夜もどっぷり暮れた頃、旦那様の寝所へ向かう足取りは重い。今日も、ただ淡々と行為が行われる。正直苦痛以外の何物でもないが、子を身ごもるためには仕方がない。

「喜与でございます」

「うむ、入れ」

薄明かりの中、旦那様が座っている。その横には布団が敷かれている。結婚してから、子を作るときだけ入ることを許された部屋と布団。

そこに、愛などあるはずもなく、旦那様はなぜ私と結婚したのか、未だによくわからない。旦那様の年齢は、私より一回り年上だ。所詮家同士の結婚だったのだ。そこに私たちの意思はない。

わかっているけれど、少し寂しい気持ちになるのは私のわがままなのだろうか。

「お前、なぜ子ができない?」

「わかりません」

「跡取りが生まれなかったらどう責任を取るつもりだ? 俺はとんだ出来損ないを掴まされたもんだな」

「……申し訳ございません」

「さっさと脱げ」

「……はい」

そうして、旦那様は私を鬱憤の捌け口として扱う。乱暴に犯されたあと、私は用済みとばかりに部屋を追い出され、旦那様はすぐにいびきをかいて寝るのだ。

体が気怠い。重い体を引きずりながら、井戸水で身を清める。今日が寒くなくてよかった。

井戸の近くに萎れたキキョウの束が見えた。
そういえば名月神社に行きたいんだった。

私はキキョウを胸に抱える。
昨夜同様、こっそりと屋敷を抜け出した。
今夜も月が綺麗だ。

名月神社の石段を登っていくと、鳥居の上に人影が見える。

「月読様……」

また、空を見上げているのだろうか。鳥居の上だなんて、本当にバチ当たりな神様だ。