所で時ィ聞きやがったね。あんな勘定してるさなかに時なんか聞いたら勘定間違えちゃうじゃねえかよ」
これは蕎麦の代金を詐欺る話だがいいのだろうか。まあ今日の蕎麦をおごってもらう俺が気にすることではないかもしれない。若者にタダで蕎麦をふるまっても、好きな落語を楽しむ大矢さんは上機嫌。
だが少し気になることがあった。橘さんが羽織を脱がないのだ。普通は少し話してあたたまったらさりげなく脱ぐものだがどうしたんだろう。人が集まった会場は暑いぐらいなのに。
『時そば』をサゲて拍手をもらいながら、橘さんは用意されている湯呑みを手にした。蓋をずらして少し喉を湿す。二つの噺、合わせて五十分ほどを一人でしゃべりきるのだ。しかもここから大ネタだった。湯呑みを戻す。
「――そろそろ北風がしみる頃合いになって参りまして、独り者のあたしには身も心も寒い時期になりましたが」
何を始めるのか。俺は静かに待っていた。
「もう少しするとクリスマスなんてェあたしを叩きのめすイベントがやってくるてんで、その日なんかは是非とも寄席に出ていたいと思ったんですね」
この人のすごい芸が観たいんだ。
本人には言わないが、大学時代から憧れて憧れて、届かなかったこの人の噺。
「ところが、どこの寄席ももぐり込む隙がない。先輩方にはじき出されちまいまして、こんな寂しい者しかいない業界にいてもいいんだろうかと、つくづく未来を悲観したわけなんでございますが」
橘さんを追いたくても、俺がしゃべれたのは使い捨てのセリフだけ。その場かぎりの浮き草の業界にいて芸の世界をうらやむばかり。
だからお願いだ、また俺を打ちのめしてくれ。俺がもっと高みに食らいつきたくなるように。
「クリスマスなんてのは異国から来たお宗旨のものでございますが、日本にも昔っからにぎやかなお宗旨があったもので――」
にぎやかな宗旨。
俺は、あ、となった。羽織を脱がないわけがわかった。噺の中で寒さに震える芝居がある『鰍沢』をかけるのか。
「――身延山の方にお詣りをいたしまして、その帰り。ひどい吹雪にあいました」
雪にまかれ、猟師の家に一夜の宿を求めた商人が金目当てに殺されかける物語『鰍沢』。
毒入りの卵酒を口にするが、体が痺れたところにお詣りで手に入れていた毒消しの護符を飲み助かる。だがその後に、家の亭主が誤って毒を飲んでしまうのだ。くるわ抜けしてまで一緒になった愛しい男の災難を逆恨みした女が、亭主の火縄銃を持って吹雪の中追いすがり――というわりと壮絶な噺だ。
そこに滑稽はない。人を殺してでも金を奪い男と幸せに生きていきたい女の情念を語り上げていく。瀕死の男を前に泣きむせぶ女の芝居では拍手が起こった。そして吹きすさぶ雪。
「こけつ転びつ来てみれば切り立った断崖。その下はと見れば東海道は岩淵へと続く鰍沢。この数日降りつづいて増した水がドオオォ、と流れていきます。これは、と後ろを振り向けば、たもとに庇う火縄をチラチラさせながら迫るお熊の姿」
畳み掛ける橘さんの言葉に客は酔う。固唾を呑み、行く末を見守る。
つむぐ物語に心奪われるのは、聞かせる古今東西の語り部や吟遊詩人たちの鮮やかな芸によるもの。その一つが、ここにあった。
「――ここの蕎麦うまいね」
蕎麦御膳をあらかたいただいた頃合いになって俺のところに来た橘さんは素知らぬ顔だった。
「お材木で助かった」とサゲて喝采を浴びた人は、汗を拭き羽織を脱いで客と一緒に蕎麦をたぐってはチビリと酒もいただいていた。手にぐい飲みを持っている。顔が少し赤い。
「うまいですね。俺も初めてなんです」
「なんだよ、お馴染みみたいな顔してたくせに」
「大矢さんは知り合いですけど、近所で外食なんてしませんよ。貧乏役者なんだから」
違いない、と笑われた。
実のところ俺は上機嫌だった。思った通り、橘さんがすごかったから。こんなものを聴いて観たんだから、もう満足だった。
「――どうだったよ」
俺を睨めつけて橘さんはボソリと言った。
俺のことを少しは意識してくれているんだなと嬉しくなった。勝負する目で俺を見ていた。俺に聴かせるためにあれを掛けてくれたと自惚れてもいいだろうか。だとしたら小躍りしたい。俺は手にしたぐい飲みの中で酒をぐるぐる回しながら答えた。
「書き割りが見えましたよ。水墨画みたいな、雪の降りしきる山が」
語られた世界に俺は連れて行かれたんだ。
橘さんの口の端がほんの少しだけ上がり、ぐい飲みを差し出された。俺のを軽くぶつける。
な。これが芸ってもんだ。
たった独り、音も明かりもなしに芝居をやられてしまったら俺たち俳優はどうすればいいんだろう。